研究者たち。

巣居けけ

小説

2,057文字

「おれはお前と一緒に居るだけでうれしくてうれションするんだ」

コカインと同じ成分の珈琲……。売店から受け取ったアイスクリームをおれは投げて捨てる。そして群がる鴉と一文無しの男……。第三調理室の中心的人物……。
「なんだか嬉しそうだな……」
「おれはお前と一緒に居るだけでうれしくてうれションするんだ」
「恥ずかしいやつだな……」

彼は、この世界の中心、絶対的な神のようななにか、誰も差し押さえることができない究極の資金、校長を超えた存在、空白の数か月、月の所有者、ミスター・建前とそれ以外の言語の全て、ロクデナシを助ける慈悲を教会の全てのシスターに使った年中金欠の億万長者、世界征服者、第二消防隊の勇ましい隊長、永遠に燃えている男、百足食らいの焼酎マニア、などの無数のあだ名を持っている……。「どうして彼が消防隊の隊長をやっているのかだって? 消防隊といえば、肉体労働の最高到達地点じゃないか」

見返りの無い一本道の先に見つめる景色、道楽的なトランプ・ゲームの開催日時や男たちの悲鳴。下男は自分の母親たちが授業参観に参加していることを知って田舎に帰る。スーパーマーケットの惣菜の総量を比べてている数学者は地面に数式を記して去ってしまう。数日後にその数式が記事になる。怒り狂った新聞記者が校門の前で生首を並べて、千九十年代のやまびこを再現している。看護婦たちが慌ただしく動き、絆創膏を必要としている赤子の頭を叩いて回っている。へこんだ柔らかい頭蓋の味を確かめている医務室の男。列車の行き詰った線路と上に記された暗号解読班。

バーテンダー山羊が持っている新聞紙を逆さから呼んで暗号を自分の脳に流し込んだが、その誠実で不器用な暗号の答えを知っているのは街でもごくわずかで、全世界の数式マニアたちがひっきりなしに鉛筆をかじっている。さらにエレガントさを売りにしている球体の白い一部と不誠実な針金の行く末……。

そして、優雅な乙女たちと奇跡の心情……。消防士の水滴……。おれはそんなみずみずしい彼らの水分を増長させる。すると色の付いたプールの中身に溺れて、上がって、また溺れてから滑り台の頂点で陰茎を擦る。

塩梅研究所にようこそ……。「おれは研究者じゃない」と囁いている男はこげ茶のコートを白衣のように見立てて硝子の自動ドアを見つめている。「あんたは研究者じゃないのか?」
「おれはここで立っているだけだよ……」寒い孤独の頂が彼の眼窩に視えている……。波紋の広がりと震える不用意な騒めきや昆虫的な自己顕示欲……。排他的ってやつか?

おれは西瓜の会議室に自分の素手の血管の蠢きを挿入する。すると排気ガスのパイプに蟻の大群が群がり、おれの余分な臓器の肉を噛み砕いてくれる。おれは彼らの働きに感謝をしながら腕を引き抜いて二階に上がる。でぶの受付女が出迎えてくれる。
「何か用ですか?」
「排他的だ……」おれは三階への階段に唾の玉を飛ばして、嘔吐の香りだらけになったロビーに別れを告げる。

ヤツはタウンとシティの違いも知らない……。おれは涙で作られたプールでひと泳ぎする……。二時間後に迎えが到着する。

焼酎ダンサーの不定期なリズムによる眼帯を賛歌する音。酒場の雰囲気に酔ってしまう男。コートを焼く時の音。坂を一気に下る三輪車と鉄の響き……。「どうして廃棄処分を決定するのだろうか? おれは物理的な干渉が無い自宅を通信場として指定する。コンピュータ室の模様替えを申請する。さらに数学的な指定に小躍りをしながら出迎える」

甲板に吐瀉物が散乱する。蟻たちがここぞとばかりに放出し、男の口周りの吐瀉に群がって自分たちの巣に入れていく。蟻の牙が男の毛に絡みついて痺れを与える。おれはそんな彼らの押し問答を五キロ先から観察する。すぐに電車がやってきておれを取り込んでしまう。

おれはでぶの腹に焼き印を入れてから、彼のバイオリンのような悲鳴で音楽を作る。次の即売会で高く売る。クレーム対応に追われている歩兵。客の八割が大佐の指示に従う。残りの二割はただの水になって彼の足元に吸収される。

やつはミオパチーと筋ジストロフィーの違いも知らない……。そんな彼は、「おかしな感じになってきたな」というのが口癖で、ここから右に一キロ行ったところの三丁目のパン屋でのアルバイトで家賃を稼いでいる。
「呪いって聞くと『分解して再構築』みたいなのを思い描くじゃん?」

どんな呪いも人体実験よりはましだ。IMSという頭文字の実験か何かの材料になるよりはましだ。

おれは調律師訓練校を破壊する。自分の陰茎の形に練り上げたプラスチック爆弾を校庭に並べ、一目散に雷管を落とす。すると連続した炸裂の音と共に校舎が破壊され、中の生徒たちが死んでいく。おれはその姿を三キロ離れた山の頂点から見つめる。双眼鏡の丸い角がとても痛かった。

おれは全てを無視して体毛除去システムを入力する。電波が室内を暴れて動き回り、おれの頭の一本一本の電波塔に貼り付いていく。離れない不思議な感じの電波がコンピュータに突き刺さって予測変換の制度を各段に上げる。おれは室長に休暇を申請してさっさと出ていく。

2023年1月21日公開

© 2023 巣居けけ

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