通りすがりのフラガール

すべて得られる時を求めて(第2話)

浅野文月

小説

1,914文字

『すべて得られる時を求めて』第2話
千葉方面から北東北をYahooナビでルート選択するとなぜか常磐道経由と東北道経由で時間が五時間ほど違う。これは不思議なことだ!

ご飯を食べながら読まないでください。また、本作をお読みになって気分がすぐれなくなったら、ただちに読むのを中止して他の立派な文学者が著した良質なる文芸作品をお読みください。

常磐道E6は水戸を過ぎたあたりからすっかりと車が少なる。そして広野あたりから対面通行になり、緩やかな登り坂を1000ccSOHCエンジンは唸り声を上げながら進んでいく。

 

気づいてみるとルームミラーがピカピカと反射している。後ろの車がハイビームをやたらめったら浴びせてくるようだ。どうやら煽られているらしい。しかし、ここは対面通行だ。左の路側帯に逃げてゆずる義理もないし、路側帯を走ることで再度捕まり、今日一日で青切符を二枚貰うはめにもなりかねない。気にすることなくアクセルを踏みつつ十八番の『コンピューターおばあちゃん』をア・カペラで歌いながら直進させる。

 

それにしてもハイビームが五月蠅い。後ろの車は左右にハンドルを振りながら煽り続ける。でもしかたがない。こちとてがんばっているんだ。がんばった結果、四速ベタ踏み時速85キロしかでないのだ。それでも制限速度の70キロをかるくオーバーしている。

 

「せまいにほん・そんなにいそいで・どこへいく」なんて呟きながら走ると、ようやく二車線となり、追い越し車線が生まれた。さあ、思う存分抜かしてくれ!

 

推定時速160キロで黒いアルファードがくすんだ赤色のマーチをブチ抜いていく。そしてアルファードはブレーキランプ五回点滅しながらタイヤスモークを上げて左半回転をしてゴツイ面をこっちに寄せて停まった。

 

おいおいおい、危ないじゃないかと思いながら急ブレーキとクラッチを踏んでこっちも停まる。

ハイビームが眩しいぜ!

 

視線がレイザー・ビームでやられている中、うっすらと見える眼にアルファードの面よりもゴツイ野郎が出てきてこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

ゴツイ野郎はマーチの運転席に来て窓ガラスをドンドンと叩いた。ここで開けてはいけない。さっき道路沿いにあるガイガーカウンターで0.96μSv/hと放射線値が表示されていた。高いのか低いのかわからないが窓は明けない方が健康のためよさそうだ。

 

「おい! こら! このボケ! カス! ちんたらはしってんじゃねーぞ、ごらぁ! われぇ!」、とガラスをバコバコ殴りながら囃し立てている。

 

ちょっと何云っているかわからないのでいたしかたなく5センチほど窓をあけた。

「アイム・ソーリー・アイ・オンリー・アンダースタンド・ジャパニーズ」と言うと、5センチの隙間に右手をかけて「なにいうてんねん。しばいたろか、おんどりゃー!」、と知らない言葉を使いながら窓ガラスを持って車を揺らす。外国人みたいなので何を言っても無駄であろうと判断をし、ハンドルを時計回りにまわして、途中から重くなったが力を入れて窓を閉めた。

手が窓にかかっているのを忘れて閉めてしまったために、ゴツイ野郎の人差し指と中指と薬指の第一関節から先がこちら側に落ちてきた。ゴツイ野郎はひっくり返って左手で右手を握りしめながらのたうち回っている。

 

まあいいか。と思いマーチを前進させたが、黒いアルファードが道をふさぐようなジャストポジションで停まっており、すり抜けるのがやっとだった。気づいてみると五台くらいの車が詰まっており、大型トラックは通り抜けられないようだ。

マーチを路肩に停めてゴツイ野郎にアルファードを動かしてもらおうと思い近寄ってみると、まだのたうち回っている。しかたないからアルファードの運転席に乗り、邪魔ではない所に移そうとした。だが、困ったことにサイドブレーキがないのだ。メーターには赤いランプが光っているからサイドブレーキが引かれていると思う。さてどうしたものか……まあ少しの距離だから大丈夫だろうと、シフトをRに入れてアクセルを踏んでみた。動かない。さっきより50%増しで踏んだら勢いよくバックしてセンターガードに後ろをガッツリ当ててしまった。でもこれで走行車線は通れるようになった。

 

これで良しとしてアルファードから降り、マーチの近くに行って伸びをしながら深呼吸をした。辺りに老年に入ろうとしている者が何人か集まっている。長距離トラックの運転手たちであろうか。こっちを見て心配そうな顔をしているので、「大丈夫!」と声をかけた。

 

ああ、そうだ! マスクを外しているのを忘れていた。

 

「姫様~! マスクをしてくだされ~! 死んでしまう!」、と云ってくる城オジたちに微笑みながらサムアップをしてマーチに戻り、シートの上に転がっている指3つをデニムのポケットに入れてマスクをした。

「すこし肺に入ったようだ……」と独り言をいい、空ゼキをしてマーチを発進させた。

 

(3)へ続く

2022年11月23日公開

作品集『すべて得られる時を求めて』第2話 (全5話)

© 2022 浅野文月

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