猫に恩返し

合評会2019年07月応募作品

西向 小次郎

小説

2,075文字

合評会2019年07月参加作。

あなたには毎日出会う猫がいますか?

 

とある田舎の港町。漁師の娘みさおは、学校から帰る途中に、防潮堤の上を歩く猫を見かけるようになった。

家に帰ってすることは、一にお父さんの服を物干し竿から取り込んで畳むことである。小学校に入ってから、これだけは絶対にやらないと遊びにも出てはいけないことになっている。操はまだ小学校2年生だが、今のところ、一度だってこの決まりを破ったことはない。

その時、お父さんはいつも寝ている。

お父さんは楽でいいなぁ。こたつの横でお腹を出して大いびきをかくお父さん。その後ろでお父さんの服を畳む私。お父さん、私偉いと思わない?まったく。

そうこうしていると、だいたいいつもお母さんがお買い物から帰ってきて、お父さんを起こす。お父さんが起きるのは、その30分後。その頃にはお母さんが晩ごはんを使っていて、お父さんは一番にお風呂に入る。私は、お母さんに学校のことを話したり、冷蔵庫を覗いたり、算数ドリルを解いたりしている。

お父さんがお風呂から出てくると、お仕事の準備をする。その時にお父さんに話し掛けないと私とお父さんは話す機会がない。私はその時に、少し学校のお話しをする。お父さんは面倒くさそうに話を聞く。その後にお父さんだけごはんを食べるんだけど、私がお話しした時はお父さんのおかずを私にひと口分けてくれる。それだけくれて、すぐにお仕事に行っちゃうの。

その後に、お母さんと一緒にごはんを食べる。お母さんはお父さんのお話しをする。ほとんどがお父さんの文句のお話し。私にはそんな風に見えないんだけどな。だから、たまに言い返してやるの!お父さん、私偉いでしょ。

昨日、お父さんに怒られた。お母さんがお父さんの文句を言ってるってお話ししたの。お父さんはお母さんの話が正しいって、すんごい怒ってたよ。

私はお母さんのお話しを黙って聞いていたらいいのかな?お父さんの文句、黙って聞いていたらいいのかな?私は黙って聞いてるなんて出来そうにないよ。だって、お母さんのお話し、文句ばっかりでつまんないんだもん。私はお父さんのお腹を見てる時の方が面白い。

お父さんのイビキは算数ドリルを解く時間制限の時計の音みたいに聞こえるの。たまに引っかかったりして、面白いの。

お母さんのイビキはどんなイビキなんだろう?私よりも遅く寝て、私よりも先に起きちゃうから、あんまり考えたことなかった。今度調べてみなきゃ!

お父さんはね、すごいんだよ。お母さんが文句言ってても全然怒ったりしない。お母さんなんか、少しヒゲを剃ってないだけで、お父さんのことすぐに怒るの。

でも、お母さんのことお話しした時のお父さんの顔、すごいコワイ顔してたよ。もう絶対にお母さんの文句はお父さんに言えないって思った。すごいコワイ顔だった。

こうゆうこと、お母さんにお話ししたら、今度はお母さんにすっごく怒られそう。お母さんが一番コワイのかな?

でも、いつもお父さんの文句言ってるから、私も文句言ってもいいのかな?お母さんと一緒に。

すごく迷っちゃうな。

だって、お父さん優しいし。

私も優しくなりたいから、お母さんみたいになりたくないな。

でも、だれかにお話ししたいよ。絶対、お母さんがおかしいって!多分、みんなそう言うと思う。

でも、おかしいお母さんみたいに思われるの嫌だな。そんなに変なお母さんじゃないし。

もしかしたら、私だけおかしいのかな?どうなんだろう?

私は不安の中に入って、お母さんとも、お父さんとも、お話しが出来なくなってしまった。

お母さんは、学校の話を聞きたがって、すごく聞いてくるようになった。

お父さんは、私が帰ると起きて、私が洗濯物を畳むのを見てくれるようになった。

私、昔に戻りたいな。

でも、私がおかしいのかもしれないから。私は、とりあえず頑張って洗濯物だけは畳むね。これが昔に戻れる最後の方法かもしれないし。

お父さんが、面倒くさくなって寝てくれるように。

それを見たお母さんが、お父さんの文句を話してくれるように。

明日のテストのことなんか、アタマに入らないよ。

私は、みんなの文句しか考えられそうにない。

 

冒頭の猫は、私の記憶にある一番最初に出会った猫だったと思います。

 

お母さん、ありがとう。

お父さん、ありがとう。

 

私は今、二人の影を追って、同じ作戦を遂行出来る彼に出会いました。

私達はまだ付き合ってすらいませんが、なんとなくその影が見えるようです。

私の話が正しいって言うんですから。私は、そんなお父さんの味方で、お母さんの役割も私がやるんですよ。お母さんは、正しかったね。

そりゃ文句しか言わないよね。

私のすごいところは、その時の私の記憶も完璧に残してあるところです。

私と彼が結婚して、私みたいな子供が生まれても、私は完璧に読み取ってやるんだ。

私の妄想癖がやや難アリかもしれませんが、それがまだまともに思える彼なのです。ちょっと本気出してみよって思えるんです。

 

思い出って不思議です。

 

私の思い出、自信作です。

 

 

 

2019年6月22日公開

© 2019 西向 小次郎

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