絶滅者 13

hongoumasato

小説

4,326文字

ついに異形のモノと融合し、絶滅者となった「ワタシ」。

超人的な身体能力と人外の力を得た「ワタシ」は、藤堂本家に乗り込む。

本家で出会った管理人・徳田を鼻で笑いながら、日本刀を手中におさめる。

これから始まる家族奪還のための「破壊」に向けて。

その第一歩は、弟をイジめた山本の一家だった・・・

第二章 ワタシ

 

絶滅者のワタシについて記す。

――まずは武器の調達。

本能、あるいは内にいる異形のモノがそう告げている。

ワタシはそれに従う。

これから、家族奪還のため、多くの人間達を破壊する。

当然、破壊リストには「奴達」が刻まれる。武装した凶悪集団――ヤクザ。

他にも、狂気のカルト集団。

場合によっては、警察も。

素手で破壊し尽す自信はある。

だが、用心に越したことはない。

先は長い。

 

異形のモノとの融合で、ワタシは多くの超人的な能力を得た。

瞬間移動―――破壊対象の場所か人間をイメージするだけで、目的地へ瞬時に移動。

地図を片手に武装して街を徘徊するという、滑稽な真似をしなくて済む。

ステルス――—ワタシの体や身にまとったもの全て、あるいは一部を透明化する。

これで愚者達に姿を現さずに済む。

さらに、消すのは姿のみならず。

「存在」も例外ではない。

ワタシへの破壊は空を切り、壁等、破壊の障害物をすり抜けることが可能。

透視――ありふれた能力。

だがワタシのそれは、攻撃対象者の過去や心まで見通す。

ロクなものは見えないだろうが。

再生能力――トカゲの尻尾。損傷部位が回復する。

テレパシー。これもありふれた能力だが、クズどもと話さないで済む。

これら主だったもの以外にも、幾つかある。

分からないのは、なぜか頭に詰め込まれた雑学や教養。

人間だった頃の年不相応な言動の源が、これだ。

全能力は無論、人類絶滅のため。

しかしワタシは、人類を絶滅させる気など毛頭無い。

たとえ内なる異形のモノが命じても、罪無き人間達を破壊しない。

その内なる異形のモノは、全ての能力をワタシに与えていない。

なぜか確信できる。

それは何か?

答えは異形のモノが隠している。

構わない。

今ある能力で充分。

存分に使わせてもらう。

まず、瞬間移動だ。

一番に行くべき場は、決まっている。

全ての悪の根源にして、家族の苦痛と絶望の発祥地――北関東にある、母方の一族・藤堂本家。

 

今は夜。

漆黒の闇夜に佇む館は、厳かな風格を漂わせている。

だが中に巣食うのは汚れた者達。

ゆえに館内から漂ってくるオーラは邪悪。

闇夜でも、ワタシは日中と同じ視界を保てる――暗視能力。

豪華な装飾で彩られながらも、堅牢な門。

これは破壊しない。

ステルスも使わない。

身体能力を確認したいから。

二メートルを優に越す壁。風情ある石造りの様相を呈しているが、実は防弾仕様。住人達の小心ぶりと日頃の行いの象徴。

フワリと浮かび上がり、左手で壁の頂に手をつき、内側へ静かに降り立つ。

邸内は静寂に包まれている。

目前には広大な庭。

空気を切り裂くように駆け抜けた。

巨大財閥の核心部分なのだ。目立たないが、有人・無人の警備は相当厳重なはず。

勝手知ったるように、正面玄関前を右折し、目指す部屋へと向かう。

直接部屋に瞬間移動しなかったのは、この邪悪な館の全貌を見たかったから。

いずれ、この館を真紅に染め上げる日のために。

目的の部屋と庭を、廊下を挟んで総ガラス張りの引き戸が立ち塞がる。

オマケに、引き戸の前には強固な防犯シャッターが下りている。

躊躇うことなく防犯シャッターに指をかけ、一瞬で左右に引き裂いた。

悲鳴のような甲高い音が、夜気を引き裂く。

ワタシ一人通れるスペーズができた。

現れたのは、ライフル弾でも貫通不能の強化ガラス。

それに掌打を放った。

蜘蛛の巣状のヒビが入る窓ガラス。

その中心部をソッと人差し指で押す。

パラパラと向こう側に落ちていくガラス片。

ワタシは中に入り、障子戸を開けた。

広い空間。

二年前、唯一家族全員で訪れた一族の会合場所。

不意に、身をよじりながら母を凝視していた爬虫類男の顔が頭に浮かぶ。

説明できないが、その顔は強烈にワタシを刺激する。

だが今は、爬虫類男のことを考えている場合ではない。

警備の者達が、そろそろ駆けつける。

ワタシは一直線に目指す物へ駆けた。

日本刀。

見事な装飾の鞘と柄。両手で持ち上げ、抜いてみる。

刃が、闇の中で白く美しく、そして妖しい光を放つ。

この名刀こそ相応しい。これから行う、愛する者達の奪還に。

この美しくも妖しい刃が、汚れた血に染まれば染まるほど、ワタシと家族は永遠に一歩ずつ近づくのだ。

「価値あるモノは、それを知る人間が用いなければ」、だ。

刃を鞘に納めた瞬間、背後に人の気配がした。

「何者だ!」

聞き覚えのある声。

父と電話で話していた男だ。

夜逃げを手配してやるから消えろと、追放を宣言した男。

藤堂一族の中でも、それなりの地位にあるのだろう。

「プロの警備員より先にご到着なんて、大したものね」

砕けた窓から差し込む月光。

その光の下、日本刀を手に持つワタシ。

それをジッと見つめる初老の男。警戒はしているが、脅えてはいない。

「私は、この館を管理している者だ。お前は……」

「ああ。つまり、あなたはお留守番ね。偉いじゃない。あなたが一番乗りだもの。番犬としては使えるわけね」

遠くから急速に近づいてくる、複数の足音。

ようやく警備の者達が来たらしい。

「お前、まさか……! あの女の娘かっ?」

「もう二度とワタシ達に会いたくなかったんだよね? ゴメンね。来ちゃった」

薄笑いを浮かべるワタシ。

驚愕する管理人。

警備員達の足音が、すぐそこまで近づいている。

足音に混じる鉄の音―――それは、特殊警棒が奏でる音ではない。

政官財界を仕切る、巨大財閥。そんな名門一族ともなると、銃で武装した警備員の配置も黙認されるわけか。

田舎警察が銃刀法違反を言い出そうものなら、本部長クラスの首まで飛ばす程の権力。おぞましく醜い一族。

追放されて良かった。

「もう失礼するわ。この名刀はいただいていく。それと、ワタシは再びこの館に帰ってくる。アンタ達がなぜ、ワタシの母を邪魔者扱いするか知りたいし。その時は素直に教えて。じゃないと、この名刀の切れ味を味わうことになる」

絶句している初老の管理人。

割れた窓から外に飛び出した。

横目で、十人以上の武装した警備員達の姿を視認した。

ワタシにとって彼等の動きは、まるでスローモーション。

けれど、あの腰にぶら下がった鉄の塊から放たれる鉛の弾は、彼等の百倍も千倍も早い動きでワタシを破壊しに向かってくる。

さっさと塀の向こうに飛び降りてから、耳を澄ませる。

「徳田様、今、我々の目の前を何かが通り過ぎて行ったような……視認できなかったのですが……」

「今あったことは忘れろ。それよりここを片付けろ」

ここ―――ワタシが壊した窓とシャッター。

「清彦様にお伝えせねば……」

初老管理人の呟き。

清彦。

うつけの清彦。甦るあの言葉。

「縁を切ることなんかしないし、できないさ。私達は必ず再会する。そして永遠となる」。

いずれ、その清彦という男と会う気がする。

その時は互いにタダでは済まないだろう。

根拠はないが、確信できる予感。

だが今は、それに考えを馳せる時では無い――ワタシの内側から、そんな思いが湧き上がる。

同時に心を支配する声――さあ、破壊を始めろ。

ワタシは瞬間移動した。

 

深夜の瀟洒な住宅。

その一室。

暗闇の中で大口を開け、鼾をかきながら惰眠を貪る、十才の少年。

このマヌケな寝顔の少年は、山本。

こいつが、ワタシの弟を生き地獄に叩き落した。

山本が弟にした数々の仕打ちが頭に蘇る。

毎日汚い言葉で罵り、靴や教科書を隠し、目立たない胸部や腹部に暴行を加えた。

さらに弟の弁当を窓から捨て、野良犬の糞を投げつけた。

山本が、なぜこんな外道になったのか。

そして父がなぜ、山本による弟へのイジメに無力だったのか。

「過去と心」を見通す透視能力が、真実を知らせてくれる。

山本の父は財務省の中堅幹部。

今は小物。しかしキャリア。

いずれ最高幹部になる可能性、大。

さらに、山本の父親が省内で属している派閥は、事務次官をトップとした最高派閥。

母方の一族はどこでそれを嗅ぎつけたのか、突然父に釘をさした。

「息子がイジメにあっているそうだな。だが相手のガキの父親は、財務省のキャリアだ。その女房も旧財閥系の直系の血筋だ。父親が属している派閥は『銀行系』だ。みなまで言う必要は無いな」

一方的にそう告げられた父。

藤堂一族はあらゆるところに入り込み、金と権力の動向を把握している。

父は一族の意向に逆らえなかった。

でも、ワタシは父を責めない。

一番苦しんだのは、父だから。

当時のワタシ達の恵まれた生活。

それは藤堂一族が保障していた。

だから我が子が卑劣なイジメに遭っていても、何も出来ずに父は悶え苦しんだ。

やはり、藤堂一族だ。

あの悪しき血が流れし者達が元凶。

社会的地位の高い両親。経済力もある。

では山本が甘やかされて育ったかというと、逆だ。

キャリアの大半は令嬢と結婚する。世間体と将来の保身のために。

山本の母はその典型。浮世離れしたお嬢様。

そのお嬢様は、体が大きく無骨な山本を毛嫌いした。

「自分の子のくせに可愛くない」という理由で。

山本本人に「アンタなんか生まなきゃ良かった」と何度も吐き捨てた。

まだ小学生の少年に。

山本には妹がいた。こちらは全てが母親に似ていた。

お人形のような外見をいたく気に入ったお嬢様は、妹ばかりを可愛がった。

妹の昼食のみ、お嬢様自身が作った。

翻って、山本には金だけ渡し、コンビニの弁当を買わせていた。

父親は省内での熾烈な競争と省益を守るために、日々の時間を費やし、家族団欒の時間など一瞬も無かった。

こうして、歪な少年・山本が誕生した。

不幸な家庭環境に鑑み、山本は無罪か?

否。

当然、有罪。

少年犯罪では、世間はとかく原因を追究する。暴力的な映画・テレビ・漫画。

まるで本人に非が無いように。

狡賢い悪ガキ達はそれを利用する。

法廷でそれらを真似たと言い訳をする。

大きな間違いだ。

凶悪な少年・少女犯罪者は、温室栽培をしても犯罪を犯す。

大人達は、理解不能な若年層の凶悪犯罪に理由を見つけたいのだ。

安心を得るために。

ゲームや漫画をスケープゴートにすることで、自らの教育能力のお粗末さから目を逸らす。

そんな大人達こそ、一番の元凶。

しかし、ワタシはワタシの家族に苦痛を与えた者達に、個人責任を科す。

年齢・性別など、一切考慮しない。

ゆえに、山本も裁きにかける。

彼の犯した罪への罰は―――死刑。

ただし情状酌量を加えて、刑の執行は苦痛無きよう執り行う。

共犯者も同罪だ。

世間知らずで利己的な母親。

彼女にも、同じ刑を与えなければ。

乱暴な教育で乱暴者を作り出した者が罪に問われるのは当然。

量刑も等しくなければならない。

庭には山本の愛犬がいる。飼い主に似た愚かな犬。

山本は弟に「うちの犬の糞は、お前にはもったいない」と言ってのけた。

そんなに上等な糞をする犬なのか。

上等じゃないか。

ワタシは、刑の執行方法を確定した。

2019年2月15日公開

© 2019 hongoumasato

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