小川洋子による書下ろし原作のVRアニメーション『耳に棲むもの』(英語タイトル:My Inner Ear Quartet)が完成。VR部門のある主要国際映画祭にエントリーした後、配信される予定。小川は作品について「あらゆる人に普遍的なメッセージを持った作品だと思います」とコメントしている。

 講談社VRラボによる企画・制作で、小川がVR作品のために書き下ろしたオリジナル原作をもとに、アカデミー賞ノミネートアニメーション作家で紫綬褒章受賞の山村浩二監督がVR映画化。制作には2年の歳月を掛けたという。

 毎日土を掘って見つけたものをクッキー缶の中に集める少年が主人公。少年はノートに、彼の人生と、拾い集めた物たちが発する孤独な声たちを記録していた。少年の耳の奥には、4人の音楽隊と、レース状の偕老同穴に住む2匹のエビが住んでいた。彼らは、少年が涙を流すたびに演奏とダンスをして少年を励ましてくれた。彼はお礼に、拾ったものが入ったクッキー缶を振る。やがて少年は補聴器を売るセールスマンになる。ある日TVのニュースで見た、日系人強制収容所で見つかった手製の小鳥のブローチに魅了されて彼は再び声を集める旅に出る。

 少年役の声を川口調、成長したセールスマン役を俳優の岡田将生が務める。『最果てアーケード』は、作画を有永イネが担当した漫画原作として講談社の雑誌「BE・LOVE」で連載され、のちに小説化しているが、書下ろし原作でVRアニメーションという形は初めて。

 小川は「自分で意識したわけではないですが、どんな国籍のどんな思想を持った人にも、どんな年齢の人にも、あらゆる人に普遍的なメッセージを持った作品だと思います。見た人にとっての世界がここにあります。ここに私たちが込めた共通のメッセージを受け取ってくださいと言うのではなくて、見た方一人一人の耳の奥に潜んでいるその人にとっての大事な記憶を蘇らせて、自分が抱えているどうしようもない孤独というものとひととき向き合って、それを肯定できるような作品であって欲しいなと思います」と作品について語っている。

 山村浩二監督は、「VRも3DCG表現も初挑戦ですが、小川洋子さんと私の世界観を融合させ、360度映像の特性を活かしたVRでしか体験できない新しい映像が誕生しました。時空を超えた記憶と自己の深淵への旅をお楽しみください」とコメント。

 今後、VR部門のある主要国際映画祭にエントリーしていく予定。数多くの作品が映像化されている小川だが、世界でどのような評価を受けるのか、期待したい。