7月19日(水)、築地の料亭・新喜楽において第157回芥川龍之介賞・直木三十五賞の選考会が開かれた。芥川賞には沼田真佑『影裏』が、直木賞には佐藤正午『月の満ち欠け』が決定している。候補作はこちら

沼田真佑は1978年生まれの38歳、今年文學界新人賞を受賞してデビューしたばかりの新鋭だ。今回受賞した『影裏』は文學界5月号に掲載されたデビュー作で、文學界新人賞受賞作が芥川賞を受賞するのはモブ・ノリオ以来13年ぶりのこと。

同作では東日本大震災を契機として変わってゆく人間関係(と、性的マイノリティ)が描かれた。文壇界隈ではここ数年「震災以後の文学」というタームが多用されていたが、その潮流の流れを変える作品となるだろうか。受賞会見での「ジーパンを1本しか持っていないのにベストジーニスト賞を取ったようなもの」という言葉は早速SNSでバズっているようだ。

一方の佐藤正午は1955年生まれの61歳。作家デビューは1983年のすばる文学賞であり、キャリア34年目での受賞と、芥川賞とは対照的な結果になった。過去にはベストセラーになった作品や映画化された作品も複数あるが文学賞との縁はあまりなく、受賞歴は2015年の山田風太朗賞がある程度だった。

受賞した『月の満ち欠け』では、何度も生まれ変わりを繰り返す女性と、その家族や恋人との関係が描かれている。選考委員の北方謙三は「デビューして30年以上たつが、みずみずしさを失っていない魅力的な文章を書く力がある」と評価していた。

今回は両賞ともに初ノミネートでの初受賞ということで、しばしば揶揄されるような「順番待ち」状態とは一線を画した選考となった。SNSを眺めていても「予想が外れた」と発言している人が多く、なかなかに刺激的な結果となったのではないだろうか。

なお『月の満ち欠け』は岩波書店から刊行されているが、岩波の作品が直木賞を受賞するのはこれがはじめてのことだという。KAI-YOUのこちらの記事では岩波が買い切り制であることが紹介され、関心が集まっているようだ。書店にどれだけの冊数が並ぶのかにも注目したい。