本作品は帯に書かれているような「本格ミステリ」ではないと感じた。途中からこの作品はミステリではなくコメディ、広義のエンタメ作品であると気持ちを切り替えて読んだが、それでも幾つか疑問に感じる箇所があった。物語の軸が定まらず読者に何を読ませたいのか分からない(それらが最後の事件の動機につながるのであれば私の読みの浅さを恥じなければならない)。ミステリとして必要な現場の状況(三章までの事件、密室とされるプールの全体像、長野の死因、暗黒院が発見された状況)が曖昧であったり、もしくは全く触れられていないため頭の中で整理することが難しかった。また、本筋で事実誤認している箇所が幾つか見受けられた(例えば一卵性双生児の核DNAやmt-DNAは受精卵が分裂した瞬間から変異し始め識別可能になるなど)。これは名探偵破滅派の課題図書を本格ミステリとして手に取った一読者の意見であり、生粋のミステリ者という特殊な読者の感想であることを留意して頂きたい。
以上を踏まえたうえで(?)白日院正午による「読者への挑戦状」、その前に小鳥遊が提示した謎を解くことにする。
①なぜ犯人は長野とあってから四時間も彼女を殺さなかったのだろうか?
②なぜ死体はプールの真ん中に沈んでいたのか?
③なぜ黒猫を殺してまで〈春夏秋冬〉の文字を現場に残したのだろうか?
④なぜ暗黒院は襲撃されたのだろうか?
⑤なぜ長野は殺されなければならなかったのだろうか?
①③④の謎から始める。
白日院によると、小鳥遊の視点から事件を解決できる情報が開示されていると書かれている。であれば小鳥遊は犯人たり得ず、暗黒院を風呂場に沈めることが出来たのは小鳥遊及び小鳥遊と一緒に行動していなかった人物ということになる。当然生徒の犯行の線はほぼなくなる(気絶させられるようなヤバイ毒的なものを高校生が入手できるとは思えない)。では誰が暗黒院をバスタブに沈めたのか?
犯人の最終目的は長野殺害であったことは間違いなく、「春夏秋冬」の最後にピースである「冬」で長野を殺害するため「春」「夏」「秋」事件を起こした。それは「春」→「夏」→「秋」→「冬」といった時間軸で事件が進んでいると錯覚させるためだ。春夏秋冬の時系列が崩壊することにより暗黒院の事件を起点としたアリバイは意味をなさなくなる。
長野の死亡推定事故が22時から24時というのは真に受けることができない。アクロバティックな方法で死亡推定時刻を改変したとも考えたが、エレガントな解を思いつくことができなかった。そこで、二章で登場したヤバイ毒なるものがあるのであれば、死亡推定時刻をごまかす毒もあるのかもしれないと踏んだ。そういうことにした。そもそも長野の死因が明示されていない。
よって、一連の犯人は暗黒院であり、暗黒院襲撃事件は自作自演であった。暗黒院は長野を殺したあと自らバスタブに沈んだ。
次に②なぜ死体はプールの真ん中に沈んでいたのか?
長野の死因が明確でないため推理する事柄が限られる。長野はプールの真ん中で、しかも画鋲が服に刺さった状態で沈んでいた。密室トリックは作中で述べられている解決で事足りるだろうし、私が把握できた現場の状況からそれ以外の解決は思い浮かばなかった。長野がプールに沈んでいる状態というのは多量に水を飲み肺も水に満たされた状態だったことがわかるため、犯人に溺死させられと考えられる。別の場所で殺してプール中央に投げ込んだのでは長野が沈むことはない。
暗黒院はプールの中で長野を押さえつけ溺死させプール中央に沈ませたのだろう。そして文中にあるトリックを使い一見密室に見える状況を作った。密室にしなければならなかった理由は不明である。
⑤なぜ長野は殺されなければならなかったのだろうか?
これについては全く分からなかった。暗黒院と長野が繋がっていたことは「読者への挑戦状」までに開示されているが、なぜ殺すに至ったかは分からなかった。「あだ名事件」の時に繋がったと考えられるが、それ以上、想像を膨らますことが出来なかった。
以上、今回も解決できず……。
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