今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年8月号

・【特集】「坂本龍一」を読むとして、刊行されたばかりの『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(新潮社)を巡り、朝吹真理子、岡田暁生、斎藤幸平、永井玲衣、中沢新一、原摩利彦、福岡伸一、毛利悠子、山下洋輔、山田洋次、湯山玲子、若林理砂が故人を偲ぶ。

・創作では、野田秀樹による長篇戯曲「兎、波を走る」、本谷有希子による新連作第二回「フォロワー数ZERO」、谷川俊太郎による新作詩「知らない人 他二篇」、鴻池留衣「はじめての心中」、西崎憲「もつれとゆれ」、伏見憲明「にちょうめ奇譚」など。

・第11回河合隼雄物語賞・学芸賞が発表。物語賞は、吉原真里『親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』(アルテスパブリッシング)、学芸賞は國分功一郎『スピノザ ――読む人の肖像』(岩波新書)。

・榎本幹朗による新連載「AIが音楽を変える日」がスタート。

・【対話と論考】AIと「人間」の変容対談として、鈴木健と森田真生による対談「加速する計算と、言葉の奔流のなかで」、今福龍太による論考「霧のコミューンーー生成と予兆」を掲載。

文學界 2023年8月号

・【創作】では、高瀬隼子「明日、ここは静か」、石原燃「いくつかの輪郭とその断片」、岸川真「崩御」、小林エリカによる短期集中連載第二回「風船爆弾フォリーズ」が掲載。

・円城塔×千葉雅也×山本貴光による鼎談「GPTと人間の欲望の形」。生成AIはわれわれの思考をどのように変えうるか。記号接地問題から精神分析、文学までを縦横に語る。

・WONK、millennium paradeのメンバー、ピアニストとして活躍する江﨑文武による新連載「音のとびらを開けて」がスタート。自身の音楽的ルーツを辿る。

・市川沙央と荒井裕樹による往復書簡「世界にとっての異物になってやりたい」。デビュー作「ハンチバック」が芥川賞候補になっている市川と、彼女が強い影響を受けたという荒井が、障害と表現をめぐって言葉を交わす。

・個人的に注目したいのは、【コラム Author’s Eyes】として『野球短歌 さっきまでセ界が全滅したことことを私はぜんぜん知らなかった』(ナナロク社)が話題の池松舞「本当に欲しいものは」、「あるもの」で『第29回三田文学新人賞(小説部門)』を受賞した鳥山まことによる「記憶倉庫の①番棚」。これから活躍が期待される二人は何を語るのか。

群像 2023年8月号

・巻頭は、長嶋有による「トゥデイズ」。ほか中篇として、戌井昭人「一週間」、鈴木涼美「トラディション」が掲載。

・四月に刊行された『口訳 古事記』(講談社)が好評の町田康による、待望の新シリーズ「口訳 太平記 ラブ&ピース 外道ジョンレノンを根絶せよ」がスタート。吉岡乾の新連載エッセイ「ゲは言語学のゲ」、グレゴリー・ケズナジャット新連載エッセイ「物語を探しに」も連載開始。

・3月に『食客論』(講談社)を上梓した星野太。【『食客論』刊行記念対談】として、國分功一郎×星野太による「「寄生の哲学」をいかに語るか」。

・伊藤潤一郎の「投壜通信」、古川日出男「の、すべて」がそれぞれ最終回を迎える。

すばる 2023年8月号

・大谷朝子による【すばる文学賞受賞第一作】「僕はうつ病くん」が掲載。

・【特集:トランスジェンダーの物語】として、トランスジェンダーに焦点を当てる。小説では、桜庭一樹「赤」、倉田タカシ「パッチワークの群島」、川野芽生「Blue」、岩川ありさ「僕と自分を呼ぶことが義務づけられた私」、鈴木みのり「トランジット」が掲載。

 さらに、エッセイとして、中村中「いつになったら、私は人間になれるのだろうか。」、三木那由他「私たちには物語が必要だ」、高井ゆと里「トランスジェンダーの定義を知りたいあなたへ」と、周司あきらによる随想「家父長の城」が一挙掲載。

・【新刊刊行記念対談】として、島田雅彦×金原ひとみによる「「私」を更新し続けるために書くということ」、恩田陸×松浦寿輝「創作する人間の宿命について」。

文藝 2023年秋季号

・創作では、町屋良平による長篇「生きる演技」を一挙掲載。ほか、安堂ホセの「文藝賞」受賞第一作「迷彩色の男」、同じく日比野コレコ「文藝賞」受賞第一作「モモ100%」、山下紘加による「煩悩」と、注目作が目白押し。

・藤本和子【特集・WE LOVE 藤本和子】として、岸本佐知子×くぼたのぞみ×斎藤真理子×八巻美恵による座談会「片隅の声に耳を澄ませる 藤本和子と、同時代の女たちの闘い」。柴田元幸のエッセイ「お寿司を食べる人」、井戸川射子のエッセイ「塩は喉を、叫びが喉を」を掲載。

・「創刊90周年連続企画3」として、村田沙耶香×柴崎友香×西加奈子による鼎談「どの年齢や時間にも、初めて見える景色がある」。2000年前後の同時代にデビューし、それぞれ活躍を続けてきた三人。価値観が日々刻々と変化する時代の中で、この20年を彼女たちはどう振り返るのか。

以上、2023年7月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。