英雄の最後は神に捧げられる

名探偵破滅派『名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件』応募作品

乙野二郎

エセー

2,114文字

名探偵破滅派『名探偵のいけにえ』の回の推理です。

★りり子の推理関連

3章の終わりでりり子は殺害した犯人は校長だと言っている。一方で4章で彼女が披露した推理ではいずれの事件も事故であり、遺体を発見した信者たちが殺人のように偽装したと指摘している。「殺害犯人=校長」の推理はどこにいったのか?

4章でのりり子の推理はその場を取り繕い、信者たちに余計な刺激を与えないための便法だったとみるべきだろう。そして信者たちの事後工作については当人らから特に反論も受けていないことからして、さしあたり真実であったとみるべきである。問題は事故と断じた点にあり、実際には殺害されていたのである。

・デントの事件 Wが犯人でトイレで背後から襲撃し、自室に逃げたのを即座に追いかけて殺害。クローゼットに潜んでいたという説を採りたい。ここで「クローゼットの中やベッドの下を覗いてみたが、犯人の姿はなかった。」という地の文が問題となるが、教団内では、ないものがある、あるものがないものとして扱われることがある。発見者であるピーターたちの視点で構成されており、子供であるWは犯人たり得ないとしてWの存在は無視され上記のような文になるのである。ただ、かなりアンフェア気味である。

・ジョディの事件 任意のカップを彼女にとらせることは難しかったが、すべてのカップに毒が塗られていた。ジョディ以外は左利きだったために右手でカップを持った際に口をつける側だけに毒を塗っておけばよかった。ブランカは左手でコンロを付けたりクッキーを配ったりしている。クリスティナは右手を失っており左手を使うしかない。レイチェルは後の方で左手にカップを持っている記述がある。

現場からクッキーが無くなっているのは毒が入っていたからではなく、犯人には毒が入っていないことが判っていたから、食べかけとはいえ教団内では貴重とおもわれるお菓子をつい食べてしまったのである。子供を装っていた(後述参照)ため、自由に食べることができなかったWの仕業である。

・イの事件 単に斜面を滑り落ちただけでは体が両断されるほどの勢いがつくとは思えない。背後から勢いよく押した者がいたのだ。

 

★ジム・ジョーデン関連
冒頭のシーンでのジムは「自分は信仰を守り抜いたのだ」とも内心で言っており、4章での描写(信仰がまるでない)と齟齬がある。

冒頭のシーンの「ジム・ジョーデン」(ジムA)と1章以降の「ジム・ジョーデン」(ジムB)は別人ではないか?

人民教会はジム・ジョーデンの個人的なカリスマによって成り立っている。事件や事故がなくても、老い衰えていく姿を隠すために自分よりも若い影武者を置くようになったのではないか。ジムBの若作りはそうしているのもあるのだろうが、実年齢もいくらか若いのだろう。また、偽物臭さかったのも、実際に偽物だったせいである。

この交代により、「ジム・ジョーデン」の言動は変化し、また、スピーカーでの指示を中心とするようになったのだ。

また、「自分はあの男に嵌められたのだ」との内心のセリフがある。「あの男」はいっけんライランド議員を指しているように思えるが、影武者のジムBか後述の真ジムのことだろう。

ジムAは影武者(ジムB)を立てて、校長として年相応の老人の姿で生活していた。

4章の直後にジムBを排除して元に戻るが、議員やマスコミに襲撃をしてしまった時点で、ジョーデンタウン復興はどのみち無理であり、冒頭のシーンにつながる。冒頭のシーンでも「校長を務めた男」が登場がするが、これは本来予定されていた校長だろう。一教員として学校にいたが、真の役割は校長だったのである。ジムBが校長として尊敬されてないのは、実質的な校長の仕事を彼に任せて、お飾りだったせいである。

 

★子供たち関連

本名でなく記号なのはあやしすぎる。
・W 108号と同じく大人になれない病気である。大人になれない病気がはたして子供に溶け込めるような外見を維持できるかはなはだ疑問であるが、ミステリのお約束としてOKなのだろう。精神的には大人そのものであり、立ち振る舞いや雰囲気が大人びているのはそのためである。

また、影武者を立てて人民教会を運営することを持ちかけた張本人である。

ジム=JIMをさかさまにするとMが先頭に来て、かつ、ひっくり返ってWと読める。元々のジム・ジョーデンではないが、陰の支配者である「真ジム」だったのだ。

彼が教団に不利な報告をしかねない調査員たちを殺して排除することを計画した。

校長が共犯であり、校長を通じて指示を出したり、代わりに行動させたりさせていた。りり子が3章で犯人を校長と推理したのはそのせいであり、背後にいるWの存在までは推理できなかったために、Wに不意を突かれて殺害されてしまったのである。

・Q りり子がなかなか戻ってこなかったのはQのことがあったのではないか? 実はりり子の生き別れた弟だったとか。秘書と再婚した父の子つまり腹違いの弟が、わけあって教団にいたというのはどうだろう。彼を探して日本に連れて帰ろうとしていたのではないか。

その遺志をくみ取った大塒はQを連れて帰り、成長した彼を助手に探偵業を続けているというエンディングなのである。

 

2023年2月11日公開

© 2023 乙野二郎

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