四方山話

arai

883文字

まだあたたかい12月のカレンダーの色あせたこと

もとからどこにも取り付いてなかった象嵌の螺子ですから 其の内ルリタテハの瞳は羽化していくのを 襤褸が出た躰で憶えている 深層で春を装う球体関節人形の御伽噺

ばっかみたいだって、靴飛ばして歩けないやって、甘えたりしてそうやって肩並べて 小突きあえたらいいでしょう

甘い雲/苦い雨 層状の烈 群青の愚鈍 まったくの晴開、碧く拓けた瞳に、なにが映るのか 真相はどこにあるのか。待ちぼうけ、それとも 置いてきぼり、道端の坂道に立ち尽くすこと。

この出入口を閉ざした茶事チャゴトの残影が雪見酒にも想えています。工房に続くスロープが音楽堂から渦をまき 過去を引きずりながら 消せない惰性を余香にいたしました。寄せ返す感覚にとらわれると ちょうどつま先だけを濡らしており 洪水が吹き零れたのは零時の 余剰の つめあとときでした

とある木の葉の一枚が ぐるぐるとまわっているのを、しにたいとか いきたいとか、そういった頑丈な感情がひたひたにある、ティーポットに 入れたはずのない思いでも 沸き出せばいいのに、出がらしの紅茶の香りだけをのこしてやはりこの胸に眠りこんでは しまってあるのです

記憶を呼び起こしても見ず知らずの祈りだけ置いて。
道だと思ったものが翳で、
囁きだと思ったら号令で、
残酷だと思ったら食卓だった、
ほら 自らの姿と 己の瞳で 然とご覧なさいよ

ギザ歯、曲がった鼻、ボサボサの眉、可愛た瞳、長い耳、ミンククジラの卦皮、間柄から。指の愛だから、指し示した砂の上で。海の藻屑のうたが、私達の関係を湿している、まだあたたかい12月のカレンダーの色あせたこと。

もうすこしだけ藤を吸う風が――「冷たいかな、」(いまでも。)「そうだな、」
回廊を曲がる少し手前に、さつきが咲き誇っていたのです。桜の葉がざわざわと 髪をはたいていきました。生まれたばかりの蜘蛛の巣を払い除け そのくせ ちいさな雲が沸き立つのを それとなく もじったりしてね。

この錠前の閂はもとから緩んでいたと聞きました この鍵穴はなにかが巣食っていたところです
ではヘアピンで拗られた穴のそこは いやに癖のある花のなかは 〈夢の 或る 星界が〉 こうして 押し開かれているという、夜な夜な 四方山話だ

2023年5月22日公開

© 2023 arai

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