第三回かなしみ会議議事録

破滅派19号「サミット」応募作品

松尾模糊

小説

7,972文字

書記官の父も書記官だった。「第三回かなしみ会議」で議論される〝かなしみ〟について、書記官は思い出を辿りながらその答えを探る。

森の外れにある《万国サミット資料館》は、石灰岩を使った神殿造りの建物で荘厳な雰囲気を醸し出していた。石段を上ると付け根に葉と蔓の細やかな模様が彫られた石柱が並んでいる。その間を抜けると突然ガラスの自動ドアが現れて、現代的な内装に拍子抜けする。恐らく古い建築を再利用したのだろう。内部は吹き抜けで中央階段の右手に受付のカウンター、左側にエレベーターが設置されている。受付で手続きを済ませ、荷物は奥のコインロッカーに入れた。中央階段を上って二階の重要文化財も収められた特別資料展示ホールに足を踏み入れると、アーチ状の梁と石柱の合間に四列になったガラスケースが並んでいた。四方の白い壁には、歴代のありとあらゆる会議――国際的サミットから地方の町内会、廃校になった学校の学級会まで――の歴代議長の肖像画が額装されていた。ガラスケースには、議会で使用された名札や中世の議長が被ったとされる巻き毛のかつら、ガベル、黒マントなど会議に用いられた小物が整然と並んでいた。わたしは一通り資料を眺め、ホールを出ようと中央口を振り返った。中央口の大きな柱の陰に隠れたガラスケースが目に入り、最後にそのガラスケースの中を覗いた。その端に置かれた「かなしみ会議議事録」という少し黄ばんだ紙資料に目が留まり、わたしは手を上げて柱の袂でスツールに腰かけた職員を呼んだ。この資料って中身も見れます? わたしの問いに中年女性の職員は見れますよ、とカウンターに小走りで向かった。小さな鍵のじゃらじゃらついたホルダーを手に職員は戻ってきてその鍵束からひとつの鍵を選び出し、ケースの下方に付いた銀色の鍵穴に差し込んだ。音もなくガラスケースを慎重に開けると、古い紙の匂いが漂った。

 

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2023年4月13日公開

© 2023 松尾模糊

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