なんでもない日

かきすて(第28話)

吉田柚葉

小説

809文字

十分で書きました。とくに言いたいことはないです。

夜行性の夫婦ゆえ、さいきんでは休日になってもちっともたのしくないことが多かった。そろそろあそびに行こうかとおもっても、すでにたいていの店はしまっているのである。なので、はじめから散歩がしたかったのだという顔をして、きんじょをあるきまわった。やがて、きんじょとは言えないところにまで足をのばした。かえりは電車なりバスなりに乗ればよいというかんがえであった。

二時間ほど無作法にあるいて、知らぬ住宅街に出た。ろくろく街灯もないところである。自販機のひかりだけがたよりというあんばいで、そのひかりのもとに、高校生だか大学生だか、ともかくそのくらいの年ごろの男が三人、つどっていた。夫婦がそこを横ぎろうとしたところ、
「いまのうちだよな」

という声がきこえた。夫婦は足をとめなかったので、そのつづきのことばは背中で聞くことになった。いわく、
「少年法がさ、利くうちにさ」

おだやかではなさそうだった。妻は足を早めた。夫も少し身の危険をかんじないでもなかったが、ちょっと夢ごこちの感もあり、ともすればそのことばを聞きながす風でもあった。だが、あとになって見れば、妻の判断が正しかったのである。

後日、聞き知ったことによれば、あの日あの場所にて、夫婦があの自動販売機をとおり過ぎた一時間後、通り魔による殺人事件が起きたのであった。犯人はつかまっていないのだが、妻はあの少年たちによる犯行であると言ってきかなかった。夫もそれに同意した。
「ああいうとき、あなたは芒としていることが多い」

と妻は怒った。ああいうときというのがそうそうあることではないと言いかえしたかったが、妻の指摘におもいあたるふしがないではなく、ここは素直に反省することにした。
「もう日本も安全じゃないんだからね」

と妻はつづけた。その大仰な物言いがおもしろく、夫はちょっと笑いそうになったが、そういうところだと怒られそうだったので、どうにかこらえた。

今日も、なんでもない日である。

2021年5月8日公開

作品集『かきすて』第28話 (全36話)

© 2021 吉田柚葉

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