Futurismo,Mixbation

応募作品

Juan.B

小説

4,310文字

※破滅派合評会2019年11月分応募作品。
※萩原恭次郎と『死刑宣告』に勝手に捧げる。

施設に近接するプレスセンターに、大勢の報道陣が詰めかける。

「皆様……二週間前に重度放射能漏により被爆しました、緊急作業従事者三島クレオパスさんの、死亡が確認されました。原子力災害緊急特務庁として、当事案による全ての被害者に重ねてお詫び申し上げますと共に、またクレオパスさんとその御遺族に対し御哀悼の意を表します」

ロビーの中央で、頭頂部が剥げ青色の作業服を着た高官が頭を下げた。フラッシュの後、警備員が静止するよりも激しい勢いで、質問とも詰め寄りとも取れぬ声が飛ぶ。

「『あかるい核のみらい館withわくわくとうかい発電所』では今年に入って三度目の事故、また昨年に次いでクラス5事故ですが!」

「省庁が新たに作られた意味はあるんでしょうか! 解体中と言いながら航空写真では新たな施設が……」

「昨月スクープされた、自衛隊と貴方の密会の意味は! 書類にウラン235とあったと! 」

「何も! 質問は受け付けておりませんから! ただ、なんだっけ、オクトパス氏に哀悼の意を、えー、彼は混血でしたが日本人のすごい、こう、魂を、ウン……」

立ち去ろうとした高官に更にマイクが向けられる。だがその時、奥の廊下から悲鳴がして、次第に会場に静けさが広まった。

「放射能芸術センターでの昨年の肢体障害児見学失踪事件は……ん、何だ?」

次の瞬間、廊下のドアが突き破られ、油の匂いと共に何かが現れた。

「俺、死んでないね、何か色々されてこうなっちまったよ、俺が混血だからかな、いや、もっとか、もっともっともっと体に何でもぶち込んで」

褐色の顔にぎこちない笑みを浮べつつ進んでくる男の体に、まるで機械の様にさまざまなジョイント、ピストン、ギアが無造作に、だが何らかの大きな規則性を持って収まっている。そしてその股間は目を向けられるものではなかった。逃げ惑う記者達の後ろで、高官の頭にコードが巻き付いた。

 

~~~

 

デザイナーは、鼻歌を防護服の視界の中で奏でながら、虹色に塗られた細長い金属を、壁面にかけた。モニターにはアイコという幼稚園児が書いた稚拙な絵が表示されている。『キャピキャピてんしさま』とあり、何でもアニメキャラを書き写したらしい。

「まさか放射能が美術に応用できるなんてね」

「おい、広小路、静かにしろ、千代田への納期が近いんだから」

管制室からの警告に、広小路は従わない。

「アイコ内親王殿下の絵、良いセンス……次は? オ、右の羽を紫に染める」

金属を取り、対象に向けた。先端からは目に見えない何かがどんどん飛び散っている。そして広小路は対象と目を合わせた。白いパネルに拘束された、人間の女性的体形を保ちながらも翼を広げ体中が脈打ち色々埋め込まれている、得体の知れない何かだった。無い腕を生やすと騙し、絵の通りに羽を生やすために、鳥類の遺伝子を仕込み大量のコバルトを長期間放射した。対象は言葉を発さない。そして股間が奇妙であまり見られたものではない。先端を羽に付けると、様々な色に変色した。対象は痛みに顔を歪める。その時、突如管制室の強化ガラスが割れ、係員の生首が飛んできた。

「何? 芸術?」

「これが放射能芸術だよ」

飛び込んできた奇妙な何かの声が防護服の中に直接響いた後、広小路の首は刎ねられた。

「俺はクレオ……名前は?」

「……み、す、ず」

拘束を解かれたミスズは、翼の先端で、腹に埋め込まれた『みんなちがって みんないい』と言う子ども向け詩集を指した。

 

~~~

 

「道を開けてくれるね」

「街を歩くとき、電車に乗ってるとき、あるいは新聞読んでも、俺は確かに異物扱いだったよ。多分、むき出しのペニスと同じだったんだ、ああ、今も!」

「良いねー、じゃあこっちは剥き出しのヴァギナ」

盗んだ真っ赤な高級バイクと一体となり、後席にミスズを休ませながら首都高を爆走する。機銃掃射をも圧倒するかのように咆哮する自動車は、《サモトラケのニケ》……と同じくらい美しい。バイクと俺のピストンは一体となり、音が頭に響いた。周りの車は異様な我々の姿に次々と道を開けていく。

「クレオ、後ろ、パトカー」

周囲の車からどう見えたか分からないが、俺は股間をむき出しにした。いつ見ても不自然だった。幾何学的な他の部分に対して、このVラインだけ、中央に向け脈打つように構成され、そしてミンチで形作った様な生々しい銃口がぬめりを帯びてむき出しになっている。そして俺とは逆に、色鮮やかなサモトラケのニケ像の様なミスズの股間には、そこにだけ無理やり鉄制のティッシュ箱を埋め込んだような物があり、亀裂の淵がメタリックな紅色で、そこから精巧な銃弾が産まれるのだった。それを俺の睾丸に当たるらしき部分のもう一つの空洞に嵌め込むと、装填が完了する。

ッ」

命中し、パトカーは制御を失って側壁にぶつかり炎上した。後から何台も来ていたパトカーは次々と停車していく。

「議事堂、皇居、どっちに行く?」

「どっちでも、私飛べるから」

「……議事堂に行こうか。皇居に行っても、寄生虫一家しかいないからな」

「飛ぶのは最高に気持ちいいよ」

説明が出来ぬくらい融合した俺=バイクから、ミスズが両翼を窄めて突き出し三宅坂の空へ浮かんだ。東京の街並みが我々を反射する。次第にバイクだった部品が下に落ちていき、我々は議事堂の中央広間をぶち破った。ミスズと一つになりながら、次々生まれる弾丸をマガジンとして即座に充填し、いきなりの事にも英雄的に立ち向かう警備員たちに発砲していった。その時、ミスズとその腹に何かが移り蠢いていくのを感じた。

 

~~~

 

衆議院に侵入した我々は、歓迎されなかった。野党の議員達が抗議欠席する中で核政策について審議していた与党の議員達は、何十人かは逃げ出したが、また何人かは残った。自分が勇敢で、この国の芯を引き受けきっていると言いたげな面だった。

「何があったか知らないが、私たちはこの様な、民主主義と国の安定を乱す様な存在を認める訳には行かん」

「私を殺せるなら殺せば良い、だがこの国は……絶対に渡さない!」

ああ、本当に英雄的だった。俺は一際奇妙な音を自発的にあげながら、股間の脈打つ肉身を曝け出し、彼等の前に突き向けた。異臭がするらしく、彼等は利き腕で顔を覆った。

「そ、それが何だ、怖く、ないぞ」

「別に怖がってくれとは思ってないんだ」

俺はミスズの産んだぬめる弾丸を早速小太りの議員の眉間に放った。まだ撃たれていない、さっきまで啖呵を切っていた重鎮議員が口を半開きにしてそちらを見たので、そいつも撃った。痩せ身の女性議員が引きつった笑みを浮べ、片手を微妙なパアにしてこちらに向けた。

「う、撃っちゃヤァ、何が望みッ」

「もう望むことは無いんだ。そう言う次元じゃないんだ私たちは」

ミスズが全く無言で、その鋭い足の先で彼女の足を抉り転ばした。そして俺は議員目掛けて直接銃口をむき出しにして突っ込み、腹から子宮に向け抉り入れると、頭部に向け発砲した。飛び散った肉片を、ミスズは無表情で摘まむ。

「五体満足の望みの尺度ってヤツが、十体だか十五体不満足の俺達の尺度に合うかね」

「き、君達の行為は、我々の過失と、見合っていない」

振り向くと、議場の大液晶パネルに総理大臣が写っていた。

「一応、言う、投降して、法の裁きを受けなさい! その場で君たちの意思、ああ、情状酌量について……」

「俺達を日本人……人間と言う目で見てないのに?」

「アッ」

「発砲許可ッ」

その時、議場の陰から入り込んでいた二名の特殊部隊員が、我々に向け何かを発砲した。俺の反応も一足二足遅く、ミスズの右翼と俺の左肩の一部が吹き飛んだ。

「しくじったかッ」

まるでゲームのプレイヤーの様な視点らしき総理大臣が顔をしかめる横で、俺は股間をぶち抜いて即座に発砲し、部隊員をミンチにした。ミスズが、無表情で飛び散った羽を眺めている。長い沈黙の末、総理大臣が目を細めた。

 

~~~

 

死体だらけの空間で、液晶に写る総理大臣に唸った。

「俺達が外に出て、お前らは俺と彼女……この人を認めるのか!」

「……認める! 日本国は憲法にかけて君たちの存在を認める! 出るんだ! 外に! 日本が君達を待っている!」

総理大臣の甲高い声を聞き、俺はミスズに顔を向けた。ミスズは血しぶきに染まった顔の向こうで、笑みを浮べていたが、それは喜びではなく諦念を表している様だった。俺の中で、あらゆる油圧やピストンが軋み、股間の肉身の銃口がぐっと上を向く。外に出てはいけない。だが、外に出なければならない。ミスズの片翼と、俺の脈打つ機械の腕が交わった。

「大丈夫」

「後は、きっと……やってくれるさ」

「ええ……私の好きな詩集……」

腹の詩集の飛び出てヌメるページを撫で、ミスズは笑う。もはや陰部の不気味な亀裂機械は穏やかな色になり弾丸は生まれなかった。二人して議事堂の廊下を歩き、何人もの石像を笑いながらはたき割っていく。そして玄関に来た時、改めて顔を見合った。俺は自分の腹の固い装甲らしき何かを引きちぎる。自分の最強の武器で、自分の最強の防具を、自分の意思で剥ぐ。

「何をしてるのとは聞かない、あらゆることに意味があるから」

「ありがとう」

激痛に体中のピストンが歪むが、剥ぎきった。そして、ミスズの脈打つ腹に宛がった。

「行って……くれますか」

「勿論」

血に染まっても極彩色の羽が俺の背を覆った。正門の扉を開ける。

「……日本!」

「……日本国は、君たちの存在を認めた……相容れないものとして! 責任は取らせてもらう、安らかに、何も気にせず、眠ってくれ、もう過ちは繰り返さないから」

総理大臣の、即興らしき淡々とした奇妙な詩的表現に、俺は諦念の笑みを浮べた。議事堂前の各地に配置されていたであろう狙撃班から、無数の特殊炸裂弾が一度に放たれる。

 

~~~

 

防護服を着た警官達は、バラバラになった機械的な何かの塊と、様々な色の入り混じった肉片や羽の塊を、議事堂の正門からそれぞれ引きずり出した。テレビカメラが遠くからそれにズームするが、視聴者がいたとしても凝視できる物ではなかった。一人の警官が、膨らんだ肉片の腹に足を掛け、勝ち誇ったように何度も踵で腹を踏みつけた。別の警官が手を振りながら制止したその時、腹が詩集の辺りから裂け、警官が次々と吹き飛んだ。防護服が突き破られ、新たな肉片が生まれていく。

そこには見事な白い翼、そして体中から銃口の様な金属の突起を生やし微笑む、脈打つ褐色の顔をした小さな乳児がいた。しり込みする警官隊を、乳児は閃光を発しつつ銃殺し始めた。

 

(終)

2019年11月18日公開

© 2019 Juan.B

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"Futurismo,Mixbation"へのコメント 13

  • 投稿者 | 2019-11-18 17:40

    圧巻のディストピアぶり。いつも通り面白いのですが、ファンサービス的になっているような気もしなくはないかな、と。

  • 投稿者 | 2019-11-19 16:55

    最初、読みはじめのときは何がなんだかわからなかったのですが、読んでいくとどんどん引き込まれてしまいます。
    放射能被害による悲しきモンスターでしょうか?

    あと皇居の寄生虫一家というのが、まさに不敬発言でしたね(笑)

  • 投稿者 | 2019-11-19 21:36

    彼らに対してバクネヤングをホウフツとさせる圧倒的な強さを感じました。彼らの原動力となっているのは一体何だろうと考えましたが、思いつく全てが的外れで「そう言う次元じゃない」ことなのだろうと思いました。彼らが悪鬼のように見え、救世主のようにも見えました。

  • 投稿者 | 2019-11-20 19:22

    まさかのサイバーパンク。混血小説がまた一皮むけた気がしました。
    肢体障害児見学失踪事件の被害者と思われるミスズとクレオ、愛子内親王の芸術という名の遊び道具にされた二人の復讐劇。チラリとバルバル言う来訪者が頭をよぎりました。

  • 投稿者 | 2019-11-21 21:12

    最後の銃いっぱい生やしたベイビー、絵にしたら結構笑えそうですね。

  • 投稿者 | 2019-11-22 07:36

    ドカーンとかガガガッみたいなバカっぽい擬音語が多用されておらず文章はかつてよりも洗練されているが、物語の内容はJuan.B作品の初期に見られたセカイ破滅系小説に回帰していると思った。久しぶりに世界が終わって爽快感があった。

  • 投稿者 | 2019-11-22 21:27

    AKIRAのテツオを想起しました。ポエムを吟じる首相など予言的内容も光っていますね。島田さんも言及されていますが、漫画化すると結構売れるんじゃないでしょうか。映えるストーリー、描写だと思います。

  • 投稿者 | 2019-11-22 21:30

    面白いです。物語の省略が巧いと思いました。説明してないのになんとなくわかる、でも謎が残ってまた読みたくなるという案配でした。

  • 投稿者 | 2019-11-23 14:05

    報道陣のつめかけるところはもう少し文章上の工夫で練れるのではないかと思った。あえて句点をなくして報道陣のセリフを並べ立て、頭を下げる高官の姿描写を少し長く書く、など。

    いつもより文章が読みやすくなっているからこそのもったいなさがあると思った。
    肢体障害児見学失踪事件の話からはじめて、まるっとセカイ系小説でまとめてしまったほうがいいように思えた。

  • 投稿者 | 2019-11-23 19:54

    放射能芸術から生まれた二人の武器は、ミスズが「みんなちがってみんないい」の詩集の埋まった腹から弾丸を産んで、クレオの睾丸に装てんして、ちんちん砲身からぶっ放すこと。これだけ書いただけでも正気の沙汰ではないが、Juan氏の作品となるとどうも納得してしまう。
    これまで登場した「同志」は、ハーフの友達だったり外国人労働者だったりしたけれど、全員男性だった。女性と言えば母親を除けば、「正しい日本婦人の会」か「草井満子」など、主人公の側に立つ者はいなかったのに今回はどうした心境の変化だろうか。
    惜しむらくは可憐なミスズの内面がほとんど描かれていなかったこと。貴重な女性キャラなのに。

  • 投稿者 | 2019-11-24 00:04

    フアン氏のセカイ破滅エンド作が帰ってきた感がありました。荒唐無稽な設定やストーリーは面白かったです。比重として、以前よりほんの僅かではありますが、「混血の怒り」より「荒唐無稽な話」に重きが置かれたように思います。面白かったです。

  • 投稿者 | 2019-11-24 03:13

    拝読いたしました!
    勢いで思いついて勢いで描ききったような物語で、行間からにじみ出るホアンさんのパトスがよかったです。
    個人的に思ったのは、二人の姿形の描写により力を入れるといいのではないかな?ということでした。
    二人の姿はいわゆる異形の者で、だからこそ説得感が生まれるので、そこをしっかりみせることで物語により納得感がでるのかな、と。そしてこの物語の表面的な掴みもその二人の「異形」にあると思うので。異形ではないと意味がないので。
    しかし「書きながら脳みそが熱くなった感」のあるこの作品はとてもよいと思いました!

  • 投稿者 | 2019-11-24 12:13

    ここ好き>『あかるい核のみらい館withわくわくとうかい発電所』

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