銃のお暇

応募作品

久永実木彦

小説

2,004文字

「誰かを傷つけるために道具をつくるひとがいて、誰かを傷つけるためにひとにつくられた道具があるとしたら、実木彦は常に道具の側に立つ」

どうも銃です。

いままでに三人殺しました。三人というのが多いのか少ないのかよくわかりません。同種の兄弟たち全体で数えれば、何百万、何千万という人間を殺しているでしょう。でも、いまや人間は八〇億近くいますし、毎年増えてます。一方で、たとえひとりでも銃で殺されるような人間がいてはならないという考えもあるでしょう。わたしはもちろんそっちです。もう人殺しはうんざり。

ご主人さまにそう伝えましたところ、このたびお暇をいただくことになりました。これからは平和の徒として生きていく所存です。

 

殺し目的じゃなく歩く街はいいですね。ヒッピースタイルの女の子は全員可愛いです。解放感があります。LOVE&PEACEなんて書かれたTシャツを着た青年もいるし、じつにさわやか。

あっ、青年がこちらに歩いてきました。これからは殺し合うためではなく、親密さを深めるために手を取り合いましょう。青年も笑っています。オー、シェイクハンド? オーケー、オーケー! カチャリ。

ああっ――殺した人数がひとり増えてしまいました。握手のつもりが引き金引いちゃうなんて。ああ。ああ。

 

もううんざりです。都会は危険だ。田舎に行きましょう、田舎。カウボーイハットにホットパンツの女の子は全員可愛いです。これからはスローライフですよ。

さっきの青年の財布から拝借した金で、グレイハウンドのチケットも買いました。アリゾナ州フェニックスあたりで降りて、適当に北上でもしましょう。さようなら都会。さようならロサンゼルス。

そんなわけで、一番うしろの座席でうとうとしてるんですがね、スマイリーフェイスが描かれたTシャツを着た青年がさっきからチラチラこっちを見てるんですよ。もうね、Tシャツの青年とか嫌な予感しかないですよ。なんか目が血走ってるし。

ああっ――ほらね。持ち上げられちゃいましたよ。おまけに「全員、財布と携帯を座席において車を降りろ」なんてわめいてる。グレイハウンドはたまにこういうのがあるんです。それにたまたま当たっちゃうなんて運が悪すぎる。銃だからたまが当たるってことなんですかね?

あーあ。あーあ。下手に抵抗したひとがいたから、結局全員死ぬ羽目ですよ。殺した人数二〇人増えちゃいましたよ。足すと二四ですよ。トゥエンティーフォー。事件はリアルタイムに進行しますよ。

もう、うんざりです。もう、たくさん。

わたし、ちょっとキレちゃいました。だからスマイリーフェイスの青年もきっちり殺しておきました。もう、人間なんて信用できない。せっかくのお暇を楽しもうと思ったらこれですもの。こんなアメリカに誰がした。

 

結局、わたしら銃は殺しを避けられない。だったら、お暇なんていわず、割り切って自分にできることをしたほうがいいのかもしれませんね。

というわけで、さっそくわたし、電話をかけました。

 

「もしもし、全米ライフル協会ですか?」
「はい、そうです」
「わたし銃なんですが、そちらに厄介になろうと思いまして」
「銃なら大歓迎ですよ。いつでもどうぞ」

 

いやはや、話が早いですね。そんなこんなでバージニア州にやってきました。これが全米ライフル協会の本部ですか。いやあ、立派なお宅ですなあ。チャイムを押したら、さっそくライフルを構えたカイゼル髭の男が出てきました。

 

「ああ、お電話いただいた銃の方ですね」
「はい。これから厄介に……あ、いや厄災になります」
「はあ……?」

 

カイゼル髭のど真ん中に風穴空けてやりましたよ。もうね、全員殺す。銃を使って人間を殺すひとは全員殺す。体の血、全部抜く。

銃声に気付いて、奥からつぎつぎライフルを構えたやつらが現れました。物騒なお宅ですなあ。だが、殺す。

バンバンッ、バンバンッてね。鳴り響く轟音が応援歌ですよ。右向いて殺し、左向いて殺し。

 

殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。

殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。

殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。

殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。

 

というわけで、全米ライフル協会は全員死にました。息絶えました。でもまだまだ。こんなもんじゃ足りません。世界には銃を使って人間を殺すひとがいくらでもいるわけですから。

弾薬の補給もできましたし、全米ライフル協会に捕らわれていた仲間と徒党を組んで、まだまだやるつもりです。普通っぽいひとが急に銃乱射とかする世の中ですもの。もうね、人間、全員殺します。

八〇億人殺すのが多いのか少ないのかよくわかりません。でも、わたしはこれでも控えめな方なんじゃないかって思うんです。地球上に何百万、何千万といる種の、たったひとつを滅ぼすだけですからね。

 

2019年10月2日公開

© 2019 久永実木彦

これはの応募作品です。
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SF 合評会2019年11月 純文学

"銃のお暇"へのコメント 17

  • 投稿者 | 2019-11-05 00:18

    拝読いたしました!
    銃が自らの本分を捨てようとしたけど叶わず、逆に自分ができることに振り切ってしまうというのはなんだか示唆的で、でもなにかを押し付けられることもなくて、とてもよかったです。
    銃を主人公にすると、サルトル流に言って「本質が実存に先立つ」ものが主人公となるわけで、それが人間と同じようにあれこれ悩んだ末に、結局本質に身を委ねてしまうというのは説得力がありました。
    こういう作品にこのユーモラスで軽やかな文体がマッチしていて自分もこんな風に書きたいなと考えてしまいました。

  • 投稿者 | 2019-11-13 20:50

    髭の真ん中に風穴あけるって表現が割と気に入りました。

  • 投稿者 | 2019-11-13 21:01

    ちょっとしたミスの所為で、なんかこう、どうでもよくなっちゃうことありますよね。サクッとした文章でサクッと読めました。テーマが「銃」なので「銃」の一人称で行こう、という姿勢が素晴らしい。

  • 投稿者 | 2019-11-16 15:08

    わたしは何のために生まれてきたのか、と悩むことなく、開き直って人をバンバンッと撃ち殺しているさまは、銃だけに無鉄砲だなあと思いました。最後は銃が人に審判を下す神のように思えました。

  • 投稿者 | 2019-11-17 19:17

    銃を擬人化して全米ライフル協会にカチこむという発想に感嘆しました。銃が人間を殺すことによってポップに描かれているところが読みやすく、引き金ひとつで命を奪える銃器の怖さを暗示していて流石としか言えないですね。

  • 編集者 | 2019-11-18 10:39

    人間も、犬とかバッタとかサンマとかミジンコとかとそう変わらない、矮小な一生命に過ぎないという諦念がよぎった。ライフル協会をヤッツケて欲しいが、かといって他人類とバーターにして欲しくないという俺のワガママさも明らかになった……。この作品の銃は、転がり落ちるのではなく、転がり上がってるのではないか。俺を殺しに来る時はソフトによろしく。

  • 投稿者 | 2019-11-18 14:22

    軽快な文章で人を殺しまくる。タランティーノのロードムービーのような突然の暴力、爽快感もあり、最後にさらりと落とし込んだ皮肉も良かったです。

  • 投稿者 | 2019-11-19 21:00

    軽やかな文体とは裏腹に、あるいはそれ故に、銃の悲しみがひしひしと伝わってきました。誰かが誰かを殺すときの、加害者でもなく被害者でもない、銃の側からのお話に胸を打たれました。あ

  • 投稿者 | 2019-11-19 21:01

    軽やかな文体とは裏腹に、あるいはそれ故に、銃の悲しみがひしひしと伝わってきました。誰かが誰かを殺すときの、加害者でもなく被害者でもない、銃の側からのお話に胸を打たれました。僕には重い話に感じました。

  • 投稿者 | 2019-11-20 23:08

    雨月物語でも遠野物語でも、「モノ」が魂を宿して語ったり動いたりするのだから、銃が殺人を憂えても何の不思議もありませんね。語り手の銃は特に優しい心情の持ち主です。
    人間は自分の作った「モノ」に仕返しをされているのにも気がつかぬ馬鹿者なんですね。

    • 投稿者 | 2019-11-24 13:16

      銃はどこまで行っても銃なんでしょうね。
      意見の持ち方は(表面的には)平和的なのに、行動はなんて銃的なんでしょう。ほんとにライフル協会そのものです。

  • 投稿者 | 2019-11-22 06:30

    軽快な語り口で読み手を楽しませつつも、ちゃんと銃社会に対する風刺になっている。娯楽性と社会へのコミットメントを両立させる巧みさ。今回の合評会作品の中では最も優れていると感じられる。面白かった! 星5つ!

  • 投稿者 | 2019-11-22 08:26

    金属特有の冷たさを内包した、諦念の小説、という風に受け取った。好きです。

  • 投稿者 | 2019-11-22 19:38

    とことん軽い文体で、とことん命を軽く扱っている仕掛けがよかった。読ませる文章だし、簡単に読んでいける。簡単にトリガー引けるみたいに。
    まあでも、軽く扱われる命の物語に対してやっぱり嫌悪感はあった。銃がお題なんだから、そりゃ人を殺す話にはなるだろうけど、その域を出てほしかった。「殺し」の羅列も、インパクトはあるけど安易に感じた。

  • 投稿者 | 2019-11-23 15:07

    一番合評会作品の中で面白かったです。銃の一人称と風刺がクールに効いていて、とても楽しく読みました。

  • 投稿者 | 2019-11-23 22:42

    面白い。ロバート・ロドリゲスの映画みたいな。よくわかんないですけど。軽薄そうでいてちゃんと語るべきことを語ってる感じがしました。

  • 投稿者 | 2019-11-24 13:44

    今合評会の最多殺傷数記録ですかね。ぼくは作中では誰も殺せなかったので、挽回したいです。

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