ドリーム・イーター

よたか

小説

2,514文字

 テレビに勢いがなくなった少しだけ未来のお話です。過去の栄光を忘れられない某国営放送の人々が、会議室で責任を押し付け合っておりました。

『ドリーム・イーター』は群雛のSSコンテストに応募した作品で、『別冊群雛 2016年 02月発売号』に掲載された作品です。

 これはネットの普及で、テレビに勢いがなくなった少しだけ未来のお話です。周波数の割当が大幅に削られる事が決まり、やっと危機感を感じた某国営放送でも、過去の栄光を忘れられない人々が、赤字に転落した責任を会議室で責任を押し付け合っておりました。

 

「赤字になったのは、受信料収入が減ったからです」会長の質問に経理局長が返事をする。

「どうしてだ? テレビを買う時は、絶対に払うように決まってたんじゃないのか?」

「モニタをネットに繋げば動画が見られますから、新しくテレビを買う人がいないんです」

「パソコンやネット端末でも〝受信料〟を取れるように国会で決めさせればいいだろう」

「もう国会で、某国営放送に味方する議員なんていませんよ」

「受信料も補助もないのに、どうやって放送を続ければいいんだ!」

「とりあえず、会長の報酬を9割カットですかね」

「何を言うんだ。いやだぞ。オレに責任ないぞ。偉いんだから、沢山もらってもいいんだ!」

「……」

「お、おい。編成局長。なにかみんなが見たくなるような番組の企画はないのか?」

「そうですねぇ〜。この会議を放送すれば受けるかもしれませんよ」

「ふざけるな。こんな会議なんて面白くないだろ」

「いえ、暴露系ニュースでも、ドラマでも、コメディーでも使えますよ」

「編成局長。解雇する」

「……」

「他にないか? おっ、技術局長なんかあるのか?」

「あっ、はい。先日発表された論文ですが、眠っている人間に特定の周波数の電波で、画像、音声、動画などを〝夢〟として受信させる事ができるそうです」

「それはすごいな。でも〝夢〟じゃなくて、テレビ番組を見せたいんだが」

「ですが、テレビがないのを理由にして受信料を払ってくれない家がたくさんあるじゃないですか」

「ではどうしろと?」

「ですから番組を〝夢〟で見せれば『受信料』を請求できるじゃないですか」

「おぉ、そうかぁ。テレビの有無は関係ないのか。素晴らしい」

「その通りです。しかも日本ではその周波数は某国営放送が使っているんです」

「素晴らしい! さっそく開発だ。ただし役人に知られると面倒だから極秘だ。以上。解散!」

 

 こうして技術局長のもと、コードネーム『ドリーム・イーター』として開発がはじまった。半年で実用までこぎ着け、第一回試験放送は、番宣(番組宣伝)を流してリアルの反応を見る事になった。

「技術局長。どうだ。番宣、うまくいきそうか?」

「深夜放送なので、朝ドラと朝のニュースの番宣を流します」

「ただ、人体に影響はないんだよな。なにかあっても困るんだよ。オレは責任取れないからな」

「大丈夫です。レム睡眠中に刺激を与えるだけですから、寝ている時に声が聞こえるのとほとんど変わりません。浅い眠りで目が覚めるので体にいいくらいです」

「ならいいのだが、うまくたのむよ」

 

 ドリーム・イーター放送の結果は想像以上で、翌朝の連ドラは久々に視聴率が40%を越え、気を良くした某国営放送は番宣を流し続けた。毎回『受信料を払いましょう』と入れたおかげか受信料も集まりやすくなった。

 周波数割当の決議の時も国会に向けて『あなたの某国営放送です』とドリーム・イーター放送を流し続け、居眠りをしてた議員が全て、某国営放送側についたので電波もそのまま使える事になった。

 

「おい。技術局長。うまくいったな」

「はい。まったくです。もうネットの影響なんて心配する必要もありません」

「そろそろ、番組を放送していこうか?」

「そうですね。半年も番組を見せて既成事実を作れば、受信料も請求しやすいですよね」

「では編成局と相談して、放送内容を決めてくれ」

 

 こうして某国営放送は、ドリーム・イータの本放送を開始した。昼間は地上波と同じ番組を流し、深夜は某国営放送のアーカイブから放送する番組を選んだ。

 反戦ドキュメンタリーを放送した時は、ネット上に戦争反対の意見が溢れかえり、自然災害ドキュメンタリーの時は防災グッズが売れた。そして、政府糾弾番組の時は日本中でデモが起きた。

 

「技術局長。もしかしてこのドリーム・イータ放送は、人々を洗脳しているんじゃないのか?」

「どのくらいの人が反応しているのかわかりませんが、世論操作しているのは確かです」

「どう思う。このまま進めてもいいのだろうか?」

「制作局としては、作ったモノを見てもらえるのならこのまま進めたいです」

「報道局としても進めていきたいですけど、倫理上まずくないでしょうか?」

「監査委員として、辞める、進めるはともかく、この技術の公表は避けるべきだと提言します」

「どうしてだ? 放送している事を言わないと受信料が入らないじゃないか」

「もし、この技術が今の政府に使われたら、どうなると思います」

「恐ろしい。悪夢だ。それだけは考えたくもないな。でも、このままでは受信料が入らないぞ」

「ではこういうのはどうでしょう……」

そして、広報局長の提案が採用された。

 

『みなさま某国営放送です。私どもはもう〝受信料〟をいただきません。コレからは有料番組の視聴料と、版権の提供、グッズ販売の収入で運営してまいります。これからも応援お願いします』

 

 方針を大きく転換して、某国営放送は国民に受け入れられた。受信料がなくなり、テレビを購入する家庭も増えた。某国営放送の〝クリーン〟な経営に異議を唱える者はいなかった。

 

「ドリーム・イータで〝有料番組購入〟と〝グッズの宣伝〟を放送しただけで、受信料の時より利益が上がっていますね」広報局長は会長に報告した。

「それに、もう某国営放送にクレームをいう奴は誰もおらんから商売も楽になった。ところで営業局長。中国、韓国、アメリカでの開局はどうなっている」

「議員たちの協力もあり、順調に進んでおります」

「いいじゃないか。これこそジャパン・イズ・ナンバーワンのスタートだ! ハハハっ」

「まったくそのとおりです。フフフっ」

 

 会長と局長たちの笑い声は、会議室の壁を通して、暗く冷たい廊下にいつまでも響いていた。

 

 <了>

2017年8月20日公開

© 2017 よたか

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