テロリズマ・パリ

応募作品

よたか

小説

2,761文字

短編集『ちょっと未来のうらがわで』用に考えていたお話です。テロとはちょっと違うかもしれませんが、ショービジネスになった“ちょっと未来の戦争”をショートショート風に書きました。
もしかしたら現在の戦争の構造も同じなのかもしれません。

今年もパリにテロの季節がやって来た。

8月のパリと言えばテロ。テロと言えばパリというくらい、テロはパリの名物です。この10年の間に世界中の組織がパリに集まってきました。

宗教の過激派や、極右の実行部隊。対するのは正規軍や、パリのレジスタンスたち。中にはサバゲー同好会や、コスプレしたアニオタたちまでが実弾を撃つためにパリまでやって来たこともありました。

パリでテロが増えはじめていた頃、警察や軍は躍起になって取り締まっていた。そんな時に解決策のひとつとして、日本の代理店がフランス政府に企画を持込んでから事態が変わりました。

 

『テロを観光にしましょう!』

 

フランス人の誰もが『平和ボケした日本人の考えること』だとあきれた。しかし内容を聞いたフランス政府は賛成した。身の安全と財産の為にパリ市民も賛成した。

こうして毎年8月に『テロリズマ・パリ』が行われることになった。そして今年は記念すべき10回目を迎えた。

今年参加するテロリストと正規軍はあわせて6組織、極右実行班『鷲の爪』、砂漠の過激部隊『砂漠国』、アジアから初エントリーの『半島軍』、『NATO正規軍』、『フランス陸軍』、そして3年連続で勝ち続けている『パリ・レジスタンス』。

一般人の保護と、負傷者救護のために『自衛隊』も派遣されていた。

 

「建物の3階より上に居てください。下だと流れ弾にあたる危険があります」

「セーヌ川沿いからコンコルド広場、シャンゼリゼ通りが一番の激戦地になると予想されますので、付近のホテルに滞在する方は部屋から出ないように」

自衛隊の『テロリズマ・パリ対策部隊』が日本からの観光客に繰り返し呼びかけた。

「去年はテレビで見ていたけど、やっとリアルで観れるぜ」

「本当は『レジスタンス』で参戦してみたいけどね」

「ムリムリ。おれらフランス語ムリじゃん。それに『半島軍』と間違われて撃たれるよ」

「それだよな。なんであいつら来ちゃったんだろう」

「そりゃ勝った時の権利目当てに決まってるだろ」

「そうだよな。この『サバゲー』に勝ったら、パリの観光収入の1年分の権利が手に入るんだもんな。だいたい100億ドルくらいだっけ?」

「街の改修とかしないといけないから、50億ドル程度になるんじゃないかな。あと、実弾使うんだから『サバゲー』いうな」

「そうだよな。普通のサバゲーじゃこんなに観光客来ないよな」

パンッ! パンッ!

タタタタタッ!

「おっ、始まったみたいだぞ。どことどこがやってる?」

「テレビの中継だと『鷲の爪』と『半島軍』が交戦してるみたいだ」

「白人優位の国粋主義者だから、最初に有色人種に目を付けたんだよ」

「『砂漠国』は下水道を使って移動しているらしいぞ」

「どうしてわかるの?」

「パリ市民が『レジスタンス』をサポートするため、SNSに流してる」

「パリ市民は『レジスタンス』に協力的なんだな」

「あたり前じゃん。ホームだもん」

「ほとんどの武器はアサルトライフルだね。グレネードとかバズーカは使わないの?」

「大きな火力で街を壊すと後の修理が大変だから、ほとんど小銃みたいだね」

「下の河岸でまた始まった。すげーなぁ。あれっ。1人倒れた。どこかに狙撃手がいるぞ」

「ほんとかよ、このホテルにいたらココも狙われるぞ。重機で一斉掃射されたら防弾ガラスでもムリだって。窓から離れた方がいいぞ」

「おい、テレビで言ってるけど、このホテルの屋上に『半島軍』の狙撃兵がいるらしい」

「やべ『鷲の爪』の奴ら撃ってくるぞ!」

タタタタタッ!

ヒューッ……。ガーン。

「うわーっ」

「大丈夫ですか? 自衛隊です。ダメか……。日本からの観光客が2名、グレネードの爆発に巻き込まれて重体です。これより非戦闘区の病院へ搬送します」

 

こうして始まった戦闘は7日間つづいた。それは単発のテロというより、すでに市街戦だった。

ロンドンのパブでは各陣営のオッズが発表されて盛り上がっていた。一番人気は『レジスタンス』の1.3倍。最高オッズは『半島軍』の30倍だった。

戦闘は予想どおり全陣営が『半島軍』を集中攻撃して制圧し、『NATO軍』と『フランス陸軍』が共闘して『鷲の爪』を制圧した。ずっと戦力を温存していた『レジスタンス』はパリ市民の情報を元に『砂漠国』の本拠地に踏み込んだ。

『NATO軍』と『フランス陸軍』が『レジスタンス』を側面支援し『砂漠国』を追いつめて制圧したあと、そのまま非戦闘区へ離脱していった。そして残った『レジスタンス』が勝利することになった。

「パリを守ったぞ!」「フランス万歳!!」パリの街に市民たちの歓声が上がった。

『ラ・マルセイエーズ』がパリの街中に響き渡った。

 

パリ郊外の非戦闘区の白い邸宅で、日本人男性たちが体をソファーに預けて『テロリズマ・パリ』の中継を見ていた。そこへフランス人の中年男性が現れた。

「みなさん。ごくろうさまでした」

日本人男性たちは急いで立ち上がろうとしたが、フランス人男性が右の手のひらを広げて制止した。

「あっ、ありがとうございます。だい……」フランス人男性がを指を立てて「シーッ」と、唇を抑えた。

「いま、肩書きはどうでもいいじゃないか」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「今年も市民がパリを守った。フランスの名誉が守られた。素晴らしい結果じゃないか」

「そうですね。コレだけアピールすれば、そうそうパリに手を出せませんからね」

「軍も武器の在庫処分ができるから助かるよ。ところで、こんなに危ない『ショー』を観るために世界中から人が集まるなんて、私は信じられんよ」

「テレビやネット配信の視聴率もかなり高いですよ。大きなスポーツイベントが少なかった8月なので、世界中のメディア関係者も喜んでます」

「興行主の君たちにも、結構な放映料が入るんだろ」

「まぁ、入ってはいますけど、参加してくれる陣営への『見舞金』とか、戦死者への『年金』なんかも少なくありませんからねぇ」

「そんなの、収入の1割もないんじゃないのかね? 来年は南米からも呼ぶつもりなんだろ」

「今の世界、適当なところでガス抜きしないといけないじゃないですか」

「君たちは武器を売らないタイプの『死の商人』だな。まったく」

「本当に人聞きの悪い事を言われる」

ルルルルル〜

「はい私だ。壊れたビルの建て直しの件か? いいだろ便宜を計っておく。いつもの口座に入れておいてくれ。後は秘書と話してくれたまえ」

「あなたも、人のことは言えませんよ」

「そうかな。ふふふっ」

 

テレビからは『ラ・マルセイエーズ』が流れていた。

 

〈了〉

2017年8月16日公開

© 2017 よたか

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"テロリズマ・パリ"へのコメント 11

  • 投稿者 | 2017-08-18 20:14

    最初が宣伝告知風の文体、次が地の文、その次が会話文を中心とされた構造でしたね。
    メリハリがあり、且つ、新しい、と感じます。
    初めて、こう言った構造の文章を読みました。

  • 投稿者 | 2017-08-18 20:54

    バトルロワイアルを思い出すほど、前衛的で刺激的でした。私の作品のコメントありがとうございます。ぷーちゃんのその後はまた書こうと思います。

  • 投稿者 | 2017-08-18 23:45

    冒頭で組織のネーミングと設定に笑い、その後重体者や死人が出ていることがさらっと扱われていてシュールさを感じと、読んでいて心情が揺れ楽しかったですが、デキレースだったというオチが、なんか夢壊れました。

    『自衛隊』はやはり戦闘でなく救護などの係なのですね。

  • 投稿者 | 2017-08-19 15:12

    『ハンガー・ゲーム』系の風刺のきいたディストピア作品として成立している。中盤、わざとらしい説明ゼリフの多さには閉口したが、ライトノベルやヤングアダルト小説といったジャンルの慣例であると判断した。

    テーマの扱いについては、著者がリードで示している通りテロと戦争の区別がついていない印象を受けた。「テロ」という言葉こそ使ってはいるものの、時期を決め、戦闘区と非戦闘区を分けて戦う時点で、もはやテロと呼ぶのは無理があると思う。テロを観光として消費しているというよりは、むしろメディアで表象されるリアリティーを欠いた戦争のイメージに対する風刺であるように見えた。

    そして、できればもっと血なまぐささがほしい。「1人倒れた」「重体です」といったセリフだけでは、わざわざ日本から観光客が観戦に来たくなるほどのスペクタクル性は感じられない。西側諸国の少なからぬ人々にとってリアリティーを持たない今日の戦争を皮肉を込めて強調するのであれば、あっけらかんと肉片をまき散らしたほうが効果的だと思う。

  • 投稿者 | 2017-08-19 17:56

    全体的にブラックユーモアの成分を多分に孕んでいるように感じました。「君たちは武器を売らないタイプの『死の商人』だな。まったく」という終わりの方の台詞が作品を物語っていると思います。
    そうやってしか書けないのではなく狙ってやっているのだと思いますが、作中の殆どが台詞で表現されています。そこだけどうなのかなと思いました。アイデアは今回の合評会の中で一番意外性がありました。

  • 投稿者 | 2017-08-19 19:01

    これ系は大好物なんでつい評価が甘くなるんですが、SSにしてはオチが弱いのが残念です

  • 投稿者 | 2017-08-20 05:00

    みなさん感想ありがとうございます。

    うまく伝わったところ、伝えきれなかったこと、表現方法など違う考え方をお聞かせいただいてとても嬉しいです。

    みなさんからコメントをいただいて、入れたいセリフがいくつか出てきました。

    ラストはフランス人のところに日本人たちが挨拶に行かせた方が自然だったのかもしれない。

    著者
  • 投稿者 | 2017-08-21 02:35

    テロと言う題をこの様に発展させたのがとても面白い。
    テロがあまり起こらない場所にいる人々からすると確かにテロを遠い出来事、「ショー」的に見てしまいかねない感覚があるが、これはその感覚を曖昧にさせる。実弾で戦ってるのだからセリフをもう少し濃くしてもらいたかった。

  • 編集者 | 2017-08-24 14:16

    着想が素晴らしい。与えられたお題からの跳躍距離の長さ、角度についてはともに高く評価したい。だからこそ、もっと書き方次第で何倍も面白くできたのではないか、とも思ってしまうのは欲張りすぎだろうか。ほかの作品を未読なので、この構成や文章力がどこまで狙ったものなのかは訊いてみたい。

  • 編集長 | 2017-08-24 18:07

    戦争を見世物にするというデスゲームものとして読めたが、テロ感とパリ感が少し足りなかったように思う。マクロンは実際にこれぐらい悪い奴だと思うので、わりと納得感あります。

  • 投稿者 | 2017-08-25 16:31

    ショートショート風と書いてあるように、淡々とした叙述にどこか懐かしさを覚えた。

    一般にテロに対して持たれうる感情(恐ろしい、遭遇したくないなど)を逆手にとって、観光の目玉にしてしまおうという発想がこの作品の面白味であるが、オチの件で明かされるように、その催しを「レジスタンス」に「勝たせた」ところが、近年の欧州にはびこる排外思想を風刺しているようで興味深かった。

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