佐川恭一の小説『ゼッタイ!芥川賞受賞宣言〜新感覚文豪ゲームブック〜』『就活闘争20XX』が第45回日本SF大賞にエントリーされたことがわかった。

本人がXで伝えた。

今年も活動の幅を広げ続け両作ている破滅派同人・佐川恭一だが、SF界にも毎年幾度となく攻勢をかけている。昨年は集英社より刊行された『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』でエントリーされているが、受賞はならなかった。しかし果敢な挑戦は幾度も行い続ける、その精神が素晴らしい。そして今年は『ゼッタイ!芥川賞受賞宣言〜新感覚文豪ゲームブック〜』『就活闘争20XX』のエントリーに至った。それにしても、両作とSFにはどのような関連が見出せるのだろうか?佐川恭一はエントリーの際、それぞれこの様なコメントを掲載した。

当然の話だが、全てのゲームブックはパラレルワールドの概念を内包したSFである。本作では芥川賞を目指す主人公が数々の困難を乗り越え、あるいは乗り越えに失敗し、その人生の軌跡がいくつかの結末に収斂していくのだが、その過程で「ありえない編集者」や「ありえない選考委員」たちが登場し彼を翻弄する。普通に読むと「ありえないドタバタコメディ」という一言にまとめられかねない作品だが、精確に読み込めば、この過剰な「ありえなさ」と「リアリティ」の関係を著者が突き詰めて考えている事がわかる。重要なのは、ありうる出来事をいくら並べてもリアリティの強度とは無関係だという事である。著者はその事実に目醒め、あえて過剰な「ありえなさ」を追求しぎりぎりの所で反転させ、逆説的に真のリアリティを立ち上げようという試みを鋭く提示しているのだ。本作はSFを、文学を根底から揺るがす傑作として永く記憶されるだろう。なお、自薦である。

『ゼッタイ!芥川賞受賞宣言〜新感覚文豪ゲームブック〜』

人間社会は「茶番」によってかろうじて成立している。退屈な社内会議のようなものから〈神聖なる〉儀式・儀礼まで、みなうっすら茶番だと感じながらそれを指摘せずに過ごしている。こうした茶番のうち、本作の著者が象徴として取り上げたのが「就活」である。就活は誰もがその「茶番性」を意識しながら、しかし避けがたい関門として在り続けており、人々はそれを乗り越えるべく、他者や自己に大小様々な嘘をついて奔走することになる。ここにおいて、著者はその「茶番性」をコミカルに、時にはシリアスに極限まで増幅させ、そこに命のやり取りまで持ち込むことで、社会にラディカルな疑問を投げかけている。いわばデスゲームものに分類される本作は「トンデモディストピアSF」として楽しむこともできる。しかしここに、我々人類が本当に考えるべき真の問いが含まれていることを決して見逃してはならない。自薦だが、SF新時代の到来を素直に喜びたい。

『就活闘争20XX』

なるほど、これはSFである。佐川恭一は、SF作家としても大きな一歩を踏み出している。創元SF短編賞優秀賞を受賞した斧田小夜のように、更なる飛躍を遂げる日も近いだろう。是非応援したい。

なお、日本SF大賞への作品エントリーは10月31日まで受け付けられている。「我こそは」「これこそは」という者がある方は是非エントリーしてみてはいかがだろうか。

佐川恭一の挑戦がどのように繰り広げられていくのか、はめにゅーでも今後も追っていきたい。