今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2024年8月号

・先日文庫化され話題のガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』。【特集】「『百年の孤独』と出会い直す」として、池澤夏樹+星野智幸による対談「ガルシア=マルケス化する世界で」、石井遊佳、磯崎憲一郎、上田岳弘、菊地成孔、高瀬隼子、谷崎由依、日比野コレコ、古川日出男、ラランド・ニシダによるエッセイ、寺尾隆吉による論考「『ラテンアメリカ文学』の誕生 ――ガルシア=マルケスの戦略とその遺産」を一挙。

・蓮實重彦「アニー・パイルと『イサイ フミ』」、滝口悠生「湯あたり」、羽田圭介「そこに生きている」、山﨑修平「網野は変わらない」が掲載。

・國森由美子による翻訳でオランダ人作家ピーター・クラーネンボルフの作品が初訳。「宇宙飛行士」は甘美な夢とうつつの物語。あわせて、ミヤギフトシ「ピーター・クラーネンボルフの音楽」も。

・「第十二回河合隼雄物語賞」は、八木詠美『休館日の彼女たち』(筑摩書房)。「学芸賞」は湯澤規子『焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史』(KADOKAWA)。

文學界 2024年8月号

・【創作】では、奥泉光「寶井俊慶」、角田光代「星ひとつ」、そして戸川純による初の小説「狂女、純情す」が掲載。戸川については、聞き手・前田隆弘によるインタビュー「獰猛な生への執着」も併せて。

・五月に行われた「文学フリマ東京」に文學界として初出店し初売りされた『大解剖!文學界新人賞』も反響が大きかった。今回は児玉雨子/ニシダによる【文学フリマ東京38・ルポ】が掲載。

・2021年に米大統領就任式で桂冠詩人となり話題になったアマンダ・ゴーマンによる第一作品集が6月26日に発売された。【『わたしたちの担うもの』邦訳記念】として、インタビュー「詩人は物事の核心(ハート)を記録する」、詩「わたしたちの名は」「エセックスI」が掲載。併せて、鴻巣友季子による解説「二重写しで浮かびあがる壮絶な道のり」も。

・村上春樹による【トーク】「音楽とデザインの幸福なコラボレーション」(聞き手=村井康司)。

群像 2024年8月号

・古川日出男「うつほ物語」、紗倉まな「うつせみ」を一挙掲載。

・【創作】では、くどうれいん「残ること」、高橋源一郎「オオカミの」、濱田麻矢訳・解説による張天翼「春の塩」、長野まゆみ「晴、時々レモン雨」。

・【小特集・豊永浩平】として、「月ぬ走いや、馬ぬ走い」で群像新人賞を受賞した豊永浩平をフューチャー。武田砂鉄が聞き手を務めるインタビュー「歴史からたぐり寄せる「言葉と響き」」、倉本さおりによる書評「生を掘削していく語り」、豊永自身による本の名刺「ぼく(ら)の亡霊たち」。

・【論点】は、シェリーめぐみ「私たちは疲れ果てている――親パレスチナ運動と大統領選の行方」。

・岩川ありさ「養生する言葉」、竹田ダニエル「世界と私のA to Z」、三木那由他「言葉の展望台」がそれぞれ最終回を迎える。

・【随筆】では、石島亜由美「おじさんと鍼を打つ」、斎藤真理子「釜山、パヴェーゼ」、西由良「続ける理由」、長谷川ちえ「昼寝の後で」、福田里香「マイファースト宮崎駿」、山本ぽてと「どんぐりとパジャマ」、若林理央「私はこっち側?」。個人的に注目したいのは、『フルトラッキング・プリンセサイザ』で「第五回ことばと新人賞」を受賞した池谷和浩「半歩先のこと」。

すばる 2024年8月号

・【小説】では、辛島デイヴィッド「アンビバレンス」(連作 断識芸人)、金石範「マンドギのユーレイ」、川崎徹「鉄の脚」、椎名誠「天竺屋奇譚」が掲載。

・【すばる海外作家シリーズ】として、シュチェパン・トファルドフによる「時間の無駄」が掲載。翻訳を手掛けた芝田文乃による解説も併せて。

・5月に亡くなった、短編小説の名手として知られるノーベル賞作家アリス・マンロー。今回は【追悼:アリス・マンロー】として、鴻巣友季子が「極私的追悼――手の届かなかったあの人へ」を寄稿。

・【エッセイ】として、カメラマン川崎祐による「光の記憶」。個人的に注目したいのは、『銭湯』で「第四回ことばと新人賞」を受賞した福田節郎「裏切者」。デビュー作で独自の世界観を掲示した福田がどのようなエッセイを届けるのか。

・李琴峰による連載文学の交差点 アイオワ印象」が最終回を迎える。

文藝 2024年秋季号

・創作では、安堂ホセ「DTOPIA」、木村紅美「熊はどこにいるの」、滝口悠生「連絡」が掲載。今村夏子による短編「トラの顔」も。

・【特集1 世界文学は忘却に抵抗する】として、斎藤真理子×奈倉有里×藤井光による鼎談「見えない大きな暴力を書きとめる─「現代を映す10冊」をもとに」、松田青子+インタン・パラマディタ、太田りべか訳による特別企画「往復書簡 越境して結束をする私たちの方法」。

 さらに、粟飯原文子、青木耕平、阿部大樹、榎本空、木内尭、木下眞穂、金志成、工藤順、須藤輝彦、すんみ、五月女颯、寺尾隆吉、中村隆之、丹羽京子、野平宗弘、橋本輝幸、濱田麻矢、三浦祐子、柳谷あゆみ、吉田恭子、吉田栄人「注目の作家3名& 日本語に翻訳されてほしい作品 海外文学翻訳者・研究者21人アンケート」、韓国・日本・チベット・タイ〝戦争〟テーマの書き下ろし短篇として、パク・ソルメ、斎藤真理子訳「スカンジナビア・クラブにて」、柴崎友香「現在の地点から」、ラシャムジャ、星泉訳「傷痕」、チダーナン・ルアンピアンサムット、福冨渉訳「群猿の高慢」が掲載。古川日出男による論考「文学の時差」、【作家を創った世界の小説3冊】として、金子玲介「語りに魅せられて」、小池水音「世界と片手をつなぐこと」、日比野コレコ「アデノウイルスで死にかけのワニ」。

・【特集2 怖怖怖怖怖】として、春日武彦×梨による対談「本当に怖いフィクションとは何か?」、特別企画として、綿矢りさ「夜の日課は哲学ニュース」「綿矢りさから「哲学ニュース」運営者へのQ&A ネット界隈の怪談クロニクル」、朝宮運河・大岩雄典・廣田龍平・藤原萌、編集協力=山本浩貴(いぬのせなか座)による「特別企画 異界への扉をひらく〈怖怖怖怖怖〉作品ガイド」。創作では、八木詠美 「プリーズ・フォロー・ミー」、澤村伊智「さぶら池」、小田雅久仁「囁きかわす者たちからの手紙」、三木三奈「土屋萌」、木原音瀬「リンク」が掲載。

 さらに、我妻俊樹による怪談短歌「雲から覗く顔」、大森時生によるエッセイ「衝動的煩悩」、升味加耀「健やかに生き延びるための呪いについて」、木澤佐登志による論考「この世界という怪異 実話怪談と思弁的怪異」。文藝チャレンジとして、大森時生がゲスト選者を務める「#不気味な書き出し文藝」受賞作が発表。

・川端康成文学賞受賞記念インタビューとして、水上文聞き手・構成「町屋良平が語る「私」と物語をめぐる新しい私小説」。

以上、2024年7月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。