KADOKAWAが主催する「第15回小説野性時代新人賞」に諏訪宗篤むねあつ『海賊忍者』、関かおる『みずもかえでも』の二作が大賞を受賞した。

 2009年に創設された文学新人賞。これまでにない新ジャンルを築きあげるエンターテインメント作品を広く募集し、読む者の心を揺さぶる、将来性豊かな稀代のストーリーテラーを選出する。

 諏訪は、1973年生まれの三重県出身、在住。名城大学法学部卒業後、ゲーム製作会社、デザイン事務所に勤務。現在は農業と家事に従事するかたわら創作活動を行う。2017年に『商人、伊賀を駆ける』で「第9回朝日時代小説大賞」を受賞。18年2月『茶屋四郎次郎、伊賀を駆ける』と改題し、朝日新聞出版から出版している。

 『海賊忍者』のあらすじは、元亀3年、伊勢国司北畠具教の娘・雪姫を助けた伊賀の土豪、向井正綱は、雪姫から父が仕える武田信玄の元へ赴くよう依頼される。将軍・足利義昭と通じ反織田信長の兵を挙げようとしていた北畠家は、武田信玄にも挙兵を促そうとしていた。雪姫に惹かれ、雪姫と織田家次男の政略結婚を阻止したい正綱は、北畠家の侍大将・鳥屋尾満栄と伊勢湾を渡り、信玄から共闘の承諾を得る。しかし武田の軍勢が伊勢湾を渡るためには新たに百隻の船が必要だった。やがて武田信玄が西上する中、正綱らは蜂起の準備を進めるが……。

 関は、1998年生まれの東京都出身、在住。慶應義塾大学環境情報学部卒業。

 『みずもかえでも』のあらすじは、演芸好きの父に連れられ寄席に通うなか「演芸写真家」という仕事を知った繭生は、真嶋光一に弟子入りを願い出る。真嶋は「遅刻をしないこと」「演者の許可なく写真を撮らないこと」を条件に聞き入れるが、真嶋が体調を崩したある日、繭生は高まる衝動を抑えきれず、落語家・楓家みず帆の高座中にシャッターを切ってしまう。真嶋のもとへ謝罪に向かう途中、父の視力が回復しないという事実を知った繭生は、規則を犯したことを隠したまま「演芸写真家」の道を諦める。4年後、ウエディングフォトスタジオに勤務する繭生のもとに、花嫁としてみず帆が現れ――。

 選考委員の冲方丁、辻村深月、道尾秀介、森見登美彦による選考会が3月6日に行われた。応募総数614作品の中から受賞作のほか、最終候補には綿原芹『ふくふくいいめし』、彼方出『多摩川スピードウェイ』があがっていた。

 なお贈呈式および祝賀パーティーは、11月に都内で「山田風太郎賞」「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」と合同で開催予定。受賞者には賞金各50万円が贈られる。

 受賞作は単行本として、2024年中にKADOKAWAから刊行される予定。選評は、4月25日発売の「小説 野性時代」5月号に掲載予定。