新潮文芸振興会が主催する「第36回三島由紀夫賞・山本周五郎賞」が5月16日に発表され、三島賞を朝比奈秋『植物少女』(朝日新聞出版)、山本賞を永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)がそれぞれ受賞した。

 朝比奈秋は、1981年生まれ京都府出身。消化器内科の現役医師。「塩の道」で 2021年に「第7回林芙美子文学賞」を受賞。2022年に同作も併録した『私の盲端』(朝日新聞出版)でデビュー。

 『植物少女』は、生まれた時から母がベッドに寝たきりの植物状態である美桜の成長と関係性の変化を描く。現役医師でもある著者が「生きる」とは何かを問う作品。

 三島賞の候補作品には受賞作のほか、年森瑛『N/A』(文藝春秋)、小池水音「息」(「新潮」2022年10月号掲載)、千葉雅也「エレクトリック」(「新潮」2023年2月号掲載)、野々井透『棕櫚を燃やす』(筑摩書房)が候補としてあがっていた。

 同日、選考委員の川上未映子、高橋源一郎、多和田葉子、中村文則、松家仁之によって選考会が行われた。こちらの選考経過については6月7日発売の「新潮」7月号誌上に掲載予定。

 永井紗耶子は、1977年生まれ神奈川県出身。2010年『恋の手本となりにけり』(小学館)でデビュー。昨年『女人入眼』(中央公論新社)は「第167回直木三十五賞」候補となった。

 『木挽町のあだ討ち』は、ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、父親を殺めた下男を美しい若衆・菊之助が見事に仕留めたという語り草になっている仇討ちの真相を描く。
 山本賞の候補作品には受賞作のほか、浅倉秋成「俺ではない炎上」(双葉社)、荻堂顕「ループ・オブ・ザ・コード」(新潮社)、岩井圭也「完全なる白銀」(小学館)、吉川トリコ「あわのまにまに」(KADOKAWA)があがっていた。

 山本賞の選考委員は、伊坂幸太郎、江國香織、荻原浩、今野敏、三浦しをん。選考経過については6月22日発売の「小説新潮」7月号誌上に掲載予定。

 なお、受賞作にはそれぞれ、記念品及び副賞として100万円が贈られる。

 三島賞に限って言えば、今回は北九州市が主催する「林芙美子文学賞」受賞者である、朝比奈が受賞。先日『荒地の家族』(新潮社)で芥川賞を受賞した佐藤厚志は2017年に「蛇泥」で新潮新人賞を受賞しているが、2020年に「境界の円居」で「第三回仙台短編文学賞」受賞。その後、『象の皮膚』(新潮社)で三島賞候補となっている。今回候補にあがった野々井も太宰治賞受賞者であり、同じように太宰治賞を受賞した今村夏子も今では人気作家だ。

 いわゆる純文学と呼ばれるジャンルにおいて、五大文芸誌の新人賞、芥川賞、野間文芸新人賞、三島賞という三賞を獲ってステップアップでキャリアを積んでいくという王道ではなく、地方文学賞の存在感が高まってきていることは歓迎すべきことだろう。