今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年6月号

・新連作第1回として、本谷有希子による独創独走の会心作「パンケーキ2.0」が掲載。

・【特集】「七つの視座で読む村上春樹新作ーー『街とその不確かな壁』」として、村上春樹の新刊を安藤礼二、小川哲、小川洋子、小沢健二、最果タヒ、沼野充義、吉本ばななの七人が読み解いていく。

・久栖博季による新潮新人賞受賞第一作「ウミガメを砕く」。北海道が全停電した夜、わたしは剥製のウミガメを抱え、まっすぐな迷宮と化した公園を彷徨うーー。孤独な魂を描く気鋭渾身の一作。

・『第47回川端康成文学賞』は滝口悠生「反対方向行き」。

文學界 2023年6月号

・【創作】では、乗代雄介「それは誠」、九段理江「しをかくうま」が掲載。「2023年上半期同人雑誌優秀作」として、衿さやか「泡のような きみはともだち」(「せる」Vol.121)が掲載される。

・【特別寄稿】として、筒井康隆「老耄よりの忠告」が掲載。不景気、パンデミック、〝新たな戦前〟とも言われる現代に御大は何を語るのか。

・【追悼 富岡多惠子】として、安藤礼二「四天王寺聖霊会の思い出」、【追悼 坂本龍一】として佐々木敦「甘い復讐――坂本龍一を(個人的に)追悼する」をそれぞれ寄稿。

群像 2023年6月号

・『第66回群像新人文学賞』当選作は、「もぬけの考察」村雲菜月と「ジューンドロップ」夢野寧子のW受賞。受賞の言葉と選考委員の柴崎友香、島田雅彦、古川日出男、町田康、松浦理英子による選評が掲載。

・【特集・村田沙耶香の20年】として、村田沙耶香による創作「整頓」、ロングインタビュー「小説を裏切らず、変わらずに書き続ける」(聞き手=岩川ありさ)、江南亜美子による批評「内側から穴をうがつ――村田沙耶香論」、解題として宮澤隆義「村田沙耶香 全単行本解題」を一挙掲載。

・木下龍也による新連載「群像短歌部」と諏訪部浩一による新連載「チャンドラー講義」がスタート。

・上出遼平「歩山録」、山本貴光「文学のエコロジー」がそれぞれ最終回を迎える。

すばる 2023年6月号

・【特集 綿矢りさプロデュース 中華(ちゅーか)、今どんな感じ?】として、墨香銅臭×括号×綿矢りさによる鼎談「良い物語を創るのに必要なこと」、綿矢りさによるエッセイ「激しく脆い魂」、佐藤信弥による論考「『陳情令』のルーツ――仙侠と武侠、金庸作品との関係、時代背景」、はちこの論考「中華BL二十五年の歩み――誕生、発展、規制、そして再出発」、綿矢りさによる小説「パッキパキ北京」を一挙掲載。

・【小説】では、椎名誠「人間証拠博物館」。個人的に注目したいのは、永井みみによる新作「ジョニ黒」。『ミシンと金魚』が野間文芸新人賞にノミネートするなど大きな話題を呼んだ永井は、どのような新作を書き上げたのか。

・『第八回渡辺淳一文学賞』に輝いたのは、古谷田奈月『フィールダー』。選考委員の浅田次郎、小池真理子、髙樹のぶ子、宮本輝による選評も。

・『第三十八回詩歌文学館賞』は詩部門/齋藤恵美子『雪塚』、短歌部門/小池光『サーベルと燕』、俳句部門/星野高士『渾沌』がそれぞれ受賞。

・千早茜による連載「傷痕(8)慈雨」が最終回を迎える。

以上、2023年5月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。