しんかんちぇん、ぶーぶー
新幹線は俺が5歳の時にプラレールをヒントに発明したんだ
すごいだろ
いつになったら特許料が払われるんだ? pic.twitter.com/JVL41IDi4n— Juan.B@非国民ハーフ (@GreatJuanism) March 4, 2017
と言うわけで俺はどこか旅の空の下にいる
つまり全人類には俺と偶然すれ違う恩恵を得られるチャンスがあるのだ
こんなチャンスそうそう無いぞ、皆も外に出ろ
そうだ、俺以外の全人類が全裸で出歩くと良いな、俺がすぐ見つかるからじゃ、しばらく俺はノンビリしよう
— Juan.B@非国民ハーフ (@GreatJuanism) March 4, 2017
と言う訳で、俺は今、遠い旅の空の下にいるんだ。この旅路の全貌はいずれ何かに書くとして、俺が盛岡に乗り込んだ時に来訪した「さわや書店」のお話をしよう。
昨年話題になった「文庫X」。その舞台は岩手県盛岡市に所在する。
・さわや書店とは何か
さわや書店は岩手県内を中心に現在10店舗を展開する書店チェーンである。特に盛岡市民にとっては東山堂書店と並び愛される本屋でもある。さわや書店本店は盛岡駅東口方面にある通称「大通り」に存在する。
これがさわや書店本店である。
「文庫X」の情報から入ってきて岩手県民でもない人は、何か飛び抜けた本屋を想像していたかも知れないが、ここを見ると地元に愛される所謂「街の本屋さん」の一つであることが分る。実際私が行った時、「本を買って地酒が当たるキャンペーン」とか村上春樹の新作「騎士団長殺し」の宣伝をやってはいたが、前者は現在東北一帯の本屋が協力してやっている企画であり、後者は全国どこでもやっていそうな事である。盛岡一の繁華街に店を構える事もあり店内に人は多いが、現在このすぐ近くの商業ビル「モスビル」に広大な売り場面積を誇るジュンク堂書店が入っており、中々苦戦しているのかも知れない。
しかし本店では文庫Xの情報は得られない。文庫Xが展開されているのは盛岡駅と一体の商業施設フェザン内にあるさわや書店フェザン店である。
こちらは本店とはまた異なる装いをしている。POPが多く貼られ、話題の本には一つ一つ店員のコメントが付けられている。この写真だけ見れば都会の商業ビルに良くある本屋さんとしか見えないかも知れない。だが勿論、こう見えても岩手県の本屋であり、宮沢賢治や石川啄木と言った郷土の文人・詩人のコーナーは広く取られている。宮沢賢治はイーハトーブを創造し郷土をユートピア(と言うには少しトゲもあるが)に変化させ、石川啄木は自分に頭を下げさせた他人の死を願ったりする傍らで東北からの玄関口だった上野駅で地元の方言を聞いては故郷を思い返した。この様な二人の郷土愛に答える様に、岩手県人の「先人」愛も凄まじい物がある。原敬と米内光政も加えると恐らく日常会話の二割か三割には必ず彼等「先人」が混ざり込むんじゃないだろうか?岩手県人はいずれ宮沢・石川・原・米内の四姓に統一され、岩手先人帝国を……だがここは文庫Xに話を戻そう。
・文庫X
文庫Xはいきなり前触れも無く始まった企画ではない。さわや書店フェザン店では以前からPOPの掲出だけでなく様々な企画を推し進める方針が取られるという下地があった。さわや書店の店員が居酒屋に集まってその年のベスト書籍を決める「さわベス」などもその一つである。今もさわや書店フェザン店の通路側には多くの本がにぎやかなPOPと共に並んでいる。
「文庫X」企画が始まったのは2016年7月のことだった。表紙を隠された上に書店員のコメントで埋め尽くされたカバーが掛けられたある本がコーナーに並んだ。
表紙を隠しキーワードなどを配置して客に想像させると言う企画自体は以前から他の書店でも度々行われていた様である。だが「文庫X」の特色は、書店員のコメントでほぼ埋め尽くされていることだ。客に想像させると言うよりはもっと直接的に引き付ける意図があるらしい。
カバーにはこう書いてある。
申し訳ありません。僕はこの本を、どう勧めたらいいか分かりませんでした。どうやったら「面白い」「魅力的だ」と思ってもらえるのか、思いつきませんでした。
だからこうして、タイトルを隠して売ることに決めました。
この本を読んで心が動かされない人はいない、と固く信じています。
500Pを超える本です。怯む気持ちは分かります。
小説ではありません。小説以外の本を買う習慣がない方には、ただそれだけでもハードルが高いかもしれません。
それでも僕は、この本をあなたに読んで欲しいのです。
これまで僕は、3000冊以上の本を読んできました。その中でもこの本は少しでも多くの人に読んで欲しいと、心の底から思える一冊です。
この著者の生き様に、あなたは度肝を抜かれ、そして感動させられることでしょう。こんなことができる人間がいるのかと、心が熱くなることでしょう。僕らが生きるこの社会の不条理さに、あなたは憤るでしょう。知らないでは済まされない現実が、この作品では描かれます。あなたの常識は激しく揺さぶられることでしょう。あなたもこの作品と出会って欲しい。そう切に願っています。
ここまで読んでくれた方。それだけで感謝に値します。本当にありがとうございます。さわや書店フェザン店
文責:長江(文庫担当)
コメントから読み取れるように、この文庫Xの内容は「面白い」「明るい気持ち・気晴らしのためにお勧めしたい」と言った類ではなく、むしろ心を抉るかも知れない内容である。それ故に最初から表紙やタイトルを出しているだけではあまり注目されなかったのかも知れない。だがどうしても目を背けられない内容故にこの様な販売を思い付いたのだろうか。
7月の発売以来、文庫Xは話題となり、2017年3月上旬現在このフェザン店だけで5000冊以上売り上げた。一店舗としては驚異的な売り上げである。またこの企画は全国に飛び火し、書店界で言わば「文庫X旋風」が起きた。当はめにゅーでも文庫Xの話題を伝えている。
もう一つ特筆すべき事として、さわや書店が公式に文庫Xの中身を明かすまで、読者側でも「ネタバレ」の動きがあまり見られなかったことである。書店側だけでなく、読者側も協力して「文庫X」がそうである理由を守ったのだ。
そして12月9日、さわや書店は公式に文庫Xの中身を明かす催しを開いた。
文庫Xの中身は、桶川ストーカー殺人事件のスクープなどで有名な記者・清水潔によるドキュメント「殺人犯はそこにいる」であった。
北関東で5人の少女が連続して誘拐・殺害された通称「足利事件」。警察は当初、杜撰な捜査とDNA鑑定により一人の男を犯人に仕立て上げてしまった。しかし清水は異様な物を感じ独自に調査を続け、警察の腐敗と冤罪を暴き出し、男性を釈放に導く重要な役割を果たした。そして「ルパン」と呼ばれる真犯人に迫っていくが警察は動かず……と言う内容である。
内容が明らかになって以後も、元「文庫X」であった「殺人犯はそこにいる」は売り上げを伸ばしている。読まれるべきなのにあまり注目されない本に対する、本のプロである書店員の思いが、一冊の重大な本を世間に広める事に繋がったのだろう。
・これからの展開
さわや書店フェザン店の企画は「文庫X」に終わらない。上記の写真から数日後、再び訪れた際、「文庫X」に続く新しい企画が始まっていた。
「文庫X」企画が伝えたかったことの一つは「自分の頭で考えること」である。それを示すための一冊、「はじめて考えるときのように―「わかる」ための哲学的道案内」が積まれていた。今度はタイトルは隠されてはいないものの、オリジナルの「全帯」が付けられており、書店員の熱い思いが伝わってくる。「文庫X」もそれに続く新しい企画も、「街の本屋さんが生き残るための一企画」としてだけではないことがさわや書店にいると分ってくる。だがもちろん、さわや書店にも相手がいる。盛岡にはジュンク堂やツタヤ、また市内中心から離れるがエムズエキスポと言ったチェーン系大型書店がいくつも出店している。この様な事情も踏まえて尚さわや書店はこれからどのような動きを見せていくのだろうか。さわや書店のこれからにも注目である。
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