7月下旬に岩手県内の書店からはじまった「文庫X」戦略が話題を呼んでいる。文庫Xとは、手製のカバーで覆われた状態で店頭に並べるというユニークな販売方法をとられた文庫本のことで、客は書名も著者名も中身も一切確認することができないのが特徴だ。にもかかわらず、わずか1ヶ月で800冊を売り上げており、今では文庫Xの輪は全国にも広がりつつある。

「文庫X」を販売しているのは、盛岡市内にあるさわや書店フェザン店だ。同店の文庫担当者・長江貴士氏はこの本を非常に興味深く読んだそうだが、書名やテーマの堅苦しさからあまり客の手に取ってもらえないのではないかとの危惧を抱いたという。事実、単行本で発売された際の売れ行きは今ひとつだった。

そこで思いついたのが、あえて書名も著者名も伏せて売るという戦略だった。結果的にこの試みは大成功し、SNSで拡散もされ全国から注文が殺到した。購買層も老若男女を問わず偏りがないという。現在では同様の手法を真似する書店が続出しており、「文庫X」は一大ムーブメントとなっている。出版不況といわれて久しい昨今だが、工夫次第ではまだまだ本を売ることができるのだと証明した格好だ。

なお、実はこうした覆面での販売方法を行ったのはさわや書店フェザン店がはじめてではない。オーストラリアにある古書店Elizabeth’s Bookshopでは、茶色い包装紙でラッピングした本にキーワードだけを添えて販売する「a blind date with books」というスタイルを春から行っており、本好きのあいだでは話題を呼んでいた。「文庫X」もここからヒントを得たのかもしれない。