御旗の下で誰もが踊る

Raymond

小説

15,147文字

ぐるぐると同じ場所を回り続ける。それはダンスのよう。

誰もが酔っ払っていた。

男たちはみな外に出て、町の広場に聳え立つ一本の欅の大木の上に神が降り立つのを、今か今かと待ち望んでいた。

冷たい霧雨が闇夜の町に立ちこめる中、あちらこちらで燃え上がる松明の炎がぼやけ、赤く染まった大勢の横顔を闇の中に浮かび上がらせていた。女たちは家々の前に座り、町中の隅々まで練り歩く激流のような人々の大河を楽しそうに眺めていた。子供は彼女たちの膝の上に乗せられて、静かに自分とは関係の無い世界──または額縁に収まった絵画──を見ているかのように唾を飲み込んで目の前を見つめていた。

その通りの激流から上空二十メートルにある灯りの消えた汚れた窓の中で悠人は眼下を流れる火薬の匂いの立ちこめた人と火炎の濁流を、どこか遠い銀河系のどこかの惑星でさらさらと流れる物悲しい小川を見下ろすような感覚で眺めていた。もはや誰もが六年前の凄惨な事件のことなど忘れて、五百年前の町の伝説である一人の魔術師の物語を、その悲しい恋の物語を頭に思い描いていた。

 

それは戦国時代、この町がまだ村だったころのことだ。この地方を支配していた里見氏の滅亡の物語で、一日に二度の北条氏からの侵略からこの地を守り抜いた彼らは大いにうかれ、昼間の戦いが終わった後に、城の兵士全員に大量の酒を振る舞った。そして戦いの夜に始まったこの大宴会がたけなわになってきた時に、三度目の北条氏の攻撃が開始されたのだった。

男たちは慌てて武器を取って応戦したが、身体の中の酒気が彼らの行動を鈍らせた。この時大将をつとめていた里見氏三代目、里見正時は豪傑な男として名の通った人物で、二度の防衛戦でも多くの敵将を討ち取り、部下の前でその血の滴る首をまるで大きな林檎でも頬張るかのように喰らったと言うのはこの町の一つの伝説にもなっているのだが、そんな男でさえおびえた顔をして、酒に酔った赤ら顔のまま逃げ去って後ろから北条軍に殺された。

戦いは夜明けには終結した。丘の上に建った里見城を朝日が真っ赤に染め上げた。実際、城の中は里見軍の血で真っ赤に染まっていた。城内に植わった欅の大木の下には二つの小さな遺骸が転がっていた。それは里見の若い兵士と美しい里見の姫君だった。彼らは向かい合って座っていた。そしてお互い右手に桐の柄が付いた短刀を握り、お互いが相手の左胸に短刀を突き刺していた。うら若い二人の身体は死ぬ時には一つに繋がっていたのだった。

北条軍は里見軍の大量の死体を処理するのに、城のすぐ近くを流れる江戸川に投げ捨てることを採用した。彼らは多くの死体を川に投げ入れたが、若い戦士と姫君の遺体を投げ捨てるかどうかは躊躇してしまった。なぜなら彼らの身体は死してなおも美しかったからだった。

里見の姫君は生前から魔術師であったという噂は関東には広がっていた。彼女はあらゆる植物の生長を早めさせる力を持っていた。彼女が触れた植物は驚くべき速度で花を咲かせ、実を作り、枯れていった。おかげで彼女の過ごした城の離れのまわりの植物たちはみな一斉に枯れてしまった。江戸川の氾濫を事前に予知したのも彼女だった。また彼女が階級違いの若い兵士と恋に落ちたことが父親に発覚して、その男と会う事を禁じられた時には、彼女は一週間竹林の中の岩に寄りかかって泣いた。そして彼女が去ったあとでもその岩からは姫君のすすり泣く声が聞こえるのだった。事実これは現在【泣き岩】として町の伝説とされている。

しかし姫君と若い兵士の死体も結局は川に放り込まれることになった。北条氏は姫君の埋葬を考えたが、不思議な力を持った姫君の遺体を里見の土地に残したくなかったのだ。

二人を含んだ大量の里見兵の死体は北条氏の荷車に山積みされて江戸川まで運ばれていった。彼らは渡し船に10体づつ死体をつぎ込み、川の中央で1体づつ、どぼんどぼんと落としていった。二人の番が回ってきた。彼らの死体は二人いっぺんに舟から捨てられた。身体は二つだったが、どぼんという音は一つだった。

 

悠人はこの物語を町の人々と同じように父親から伝えられた。そして彼の父親は彼の祖父から伝えられたのだった。悠人の父親は6年前の事件で死んだ。町の人々は彼の父・秋久をテロリストとして知っていた。6年前に起こった大統領邸襲撃の主犯格は秋久だった。しかし今ではこの事件は存在しなかったかのように、人々に無視されていた。彼らは広場の欅に降臨する神を待つことだけしか頭にない一つの動物のようになっていて、町は神を歓迎する爆竹や花火の火薬の匂いと辺りを覆う灰色の煙に包み込まれているのだった。悠人がいるマンションは町の通りと反対に静寂に包まれていた。いつもなら遊び場のない子供たちや練習場所のない町の合唱隊が廊下の踊り場や階段に座って、昼夜関係なく騒々しくしているのだが今夜は違った。夜には巣に帰る鴉たちが祭りの炎や騒がしさで昼と間違えて、町の上空で輪になって飛んでいた。

言ってみれば、悠人がいるマンションだけが神聖な静寂に満たされた場所だった。これは皮肉なものだった。外の騒ぎが神の降臨を待ち望むための熱狂なのであるのに、彼の部屋には神の降臨を祝うものなどなに一つとして置いてはいなかった。窓際に立って眼下を眺める彼は、歓喜の雄叫びを続ける人々を見ているのではなく、ただその人の流れを見つめているのだった。歪んだ十九世紀の窓ガラス越しに見る外の流れは、やはり彼にとってどこか遠い銀河系の一つの惑星にさらさらと流れる一本の小川のようであり、川面には優しい月の光は映っていた。川岸は両側とも真っ白な砂漠が広がっていて、葉も花もない真っ白な枯れ木が所々に佇んでいるだけで地平線まで続く白い砂漠の上には星の輝く静かな夜が漆黒の翼を広げているのだった。世の中の事象で、まわりの事象と全く関係を持たない独立した概念を持つ事象など存在しないことを彼は知っていた。彼は一人の売れない画家であった。窓の外を流れる人の大河を見つめながら、彼は〈時間〉という概念について思考を巡らしていた。そして彼の思考という一本の小川と民衆の神に対する人々の情熱の小川はいつか神の世界に広がる雄大な黄金の海で一つになってしまうのだった。

彼は、人間は時間的な存在だと信じていた。だがその時間という牢獄から人間の魂を救い出すものは絵画や物語などの芸術であるとも信じていた。彼は父親から聴いた五百年前の町の伝説を自分の時間の中に埋め込んでいた。つまり彼にとって五百年前の伝説は五百年前の伝説ではなく、彼が生きているこの時代の伝説だと認識していた。彼は伝説と共に生きているのだった。そして彼の父親が大統領邸に前の大戦で使用した旧式の武器だけを持って突っ込んでいったのも現在であり、また父が生きているのも死んでいるもの現在であると考えようとしていた。

彼が描く絵は常にひと目見ただけでは何を描いてあるのか分からない代物ばかりだった。ぐちゃぐちゃした黒い歪んだ円形の物体がキャンバスに浮いているものが額縁に納まり、部屋にはたくさん飾ってあった。具象画というものを彼には描くことが出来なかった。例えばそれが風景画であったとすると、その風景とは結局の所、絵画を描くときに見つめた時点での風景であって、彼の時間間隔にはそれは一つの時間的な点でしかないのであった。彼にとって絵画に描くものは全てが現在であって、そこに生まれる物の生と死、またその前後を描かないことには気が済まないのだった。

頭の中に長い針と短い針のある時計を思い浮かべていた。それは時間が経つごとに回ってゆく… 彼はその時間感覚だけは受け入れていた。時計の針は回り回ってまた同じ所を過ぎてゆく、暦の概念をそぎ落としたその堂々巡りを繰り返す時間だけを彼は受け入れていた。そして部屋の柱時計が午後の十一時を指す瞬間──またそれは町の中央広場の欅の大木の上に神が降り立つと予定された瞬間でもあったが──鼓膜が破れるほどの激しい爆竹や花火の炸裂音や人々のあげる叫び声ともに、彼の部屋のドアを叩く音が聞こえた。革命のような騒ぎの中でドアを叩く音だけはなぜかクリアに聞き取れたのは今でも不思議だ。

 

それがフェルミーナとの出会いであった。彼女の肌は雪のように白く、外のマンションの廊下に蹲っていた闇の中に非常な輝きを持って浮かび上がっていた。驚くほどの美人であった。黄金に輝く耳飾りを煌めかせ、南国の花畑を思わせる鮮やかなワンピースを着て、大地の力強さを感じるショルダーバックを肩に掛けていた。やはりこの世の人は思えないほどの美人であった。実際彼女はこの世の人ではなかった。フェルミーナとの出会いは悠人にとって初めての神霊体験となったのだが彼が知るはずもなかった。彼女は同時刻に広場の欅の大木の上に落ち立つはずの神であった。

彼女は片手で肩に掛けたバックを握り、初対面の時によく見るようなぎこちない微笑を浮かべた。その瞬間が悠人にとってどれほどの時が過ぎたか分からないほど永遠に感じたのだった。

­­­──久しぶりにこの町に帰ってきたのだけど、どの宿も満室でどこにも泊まるところがないの。よかったら今夜だけでいいからここに泊めて貰えないかしら?

まず先に結果だけ先に述べると、フェルミーナとの生活は今夜だけでは終わらなかった。彼らは死ぬまで二人で暮らしていた。そして彼女が彼にぎこちない微笑を浮かべた瞬間に彼はもうフェルミーナに恋に落ちていた。彼もぎこちない微笑を浮かべ、ええと小さくつぶやいた。ドアを広く開けて彼女の通れる道を作った。ドアを押さえている間に彼女が悠人の横を通り過ぎると、過ぎ去ったいつかの夏の残像が脳裏をよぎった。それは林の中で木漏れ日を浴びて見上げたいつかの太陽だった。

フェルミーナの荷物は土色のショルダーバックと一冊の文庫本だけだった。その文庫本は左手に持っていた。ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』だった。天界では20世紀文学が再び流行になっていた。彼女はバックをソファの横に降ろして一冊の文庫本はベッドの横のナイトテーブルの上に置いた。

──今日はなにかのお祭りなのかしら?

──そうだよ。

──ずいぶんと盛り上がっているみたいね。

──今日は五百年前の魔術師が予言した神さまの降臨日なんだ。神さまは今夜、広場の欅の上に降り立つよ。そしてこの町の人々に幸福をもたらすだろうと思ってみんなが集まっているんだ。

──そう。

彼女はあまり興味のないような返事をして、──今日一日中何も食べてないの。もしよかったら何か食べ物を分けてもらえないかしら? と言った。彼は何も言わずに珈琲を沸かし、冷蔵庫にあるもので簡単なサンドウィッチを作り始めた。

──あなたは外の人たちみたいに広場に行かないの?

彼女はソファに座っていれたての珈琲を飲み、冷蔵庫で冷えていた具材のサンドウィッチを頬張っていた。

──僕はいいんだ。

彼は自分のマグカップに入れた珈琲を片手に窓際に立ったまま、彼女の姿を眺めていた。神の降臨について興味は無いわけではないが町の人々の前に出ることをすこし恐れていたのだ。

──五百年前の魔術師っていうのは実は昔にこの土地を支配していた一族の姫様のことなんだ。だから五百年前の魔術師と言うより、五百年前にここに生きていた姫様は魔術のようなものが使えたと言ったほうが正しいのかもしれないね。

─そう。彼女はまた興味のなさそうな返事をして、部屋の中をきょろきょろと見回していた。あなたは絵描きなの?

──売れない絵描きさ。

──でもとても興味深い絵を描いているわ。彼女は姿見鏡の横にあった、金の錆びた額縁に入った真っ黒な円形を指してたずねた。これは何を描いてあるの?

彼は少し恥ずかしそうに、──水の入ったグラスだよと小さく呟いた。

彼女はしばらく真っ黒な円形であるグラスの絵を眺めた。

──やっぱり興味深いわ。

──そうかな。

──ええ、これは事物の存在そのものを捉えようとでもしているの?

彼はどきりとした。この絵を見て彼自身が意図しているものを言い当てた人などいままで誰一人として会ったことがなかったのだ。

──努力はしているんだけどね。

──面白い発想だと思うわ。彼女はじっと真っ黒なグラスの絵を眺めていた。ぜひ展覧会へ出してみるべきよ。

──ありがとう。

窓際に寄りかかったまま彼は静かに微笑を浮かべた。今回のはあまりぎこちなくはなかった。

彼女も微笑を返した。これもやはりぎこちなさを感じさせなかった。

長い夜が明けて二人はベッドの上で目を覚ました。人のいなくなった朝の路上の一面には昨日のゴミが巻き散らかされてあった。

 

フェルミーナと一緒に暮らすようになってから悠人は色々と不可思議な事象に直面することがあった。

彼女は鳥と話す事が出来た。窓際に寄りかかって北からやって来た渡り鳥から各地の戦争や紛争の状況を訊いたり、美しい異国の歌を一緒に歌っていた。もちろん彼女は幽霊や町の精霊たちとも会話をすることが出来た。彼女の触れた植物は急に成長が早くなった。そして彼が一番興味深かったのは、彼女がくしゃみをする二十秒前から町中のろうそくやガス灯の炎がゆらゆらと揺れることだった。

彼の友達はフェルミーナを少し気味悪がっていたが、彼女の独特の性格や語り口が彼らを惹きつけた。彼女の性格は一枚の大きな分厚いガラスのようで、何に対しても──そう、ええ、と答えていたが、絶対に自分の主張は曲げなかった。

フェルミーナと出会って三ヶ月目の金曜日の夜、地方回りでこの町にやって来たサーカス団を彼女と彼の仲間たちとで観に行った。町の周縁に広がる野原には大きなテントが張られ大きなバルーンが昼のうちから上がっていた。夜になるとテントの回りは灯りが点って、三千人の人間を喰ったと言われる人食い虎や、人と話の出来る真っ白なインコ、野生のオオカミに育てられた少女などが堅牢な檻の中に入れられてサーカスを見に来る客たちを待ち受けていた。あたりには色とりどりの花火が打ち上がり、火薬を扱う中国の曲芸師がテントの屋根に張り巡らした爆竹を一斉に爆破してサーカスの開演を群衆に伝えていた。爆竹の音は壁や二百年前に作られた石畳の地面を伝って、町中に響きわたっていった。四本足の女やこびと、ライオンと人間とのハーフを見ようと町の人々は次々とサーカス小屋に入っていった。実際このサーカス団は政府が秘密裏に招致したのだった。軍事独裁政権と国際機関から批判されているが、国民にはけっして今の状態も悪くはないのだと大統領はアッピールしたかったのだ。

フェルミーナと彼の仲間たちは舞台を円形に囲むようにできた観客席の後ろのほうに座って、いくつものスポットライトを浴びた舞台というか広い砂場を見下ろしていた。中央の舞台では4人のこびとたちが何やら滑稽なことをやって観客を笑わしていた。

やはり悠人は舞台で繰り広げられる光景をどこか遠い銀河系のどこかの惑星で行われているサーカスを見ているような気持ちで眺めていた。サーカス小屋の外にはやはり真っ白な砂漠が広がっていて、所々に佇む真っ白なひょろひょろの老木の上には真っ黒な無辺の宇宙が広がっているのだった。

フェルミーナは悠人の隣に座って静かにこびとたちのパフォーマンスをながめていた。周りの人々の感嘆や笑い声が響いている中での彼女の静けさはまるで彼女がこことは違う別の場所にいるような印象を悠人に与えた。そしてそれがまた彼女を魅力的にしていた。

楽しくないのかい? と彼は言いかけたが言いとどまって、何か彼女のお気に召すような気の利いたことを考えた。が、彼女がいいえ、楽しいわとまるで彼の心を読んだかのようにぽつりと呟いた。

──今までサーカスなんて観たことなかったから。

たしかにそうだった。天界でサーカスは上演されたことはなかった。神々の週末になると天界の映画館や劇場などが開かれたがサーカスだけは開かれなかった。天界の人々のなかにサーカスの団員をやりたいひとなど一人もいなかったからだ。

サーカスが終わって悠人とフェルミーナは仲間たちと別れた。仲間達はこのあと売春宿に転がり込んで一人一人が違う個室に入ってそれぞれが春を買っていった。しかし彼ら頭の中にはフェルミーナの印象が剥がれ落ちなかった。女たちは不機嫌になって行為を荒っぽく行ったが、それでも男たちの頭の中からフェルミーナを拭うことは出来なかった。翌朝になってようやく夢からさめたかのように彼女の残像は消えていた。だが彼らはフェルミーナを忘れる事が出来なかった。悠人の仲間たちがあの後、売春宿になだれ込んだのをフェルミーナは彼女の友達であった街灯に留まった夜鷹に聞いて彼女はクスクスと笑っていた。ちょうど男たちが宿で女たちを選んでいるころに悠人とフェルミーナは町の広場を散歩していた。

三ヶ月前の騒々しさとはまったく違って広場には彼らの他には誰もいなかった。二百年間の間徐々に摩滅していった石畳は夜露に濡れてガス灯の光をぼんやりと照らし返していた。欅の木は広場の真ん中で忘れられた幸福な王子のようにひっそりと闇に埋もれていた。欅の横の水が涸れた100年前の噴水にフェルミーナは腰を下ろした。大理石でできた古い噴水も夜露で濡れていた。

彼女はまだサーカスの熱をまだ帯びていた。中国の曲芸師が持ち前の爆竹による閉会の合図の後には誰もいなくなった。誰もいないサーカス会場には煙草の煙だけが漂っていた。

二ヶ月前から彼女は煙草を吸うようになっていた。何度か彼と町の酒場で酒を飲んだあとに──どうりで神さまたちが禁止させるのかよくわかったわ、と言って彼のベッドに座って煙草をふかしていた。

フェルミーナの横に座った悠人の上には数日前に神が降り立ったはずの欅の枝が覆い被さっていた。その枝先はどこから夜空になっているか分からないくらい闇に溶け込んでいた。

──君は以前、この町にいたんだろう?

──ええ、ずっと昔の話よ。

──ならこの欅の木の下で心中した若い戦士と姫君の話は知っているかい?

──少しはね。

彼女は煙草を吸いながら答えた。その煙はまるで堕落した天使のようにあたりに辺りに漂っていた。

──短刀をお互い相手に刺しあった話でしょう?

──そう。でも実は僕はこの話について一つ疑問があるんだ。

──二人について?

──いや、そうじゃない。ただ単に誰がこの物語を語り始めたのかが気になるんだ。あの合戦の時、里見軍は完全に滅ぼされたんだ。そしてその後、里見氏が支配していたこの土地は北条氏の支配地になったんだよ。そうするとこの二人の物語は彼らの死体を見た北条氏の兵士たちによって語り継がれたと考えられるんじゃないかな。

彼女は大きく煙を吐いて言った。──それがなんだって言うの?

──もしこの二人の物語を北条氏が語り始めたとすると、もしかしたら僕らは知っているこの里見氏の物語は、全て北条氏によって作りあげられたものだという一つの疑惑が生まれることをすこし興味深いなと思っただけなんだ。もしかしたらこれらの物語がすべて北条氏が作ったでたらめかも知れない。

──そう。

それから二人は黙っていた。フェルミーナは自分の興味の無い話になると全く感心がなくなるのが悪い癖だった。実際彼女の興味のあることは本と芸術と映画だけだった。それは天界では一般的な趣味であった。

里見の姫君が魔術のようなものを使えたことは前にも述べたが、三ヶ月前に町の広場に神が降り立つのを予言したのも彼女だった。北上氏は占領した里見城を千葉への征服としての第一拠点とした時に、姫君の離れ──そこにはあたり五百メートルから草木が一本も生えていないのですぐに分かるだろう─には彼女の日記のようなものが残されていた。いやそれは見方を変えると一つの長い遺書ともとれるだろうか。そこには幼い頃からの日々の出来事が書いてあったが、その大半は彼女が恋をした若い兵士のことだった。その文章に切れ目のない長い美しい文章にはまるで自分が死ぬことを分かっていたかのように、人生の振り返りと、あの神の降り立つ予言が残されていた。

なぜ、この五百年前の姫君の予言を町の人々は信じていたのか。それは彼女が書いた他の予言が奇跡かのように当たっていたからだった。黒船の到来、二度の大戦、そして今や町の人々は誰もが他人のようにふるまうだろうと予言していたのだ。姫君は神の生まれ変わりだったと皆は噂していたが、確かにそれは事実であった。フェルミーナも同じ神の生まれ変わりだったということは誰も知るものはいなかった。

 

彼の父親が生きている頃には多くの客が悠人たちの家を訪ねたが、父が死んだ後はたった三人の客だけが家のドアを叩いた。一人は画商であるラムゼイ、もう一人はのっぽの郵便配達夫、そしてもう一人が彼の友人であるウルヴィーノだった。父の知人である人々は父が大統領邸前の襲撃後は彼の父と関係があったと知られるのを恐れぷっつり来なくなったが、ウルヴィーノだけは別だった。齢はすでに悠人の三倍以上あったが、彼だけがたまにやってくる嫌みな画商よりも彼の描いた絵画を賞賛していた。ウルヴィーノの家は大きな暖炉があり冬になると彼の一家はその前に集まって暖をとるのだが、その隣には額縁に入った丸いぐちゃぐちゃした黒い物体の絵画が飾ってあった。

襲撃の時、父親秋久に武器の援助をしたのは彼だった。彼には父と同じ野望があった。前の大戦で我が国が無条件降伏を受け入れる事を阻止し戦いを続けるために悠人の父が実力行使で大統領邸に突っ込んでゆくのに対して大いに賛成だったのだ。

ウルヴィーノは秋久の最後をよく覚えていた。襲撃前日の夜に、秋久の家には若い陸軍の将校の全員が革命を起こすことを願って集結した。敵国の言いなりになるのだけは死んでも嫌だと思う連中しかあの場にはいなかった。

その次の日の昼間には大統領邸前で銃撃戦が始まり、彼らの仲間はほとんど殺され、結局誰一人として邸の中にいる大統領に会った者などいなかった。ウルヴィーノが秋久の最期を見たのは、ちょうどテレビで中継が始まった頃で、実際に戦闘に参加しなかった彼は、自宅のテレビから所々で聞こえる銃声と共に彼の仲間達が大統領邸前の林に身を隠しながら少しづつ進んでゆく姿を映していた頃だった。ウルヴィーノはテレビにかじりついていた。画面から目が離せなかった。左手に持ったコーヒーカップは静かに揺れていた。そして彼らのいる林の上に軍のミサイルが落ちる十秒前にテレビのマイクは秋久の叫ぶ声をとらえていた。

──今に見ていろ! この国は狂気沙汰に手を出し始めるぞ!

そしてこうも言っていたのをウルヴィーノは聞いた。

──武器をとれ! 間違ったことを俺たちが直すんだ!!

その音声が聞こえた瞬間に画面は砂嵐に変わった。軍のミサイルがテレビ局のカメラマンごと大統領邸前の林をまるごと吹き飛ばしたのだった。国の真ん中にある大統領邸前からは黒い煙がその日一日中上がっていたが、ミサイルについては政府によって強引に隠蔽されたのだった。

秋久の死が犬死にだったのかは考え方によって変わるものだった。現代の生活に馴染んだ人々にとっては戦争を続行するなんて今では正気ではないことを支持しているのだから、全く理解できない思想を持った人間の無意味な死であったが、彼の死の十秒前の言葉が頭に響いて離れない人々には素晴らしい希望を与えていたのだった。

夜な夜な町を徘徊する亡霊たちからフェルミーナもその事件のことを聞いていた。風の強い夜は林で死んだ亡者たちの叫び声が町中を駆け回っていた。

そうして秋久の死から六年目の秋の夜に悠人の部屋のドアを叩く者が現れたのだった。悠人が扉を開けるとそこにはウルヴィーノと五人の男たちが立っていた。ウルヴィーノはにやりと笑った。

──武器をとれ。革命を起こすぞ。

 

我が国が他国から独裁政治だと批判されていることは国民のほとんどが知っていた。連合軍がこの国を統治した後、この国の政権は陸軍大佐に受け渡されたが、それは現代の政治形態の仮面をつけた軍事独裁政権であった。彼らはむやみやたらと軍隊の関係者に褒美を与え、むやみに多くの人を処刑した。処刑の方法は簡単だった。まず罪人の手足を縛り空中に浮かせる。そこへ処刑人が大きな刀で体を腰から真っ二つにするのだった。町の広場で行われると公開処刑を何遍も見てきたウルヴィーノは真っ二つになった体が斬られてもなおまだまだぴくぴくと動いているのをよく見たものだった。

一番すごかったのは、冤罪で捕まった役人の処刑だった。彼の体は斬られた後も下半身はロープを自力でほどいてどこか走って行ってしまった。

いや、一番すごかったのはウルヴィーノの場合と言って良いだろう。彼の公開処刑の時には広場に人が入りきらないほど詰まった群衆の目の前に、彼は縄に縛られ空中で大の字になっていた。悠人は彼の姿を間近で見ていた。顔が真っ青になったウルヴィーノは下向きにされていて、太陽の光のせいで詳しいところまでは見ることが出来なかったが静かに目を閉じていた。辺りは言葉の嵐と言ってよかった。周りにいる大勢の人々がまた違う人たちに話しかけていた。しかし、大きな鉄の刀を持った処刑人が処刑台に立つと辺りは水を打ったかのように静まり返った。群青の空に浮かぶ大きな雲はどんどんと形を変えていった。

思えばこうなったのも悠人のせいであった。革命家の息子であった悠人が武器を持った五人の男たちとウルヴィーノを追い返したせいでこうなったのだ。

もしもう一度大統領邸を襲撃するのだったらやはり秋久の息子である悠人を必ず加えるべきだ、とウルヴィーノは激しい口調で言った。

──我々で大統領邸を占拠して新しい政治を行わなければならない。

──それはだめだ。と彼は言った。自分は絵描きであって政治的行動に出るつもりなどない。ましてや武力を使うことなど決して許されないことだよ。二人は長い口論になったが、俺は父親とは違うという発言が決め手となった。ウルヴィーノとその五人の仲間たちは入った時と同じドアから出て行った。フェルミーナは二人の会話に感心が無さそうにずっとベッドに座ってヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を読んでいた。神である彼女にとってこれから何が起きるのか知っていた。だから二人の喧嘩に興味は無かった。

ウルヴィーノの処刑のどこがすごかったのか。それは彼の真っ二つにされた上半身が死してなお一分間の演説をしたことだったのだ。手だけ紐で吊されて万歳をしたままの格好で彼の上半身は何度も繰り返して言っていた。臓物は地面に流れ落ちていった。

──武器をとれ! 間違ったこの国を我々が直すんだ! この間違った国を俺たちが作り直すのだ!

ここまで聞くと、父が死んでちょうど六年後であるウルヴィーノの処刑の夜に悠人が武器を取ったことは誰もが納得できるのではないだろうか。

 

戦いはもはや一方的なものだった。悠人とフェルミーナを含む十人の若者たちはウルヴィーノが指揮していた反体制活動集団の所有する武器を全て体に装備して、明け方からの大統領邸への襲撃を開始した。

もちろん政府側も活動家の親玉であるウルヴィーノを処刑した後になんらかの事件や暴動が起きることを予測していたのだが、国家として守らなくてはならない重要な拠点がいくつもあり、その全てに機動隊を回してしまったのが結果的に大統領邸前の警備が手薄になってしまった。こういった対処は政府側の失態であると翌日のニュースキャスターや新聞は指摘していた。

歴史というものは何度も何度も繰り返すものなのか、と悠人は六年前にミサイルで焼かれもう一度植林して復元された大統領邸前の林に身を隠しながら感慨に耽った。彼は今ほど父と自分を重ねたことはなかった。六年前の父の事件を知った時、彼には全く理解が出来なかったが、今こうしてみると父の秋久も彼と同じく、誰か大切な存在を失った激情が彼を奮い立たせたのではないかと感じるようになった。

──旗を掲げてくれ。

林の陰に隠れて悠人が仲間たちに呼びかけた。ゆっくりと灌木の中から大きな一枚の旗が立ち上がった。そこに描かれているのは真っ白な生地の上に黒いぐちゃぐちゃした円形だった。それが何を表しているのか分かった者は多分世界中でそこにいた勇敢な十人の若者たちだけだろう。それは『永遠の正義』を表していたのだった。

太陽が昇りきったころには彼らはすでに大統領邸を制圧していた。国の象徴であるその建物は著名な西欧の近代建築家によって設計されていた国で一番近代的な建物であった。その真っ白の外壁にはおびただしいほどの銃痕がついていた。二階建てのこの邸内で各自が窓際に机などでバリケードを作り、外の様を確認していた。

──奴ら、完全にこの建物を包囲してきたな。

二階の偵察をしていた一人が悠人に伝えた。

──このままだとここに突撃してくるのも時間の問題だよ。

フェルミーナは一階の中央にある大きなスクリーンにテレビ番組を映していたがまだどの局でも彼らの事件を報道している局は無かった。

──多分国がまだ情報規制をしているのだろう。まあそれも時間の問題だ。あと二時間もすれば国中のメディアが僕たちのことを伝えるだろうよ。

──どうする? こっちから先に攻撃するか?

一階の大統領が大きなソファに座る悠人を仲間達は見た。

──いや、攻撃はまだだ。多分じりじりと奴らはこの建物も近づいてくるだろうが、近づいてくると分からない時点での攻撃は無しだ。それよりまずどこかに拡声器があっただろう? それで外に僕らの考えを伝えることが先だ。

仲間たちは頷いて自分たちの持ち場についた。

──ヘリの音が聞こえる。

フェルミーナは段々大きくなるバタバタという音を聞いた。

彼女にとってヘリの音を聞くのは生まれて初めてだった。

──まず政府に政権を変えることを要請するんだ。そしてそれが駄目ならここにある国際電話を使って各国の首相や大統領を呼んで僕たちはこの国から引き揚げるんだ。僕たちのやろうとしていることは革命なんだよ。この恐ろしい我が国を変えていくんだ。

──そうね。と彼女はテレビを見ながら言った。でもそれうまくいくかしら?

──うまくいかなかったらそれまでの話さ。この国はこれからも何も変わらないだろう。

──本当にそうかしら? 物事は何でも時代によって変わって行くわ。それがどんなに先のことであっても。

──そうかもしれない。でもいつかは変わるために僕たちがやることでその変化が少しでも早くなったりするかもしれないだろ?

──そうね。私の役目はあなたたちを最期まで見届けることだわ。それを私も精一杯やってみる。

その時、一発の銃声が響き渡った。そしてその一秒後には何千という銃声が土砂降りのように響き渡った。

──やったぞ! 一人倒した!

上から降りてきた金髪の若者が踊りながら叫んだ。

──奴らの一人が走ってこっちに向かってきたから首の付け根に一発ぶちこんでやった。そしたらあいつその場に仰向けに倒れて動かないんだ!

──それでその報復攻撃が続いてるってわけね。

フェルミーナは耳を押さえたまま言った。

──連中、そうとう怒っているな。

銃撃の嵐はその後三十分は止まなかった。その時になってようやくテレビでは大統領邸が映し出され、テロリストが立て籠もっていることを報道し始めた。辺りには硝煙が濃霧のように立ちこめ、残酷な9月の太陽はそれをすかすように建物を照らしていた。第一にその報道を流したテレビ局はその年のナンバーワン視聴率をたたき出した。

──奴らが近づきすぎる前に手榴弾を使え!

悠人は大声で叫んだ。

その十秒間無音の状態が続いた痕に大きな爆発音とともに林の奥から大きな黒い煙があがったのを悠人は見た。

──上々だぞ! 一階の窓際に隠れて男が言った。林から何人か走ってきた奴らは僕たちが手榴弾を持っていることが分かって一気に林の中に退っていったよ。やつらも俺たちが手榴弾を持っていることに警戒して、これから少しは平和な時間が続きそうだな。

──今のうちに壊れたバリケードを直しといたほうがいい。あと朝食も出来れば食べたいところだな。

 

朝食はフェルミーナが邸内にあった食料をサンドウィッチにして見張り番の男たちに届けていった。彼らはそれを左手で食べながらバリケードを覗いた。悠人は椅子に座っていた。かれはひたすら自分たちの旗を眺めていた。

彼らの大統領邸占拠が終わってから専門家たちから、あの籠城戦を始めた時点で彼らの敗北は決まっていたというのが最もな意見だった。彼らの勇敢かつ野蛮なテロリズムは美しい物語として後生に伝えられた。昼間のうち二度の軍隊からの攻撃に耐え、決して誰一人邸内にいれることは無かった。そして邸内から誰一人生きて出ることは無かった。

機動隊の3度目の攻撃はその夜の午前三時というのが政府の公式の記録として残っている。彼らは夜襲に驚いたテロリストたちをほとんど撃ち殺し、明け方には大統領邸を制圧していた。催涙弾の霧が明け方の江戸川の上流の方から流れてくる朝靄と混じり合った中、赤く輝く十月の太陽が大統領邸をすべて照らし出していた。強い風が吹いて、硝煙と催涙ガスと朝靄の混じったねっとりとした霧を払い、邸宅の全貌を町の人々は確認する事が出来た。かつて真っ白だったこの国の中で一番近代的な建物は無残にも蜂の巣のように全体が穴だらけだった。弾痕や爆発の痕から差し込む朝日は真っ赤で邸内に赤い光線のように差し込んだ。塵や埃の舞う室内に残酷にも真っ赤な光線がテロリストたちの死体を所々で照らしていた。邸内からは何の音も聞こえなかった。動く者も誰もいなかった。全ての時間が止まっているようだった。十人のテロリストの内、二人にとって室内にさしこむ線状の朝日は天国への誘いと感じたのではないだろうか。もちろんその二人とはフェルミーナと悠人のことであった。彼らの遺体は邸内の中庭に転がっていた。その横には悠人が描いた『永遠の正義』を意味する黒いぐちゃぐちゃの円形を描いた旗が地面に突き刺してあった。正義の旗の下に彼らは一つになっていた。悠人の左手に握られた短刀はフェルミーナの胸に刺さっていた。フェルミーナの左手に握られていた短刀は悠人の胸に深く突き刺さっていた。朝焼けと共に邸内に入った機動隊員はその姿に感動していた。それがあまりにも美しかったからだ。政府は彼ら二人の死に際をマスコミに報道した。町中の人々は二人の美しい物語を頭の中で想像したが、誰一人として彼らの上になびく旗の意味のわかる者はいなかった。

機動隊が大統領邸に入ってきた頃、悠人とフェルミーナは自分たちの死体を眺める隊員たちを天界から俯瞰していた。二人は自分たちの死体を見る隊員たちの反応を見てけたけたと笑っていた。

 

八人の仲間たちみな勇敢に戦い死んでいった。昼間の防衛の間にすでに半分の戦友たちの命は無かった。

──もはや時間の問題だな。

あたりは夕焼けが終わりかけていた。仲間の一人がバリケードの隙間から外を窺いつつ、呟いた。

稜線は地獄の業火のように赤く染まり、真上の夜空には半分に欠けた大きな月が全てを見守るようにかかっていた。大統領邸前の木木は闇の中にうずくまり、その中に何百ものライオットシールドがこちらに向けられていた。確かに五人だけでここを守り通すことは不可能だと誰もが思った。悠人は大統領が座るソファに座って自分のライフルに弾を込めていた。フェルミーナは武装した仲間たちの手当をしていた。彼女は何もかも受けていれていた。神である彼女にとって自分の運命がどうなるかなどこの世界に降り立った瞬間から知っていた。知っていたからこそ彼女はこの世界に与えられていた自分の役割を完璧に演じようとしていた。彼女は最期まで、つまり明け方『永遠の正義』の旗の下で死ぬまで自分の人生を受け入れていたのだ。

──確かにな。

銃弾の装填を終えて悠人は立ち上がって仲間たちを見た。彼らも悠人を見つめていた。催涙ガスが吹きだす音、その強烈な匂いと壁にぶつかる銃弾が混ざり合って竜巻のような轟音が鳴り響いていた。だが邸内に立てこもる彼らにとってそんな雑音などどうでもよかった。悠人は肩をすくめた。

──よく考えてみれば、永遠の正義ってのは成り立つはずがないんだよ。自分の思う正義だけがこの世にあるたった一つの正義ではないんだし、現に外の奴らは僕たちを国家の敵であり悪だと思って自分たちの正義を振りかざすんだ。正義と正義がぶつかる時、一体どちら本当の正義なのか。だがそんなの勝った方が正義になるんだ。

──つまり俺たちがここで死んだら俺たちの正義は無くなっちまうのかい?

ぼろぼろに破れた埃まみれの服装でライフルを片手に床に座り込んだ男が悠人の方を見つめた。

──そうかもしれない。違うかもしれない。

──どういう意味だい?

──なぜなら今話した正義は客観的な正義の話さ。誰も僕たちの中にある正義を変えることは出来ないはずだ。

──なるほど。男は静かにそう言った。「ならどうする?」

「決まっているだろう。僕たちは自分達の正義の旗の下で戦い続けるんだ」

「いつまでだい?」

「命が続くかぎりさ」

男たちはみな頷いて、傷ついたバリケードからこちらに押し寄せてくる機動隊に静かに銃口を構えた。

2015年11月13日公開

© 2015 Raymond

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