どうやって書いたらいいかまったくわからない、という方のために、私家版・小説の技法をお教えします。皆さんの中には「当り前じゃん」と思う方もいらっしゃるでしょうが、そこはどうかお付き合いください。

小説としての作品のよしあし以前に、やってはいけないことというのがいくつかあります。これをきちんと守らないと、特に普段から本に親しんでいる読者に「やっちゃった!」と思われてしまいます。

  1. 約物
  2. 文字の配置
  3. 誤字・表記ゆれ

また、日本語的・日本語表記的に問題がなかったとしても、書きなれていない人が陥りがちなミスにも言及しています。以下を参考にしてください。

  1. 会話体
  2. ルビ
  3. 登場人物の数
  4. 改行・行アキについて
  5. 結語、あるいは前言撤回

約物

カギカッコや句読点などの「字以外の記号」を総称して「やくもの」と呼びます。おそらく、ライターの仕事や正式な論文を執筆した経験のない方は、なじみもないため、正しい使い方がわからないのではないでしょうか。< 山カッコ>や《二重山カッコ》、〔亀甲カッコ〕などの使い分けはけっこういい加減ですが、それぞれ役割の違いがあります。

〈〉は横組文字用、《》は横組の作品名、引用文、カッコ内カッコ用。〔〕は引用文中に引用者の意見を入れるときなど。ここが参考になります。

もっともよく見るケースは?(疑問符)と!(感嘆符)のあとで一字空けをしていない場合。三点リーダー(…)とダッシュ(―)を一つしかつなげていないケースもよくあります。これは必ず二つ連続で続けることになっています。

この文では一字空けをしていませんが、それは約物である?と(が連続しているためです。

三点リーダーをナカグロ(・)が三つ続いたものだと思っている方も散見されますが、これは間違いです。三点リーダーは句点(。)を三つつなげて変換すると出てきます。これは全角一文字分ですが、ナカグロ三つだと、半角でも全角1.5になってしまいます。つまり、文字量が違うのです。ダッシュと長音(ー)、ハイフン(‐)も間違えやすいので注意してください。

詳しくは以下の書籍が参考になります。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください。

文字の配置

スペースで字間調整しない!

よく見られるのは、著者名や「続く」などの文言を下揃えにするためにスペースでインデント下げを行っているケースです。これは見かけ上は正しく見えますが、他のフォーマットに映した瞬間、場所が代わってしまいます。これに関しては、下図を参照してください。

スペースで配置を調整した場合

スペースでインデントを調整した場合

上記を他のレイアウトに移した場合

上記を他のレイアウトに移した場合

字下げ

また、改行後の1字サゲにも注意が必要です。Microsoft Wordなどのアプリケーションは、エンターを押すと自動で1字サゲになりますが、これは他のアプリケーションには反映されません。ツール→オプションなどで「改行後自動で1字アキにする」という機能をはずし、手動でスペースを挿入することが求められます。改行後に自分で一字サゲをする癖をつけないと、カギカッコでの会話文のあとが一字サゲになりません。Wordの自動一字サゲは前段落の設定が引き継がれるためです。

上図のような事態を避けるには、名前を原則上揃え(アプリケーションによっては「左揃え」と表示されます)で配置してください。『破滅派』編集部で配置換えをします。なお、Microsoft Wordを使っている方は、いまのところ「下揃え」でも構いません。

中央配置

同様によく見られるのは、文字の「中央配置」です。小題などをつける場合は、原則として、それより大きな範疇の題(タイトル・部など)より1字下げればOKです。タイトルは3字サゲなので、小題なら4字サゲ、という具合になります。

ちなみに、「中央配置」を小見出しに使うのは、新聞の小さな欄など、行アキが許されない環境が多いです。『破滅派』では行アキを奨励しているので、「中央配置」の必要はありません。

誤字・表記ゆれ

誤字・脱字に関しては、小説でなくとも論外。表記ゆれに関してはそれほど厳密にはやりませんが、同じページでコロコロ変わるのは素人っぽく見えてしまうので、なくすにこしたことはありません。

それまで「食う」と書いていたのに、途中から「喰う」に変わる、など。ワープロの変換ミスが原因となることが多いようです。

『破滅派』編集部でも気づいたときは修正しますが、基本的にはご自身の作品をご自身の責任範囲で修正してください。いったん公開した後でも直すことは可能です。

こうしたミスを防ぐための方法としては、「いったん印刷してみる」のが有効です。いくらPCが発達し、ディスプレイの解像度があがったとはいえ、一つの文章を網羅的に見る方法としては、まだ紙媒体に一日の長があります。一度紙に印刷し、赤で訂正しながら読んでいくことは、推敲作業において基本のキです。

また、友人などに読んでもらうのも一つの手です。他人の視点が入ることで、新たな発見があるやもしれませんし。

会話体

これは内容にかかわってくることなので、それほど求めるわけではありませんが、会話を多くすることは読みやすくするコツでもあります。以下を参照してください。

1.会話なし

私はバチ子に猫を拾ったという話をした。その猫の目が綺麗だと付け加えると、バチ子は少し対抗意識を燃やしたみたいだったけれど、やっぱり私は気が弱いから、そんな風に比較したことが悪かったのかな、などと気に病んでしまう。バチ子はとてもつまらなそうに見えた。もしかしたら、煙草を探しているのかもしれないと思い、私はさっき彼女をおとしめたことを詫びるような気持ちで、セーラムの箱を差し出した。そこから煙草を取る彼女の指はところどころささくれていて、なんだかそれが痛ましかった。

2. 会話あり

「私ね、こないだ猫拾ったの。すごい綺麗な目をしてるの」
「私より?」
「うん。バチ子も綺麗だけど、それよりもっと」
「ふうん」
バチ子はつまらなそうに呟くと、なにかを探すように視線を巡らせた。
「吸う?」
私はセーラムの箱を取り、差し出した。そこから煙草を一本抜いていくバチ子の指は、ところどころささくれていた。

以上の文章は、同一の場面ですが、語られている内容はほとんど一緒です。ただ、2は会話、1は地の文が主となっています。こうした違いについて、好みの差もあるでしょうが、左の方が多くの読者に受け入れられるというのはほとんど黄金律です。そもそもこの内容がつまらない、という批判は聞かないことにしておきましょう。

皆さんはテレビを見るでしょうか。最近、クイズのバツゲームなどで、「負けた人は料理を食べられない」というのがすごく多いですね。なんでこんなものが、と思う向きもあるでしょうが、あの場面は必ず視聴率が上がるらしいです。芸能人が「おいしい!」とか「口の中で融けた!」とか言っているのを沢山の人が見たがっていると思うのは、末恐ろしいことではありますが、これは統計的事実らしいです。

文章でも同じことが言えるでしょう。恐ろしいかな、会話が好きな人は絶対的に多いのです。創作上、なんとしても譲れないというのでなければ、会話を増やすことをオススメします。会話を多くすることの副産物として、結果的に余白が多くなります

また、単純に技術的問題として、内面描写の方が書きやすいため、慣れていないと内面描写ばかりツラツラしてしまうということもあります。物語の展開を内面描写にばかり託してしまうと、なんだか「昨日見た夢の話」を聞かされているような印象が生まれてしまいます。

小説を読み進めるためのモチベーションを語り手の独白にばかり託すのではなく、登場人物の会話や何気ない情景描写などに織り交ぜることは、古典的ですが、いまだ有効な技術です。

ルビ

ルビに関しては、少し扱いが難しくなります。無意味に難しい漢字は使わないにこしたことはないのですが、ルビはダブルミーニングを可能にする日本語表記法の財産であり、色々と面白い遊びができるツールでもあります。他人ひとというルビを振るなどはどうでもいい遊びですが、思わぬ発見もありうるため、一様に禁止はしません。

ただし、Wordなどのソフトを利用して描かれている場合、それを破滅派にコピペすると、ルビがカッコに置き換わってしまう場合があります。

他人ひと → 他人(ひと)

これはバージョンなどによって異なるので、不具合報告から詳細をいただけると助かります。

破滅派のエディタ上ではルビボタンを使ってルビを振ることができます。

登場人物の数

これはとても大きなお世話かもしれませんが、書きなれている方でないかぎり、登場人物の数はあまり増やさないほうがよいと思われます。というのも、はじめて登場した人物を書くのは楽であり、楽しいんです。

が、セレブなパーティー小説を書くのでないかぎり、いつまでも「新しい人物の登場」という展開でもたせるわけにもいかず、いつかその人物たちを展開させていかなければならなくなります。

以下は筆者の経験ですが、「思いつきで書いた」登場人物の場合、その後に活かすのが難しいです。展開が苦しくなると、新しいキャラを出すのは、『少年ジャンプ』で連載が終わりかけている漫画(後ろから3番目ぐらいのやつ)によくあるパターンです。

筆者は必ずしもキャラクター小説をよしとしませんが、無意味に登場人物を増やすぐらいなら、少ない人数をじっくり書いた方が今後のためになるでしょう。はじめて書かれる方は、3人、多くても5人以内にとどめておくのが吉です。

改行・行アキについて

上述したように、『破滅派』では改行・行アキを奨励してます。しかし、これは実のところ、諸刃の剣です。改行・行アキが奨励される理由が、『破滅派』がweb文芸誌であることによって発生した制約によることを忘れないでください。

下手クソなDJは、カットイン・カットアウトをよく使います。つながりとかを考えなくても済むからでしょう。1行アキ後に全然違う場面を展開する手法は、たしかにインパクトがあり、それはそれでいいのですが、皆さんの将来性を考えると、そればかりに頼らない方がよいでしょう。

改行してしまえばそれが目印となり、読者は「ああ、ここで大きく変わるんだな」とわかってくれますが、場面転換にもそれなりに技術はあります。安易に改行に頼っていると、「1行アキ→変なマークをつけて3行アキ→章をたくさん設ける→部をたくさん設ける→連作短編しか書けなくなる」というパターンに落ち入るので、気をつけてください。

結語と前言撤回

以上で小説の技法についての解説を終えます。

同人の皆さんは専業作家を目指す筆者にとってライバルですが、筆者は皆さんが素晴らしい作家となることを切に願っています。ここに挙げたことは一つの意見として受け止め、頭の片隅にでもおいていただければそれでもう充分です。

早い話が、「カッコの形なんざどうでもいいから、面白いのを待っている」の一語に尽きます。

ここまで読んでくれた皆さんはかなりのやる気があると見えます。すでにして免許皆伝とさえいいたいところです。ルールを守るのは以上で充分。あとは執筆に邁進してください。

最後に付け加えるとすれば、こうしたマニュアルをぶち破るほどの作品を物してほしいです。ルールはいつだって、破られることを待っています。

この記事は役に立ちましたか? 役に立った 役に立たなかった 4人中4人がこの記事は役に立ったと言っています。