この章ではハムレット論からジョイスの詩に対する思想などが大胆に開陳される。とても刺激的な対話形式になっている。ジョイスはイェイツに強く反発していたが、ここでは彼の話や、出版業者ジョージ・ロバーツなど彼の身近にいた人物たちについて会話が及ぶ場面もある。こういうことを知って読むと、小説とエッセイの曖昧さに考えが及ぶ。
さらに、グレゴリア聖歌の記譜まで挿入されるなど、この後に続く『フィネガンズ・ウェイク』のその実験性を思わせるような表記も。小説という創作形態をどこまでも拡張しようと試みたジョイスの筆が留まるところを知らなくなり始めた感じが窺える章だ。彼の支援者だったエズラ・パウンドでさえ、その先進性に戸惑ったいうエピソードが納得できる。
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