ついに今作の主人公となるレオパルド・ブルーム(ポールディー)が登場する。ここでは彼らブルーム家の朝食の場面が描かれる。まず丁寧な調理場面。妻のマリアン(モリー)のためにミスタ・ブルームがパンを焼きながら、紅茶を用意する。そこへ猫が――ムクニャオ――と現れる。ここでは前章の犬の描写と違い、愛に溢れた猫の描写が見られ、ジョイスは猫派なのだなと読者への印象を与える。ミスタ・ブルームは自身の朝食のために豚肉屋へ出かける。冒頭で――好んで獣や鳥の内臓を食べる。――という通り、豚の腎臓を買い求める。わたしはロンドンに居たことがあるが、そこでアイリッシュ・ブレックファストとしてアイリッシュの豚の血を固めたというソーセージ″Black Pudding″(ブラック・プディング)という名物を食べたことがある。本当にまずい。こんなものを食うのか、と恐れおののく。そういった彼らの生活風景をよく表している。
ミスタ・ブルームとモリーの間には娘ミリセント(ミリー)がいて、彼女からの手紙も挿入されている。一見、平和で純朴な家庭にも興行師のボイランからの妻宛への手紙、男の影が見える娘からのそっけない手紙によって不穏さが差し込まれる。そのミスタ・ブルームの不安は、最後の懸賞小説の応募を見て挿入される作中作で表される。そしてそれを書いた紙が、用を足した後の尻紙として使われるというところもアイロニーが効いている。
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