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六章 ハデス

ユリシーズを読む人々の肖像(第7話)

松尾模糊

二〇世紀文学の金字塔『ユリシーズ』を発刊一〇〇年経った今、読みながら綴る日常。

タグ: #ジョイス #ユリシーズ #書評

エセー

385文字

ジョイスは確かな手ごたえをもとにここで自身の父をモデルにしたサイモン・ディーダラスを登場させ、俯瞰的にディーダラスを彼ら父親の世代から眺める。読者としてはここで一挙に登場人物が増えて会話を始めるので、多少混乱するかもしれない。実際にわたしも読むのに苦労した。ブルームがこの親子を通して、自身の亡くなった息子を思い出し、自殺した父親を思い出す。非常に死という観念がまとわりついた暗い章。

 

それでも、ブルームは馬車から見える移ろう街並みの景色や人々を見ながら思い浮かんだことをどんどん語り続ける。そこにユーモアがあり、くすりと笑えるところにこの小説の凄さがあると感じる。“ユーモア”とは計算された笑いとは違う。ブルームはポケットに入れた石鹸に居心地の悪さを感じていて、どこで石鹸をポケットから移動するか、考え続けている。この“ずれ”のような思考が人々を笑いに誘う。

© 2022 松尾模糊 ( 2022年12月26日公開

作品集『ユリシーズを読む人々の肖像』第7話 (全14話)

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