単純なミステリ脳で考えると、「良き協力者」である昇くらいしか犯人候補が残っていない。
昇といえば、妹がおり、その引きこもった原因と関係して怪談話を収集しているとの言動がある。この妹というのはこっくりさんの話に関係する「河合季里子」ではないか。昇と名字が違うのはその後両親が離婚しただとかの理由はつけられる。主人公と同じように昇もまた本当に人が死ぬようなオカルトがないか探しているのだ。そして見つけたときにはそれを試してみるつもりなのである。主人公と別れるきっかけとなった喧嘩はこのあたりが絡んでいるのだろう。
昇は主人公の行動を把握しており機会がある。動機も上記の事情を絡めることができる。犯人候補としては申し分ない。
なんだけど、それではありがちすぎて大賞は獲れないだろう。ちなみに、弁護士の松浦は一弁護士にしてはコネがありすぎてうさんくさいが、これは創作の範疇だろう。なので犯人からは除外した。
この横溝正史ミステリ&ホラー大賞というのは別々だったミステリの賞とホラーの賞とが統合されたとのことであり、なかなかの暴挙だと思うのだけど、それにふさわしそうな筋で考えてみる。
気になったのは、主人公が怪談師を名乗ってあちこちで講演しているが、その怪談ネタは創作ではなく実際に全国各地から収集しているという点。また、話に取り上げたことで実際の人たちに迷惑をかけたことがあるという点だ。カナも実はそんな一人であったわけだ。
こうした視点から展開してみると、今回の一連の事件は利用してきた心霊話に主人公が復讐されるというものではないだろうか。もちろん、話自体に魂が宿って――となると完全にミステリでは無くなってしまうわけで、迷惑をかけられた人々が主人公に対する復讐のために新たな怪談話をでっちあげた、「虚魚」の話それ自体がこのための「虚」であった、というものではないか? この復讐計画によって主人公は現場におびき出されてこれまで曖昧なスタンスで接してきた怪談話で怖い思いをすることになる。「この復讐計画」といったが、これといった主犯がいない、ゆるやかな共犯関係というべきもので、関わった皆が悪ノリでやっていくうちに全体としてエスカレートしてしまったというものではないだろうか。
ちょっとした恐怖とアクションを盛り込むために、最後にとりわけヤバイ一人が直接襲ってきたりするかもしれないが、そこは本質ではない。一人一人はそこまで強い意識で企んでいないのだけど、大勢が集まってしまったがゆえに大がかりな策謀じみたことになってしまう。話が一人歩きしてしまう。そういったインターネット時代の今日的な犯行という特徴を兼ね備えてたものではないかと思えるのだ(というか、僕はそういう話を書きたいと思っている)。
"ミステリとホラーは食い合わせが悪い"へのコメント 0件