まちあわせ

多宇加世詩集(第15話)

多宇加世

583文字

やっぱりお薬手帳より預金通帳のほうがモテるんだなんて

駅前で出会ったのが君ではなかったので、お薬手帳は悩みました。ああ、僕は君に会わなきゃいけないのに、どうして君以外の人の処方箋と一緒に薬剤師さんに渡されてしまうんだろう。お薬手帳は泣きました。すごくすごく泣いたので、薬局のカウンターのはしにいた折り紙の熊が一緒になって泣いてあげましたが、お薬手帳はそれがとても気に障って熊を殴ってしまったので、逮捕されてしまいました。

君に会いに行けなくなりました。預金通帳が酔っ払った君をアパートにお持ち帰りして、体をまさぐって服を脱がせて、それで……、というのをお薬手帳が聞いたのはもう数年経ったあとのことでした。娑婆に出てから君と共通の友人から聞きました。君と預金通帳はそのまま結婚して子供を育てていました、その頃はもう。そしてある時、君とお薬手帳は町でばったり会ったのでした。町のバザーで、でした。お薬手帳は前科持ち、君は子持ちです。でもそのままフリンすることもなくお薬手帳と君は二言、三言、会話だけして、別れました、二度と会いませんでした。

 

私はそれ、その話、子供の連絡帳さんから聞いたんだけど、

「やっぱりお薬手帳より預金通帳のほうがモテるんだ、しょせん金だ、健康よりも」

なんて、お薬手帳くんはそんなふうには、くさくさしていなかったみたい。私もお金が目当てだったわけじゃないよ。ばいばいお薬手帳くん。私、いま幸せよ。

2019年10月26日公開

作品集『多宇加世詩集』第15話 (全18話)

© 2019 多宇加世

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