本屋に住む

早朝学植物誌(第5話)

多宇加世

小説

1,876文字

読み切り掌編作品。子供の頃考えていた結婚について、大人の自分がふと思い出したことを書いてみました。

ポエトリーリーディングをやるような小さな本屋の店長である女性と恋に落ちた。僕たちはとても情熱的な愛でお互いを想像したので、そこには二人以外の誰も、何も、立ち入れなかった。立ち入れさせたくなかった。だからまずは店として使っていた建物の土間に置いてあるウォルナットの本棚をすべて隅のほうへやった。それと同時か、そのあとすぐに、今度は常連客の座るウォルナットの長机と椅子と、常連客そのものを店から追いやった。なぜなら、その店を、僕たちの愛の住処にするつもりだったからだ。

常連客の、神経質な眼鏡の痩せ男は言った、

「こんなところ、二度と来るか。商売もしなくなって、俺達を追い出して、それでまともな暮らしなんぞできるわけがない」

だが僕たちは聞く耳を持たなかった。店の奥は便所と、倉庫と、簡単な洗面台があった。僕たちは倉庫と手前の土間を部屋にリフォームするつもりだった。便所の隣に、風呂場も作る計画だった。ゲジゲジがたくさん出るので、熱湯で殺すため、水を使うようなところにはうってつけだったからだ。洗面台は調理場とした。

倉庫と土間を住居に改造するにあたって、僕は僕の父に依頼をすることにした。父は大工だったからだ。風呂場は自分たちでやると僕たちは言った。タイルを貼っていけばよいのだろう。全部のリフォームを父に頼まなかったのは、父は僕らの結婚に反対の姿勢を示していたからだ。

父は部屋の改築は承諾したが、僕たちが自身の手で風呂場を作ることに関してはいい顔をせず、こう言った、

2019年11月20日公開

作品集『早朝学植物誌』第5話 (全10話)

早朝学植物誌

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© 2019 多宇加世

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