ひゃくまんべん

徳丸雅士

946文字

ほとばしる言葉の勢いに乗って、ぼくは君に会いに行く。自由詩。

潮の匂い。ドーナツ食べに。海岸線。小波揺れて日を反し。窓閉めて、気分が悪くなるから。優美な火山は煙を吐いて。黄色の電車に追い越され。切り裂くこと無く、旅情無く。硫黄の匂いが鼻を衝き。あと、十分くらいで着くから。パチンコ屋の前を右に折れた。フェリー乗り場と君の家と日に焼けた皺と染だらけの黒い手の老父と老女が眠っている墓の前を通り過ぎ。鳶がくるりと輪を描いて。トンネル抜けて、旧市街地に入る。もう、窓開けていいよ。細く白い少女の腕は夏が終わる頃には小麦色に変わり、剥落をつづける空はもう戻せない。初めての街で昔の君に出会って、坂の途中で乳母車を押した妊婦とすれ違い、浜辺に打ち上げられた全てのものを手に取り、また同じ場所に返した。UFOと三人の少年と大きな木と風の音が聞こえるまで日が沈むまで。堤防にて。何も語らずともただそこに在り、そこに居るだけでよかった。鰯の頭シンクに三つ転がって。手の平臓物だらけ。もう春だね。金髪の老娼婦は最後の客を見送り、初めての朝に赤ん坊は目を開け、農夫は土を耕し、苗を植え、水をやり、坊主頭の祖母は病室で息を引き取った。君の笑顔。誰の顔だったか。街灯には蛾が三匹か四匹。鱗粉は舞い上がり、街と月を包み込んだ。玉砂利を踏む音と、女と男の話し声と、遠くのサイレンと、漆黒の川面と、蛍光灯と、君の言葉と体と、赤いテールランプと、僕の脳味噌と、生温い風と、隣の家から聞こえてくるピアノのおぼつかない音と、背中の傷と、星と。紫煙のように漂い混ざり合って、夜空に定着してしまった。いくつかの眼球は幽かな光りを放っていた。ねえ、まだ起きてる。鍵は開けたまま、二つの橋を渡り、商店街を抜け、暗い森に入り、高速道路に乗り、湖まで。喫茶店で一服して、川沿いを南に、友人宅を訪れ金を返して、厚い扉を開けた。私鉄に乗り、知らない街のいつもの夕暮れ。街を過ぎ、畑を過ぎ、また街に入り、何百日目かの日が沈んでいく。女の髪に夜の風が触れ、火照った体を冷ますように。右の顔に西日が当たり、左の顔は翳っている。雲が流れ、色を変え、見届けたかった。空の行方を。見届けたかった。女の行方を。

三つの窓から春の風が吹き込み、少年たちの笑い声、鳩の鳴き声。ハイライトに火を着けたとき、君はまだ寝ていた。

2007年4月1日公開

© 2007 徳丸雅士

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