ディビジョン/ゼロ(3)

ディビジョン/ゼロ(第3話)

波野發作

小説

1,265文字

会社に行くのをやめた。もっと早くこうすればよかった。

〈3〉

 

土曜日は何もなかった。誰も来なかった。

社宅から出ないでカップラーメンをすすった。

夕食はペヤングを食べた。

 

日曜日になってメールボックスを見た。

スパムしか来ていなかった。

大富豪の未亡人とかいうのが、遺産をぼくに渡したいからすぐに連絡をくれと言ってきた。

 

月曜日になった。退職届が会社に届く前に出社するか考えたけれど、靴は履かなかった。

午後になった頃に、事務員から電話がきた。三十代の女だ。

会社辞めるのかというので、そうだと答えた。事務員は明日また電話すると言って切った。

 

締め切りに追われない開放感は、ぼくを少しずつほぐしていく。

ほぐれてくると少し不安も沸いてくる。

ここは社宅だ。いつまでもいるわけにはいかない。引っ越しにはいくらかかるだろうか。

 

口座にはそれほど金が残っているわけではなかった。

家賃を払わなくてよかったが、収入が多い訳でもなかったから、そんなに貯めてもいなかった。

実家からこの社宅に出てきて、自分では何もしなかったので、何も知らなかった。

 

とりあえずネットで調べてみた。家賃5万円ぐらいなら払えるだろうか。

部屋を借りるには、礼金と敷金と仲介手数料というのがあることがわかった。

他に、保険料とかかかるらしい。退職金とかあるのかなと思った。明日聞いてみよう。

 

礼金というのはなんだろう。大家に払う金らしい。家賃だけじゃだめなのか。

敷金というのは保証金のようなもので、退去時には返ってくると書いてあった。

一方で、なんだかんだと難癖をつけて返さないことがあるとも書いてあった。

 

仲介手数料というのは不動産屋が受け取る金らしい。

一人引っ越すごとに一ヶ月分が入ってくるということだが、あまり儲かるようにも思えない。

引っ越しなんて誰でもしょっちゅうやることじゃないだろうし。

 

困ったことと言えば、不動産屋に行っても、その日にどこかに住めるわけではないらしいことだ。

ホテルみたいに申し込めばすぐに引っ越せるのかと思っていた。

この部屋にはいつまでいられるんだろう。

 

ネットで探してみると、5万円以下でも部屋を都心に借りられることがわかった。

でもどれもボロくて古くて住む気にはなれなかった。

遠くでマシな部屋に住むか、近くでボロいか。そもそも職場はどうなるのか。まあいいや。

 

探していると、シェアハウスというのがずいぶんたくさんあった。

都心で安くて、きれいな部屋なので、掘り出し物かと思うとたいていシェアハウスだった。

共同生活はどうも馴れない。この社宅でも1人になるまでは辛かった。いまはせいせいしている。

 

夕方、社長から電話があった。退職願いを見たという。

社長は今どき転職先なんか見つからないから残れと言った。ぼくは黙っていた。

とにかく明日会社に来いと言って、社長は電話を切った。

 

 

2015年7月29日公開

作品集『ディビジョン/ゼロ』第3話 (全10話)

© 2015 波野發作

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