んでもって俺ちゃんは虚無感に支配されてひとりソファーの上に座っていた。何でここに誰もいねぇんだって考えて、でも俺みたいな変人と付き合ってくれる奇特な友人なんていやしねぇんだって結論に行きつく。俺が欲してるのは美しい女性の優しい抱擁だ。柔らかい肌が布ごしに触れれば俺はこれ以上ないくらい幸せになっちゃう。つまり恋人が欲しいってわけだけど、俺に恋してくれる変態女はいねぇんだ、って嫌でも分かっちゃってる俺は、悲しい気分になっちゃうのよねん。んで俺は何かを口に入れたくて舌がうずいてるんだ。蛇のように蠢きながら伸びてしまいそうなベロが糖分を求めて振動してる。禁断の果実を食べてみてぇなっていう欲求が爆発しそうだぜ。膨張した欲望に鋭利な先端の針を刺せば破裂したそれの中身からぶちまけられた液体が輝きながら飛び散る様を思いうかべて恍惚とした表情を浮かべちゃう。ああ、接吻したいよ、って誰にともなく言うと、このせまっ苦しい室内に俺の言葉が反響して、自分の耳の奥に入りこむ。自分でもうんざりしちまうくらい俺の声は薄気味悪いだみ声だ。カエルがひき潰される時に発する悲鳴みてぇな声をしてるんだ。この声音で歌ってもやかましくて耳障りで俺のチンポコが萎えちまうくらいの気色悪い声だから、発声練習しても全然よくならねぇのよ。俺のノドが潰れてしまえばいいのに、って思うが、そしたらもっともっと不様な声になっちまうだろうから、俺は自分のノドを大切にしてきたい。壁にはThe SmithsのCDが飾られていて、俺はモリッシーの声を思い出して顔がほころんじゃう。奴の歌声は個性的かつ耳心地のよいものなんだ。それに美しいギターの音色が絡まり合うと他では考えられないような独自性を持つ音楽の出来上がりだ。俺のだみ声とはかけ離れてる声に、心地いい気分になっちゃうから、CDプレイヤーの再生ボタンを押してスミスを流す。きめ細かく弱々しく優しいギターの旋律が俺の鼓膜を打ち、それからボーカルの歌声が入る。ベースやドラムといったリズム隊もスキがない演奏をしやがるから、スミスは止められねぇぜ。と、テーブルの上に突きたてられているナイフに目が留まった。ナイフの周囲を一匹の蠅がぐるぐるぐるぐる回ってやがる。耳障りな羽音はスミスの演奏によってかき消されてるから、俺は蠅を殺さないでじっと凝視してるだけなんだ。んで蠅はやがてナイフの持ち手に止まってひと休憩してやがんの。だから俺は身体を起こしてテーブルの上に突き刺さったナイフをごつい指先で撫でてみた。驚いたらしい蠅は、慌てて微細な模様の入った羽根を動かして、羽ばたいて行った。蠅は天井付近をうろうろとしていたかと思うと、やがて俺の視界から消えちゃった。女を抱きたいよ、っていう欲望が胸の内に宿ってるのを第六感で知覚しちゃう。無理やり女の服をナイフで裂いて、オマンコを露出させてそこに俺ご自慢のそそり立ったチンポコをぶちこみたいの。でもでもレイプより合意のある上で行われるセックスの方が遥かに興奮する、っていうマトモな部分も持ってる僕ちゃん。僕ちゃんはテーブルに突きたてられたナイフの銀色に輝く鏡面のような刀身になにを見出しちゃうんだろう。いや、なにも見出せねぇ、ってか発見できねぇ気がする。それって何だか悲しいことじゃん、って思っちゃう俺の脳に必要なのは快感物質だけだ。ドーパミンとセロトニンのどっちでも良いから脳に快感物質をキメなきゃ気が狂っちゃいそうなのよ。刺激的な人生とは大きな隔たりのある退屈な日常には何が不可欠かって疑問がある。ああ、退屈で退屈で死んでしまいそうだし、寂しくて寂しくて発狂しちまいそうだよ。でも首を吊る勇気もねぇし、あのナイフで腕の血管を切りさく勇気すらねぇ俺ちゃんは、自殺からはほど遠い生き物なのかもしれねぇ。あれ、俺ちゃんって人間じゃなくて動物だったの、って錯覚しちまう。とりあえず俺はコーヒーを立て飲もうと思う。コーヒーメーカーに挽かれたての細かくなった豆と、水を入れてコーヒーが出来上がるまで待つ。んでコーヒーの香ばしい匂いが漂ってくると俺ちゃん一転してご機嫌になっちゃう。まもなくコーヒーは出来上がる。んでカップの中に漂うコーヒーの色を眺めてから、その香りを十分に堪能して、めちゃくちゃ熱い出来立ての黒い液体の味をあじわう。んー人生ってそんなに捨てたもんじゃねぇなって思う。だってコーヒーの香りでリラックス出来ちゃてるんだもん。と、ふいにカップの縁に蠅が止まった。俺はそれを指先で叩き潰すと、ティッシュで指先を拭きとってまた反対側の縁からコーヒーを飲む。熱を持った液体がノドを焼こうとしながら胃に流れこむ。全身が熱を内包したかのように温かくなる。女の肌のぬくもりに比べたらコーヒーなんて糞みてぇなもんだけど、今の俺にはこのヘドロみたいな色をした飲みものが合ってるのかもしんねぇ。世界中を周る旅に出てみてぇ、ってのが前々から計画してた俺の考えだ。まずは国内でもいいからここではない何処かへ行きてぇ。そうすりゃこの肥だめみてぇな人生から脱却できる気がする。んで粘液みてぇに俺の身体にまとわりついた人生を振り払うためとりあえず俺は服を脱ぐ。ゆっくりと上着を脱いで、シャツも取り去り、上半身裸になる。俺の胸には剛毛が生えていて、その毛の集合体に一滴のコーヒーがこぼれ落ちた。おびただしい毛に守られてるから肌には届かなかった。つまりは僕ちゃん火傷しなかったってわけ。やったぜ、肌は守られたぜ、剛毛よ感謝する! んで俺はズボンとパンツも脱いだ。不様に垂れ下がるチンポコを見つめてると、惨めな気持ちになってくる。不様も不様、大不様だ。んで俺は萎れたチンポコに美しい銃身をした拳銃の姿を重ねる。でも俺のアレはピストルみたいに固くなっちゃいねぇから、歴然としたその差に悲しくなっちゃうの。本物の拳銃を手に入れて誰かを銃殺すれば俺の人生も変わるんだろうか、っていう考えが浮かぶものの、そんな訳ねぇなって思っちゃう。でも本当に、本当に人を殺したら俺のぼやけた思考は鮮明になっちゃうかもしれないじゃん。じゃあ、あのテーブルに刺さったナイフで人を殺してみるか? いや、でもそんな事したら決定的に俺の中の何かは徐々に変化していってしまうんじゃねぇだろうか。そんな感情を恐れてる俺は人殺しなんておぞましい行為が出来ねぇでいる。でもそれって人として正常な心を持ってる証なんじゃね。って堂々巡りの思考が終着先をなくして宙ぶらりんのままでいる。んでもって聖書にナイフを突きたてたいっていう衝動に抗うために、大変な理性を総動員しなきゃならない。代わりに俺はカミュの幸福な死という本をナイフで刺しつらぬこうと思う。テーブルにめり込んだナイフを懸命に引き抜くと、本棚の前に行って膨大な本の数々を物色する。あったあった、幸福な死だ。んで俺はそれをテーブルの上に持っていくと、その薄い本にナイフの先端を押し込んだ。するり、というわけじゃねぇが表紙が破れ、何とか中の本に突き刺さった。俺ちゃんこれ以上ないほどの満足感をおぼえて、最高な人生ってこれじゃんね、って一瞬だけ錯覚しちまいそうになった。でもこんな行為しょせん遊びでしかないから、俺は新たな神聖ともいえる場面を想像してみる。全裸にした髪の長い女の姿を思い描く。鎖に手足を縛りつけられた女の姿だ。俺ちゃん実体のない女の胸にナイフを振り下ろした。想像上の女は悲鳴を発しながら身体を激しくゆらす。血が噴出し、悪魔じみた俺の顔を深紅の液体で濡らす。俺は悪鬼じみた微笑をし、また女をナイフで傷つける。室内にひびき渡ったのは悲鳴、というより絶叫、というより獣の咆哮だ。楽しい。これは何にも代えがたい神々しい行いだ。あの神ですら承認してるに違いねぇ。女の異様に白い肌を血液が汚していく様を妄想しちゃうと、マジで禁断の果実を食べてるような刺激が波のように俺ちゃんの精神を襲ってくる。俺は女の肌に接吻し、これはどんな行為よりも神秘的なものなんだと悟る。そして女が失血死していく様をながめて悦に浸る俺は、誰かに身体を破壊されたほうが良いのかもしれねぇ。んでもってドアが開く音が玄関のほうから鳴りひびき、俺は我に返る。俺は全裸だから、突然の来訪者に驚いて慌てて服を着ようとするが、何とかパンツを履いたところで、この部屋のドアが開いた。そこに立っていたのは肩に届くほどの長髪の男だった。「何してんの?」ってのが第一声。戸惑う俺をよそに、男はその場にあぐらをかいて、タバコを一本とりだし、火を点けた。「この部屋は禁煙なんだけどな」俺の注意は無視されて男は美味そうにタバコを吸う。室内に充満した煙に咳き込んでしまいそうだから、こいつを殺してやろうかという衝動がわき起こったが、理性をかき集めて何とか思いとどまった。んでもって秒速で刻む俺の心音が胸の内側で音を立てながら静かに脈動してるんだ。時計の針の音に心音を重ね合わせ、秒刻みで進む時間に置いてきぼりになちゃうのよねん。俺を置きざりにした時間は無情にも時を刻みつづけているのが感じとれて、ハッピーなんて程遠い俺の平凡な日常を粉々に破壊し、飛び散った欠片が輝きながら空中を舞う。舞っちゃうんだ。んでもって、その破片が俺の意識に突き刺さり、俺はぶったまげるほどの快感を覚えちまう。これが人生なんだそうなんだ、他には何も必要ないんだ、って思って糞みたいに吐き気のするゴミみたいな日常におさらばしちゃう。とろこで男はタバコの先端を床に押しつけて火を消すと、また新しいタバコを取りだして火を点けて一服して恍惚とした表情を浮かべちゃってる。んで俺はまだまだ生、というか惰性にしがみついて生きていきたいんだと悟り、嬉しくなっちまう、ってのは冗談で、悲哀が胸を占めるのを実感する。俺は生きてぇのか死んでみてぇのか分からなくて、ちょっとばかし混乱状態。んで拳銃を手に入れる旅に出かけたくなった。あの黒光りした拳銃ちゃんを手に入れれば俺の内部ではある変化が起きるってのは明白だ。その変化ってえのは殺人にたいする強い強い衝動だ。人間どもを撃ちまくって殺しまくりの死体にさせまくりで楽しんじゃねそれってさ。んでもって頭のなかで蠢いてる脳の皺の数を星でも数えるように数えたい、っていう俺の欲求が叶えられる日は来るんだろうか、っていうのもただの冗談で、俺は脳の皺なんてどうでも良い。男は三本目のタバコに火を点けてゆっくりと深呼吸するように煙を吸引して、また煙を吐きだすという動作を繰り返してる。何だか他人が吸ってると俺も吸いたくなっちまったけど、俺は禁煙してるからダメダメ、ここは堪えなくちゃダメなのよん、って自分を抑制するが、禁煙なんて糞みてぇなものだって結論に行きついて、俺は久しぶりにタバコを吸うためにコンビニに出かけた。コンビニで不愛想な店員にアメリカンスピリットという銘柄のタバコを注文し購入する。家を出る時に鍵を掛けなかったのは、あの男が外に出たら施錠する意味なんてないと思ったからだ。でもやっぱり、というか案の定というか、男はまだ俺の部屋に居座ってやがったから、あのナイフちゃんで殺してやろうかなという思いつきが頭にひらめいちゃった。禁酒もしていた俺だけど、ウイスキーも買っちゃったのよん。やっぱタバコにはウイスキー、ウイスキーにはタバコって相性抜群なこの嗜好品に俺はハッピーになっちゃうはずなんだ。んでもって男を無視してソファーに身を沈めるとタバコを取りだして一服かまし、ウイスキーの蓋を開けてラッパ飲みする。ホワイトホースって安ウイスキーだが、これがなかなか奥ゆきのある深い味わいをしてるんだ。んでもって俺の心にナイフで付けられた文字の形状の輪郭が曖昧になり、幾何学的な模様をした何かに変化する過程を凝視して網膜に焼きつけてぇ。んでもってまたウイスキーを飲む。最高に刺激的な美味な味わいに俺の意識は天国に逝っちまいそうだね。んで雨は雲になり、雲を形づくったあとにまた雨が降る、っていう循環に何だか喜びを感じちまう。タバコの味は抜群に美味くて、俺の全身に絡んだ憂鬱を吹き飛ばしてくれそうな勢いを発揮してやがる。タバコとウイスキーを交互に味わい、その香りと味を十分に堪能しちゃう俺をめちゃくちゃに傷つけてくれる奴を探しに行きたい。俺の部屋であぐらをかきながらタバコを吸ってる男は、俺の心に損傷を与えてくれねぇだろうか。いや、無理か。だって臆病もんのゲロが出るほど繊細なクソ野郎だって見てれば分かる。さっきから俺の部屋を挙動不審気に眺めまわしては、タバコの煙を強烈に吸い込んでやがるから、こいつには変人に違いねぇんだ、って思っちゃったね。俺のチンポコをフェラさせたらどんな種類の快感が俺の脳に押しよせてくるんだろうか。下らねぇクソくらえな鈍い感覚に支配されるんだろうか。でもでも、俺ちゃん胸部にあるナイフで刻みつけられた傷を体感しちゃってるから、まだまだこれから先も人生を続けていきてぇんだ。望んでいたことが叶ったって、実際にあとから感じるのは虚無感だけだ。つまりは虚しいってわけで、俺ちゃん鎖状の物体の先端についた鋭利な刃物で自分の身体をめちゃくちゃに傷つけてぇ。ナイフより、もっともっともっと鋭利な代物が俺の身体に生々しい傷をつけると、俺ちゃん喜びに全身が打ち震えるはずなんだ。俺ちゃんの時代は終わり、新しい何者かの歴史上の瞬間の幕開けだ! だから俺はステージから去ろうと思ってる。俺ちゃんの必要性はもうない、皆無だ。ってのは冗談で、俺はまだまだ前線で活躍していてぇ。前線とはなんだ、って疑問が頭のなかに浮かび上がる。そうだな、前線とは心躍るようなみんなからの脚光を浴びるようなステージじゃね。って結論づけるのはやや早計であり、俺ちゃんの奥に眠る感情の爆発、というか噴出するのを感じながら、全身で最高の人生を味わうにも味わい切れねぇから、身体がいくつあっても足りねぇのよ。粘膜に触れた俺の指先に絡む液体が皮膚に染みこんでいきやがるから、俺は膜に触るっていう行為を延々と繰り返してぇだけなんだ。んでもって新時代は目の前に迫っているのだと頭で理解しながらも、感情の面では納得のいかねぇ俺には、銃口による死がなくてはならない存在なんだ。俺の心臓部にある感情のキラめきを誰かに知覚して欲しい。それは女でも赤子でも老人でも良いんだ。タバコを根元まで吸い終わった俺はもうタバコを吸うのを止めてただウイスキーだけを飲んでた。「ホワイトホースなんて不味いだろ?」「いや、なかなかイケるね、お前も飲むか?」「ウイスキーなんて刺激の強いもん嫌いだね。俺は生ビールが好きだ」といってもこのアパートには生ビールなんて子供が飲むようなものはない。俺は男に同情しちまう、っていう何とも人間らしい感情が胸を占めた。何だか情けない気分になっちまった俺は男を殺すのを止めた。止めちゃったんだ。でも人生に必要なのは殺人という神秘的な行いなんじゃねぇの、って勘違いしちゃう俺ちゃん。ふと男の顔を見てみると、目が飛びだし気味で額が広く、ちょっとだけ禿げかかってるのが分かった。男は不摂生からか若禿げになっているのだ。んで俺はその頭を見てると何だか悲しみが胸にこみ上げてきた。奴には銃殺による死が必要なんじゃねぇのって思っちゃった。俺はパンツをズボンごとめくり、自慢のどでかいチンポコを露出させた。フェラしても良いんだぞ、って言ったら男の顔に嫌悪の表情が浮かんじゃう。ああ、もうどうしたら良いんだ、答えをくれよ神よ、いや天使でも悪魔でもいいから俺にアドバイスをしてくれないか。助言を欲してる俺の肩に舞い降りてきたひとつの埃が服に付着し、情けない気持になる。心臓部を狙った架空の銃弾が空気を巻きこみながら飛翔し、俺の胸に命中する。もちろん想像上の銃弾だから痛みも感じねぇし、血を噴きでねぇのよん。でも俺はそのおかげで一回、死んで人生をやり直せる糧になった、ってのは大げさな表現で、実際にはちょっとだけすっきりしただけだ。現実に銃殺されたらどんな気持になるんだろうか、って感情をおぼえる前にあの世に逝ってるか。ちゃんちゃんお仕舞、ってのは嘘でまだまだ俺の破滅的な人生は続くっぽい。ウイスキーにはタバコが合うようにナイフには拳銃がうってつけだ。だから俺は拳銃を手に入れたい。けど、どこで買えばいいのか分からねぇ。もう俺から搾り取ったって何も、汁一滴ですら出てこねぇはずなんだ。粘液に絡め取られた絵画をながめてると俺までもが全身に絡みついたヘドロを感じるようになっちゃった。ヘドロの正体は死であり、大口を開けて次に死に絶える者を待ってるんだ。そんなものボロ雑巾で拭いとって、死から解放させてやりたいけど、なかなかそれが出来ないのよ。俺ちゃんが代わりに死んでやろうかなって思うけど、死に対する恐怖、というよりかは、死ぬ時に襲ってくる痛みに恐怖しちゃってるから、俺にはむりむり無理無理、絶対むり。俺は死そのものには恐れていない、というよりも死後の世界には安らぎすらあるんじゃねぇのって思ってる。まぁそんな些末な問題、知ったことじゃねぇから、どうでもいいんだけどさ。いや、本当に些末な問題なんだろうか、これは大いなる命題なんじゃねぇだろうか、って思いなおす。突き詰めて考えると、死それ自体は良質なスープのような味わいをしてるに違いねぇんだ。三ツ星レストランで出てくるようなほどよく温かい舌に優しいスープだ。その味を十分に味わいながら死んで行きたい、という野望にも似た考えを持ってる俺ちゃんを誰か早く殺してくれ。じゃなきゃ自殺に導かれちまう、神の手によってな。生きるのは苦しいかもしれないけど、楽しい出来事もあるから、まだ生に齧りついてでも生きたいっていう一筋の願いが光明となって俺の頭に差しこんで、真っ暗な頭蓋の内側を明るく照らした。浮き上がった脳は培養液のような脳汁に浸されていて、痙攣するように収縮を繰りかえしてる。俺ちゃんはウイスキーの瓶を空になるほど飲みに飲んで飲みまくっちまった。ゲロをするためトイレに駆け込み、吐き気がこみ上げてきたところで口の中に指を突っこみ、唾液で潤ったノドに触れる。ウイスキーの残骸だろうか、固形物はなく液体だけが便器にぶちまけられた。んでもって吐きに吐きまくり、最高に晴れやかな気持ちになった俺は、部屋に戻る。んで男の姿が見当たらねぇんだって気づいて、俺が嫌になって出ていったのかっていう考えが頭に浮かんだ。けど俺は花びらを引きちぎるようなバカな真似はしたくねぇって滑稽な比喩を使ってっけど、つまり何が言いたいかってぇと、男の後は追わないでおこうってわけ。んでもってゲロをぶちまけるほど飲んだのにウイスキーを飲み足りねぇ俺は、その欲求を誤魔化すためにタバコを吸ちゃった。タバコの濃厚な香りと味に俺の意識は天井にまで昇るような錯覚に支配されて、次に純情で高潔な心を胸んなかに内包してる俺は、空のウイスキーを貪欲に眺める。俺ちゃんの純情な心をもてあそんだ男には断罪が確実に振り下ろされるのだという期待が胸に満ち、あんな奴、車に轢かれて死ねばいいのに、って思っちゃう。んでウイスキーを買いに出かけようという案が雪崩となって俺の頭に押しよせてくるのを感じながら吸うタバコはマジで美味すぎて心臓が破裂しそうだね。陽光の輝きに満ちた室内に吊るされたカーテンを風がゆらし、刺すような鋭い風が俺の肌を撫でて皮膚のすきまから入りこんだ風のせいで悪寒を感じちまう。んでもって、人生って奴はやっかいだなって思考して、頭んなかで熟成された思考を駆使して物事を考えちゃう俺にはタバコの煙だけあればいいんだ。こんなクソ男はタバコだけ吸ってればいいんだ。いや、俺はクソ男なんかじゃねぇ、純真な心を持ったまっとうな人間の一人なんだ、って口から流れるようにおしゃべり。んでもって脳の血管切れちゃいそうだね、マジでさ。んで空中に漂う窒素の化合物である酸素を金魚が空気をねだる時のように口を開閉させて体内というか肺に取りこむ。体内に満ちた酸素によって視界が鮮明になるのを視覚で拾い上げつつも、宝石をぶちまけた様に床に散らばった極彩色のゲロを見て、俺はいま自分が吐いちゃったんだと悟る。んでナイフちゃんを指先でもてあそびながらマスターベーションでもしようか、って気になって、俺は人生を振り返りながらそれをオカズにしてオナニーしてぇんだ、って欲求が破裂寸前。マジで気ちがいじみた拷問器具による激しい痛みを望んでる、というか欲してる、というか愛してる、というか恋してる。んで本当の幸福ってのはさ、本当の幸福ってのは、愛という一つの命題に行きついちゃう。それしかねぇんだなって感じて、生きてる実感をするためには痛みは不可欠なんだ。肉体の痛みじゃねぇ、心の痛を俺は論じてるんだ。んで深く息を吸い込むとタバコの煙が肺の粘膜にへばりついてその臓器はニコチンを欲してるのを自覚しつつも、やがて俺の破滅的な人生を破壊して虚構になり下がったクソゲロヘドロみてぇな、でも大好きな道のりを一歩、一歩、踏みしめて砂利の感触を靴底から感じとりながらも歩いていきたいっていう俺の願いを聞き入れてくれないか、天使よ、堕落して脆弱な羽になった天使の身体に埋めこまれた金属片は宇宙人が手術して入れたんだ。というよりもぶちこんだ、って表現したほうが野性的で味のある一種の絵画のような芸術品にも似た呼び方だ。んでもって深奥にあるぬかるんだ地面の一か所にに溜まった濁った水たまりに足を突っこんで、冷えた泥水がつま先に絡みつくと、体温が奪われていくのを、ある種の刺激として感じると俺ちゃんの真っ白な足がしびれて上手く歩けず転んでしまうハメになっちゃう。昆虫の微細な模様が入り組んだ羽根をむしるだなんて残酷な真似は出来ねぇから、二匹目の蠅が俺の身体にたかってても無視するしかないんだ、ってどっちにしろ蠅を一匹殺そうが二匹殺そうが大した違いはねぇんだ、っていう考えが頭んなかで光みてぇに反射しまくってる。そう、あの陽光のように稚気に満ちた光を発してる俺の脳細胞から送られた合図により身体の一部が滑らかに稼働する。つまりは腕を動かして箱から一本タバコを取りだして火を点けたってわけ。脳みそを包みこむ液体に漬かった思考ではまともに物事を考えられねぇってのは本当かな、冗談かな、それとも真実かな、って脳内でひとり遊び。何だか酸素が薄い、窒息しそうだぜ、って理解した瞬時に、俺の手が自動的に動いて空のウイスキーを窓に投げた。窓は粉々に粉砕し光沢を放ったガラスの破片が外に飛び散る、っていう場面を想像しちゃっただけで、窓を狙った瓶は壁にぶつかって跳ね返って床を転がっただけだ。制御不能の俺ちゃんの衝動が俺の身体の底からみなぎるひとつの意思のようなものに変化していくのを体感してる。んで俺ってなんだか殺すより殺された方がマシな気がするから、人生という苦行に耐えたときのご褒美を舌なめずりしながら待ってる。明日、誰に殺されるか分かったもんじゃねぇからな。俺の心臓を狙って射殺してくれよ、悪魔さんよぉ、ってセリフをわめき散らすように言いたい。射殺が俺にとっては安らぎ、というか癒しを与えてくれる殺し方に違いねぇんだ。腐肉をあさる犬畜生みてぇな生き方はしたくねぇ、ってのは俺はまだ人間というラインにとどまっていてぇからだ。正常な思考とイカれた感情を同時に孕んだ獣じみた人間には恐怖すら覚えちまう。んでもって人生を旅に例えれば、俺はいま終着駅にいるはずだから、喜んで噛みつぶしたソースも付けない肉本来の味を堪能したいから、ナイフで自分の手首を切った。鮮やかな赤い血が手首から腕のほうに流れて肘に溜まった血液はゆっくりと床に落ちていく。深紅の血だまりが出来て、俺はそれを美しいと思った。人間の体内で活発に活動する血管に流れこんでいる血液に、何かひどく憂鬱なものを覚えて、憂慮した俺は手首からしたたる血を見つめている。最高な気分じゃねぇのかよこれは、って自分に言い聞かせてみると、本来の美麗な踊りをする道化芝居をしたピエロのような心情になってくるから、俺はまだ全身にへばりつくわずらわしい物をぬぐい去れずにいるんだ。だから俺ちゃん意識を現実に接近させて、いつもの鮮明なリアリティを取りもどす。んでタバコはもう止めたいのに吸う手が止まらないからどうしようマジでさ。でもまぁ禁煙なんてしても意味ないかって分かっちゃった俺は、またタバコの煙を強く吸いこんだ。でも禁煙に成功したら金が余るから買いたいもんも買える気がするけど、今のところ俺には欲しい物なんて一切ねぇ。太陽は傾いて夕暮れという鎖が俺の全身にまとわりつくのを視界で捉えながら運動をすると、俺の皮膚が発汗し濁流のような汗が流れでてきやがんの。これでさっぱりとした俺はまたタバコを吸って吸って吸いまくり。んでまもなくタバコの箱の中が空になっちまうっていう悲しい悲しい事態になっちゃう。新しいタバコを買いに行くのも面倒クセェし、まぁでもウイスキーも買えるからそれも良い考えだ、っていう思考に支配された。至高なるあのお方、つまりは神の肌にナイフを突きたててぇ、っていう衝動が俺の胸に満ち溢れ、俺は発作的にナイフを空中に向けた。そこにいるんだろう神よ、いつも俺を監視してるんだろう、って言葉を投げかけても、返ってくるのは無言。つまり神はこの世には存在しねぇってのは当たり前で、じゃあつまりあの世にはいるはずなんだっていう答えにたどり着くまでに、もう何時間も頭を酷使してる。自分がクソで床を這う蛆虫にも劣ってるって自覚してるのか神よ、お前を殺したいという願いが聞き届けられる先はやっぱ神以外の何者でもねぇんだ。んでもって時代の象徴たる純真な心を持つ俺は、何者かに車ではねられる場面を想像しちゃってるんだ。俺の骨が粉々に砕け、傷からはあのお馴染みの血があふれ出て、車体の圧迫感に俺は苦しくなる。生きるのが苦しいのは希望が微塵もなく、悲しい出来事にさいなまれてるからじゃん。んで俺は自分の人生を再生させるために出掛けなくちゃならねぇ、そう、死滅した細胞を復活させるように、俺の人生を子供の頃のようにあどけない日常を楽しむ心に戻さなきゃいけんぇんだ。紐でがんじがらめになった俺の日常は非日常へとゆっくりと確実に移り変わっていく。だから俺は結局のところ殺人をしたいっていう結論に思考が辿りつく。めちゃくちゃに物や人間を壊したい、っていう衝動に抗う日々はもう終わりだ。そんな日常から解放された俺ちゃんは、死を望んでいようがいまいが、生きてる人間を死体にしてやるために外に出た。もちろんポケットにはナイフをすべり込ませてる。ポケットにぴったりと収まったナイフちゃんの輝きに見入っていた過去の俺は、いま未来に向かうために外にいる。買い物という目的以外でようやく外に出たのは何年ぶりだろう。余りにもの太陽のまぶしさに目を細めちまう。空気中を震えながら通過する光にあふれた世界の彩りに俺の信念はゆらぎかけた。つまりは人を殺すのは止めてどこかで食事を取るか、カフェでコーヒーを飲むかしようって思ったってわけ。何だか不安定な僕ちゃん。殺すか殺さないかはっきりしろよって感じ。でもそんな内面の葛藤があるからこそ、俺は人という境界にとどまっていられるんだ。だって俺ちゃん精神が不感症の殺人鬼なんかじゃねぇ、サイコパスなんかでもねぇ、まっとうな感性を持った一人のちっぽけな人間なんだ。そんな矮小な人間が殺人なんて恐ろしい行為が果たして出来るだろうか、ってわけで今日も俺は悩みに悩んで悩み抜いちゃってる。俺の人生なんて取るに足らないものなんだろう、って嫌でも分かっちゃってるんだ。んでもって俺ちゃん、とりあえずカフェに入った。昼間というこの時間帯にしては結構すいてて、中は静かなもんだ。席に座るとコーヒーを注文して、これでカフェインの効果により脳から大量のドーパミンが出てマジでハッピー。んでもってここは禁煙だから一服なんて出来ねぇの。コーヒーとタバコの相性は言うまでもないが、一応、表現するとコーヒーの苦味に野性的なタバコの味は抜群に合う。俺はこの時、自分の身体が微熱を持っているんだと自覚した。んでその熱はどっから来たもんだ、という疑問に突き当り、風でも引いてるのかなぁ、という考えに及んだ。んでもって家に帰って安静にする、っていうか寝た方がいいじゃんって思ったが、俺はなぜだかカフェを出る気にはなれなかった。俺は灼熱ともいえるコーヒーを飲んだ。まぁ灼熱ってのは大げさな呼び方だが、それぐらいこの黒い液体は高熱を孕んでいた。んで窓から外の風景や通行人を観察しちゃう。人々はせわしなく歩いてるから、お仕事中なんだろう。お仕事なんてクソくらえな事したくねぇ俺は、仕事に従事する人間どもに哀れみすら覚えちまう。俺は過去にサラリーマンだった経験があるけど、半年も経たずに止めてしまった。だってマジで下らねぇ仕事だったし、時間も拘束されるからだ。んで俺ちゃん辞表を上司に突きつけた時は本当に気持よくて晴れやかな気持ちになったもんだ。上司の唖然とした顔を今でも記憶してる。上司は俺に会社を辞めないよう引き留めたが、俺は奴の顔面にツバを吐きかけてポケットに手を突っこみながら颯爽と会社を後にした。んでもって俺ちゃんそんな回想をしつつ美味いコーヒーを口に含んで、その苦味を十分に味わった後で、一気に飲み下した。舌とノドが火傷しそうになるものの、そんなのお構いなしに、俺はそれを胃に収めた。胃が熱くなり、コーヒーが胃のなかで泳いでいるのを強く感じる。歪な形状をした深海魚でも俺の胃のなかで泳いでればいいのにって思っちゃって、そしたら俺の胃は強烈な痛みに襲われるか。でもでも深海魚を飼いてぇって気持はあるけど、飼うのは難しいって誰かに聞いた記憶がある。いや、記憶が曖昧だ。本当にはテレビやネットで得た知識かもしれねぇ。でもあの異形の深海魚には心魅かれるものがある。だってあの形状ってイカしてんじゃん。俺も深海魚みたいになって水深何メートルだか知らねぇが暗い海のなかを泳いでいきてぇ。水圧に耐えながら獲物を探し求めて、ヒレを使って泳ぎまくるんだ。そんな妄想が俺ちゃんに幸福を与えてくれる、ってのは冗談で、ただの想像だから実際にそんな状況になってみねぇと感情の変化は分からねぇ。鳥はどうだっていう疑問が頭をもたげる。大空を舞う鷹のように大きな翼を広げて飛翔して街の景色や人間どもを見下ろすんだ。そりゃもう気持よくなって、魂が昇天しちまいそうになるだろう。昇天した魂はさらに空中を昇っていき、雲を突きぬけ天国にまで到達するんだ。んで死んだ俺ちゃんは、天国の扉を開けて、子供たちが裸で抱き合ってるような楽園への道を歩むんだ。ああ、誰か俺を助けてくれ、何者かに救助されたいんだ。って俺ちゃんの思考が行きついた果てに見出したのはひとすじの光明、ではなく、心が淀むような絶望じゃん。んで俺の純真な精神が汚染された後にウイスキーを飲んで浄化されればいいのにな。でもそんな優しい世界でもねぇか、この世界は残酷すぎる。俺は楽しみながら生きてぇけど、貯金が底をつきかけてるから薄汚い乞食、というか浮浪者になる運命、というか宿命なのかなぁ。誰か答えてくれよ、明確な答えが今の堕落した人生を過ごしてる俺には必要なんだ。俺の目に映りこむ人間たちの姿を見てると、ああはなりなたくねぇな、って思っちゃう。スリルのある人生を突きすすむ俺ちゃんの日常が粉々に砕かれ炙りだされた非日常に身体を飲みこまれていくと、俺ちゃんの感情にある変化が起き、喜びと共に悲しみという感情が胸に押しよせてくる。そう波のように寄せては返してくんだ。古代遺跡を探検する冒険家のような胸躍る気持になりてぇから、人生を旅に例える、っていう先人が何万回としてきたことを自分でもしてみる。でも実行に移さねぇと、その思いはやがて腐りはて、脆く崩壊してしまうんだ、という結論に行きつき、何だか切ないような気分になっちゃってるの。んでもってタバコを吸いたいって衝動がして、脳がニコチンを欲してるんだ、と命令しているってのが分かった。脳に組みこまれた、というか編みこまれた思考のおかげで、今日も俺ちゃん正常さを維持してるってわけで、人生ってのは何が起きるか分かったもんじゃないから、それ相応の準備、というか覚悟がいる。ゴミみてぇな人生にはおさらばしたいって感じで、でも俺の身体は海のように塩分を含んだ淀んだ水のなかに飲みこまれていっちゃう。身動きも取れねぇし息も出来ねぇから、誰かの救助を指を咥えながら待つしかねぇんだ。俺は自分が不幸だとは思わねぇ、っていうか到底思えなぇ。俺より不幸な人間は腐るほどいるが、他人と自分を不幸という名の天秤で比較しても無意味だ。だから俺ちゃんは日々の一瞬、一瞬を楽しむために人生を謳歌したい。そんな願が初めて神に聞き届けられたっていう気がする。いや、聞き届けられはしないか。だって俺の生々しい現実は嫌になるくらい変わってねぇんだもん。俺はコーヒーを飲み終えるとカフェを出た。余りにもまぶしすぎる陽光が眼球を射抜き、俺は涙が出ちゃいそうになる。でも涙なんか一滴もでねぇ。あの透明な水滴が目からあふれ出て号泣すれば俺の心もすっきりするのになぁって思った。んで銃弾による頭蓋の破壊を望んでいる俺は拳銃を欲しているんだ。誰か俺の頭部めがけて弾丸を発射してくれないか、誰でもいいんだ。狙いが定まらず顔面に穴が開いたって俺は喜んでその事態を受け止めるだろう。んで空気中に含まれた二酸化炭素のせいで窒息寸前。んで俺は柔らかで温かな襞に包まれてぇっていう願を聞き届けられると期待し、その期待はやはり萎んでいき、皺だらけの物体に成り下がる。んでもって命中した銃弾に見出す未来のしずくが溶けて奇妙な形状に変わるのを見つつもウイスキーを飲みたいっていう衝動に抗うためには他の嗜好品が必要になってくる。んで予言したことが的中した経験は誰しも耳にした経験があるだろうから、俺は広がる光の海に感動する、っていうまともな精神も持ち合わせていて、それが俺を正常な線にとどめておくための最後の堤防なんだ。つまり俺ちゃんは狂人になんかなりたくねぇ、ってわけで、踏みしめる雑草から立ちのぼる臭いを嗅いでいると自覚しながら意識を空中にシフトさせて人生をやり直すための糧にしてぇものがあるから、俺ちゃんはまだ狂人にならずに済んでるんだ。ってわけで、今日も日の光を全身で浴びながら街を練り歩く。幼女はいねぇかな、妖精のような幼女を鑑賞してると気持が浄化されて悪意がなくなり、神聖な善意だけが残るような気がして、幼女はどこかにいねぇだろうかと目を充血させて辺りを見まわす。幼女がいる場所っていったらうらぶれた廃墟になりかけの公園だろう。錆びにまみれたブランコや滑り台で遊ぶ幼女たちを見てると、その神々しさに目まいがしそうだぜ。でも公園なんてどこまでも歩いて行っても辿りつけねぇ清い場所なんだ。俺みたいな薄汚れた魂を持ってるけど、同時に幼子の様に純粋な心を内包している俺ちゃんには廃れた公園は見つけられるだろうか。んで結局、公園はどこにも見当たらなかったから、僕ちゃんの感情は期待から悲哀に傾いた。人生ってやつは厄介だなって思っちゃう。手に入れたくて仕方ない時には指のすきまを縫ってこぼれ落ちてしまうものが、諦めた途端に手に入るんだからさ。んで俺が何を手に入れたいかってぇと、幼女の下着、幼女の性器から分泌された液の染みこんだ下着、幼女が履き古して綿だらけになった下着。これ以外には何もいらない僕ちゃんは何て無欲な人間なんだろう、同時に救いようのない愚か者でもある。愚かなのは俺だけじゃねぇ、他の人間どもだって俺と似たり寄ったりの性癖を自分の内奥に隠し持ってるはずなんだ。でもそれを外に出さねぇか出すかの違いだけ。んで俺は出すタイプか出さないタイプかと聞かれたら性的嗜好は露出しないタイプだと踏んでいるけど、何かの拍子に感情をぶちまけちゃうかもしれない。この体内で燃え上がる灼熱の情欲に潤んだ心を吐露しちゃうかもしれない。そうすりゃすっきりしてタバコもいつもより美味く感じるに違いねぇ。ウイスキーも普段より味に奥ゆきがあって繊細なものに様変わりするだろう。だから俺ちゃんコンビニでまたまたウイスキーの小瓶を買っちゃった。今回はジムビームっていう誰もが知ってる安ウイスキー。バーボンに分類されるのかなぁ、でも厳密には知らないし、そんな知識を持ってても披露する相手がいねぇし、そんなウンチクまくしたてるように喋りたくねぇ。んでもって神秘的な禁断の果実を食すときに口の中に広がる果肉と果汁の味わいをベロの上で感じとって、人間はみんな死ぬべきなんだっていう結果に至るまでの過程を、絵画でも描くように描写してぇけど、鉛筆も筆もない。俺にあるのは相棒ともいえるウイスキーとタバコだけ。んで深呼吸するようにタバコの煙を吸いこむと、蒸気でも吐きだすみてぇに煙を鼻と口から排出する。その後でタバコの味の余韻が残ってるところに一気にウイスキーを流しこむ。こんなに刺激的な嗜好品は他には存在しねぇんだ、って理解してる僕ちゃんはナイフによる鋭利な死が与えてくれる澄み渡った景色を見たい、っていう感情に押し流されたままでいたい。んで俺ちゃんのふところにある刃物を見せびらかすようにして露出させてぇ。けどそんな怖いこと出来ねぇ。だって人通りの多いこの場所で刃物なんて出したら大騒ぎになっちゃうからだ。小心者の僕ちゃんは刃物の滑らかな感触をポケットのなかで味わうだけでそれを外に出したりは決してしなかった。騒動が持ち上がる前にトンズラぶっここうっていう心構えでいたい。んで反射した光が瞳に映しだされ、それに神経を集中させて、放火でもしてみるか、っていう考えが俺の思考を責めさいなんだ。でも僕ちゃん放火なんてバカな真似はしねぇ。そうするくらいだったら自分の服に着火して身体が燃え上ったほうが幾分がマシだ。んで焼けこげた肌から、ぽろりと、黒くなった皮膚が剥離し、ゆらめきながら地面に舞い降りるのを想像しちゃって、マジで嬉しいよ俺はさ。失禁しちまいそうなぐらいだし、膀胱のなかにはウイスキーの混じった液体があるしで、笑えてくるぜ。実際のところさ俺の頭のネジは外れてねぇから、理性的に思考できるという一面も持ってる僕ちゃん。胸の奥深くに孕んだ感情が全身にまで広がっていくのを感じながらアルコールが身体中に染みわたっていくのを実感する。それくらい俺は酔っちゃってるってわけ。んで脳天から脳汁が血液と共に噴出するのを旋毛あたりで刺激として感じ取って、俺ちゃん不様に地面を這って進んで行きてぇのさ。そう、兵隊がほふく前進するみてぇによ。なだらかな丘のように平坦ともいえる女の乳房を見ていると同情の念が胸んなかに蛆虫みたいに湧いてきちまう。俺は豊満な身体つきをした女を抱きてぇんだ。やせ細った身体をした女なんて死んでも抱きたくねぇ。飽きれるほどの情欲に支配された俺ちゃんは風俗に行きてぇと思ったが、セックスするなら誰のチンポコも入ったことのない処女の身体がいいけど、それって絶滅危惧種じゃね、って結論に行きつく。俺ちゃんの脳から粘液にまみれた思考を取りだして誰かに見せてやりてぇ、頭蓋を切開されたいのさ、医者が扱うような銀色に輝く美しいメスの切っ先でさ。んでもって俺ちゃんの頭部が切り裂かれ、その奥から痙攣するかのように振動している脳が姿をあらわす。睡眠薬を血管に注入されて眠っちゃってる俺は、広大な大自然が見える景色、という夢の中に意識が埋没しちまってる。痛みはまったくこれっぽっちも感じねぇ。ただ草原を全裸でチンポコを振りまくりながら駆け回ってるんだ。チンポコをぶちこませてくれる女なんて一人もいねぇのに、俺のアレは勃起して矢印のようにお日様を指し示している。太陽から降り注ぐ光は全身にまとわりつく様にして俺の身体をチンポコごと優しく、子供をあやすように包みこむ。光の粒というおしゃぶりをされた俺ちゃんは、何も喋れなくなるが、いま話したいことなんて一つもねぇのよん。んでもって夢のなかを亡霊のように頼りない足取りで歩いてる僕ちゃんは、おしゃぶりを噛みちぎり、空気を口から肺へと送りこむ。夢のなかだから窒息はしねぇだろうが、何となく息苦しかったんだ。んで晴れて俺の口は自由になって言葉を発せられるようになる。でもここにあるのは沈黙だけで、俺は無言をつらぬき通すっていう偉業を成しとげた。成しとげちゃったんだ。辺りに満ちた沈黙の欠片が俺の頭につき刺さり俺ちゃん流血しちゃう。んでもって沈黙を破ったのは一羽のカラスの鳴き声だった。あの金切声のようなもんが俺の耳に入りこんで鼓膜を破ろうとしてるが、鼓膜はその鳴き声を跳ね返した。ただカラスの声が残響となって俺の耳に轟いているのを鼓膜で味わいながらナイフを取りだし、あの羽を切ってみてぇって夢想に捉われる俺ちゃん。予想だにしてない出来事が俺を驚かすのはもう何年も前の話で、今は最高の多幸感をおぼえながら生活してる。んでもって、ナイフの先端をカラスの優美な黒光りした身体につき刺す。んで血が噴出し、俺はそれを舌ですくって味わった。強烈な錆の味が口のなかにぶわっと広がり、俺はもうウイスキーじゃなくて血をすすって生きていきたいのだと決めちゃった。んでもって膣内に挿入された俺の意識がめちゃくちゃに振り回すナイフの様にその湿った内側をえぐり、先端につき刺さった肉を取る。それを食べると牛肉のような深く濃厚な味に俺ちゃんの魂が破裂して内部の白い液体が飛び散った。んでトランプを使って新たな遊びを考えてぇのに、先人がやりつくした遊びしか思い浮かばねぇ俺は、悲しい気分になっちゃってる。食後のデザートは幼女の柔らかで温かな排泄物だ。んで歯のあいだに挟まったウンコを舌でこそぎ取り、苦味のある固形物を飲みこんだ。胃に収まったそれは粘膜を汚染していき、また俺の尻から排泄物として流れでるだろう。ぐるぐる巻きにされた俺の身体が簀巻きのようになるのを全身で敏感に感じながら有害な分割された左脳と右脳をくっつけるという作業を脳内でしてみる。すると脳からドーパミンが噴出して、血液に乗って全身を循環する。んでもって思考を酷使し、アイディアを搾りだす俺は、一滴の乳液を飲みたいんだ。いや一滴だけじゃ足りねぇ、おびただしい量のミルクを嚥下してぇんだ。白濁した牛乳を飲み下すと、菌により腸が活性化されて快便だ。ウンチちゃんは俺の肛門からひり出されて、とぐろを巻いて便器のなかに落下する。黄色っぽい健康的な便に俺は顔をほころばせちゃう。人生に必要不可欠なのは酒、タバコ、女だ。俺はウイスキーを飲んでタバコをキメながらセックスかますと、あまりにもの刺激に脳みそどうにかなっちゃいそうなの。脳みそが溶けて頭蓋の底に沈殿し、鼻をつんざくような臭気を漂わせる。俺ちゃんまともに物事を考えられなくなり、不感症、一歩手前。んで脳の中身をぶちまけたいっていう絶妙な衝動に突き動かされてナイフを誰かの身体に刺したいっていう感情があふれ出てきやがるから、全身にみなぎったその衝撃的なほどの力の奴隷になる。観念に駆られて殺人を犯すだなんて滑稽な真似したくねぇのは、俺が人としてまともに生きてるからだ。最後に残った理性をかき集めて、自分の身体の動作を制御しなくちゃならねぇ。けどコントロール不能に陥った俺の判断力は失墜して、戦闘機じみたそれの翼はひしゃげて壊れる。両翼の折れた戦闘機ではもう空には飛び立てないと知り、ショックを受けちゃうのよねん。ところで街を練り歩く俺のズボンのポケットからは、黒い穴だらけの手袋がはみ出てる。それが俺の気分を萎えさせてもう一生、勃起できない機能不全におちいったチンポコの皮を剥いて光沢のある亀頭をあらわにさせるなんて事できねぇ。指をしゃぶりながら巨大な象の心臓を頭に思いえがいてみると、芸術的なほどの造形をしたその臓器と、自分のちっぽけな心臓と比較してみると、あまりにもの歴然としたその差に悲しい気持になっちゃうの。だけどだけどだけどさぁ、俺にはタバコの煙が充満した肺があるから正常に呼吸できて絶えず新鮮な空気を取りこんじゃってるのさ。それを二酸化炭素に変えて口から吐きだすと華やかな花々が呼吸するように体内に取り入れる。というよりも花々は確かに深く呼吸しちゃってるんじゃねぇの。密度の高い粘液が絡んだ指先を太陽の光に透かして見れば、感動的なほどの美しさに魅了されちまう。んで身体の中で築き上げられた筋肉により、人間としての第一歩を踏みだせそうな気がした。でも俺ちゃんろれつが回らないくらい飲んだくれて、アルコールを顔面で浴びて、その琥珀色の液体が上着に染みわたっていくのを感じたい、という欲望に負けそうになって、寸でのところで踏みとどまった俺ちゃんの人生は希望に満ちあふれた気違いじみた光が乱反射して、望んでいたことが叶った俺ちゃんは寂しいという矛盾を孕んだ気持ちになっちゃって、まだまだ生を噛みしめていきたい、死なんか全然まったく望んでいやしないんだ、と気づいちまった。んでもってハンドルを握り運転中の俺ちゃんは窓を開けて外の景色を見るっていうあてもない地平線に自分のしょぼい未来を重ねるっていう無意味なことをしたくなって、んで気乗りしないので窓を閉めちまった。車のなかに充満するタバコの煙が鼻と口から肺に流れこんで俺はむせそうになるものの、タバコを喜んで吸いまくった。根元まで吸いきると、まだ先端に残ったわずかな灰ごと灰皿に突っこむ。俺ちゃんの輝きに満ちたこれから先、起こるであろう事象に心を研ぎ澄ませてみれば、鋭利な刃先で獲物を狙うような目つきになっちまう。んで俺の脳に差しこまれたナイフの刀身に狂気じみた性質をおぼえて、ナイフの餌食なんかにはなりたくねぇなって思っちゃう。巡り合わせを信じる心があれば犬畜生にも劣る俺でも人生を謳歌できるかなぁ、いや出来ねぇか。だって俺ちゃん人生なんて結局のところどうでもいいし、惰性に身を任せたまま生きていてぇんだもん。んでバターナイフでパンを切ってその欠片を口のなかに放りこんで咀嚼した。ジャムもマーガリンも付けてない麦本来の味わいに俺は幸福感をおぼえた。これだけで幸せになれるなんて、俺はなんて安っぽい男なんだろう。でもそれでも良いんだ、ってのは俺が乞食のように飢えてる駄犬みてぇな生き物だからだ。駄犬だとしてももっとマシなもん食うか、っていうひらめきにも似た考えが脳裏に亡霊のように浮かび上がり、照明器具がその思考を照らすと、それはすぐさま消失する、っていう奇妙な事態になるものの、俺ちゃん限界を越えちゃうためにやらなけりゃならないのは、幼女の清らかな身体に接吻するっていうことだ。幸福を感じる機能が人間には本来そなわってるが、何かの拍子でそれが壊れちまってイカれてしまって麻痺した機能に頼るのも心もとないが、俺は幸せを追求する探究者になりてぇんだ。迷宮に足を踏み入れれば、もう元には戻れないんだ、って考えが俺の頭の中を支配し、恐怖に全身がふるえちまうから、脳の神経を引き抜いて蝶々結びにしてやろう。そうすりゃ俺の恐怖心も少しはやわらぐ気がしてならねぇけど、本当にそうなのかなぁ、って懐疑的でもいる僕ちゃん。これから先の未来に怯えてる僕ちゃんは、狙いを定めるようにしてナイフを車の窓に向かって投げた。フロントガラスの一部を破壊すると、蜘蛛の巣のように複雑に入り組んだ模様ができちゃった。でもほんのちょっとだけ壊れただけだからまだ前は見えるし、運転にはまったく支障がない。だから俺はご機嫌に鼻歌なんかを鼻腔を駆使して歌いながらハンドルを握り、軽快に運転を続ける。あれー俺ちゃんいつから運転してたんだろ、記憶が闇のなかに葬られてるなぁ。まぁいいか、とりあえず車を止めようと思って、駐車場に向かった。左手のすきまにタバコが四本あるが、火は点けちゃいない。ただの悪ふざけでこうしてるってわけ。開いた方の手で運転を続け、やがて駐車場が見えてきたので、車をゆっくりと、他の車にぶつからないように大切に駐車する。んでウイスキーの小瓶が助手席で寝ていたのでそれを手に取る。もちろんウイスキーはいびきを掻いてたりしねぇで大人しくしてる。俺ちゃん片手で蓋を開けると中身を一気飲みした。あーこれこれこの刺激が俺ちゃんが求めてやまない人生の味がするするする。んでもって指のあいだに挟んだ四本のタバコの火を灯し、大量の煙を味わう。どの指のすきまにあるタバコから吸おうか迷っちゃうけど、別に人差し指と小指のタバコで味が変わるわけねぇ。でも気分は変わる、変わっちゃうんだ。移り変わる日常から僕ちゃんにラブレターが送られてくる気がしてならねぇ。繊細な文字でつづられた愛情たっぷりの手紙を読めば、俺ちゃんの内部にときめきという感情がわき起こっちまう。俺ちゃんからも手紙を返せば、これは文通ってやつじゃん、って一人ほくそ笑んじゃう。俺の字は凄まじく汚い。ミミズがのたくったっていう先人が腐るほど表現してきた例えを用いて、俺は自分で自分の字を嘲笑う。それくらい薄汚い字だし、いくら練習しても一向に上手くならねぇんだ。シャーペンならまだマシに書けるけど、ボールペンなんか俺に握らせた日にゃ、そりゃもう古代文字みてぇな字を書いちゃう。エジプトだかの洞窟に描かれた壁画の横に書かれてる訳わかんない文字じゃん。んでもって俺を照らす青白い車内の小さな電灯に自分でも理由のない憎しみを感じちゃう。タバコとウイスキーは相変わらず刺激的な嗜好品で、俺をこの上なく満足させちゃってる。俺の感情が血液みてぇに胸から噴出する幻想を見た。確かに見たんだ。んで蛆虫みたく這いずり回るクソみてぇな人間に死を与えてぇ。優しくて穏やかな死を鉄槌のように下してやりてぇんだ。そうりゃゴミにも劣る人間どもを破壊できて、マジで脳の神経どうかしそうだよ。死に絶える前に激痛を与えて醜悪な死体にしてやりてぇ。そんな俺の欲望が爆発しそうだし、俺は勃起してるしで、恍惚とした気分になっちゃう。俺の芸術的な破壊に勝るものはこの世には存在しねぇが、あの世にはもっと壮絶な何かが待ちうけてるかもねん。それは俺の想像すら凌駕するぶっ飛んだものなんだから、俺はまだ血をすすって生きていくっていま決めた。まさに決めちゃったんだ。俺の脳が吹き飛び、まっさらなリアリティだけが頭蓋の内側にこびり付いて離れねぇ。んで銃声を耳にした女の金切声を想像してみる。だって想像は自由だし、何を思いうかべても良いんだ。発射された銃弾を繊細な手つきですくい取りながらするオナニーは各別だろう。つまりこれって比喩ってわけで、実際には銃弾に意識を触れさせるだけで終わりだ。本当にもう言葉の羅列がまどろっこしくて自殺しちゃいそうなのねん。ナイフか拳銃かどっちを選べと言われたらナイフにより刀身で腹をかっさばいて欲しいと懇願するだろう。俺の願いが聞き届けられ、俺は安らかな寝顔で死ねるってもんだ。でも俺はいま死んだりはしねぇ。なぜならいずれは嫌でも誰でも死からは免れねぇんだって直感、つぅよりも、これは常識。俺ちゃん少しだけ賢くなっちゃったって錯覚して、でも俺ちゃんはバカで惨めで犬の糞にも似た感情を抱いてるって自覚しつつも、俺の脳からあぶり出された一筋の思考は至高なる神に傾倒するのを止めるように電気信号を発してるから、聖書をひき裂くって真似が出来そうで出来ない。出口のないトンネルをあてもなく歩くのも疲れたから、ここいらで一発逆転の行動に出ようと思ってる。つまりそれは自殺か殺人のどっちかで、どっちを選べと言われたら俺は自殺と答えるだろう。俺には悪魔の声が聞こえていて、そいつらが俺に命令を下してる、ってか身体をのっとって喋りまくりの自傷行為しまくり。俺の手首や胸にはナイフで刻みつけられた生々しい傷跡があり、それはケロイドへと変貌している。悪魔の指示に従わなかったら殺すって言われてるから、もう奴隷のように命令に従うしかねぇ。それってぶっとんだ人生とは程遠い、他人の人生をなぞって生きてるって感じで、俺は死にたい。悪魔がぺちゃくちゃと頭んなかで四六時中おしゃべりしてるから俺もそれに混じって会話を楽しみたいのに、悪魔は当然のように口が悪いから、俺ちゃん悲しくなっちゃうの。つまり悪魔と会話してると、嫌でも精神的な打撃を受けちゃう。でも奴らは俺の頭ん中でくっちゃべりまくりのうるせぇのなんのって。んで俺は悪魔を取り払うために神に祈ったりはしねぇ。なぜなら悪魔より遥かに神のほうが残酷だからだ。悪魔なんてまだ可愛いほうだ。神は俺に残虐で残酷な人生をプレゼントしてくれたからその腹いせにこのナイフの切っ先で眼球を抉りだしてやりてぇ。それが俺が神に与えるゆいいつの贈り物だ。んで血が噴出する神の肌には、神秘的な光が宿っていやがるから、その神々しい輝きを放つ神の肌をひっぺがして、その残忍な本性をあらわにさせてやりてぇ。キリスト教の信者はぶったまげるだろう。神に祈るなんて馬鹿な真似したくねぇ俺は、胸部で銃弾を受け止めてマジで最高の気分だよ。んでもって人生を破壊する罪なるものがあるとしたら、俺はそれを喜んで受け入れるだろう。クソ神のクソみてぇな人生にはうんざりしちまう。何でこんなしょぼくてうだつの上がらねぇゴミカスみてぇな人生を俺に贈ったんだ、という疑問が胸を占める。それは神の性質が残忍だからに他ならねぇ。神は俺をどうしたいんだろうか、いっそ心臓発作を起こして殺してくれればいいのにな。でもでも神は俺を生かして、生き地獄を味あわせたいらしい。だってこんなに惨めな人生、他ではお目にかかったこと無いんだもん。俺だけが俺だけが俺だけが何でここまで苦しまなきゃならねぇんだ。もう恐怖と不安で俺ちゃんの胸は一杯。どうやら悪魔が言うにはその負の感情は奴らが送りこんでるとのことだ。いっそ悪魔をふり払い、俺の俺だけの人生を噛みしめながら生きていきてぇんだけど、悪魔の支配下からは死んでも逃れられねぇ。いや、死ねば逃れられるんだろうっていう確信はある。精神科医のお医者さんが威厳たっぷりに述べるには、悪魔の声の正体はただの幻聴だってわけで、俺は悪魔を信じて信じて信じ切ってたからそう言われても戸惑うしかなかった。俺はまだこの声をただの幻聴だとは確信できずに、何者かの、そうだな、宇宙意思による不快な声音じゃねかと踏んでる。俺は唯物論者なんかじゃねぇ、輪廻転生を信じてるっていう殊勝な気持ちも持ち合わせている破滅型の奇形ヤロウさ。だから俺は酔っぱらいながら駐車場を出て、ふらついた足どりであてもなく歩く。俺が求めてんのは柔らかい肌による温かな抱擁だ。でも俺を抱きしめてくれる人間なんてこの世に存在しねぇんだって深く理解してる。あの世に逝ってこの世におさらばしたい、っていう願望をアイスピックで粉々に砕きたい。でも俺ちゃんは確かにここに存在してる紛れもない一人の人間なんだ。いや、人間に過ぎねぇ、って表現したほうが適切かもしんねぇ。とりあえず俺は、路上に腰かけて、ウイスキーの瓶を傾けて、アルコール度数四十パーセントの刺激をノドの奥深くで味わう。んでタバコを取りだし、火を点けると、思いっきり煙を吸った。吸っちゃったんだ。口内に充満する煙を舌の上で転がして、鼻から抜ける煙の香りを堪能する。んでもって生きてるって実感できるのは、この嗜好品たちがあるからだ。俺ちゃんは処女膜をナイフで貫きたい、そして膣内の肉を抉りだして食べたい。そんな欲望が果てのない砂漠に落ちた一滴の雨のように俺の脳内にじんわりと広がった。んで残ったひと欠片の理性を拾って、俺の脳に差しこみながら、夕暮れの時間が来るんだ、ってこの瞬間に悟った。んで理性なんてもんは丸めて捨ててやりてぇが、人としての境界線上にとどまっているには必要不可欠だから、脳に組みこまれた理性を頼りに今日も暮らしている。俺の生活は退廃的の一言に尽きる。廃れた日常からあぶり出されたスリルのある人生に変わっていく過程をじっと凝視していてぇ。痛みにも苦しみにも慣れたなんて口が裂けても言えないけど、徐々に俺の精神は落ち着きをとり戻していってるのだという予感がした。鋭敏に感じとった痛みや苦しみは俺を押しつぶそうと躍起になってる。その圧力に負けたら俺の人生はもうお仕舞、ちゃんちゃん終わりだ。でも俺は人生という名の重圧に屈しないでいられているが、何度も心が折れそうになっていた時期もある。人生の奴ときたらマジで厄介だね、肥だめみてぇな鼻腔を刺しつらぬくほどの悪臭のする日常に回帰するのは嫌で嫌で堪らねぇな。俺が夢にまで見たスリルのある日常に入りこんで、それを楽しみながら過ごしてぇんだ。んで楽観主義、というより悲観主義な俺は、有害な人生には飽き飽きしちまったから、天国への階段を上っていきたいと思う。天国の扉は閉ざされていて、いくら叩いても足で蹴っても開かねぇのよ。だから扉のすきまにナイフをねじ込んでこじ開けようとするが、何と刀身が折れちゃった。凄まじい悲しみが大波となって俺を襲い、俺ちゃんそれに飲みこまれてお陀仏だ。でもでもまだまだ俺の悲惨な人生は続くっぽい、てぇのは俺が生を享受している瞬間に輝いた一条の光のごとくひらめきが頭に降りそそいできたからだ。俺ちゃんそんなアイディアを隅に押しやって、新たな思考遊びをしようって決めた。その遊びってぇのは、天国の扉に銃弾を撃ちこんでやる、っていう想像だ。このお遊戯は功を奏したようで、俺の視界が鮮明になりやがったから、俺は顔に満面の笑みを浮かべ、よだれを垂らしながらまだ発砲する。でも想像上のお遊びだから、現実は嫌になるくらい変わってねぇ、ってのが本来の姿なんだ。そこからリアリティをあぶり出し、現実という歯車から非現実という歯車に取って代わる。んでもって銃殺した天使の身体からあふれ出てくる血液は人間のものとまったく変わらねぇ色をしてやがるから、何かつまんなくて、俺は他の天使を殺すのを止めた。ただナイフでいま殺したばかりの天使の足首を切る。すると柔らかなハムみたいにナイフは天使の肌にすべりこんで容易に足を切断できた。なんでこんなに柔らかな肉をしてるんだろうって考えて、でも人間のとは違うから、それは当たり前だ、という結論に至るまでの過程を綿密に描写するために、筆を取るのも悪かねぇじゃん。でも俺は日記を書くための鉛筆を折って、ナイフの持ち手で粉々に粉砕した。だから言ったじゃん、これが真実ってわけじゃん、これ以外に真相はねぇじゃん。って口にしたところで所詮はしょぼくて下らねぇ品物しか手に入らねぇのよ。それって情けなくて悲しくて、でもどこか感動的な事柄じゃんね。んでもって針の先端で皮膚を叩けば、じんわりと血が滲みでてくるのを昆虫の触覚なるもので捉えて、必要以上に迫る男に鉄槌を下してぇが、それって悪あがき、つまりはガキのお遊戯ってわけさ。んで脳震盪しそうなほどの快感が俺の意識をさらうかのように引きずりだし、本来の俺自身の個性を取りもどす。そんな事象が俺ちゃんをリアルに引き戻してくれる。そんなこと頼んでねぇのに嫌でも現実に立ち返らざるおえねぇんだ。悲しみは次の悲しみを引き寄せ、喜びすらも悲しみを引き寄せる材料でしかないとしたら、それは胸が潰れてしまうほど悲しい。ところで俺ちゃん意識を取りもどすと、車のなかで寝ていたんだと分かる。あれあれーじゃあ今までの体験ってぜんぶ夢じゃん、って答えにつき当たる。ってか幻覚の一種だったのか、とちょっとだけ驚いちまうのさ。突き当りでは、アクセルに込めた足の力をゆっくりと緩めて減速しなきゃならねぇし、結局のところ、ブレーキを踏むハメになる。なっちゃうんだ。窓から吹きこんだ風がタバコの煙をさらっていくのを知覚しながら、ビンゴ! 俺ちゃんの下らねぇ人生はこれで終わりだね、っていう確信が胸を締めつけてくる。締めつけられたベルトからはみ出るぜい肉には参ったぜ。だってそれって俺ちゃんが太ってるっていう証だからさ。んで奇形の思考でつらぬいたまっさらな現実を直視したくなくてそっぽを向いてしまう。果実の皮を剥き、果汁で潤う果肉を見ていると楽しい気持になれる。それって俺がまだまだ人間であるっていう証拠に違いなくて、それが証明されるために波紋状に広がる何かを欲したくてうずいてるんだ。んでもって終わりのない人生に終着駅を探す、っていう無意味なことをしみると、列車の先端に取りつけられた車掌室から前景が見渡せるんだ。あー俺ちゃんもこれでお仕舞か、ちゃんちゃんって口に出しそうになるものの、何とかその言葉を咀嚼して飲みこむ、っていう一種の神秘的な儀式をしてみる。禁断の儀式、洗礼された儀式、純心無垢な儀式。それらが俺ちゃんの内部で拡散するようになり大きな翼で羽ばたく鳥みてぇに胸の中から飛び立っていくのを視界の隅でとらえながら飲むウイスキーの味ときたら! 他には代えがたい高級な宝石みてぇなものなんだ。それはダイヤモンドに違いなくて、削りとられて原石から六カラットのダイヤになるまで、どういう工程で作ってるのか一度くらいは見てみてぇもんだ。んでダイヤなんて俺の身に余る代物だから、それを手に入れても、身に着けたりは絶対にしたくねぇのよ。俺ちゃんの絶対的な観念を破壊し、飛び散ったその破片を墓標に飾りてぇ。墓碑銘は混沌って刻んで欲しいんだ。それって何だかキングクリムゾンの二十一世紀の精神異常者に出てくる歌詞みてぇでイカしてんじゃん。クリムゾンの奏でる音楽ときたら大胆でかつ芸術的、その音色を耳にしてると俺はぶったまげちゃう。手に汗にぎるほどのスリルのある演奏をしやがるから、俺は胸躍り、頭をめちゃくちゃに振り乱して全身でリズムを取っちゃう。子供を孕んだ女の腹の内側で胎動している赤子のかたまりを取りだしてナイフで傷つけてぇ、っていう願望が膨張していくのを感じる。んでもって薄汚れたこの手では女の涙を拭えないと悟り、悲しくなっちゃうのよねん。次に腹に受けた衝撃により、俺ちゃん後ろにふき飛んじまう。それはあのタバコを愛してる俺の部屋にいた長髪の男がくり出すこぶしだ。俺ちゃんその一撃により気持ち悪くなって、ゲロを吐きに吐きまくった。輝く嘔吐物が口から這い出てきやがるから、俺は胃の中の固形物をすべて出そうとして、嘔吐しまくりの吐きまくりのゲロりまくり。んで固形物が無くなり、黄色い胃液だけが吐きだされる。黄金水って表現がぴったりなほど、俺の吐く液体は美しく輝いてやがんの。んで吐ききった頃に俺の足に蹴りが飛んできた。無慈悲な暴力から自分を守ろうと躍起になってると、今度は拳銃で心臓部を狙われた。俺ちゃんなんとか腕で自分の胸をかばって銃弾から身を守る。銃弾は俺の身体をそれて民家の塀にめり込んだ。美麗な銃声を耳にした俺ちゃんは心地よくなってちょっとお眠なのねん。でもでも、ここで寝たら今度は本当にあの男の的に成り下がるしかねぇんだ。だから俺は何とか眠らずに済むために、カフェインを摂取したくなって、熱い熱いコーヒーを飲みたくなった。けど、ここにはそんな気の利いたもの存在しねぇから、代用品としてウイスキーを飲もうと思う。あの強烈なアルコール度数の酒なら気付け薬の代わりにはなるだろう。んでもって脳漿をぶちまけて死にたいっていう欲求に抗うために理性を総動員しなきゃならねぇ。ぶっ倒れた俺に近づいてくると、男は俺の額に狙いを定めて引きがねを引いた。引いちゃったんだ。一度はなたれた弾丸は当然のように銃口には戻らねぇ。俺はただそれを額で受け止めて、強烈な熱を持った痛みを感じとるだけ。それだけで済ますのは俺が他殺志願者じゃなくて自殺志願者だからだ。俺を殺してくれてありがとう。名も知らぬ男よ! 俺は俺の死体を俯瞰しながら眺めてる。これって幽体離脱? それとも魂が昇天しかけてるのか? まぁそんな事は些末でどうでもいいので、俺は自分が死ねるっていう喜びに感謝する。神になんて感謝しねぇ、俺が感謝するのはあの醜悪な見てくれをしてる悪魔にだ。悪魔は俺に死という安らぎを与えてくれたんだ、ってのは冗談で嘘で方便かもしれねぇ。ってのは俺の魂が車輪に引きずり戻されるように死骸に入ったからだ。あれあれ何でだー俺ちゃん生きてた。今しがた殺されたばかりのはずなのに、身体が自由に動いて物にも触れられる。拳銃を持った男の姿は跡形もない。俺が悪魔に親近感すら覚えちゃったところで、自分がまだ生きてるっていう絶望的な状況になっちまってるんだ、と理解して涙を流した。とめどなく両目からこぼれ落ちる涙は頬をつたって地面に落下する。情緒不安定な俺ちゃん。俺ちゃんが理性を取りもどすのはいったいどのくらい先の出来事なんだろう。俺はここで自分が体験した現象は幻覚と幻聴なんじゃねぇのっていうひらめきに突き当たった。そうに違いねぇ。じゃなきゃこの不可解な出来事に説明はつかねぇんだ。だったらどうする? 医者に診てもらうか、それとも現状維持か、どっちかを選べって言われたら現状維持だって答えるね。とにかく幻聴と幻覚って分かった俺の物語はようやく始まった気がする。気がしちゃうんだ。悲劇と喜劇どっちかと聞かれたら俺はその両方が入りまじった観劇だと答えるね。もし俺の人生が悲劇だとしたら、こんなにやり切れないことはないだろう。喜劇だとしたら、こんなに楽な気持にはならねぇだろう。だから両方が混濁した澱みのように心に沈殿する劇場のようなものなんだ。舞台に立つのは俺ちゃんと、俺を妄想のなかで殺した男なんだ。あの男は一体、何者なんだろう。正体を知りたいと望むのは、俺の身に余るかもしんねぇ。そんくらい俺は自分をクソだと思ってる。それほど自分自身を客観視できてるんだ。その筈なんだ。そうじゃなきゃ俺の価値観がおかしいのか、ネジが外れてんのかどっちかだ。俺ちゃんの時代が始まるのか、そうなのか、それは胸躍るような事象なのかっていう疑問が頭んなかを駆けめぐる。そう、全身に血液が駆けめぐるようにね。アルコールを摂取したくなっちゃったけどウイスキーはもう無いんだ。ポケットから財布を取りだしなけなしの金を数える。これっぽちしかねぇ、ATMで下ろさなきゃならねぇけど、カードは家に置いたままだ。まだ酔っぱらってる俺は爆弾を作ってみてぇ、ていう感情がわき起こった。あの複雑に入り組んだ造形美に惚れちまってる俺は、誰かを爆破させたくて脳がうずいてる。車では数分のこの場所でも歩きでは数十分かかる。俺は時間を頭んなかで勘定しながら街を練り歩く。車の中から見る景色と、実際に外の空気を感じながら見る景色では何だか趣がちがう。俺ちゃん、車よりも全身で風を感じられる徒歩のが好きだって気づいちまったね。カレー屋、銀行、デパート、色とりどりの街の景色が俺の眼球に飛びこんできて、俺ちゃん嬉しくなった。いつも俺ちゃんはこの胸に喜びを感じるとタバコを吸いたくなるんだ。だから喫煙所で小休憩。タバコにライターで火を灯し、一服する。あーこの時間はかけがえのないものなんだ。いつもそういう思いに捉われながらタバコを吸ってる殊勝な僕ちゃん。周りにも愛煙家たる人間どもがうじゃうじゃいやがるが、そんな事はまったく気にせず、吸いに吸いまくる僕ちゃん。煙を吐きだす時に鼻に抜ける香りがとてもイカしてる匂いを発散させてるんだ。一本吸い終わると、またもう一本吸いたくなっちゃう俺はチェーンスモーカーなのよねん。たっぷりと十二分かけてタバコを吸い切ると、喫煙所を後にしてまた歩き出す。タバコに似た嗜好品はないか、タバコの代わりになる嗜好品はないか、と探しもとめる俺のこめかみに付着した埃のせいで情けない気持になっちゃうのよねん。んで脳細胞が破壊され、真実にも似た感情がわき起こる。抱かさせくれる女なんてこの世に一人たりとも、微塵も存在しねぇんだ。女の柔肌に抱かれて眠りたいよ、っていう気分だ。んで俺ちゃん胸部を傷つけて、これって精神病院に入院じゃねぇの、って考えが蛆虫みたく湧いてくる。蚤が飛び上がる空想をしてみると、俺の人生の開幕ベルが告げられて、喜びの念が胸に去来する。俺の下らねぇ日常から、非現実への世界への開幕の合図だ。んでもって、それって脳みそぶっとぶほどの快感を全身で味わうことじゃん、そうに違いねぇじゃん。後ろを振り向いて、誰も後をつけてないのを確認する俺ちゃんは被害妄想が過剰な病人でしかない。だから俺の太い血管にお注射して、琥珀色の液体を注入してくれ、って誰にともなくつぶやく。俺の声は大空に吸いこまれて消えていく、というのを敏感に感じとった。鋭敏な思考で物事を考えると、物事は滑らかに軽々と進んでいくんだ、ってそんな訳ねぇ。そうだとしたら俺の暮らしはあまりにも簡単にいってるだろう。でもでも、日常なんかにわずらわされたくねぇ俺は、頭蓋の欠片をこの手のひらに乗せて、それを握りつぶすようにして指を閉じた。骨だから固くてつぶせないけど、鋭利なその感触は手のなかで十分に感じられるんだ。それが楽しくて、俺は一人で大笑いしてしまった。通行人の視線が俺に集まるから、ウイスキーを傾けながらそいつらを睨みつけた。俺の髪は油でべっとりと頭皮に張りついていて、ところどころほころんでる衣服が、俺を乞食みたいな風貌にしちゃってるんだ。でも俺は乞食みてぇに物乞いしたりゴミを漁ったりしねぇから、まだまともな人間だと信じたい。ただ信じれば、俺は孤独から解放されてマジでハッピーになれるはずなんだけど、そう現実は上手くいかねぇ。孤独は俺の心を昆虫が草を食べるように徐々に蝕んでいって、穴だらけにしちゃう。悲哀と郷愁が胸にこみ上げるのは、早く夕暮れを見たい、っていう感情があるからだ。でもまだ夕日が現れる時間には早いし、夕日は雲に覆われて視認できなくなってしまうかもしれない。俺の中の絶妙なバランスを保っていた均衡がもろく崩れ去り、大地に植えつけられた種から生えでてきたつぼみから滲みでてきた液体の味は脳がぶっとぶほど美味い、と想像してみると、俺の脳は制御不能だなっていう感想とともに、繊細な情感が噴出するように胸のなかを支配する。俺の神経なんてどうてもいい腐れウンコみてぇなものなんだ、という思考が頭ん中でぐるぐると回ってる。んで自然的に憂鬱になった俺ちゃんが次に出る行動とは一体なんだろう、って疑問があるものの、頭を振ってそれを拭い去る俺の脳細胞から鼻腔を刺しつらぬくような悪臭が漂ってるので、自殺を願い、睡眠薬を大量に飲みながら眠る俺ちゃんのおしゃぶりはもう何処にも見当たらねぇし、最悪、肥だめみてぇなぬかるみかに足を捉えられて転んじゃいそうになっちゃうのよねん。人生ってのはまだまだ分からねぇ破壊的な代物だ。先の尖ったナイフでえぐり出す肉からは腐臭が放たれていて、もうそれを食べられないんだと嫌でも理解しちゃうし、腐肉を漁るのは飽きたし、人生という名のレールを進むのもうんざりしてる。だから俺ちゃん自分の生活を再生して、復活した俺は脳が痺れるほどの甘いミルクが欲しいだけじゃん。それをノドを鳴らしながら飲みまくりの、溜飲しまくりで、マジでヘドロが口のなかから這い出て来そうなほどむせちゃうんだ。んで艶やかで滑らかな食感をしたおしゃぶりを口に付けて赤ちゃんの真似事。バブー僕ちゃんおっぱい欲ちいでしゅー。んでもってそんなバカな真似をしてる俺を一人の女が優しくあやす様に抱きしめてくる。顔を挟んだ乳房の感触により俺は心地よくなっちゃってちょっとお眠さん。でもアレが起ったりはしねぇえ、ってのは俺が赤ん坊になりきってるから、性欲なんて粉みじんに砕け散ってしまっているんだ。んで嘘みたいに晴れやかになった空を見てるとアレが萎えちゃうのよねん。萎んだソレは何か湿った洞窟を探し出したくてうずいてるから、俺ちゃんの脳に注入された液から音を拾い上げるという行動をしてみてぇと思った。ベルが聞こえる。人生が開幕する合図を知らせるベルだ。心音にその音を重ね合わせて宙に霧散したエネルギーを凝縮してみる。笑顔をこぼす女の想像力には驚きの色を顔から隠せずにいる俺ちゃん。ゲロみたいに皮膚のすきまに染みわたる風が気持ちよくて、嘔吐物をぶちまけちゃう。ナイフの切っ先でえぐり取った肉をまともに直視すれば、電気信号のようなものが脳から手につたわり、わずかに指先を振動させた。人差し指に触れる花びらの感触が優しく俺を薄暗闇のなかへいざなう。だから俺ちゃん脳漿をまき散らかしたくてクソをひり出すみてぇに日光を搾りだす太陽に感激しちまう。んでもって、最悪の日常に回帰する運命なのだとしたら、俺を殺しかけたあの長髪の男はそれほど残忍な笑顔は浮かべないはずだ。柔らかで温かな肌に触れた時に感じる電撃的な感触には参っちまう。それって素敵なことじゃん、って声を大にして言いたいが、このぬかるみに足を取られてまともに歩けずにふらついた酔っぱらいみてぇな足どりになっちゃうものの、俺は全力で力をふり絞って歩き出すのさ。その先には栄光が待っていると信じながら歩む俺ちゃんの脳にぬくもりのようなものが伝わってきて、余りにもの喜びに失禁寸前。んで太陽の光を吸いこむ大気から発散されたプリズムみてぇな輝きを欲してるのに、それは手をすり抜けていき、掬えない身勝手な心情に見たあの日の未来がいま現在に紐のように繋がってるのが優しい旋律を耳にするための胞子になってるんじゃないだろうか。って脳内で意味の分からねぇ言葉の羅列がミミズみてぇにのたくってる。綿毛が空を舞い、種子を地面に植えつけるために、大空を旅して手ごろな土を見つだして、そこにゆっくりと舞い降りるのを視神経を通して脳にまで伝達し、その情報の渦を瞳から飲みこもうとする。視界に映しだされた美しい情景を、涙が出るほど凝視すれば、もうその水滴は床に垂れ落ちるだけだ。俺はただ超高速で逆回転して涙が眼球に戻るっていう空想を広げる。拡散した誇大妄想はとどまることを知らずに膨張していき、やがて言葉という名の針がその艶やかな表面に差しこまれて破裂して中身をぶちまけちゃう。んで全裸になり、陽光を全身で浴びると血の巡りが良くなって、血液が心臓から動脈に流れて静脈を通してまた心臓に帰っていくという循環が細胞という加速装置により一気に速まる。んでもって脳の神経を酷使して性病を払拭できればそれだけで良いんだ。つまりは僕ちゃんの病気は治ったってわけで、でも治療してないのに治ってのは可笑しい、という考えに思考が突き当りに到達する。んですべてをこの薄汚れた手で触れて汚してやりてぇ。俺は心臓が胸の内奥で脈動するのを感じながら手ごろな獲物を見つけて殺戮しちゃいたい。いわば俺は天からの使いで、人間どもに死という救いを与えに星々がキラめく天国からやってきたんじゃん。んでもって胸部に銃弾が埋め込まれて、心臓に届きそうなのに、寸でのところで届かないから、俺ちゃんまだ生きてるんだ、って理解しながらひりだす糞のなんと気持ちいいこと! これ以上の快感はあの世にもこの世にも存在しねぇんだ、って勘違いしそうにるものの、俺は理性を押しとどめて、現状を理解しようと努めた。すると鱗粉じみた強烈な輝きに飲みこまれそうになって、全力でそれから身体を回避させると、気がふれそうになるが、俺はまだまともな精神を持ってるはずなんだ。んでもって真実を見破るための慧眼があれば俺ももっと楽に生きられるのになぁ、でもそれは無理か、だって俺って愚物でしかないんだもん。回転しない頭、ほつれたTシャツ、もううんざりだ。うだつも上がらねぇし、誰も俺に目を向けてくれやしない。そんな悲しい事柄たちが俺の精神を決壊させようとして、大群となって襲ってくる。俺は知人の一人である老人を訪ねた。彼は孤独という一つの苦行に耐えながらも、同時にそれを愛してて、心底から楽しそうに暮らしてるから、俺に的確なアドバイスをくれるんじゃねぇかな。そんな甘えた俺の心を見透かしてか、老人は茶目っ気のある含み笑いを浮かべながら、俺を孤独から救いだそうとしてくれた。孤独が怖いんじゃねぇ、絶望が怖いんだ、って説明すると老人はしたり顔で頷いだ。「まぁキミはまだまだ若いからね。おお、前途ある若者よ!」って自己陶酔する始末だ。俺ちゃんこいつの頭のネジが外れてんじゃねぇのっていぶかって、でも老人の表情には一種の知性が漂ってるって次の瞬間わかった。んでひらめきのような知性から剥離された液状化した表情は混濁し、老人の顔をめちゃくちゃに形成する。つまりは絶妙な表情を浮かべてるってわけ。その茶目っ気たっぷりな顔にツバを吐きかけてやりたい、っていう衝動を何とか抑えた。やっぱり俺のことなんて誰も理解してくれないんだ、っていう感情が渦となって悲哀と共に胸に押しよせてくる。悲しみは青い色彩をしたしずくみてぇなものだ。その水滴を手のひらで受け止めて舐めるとしょっぱくて、これってつまり俺の涙じゃん。俺ちゃん泣いてるのか? 不様に滑稽に泣いてるのか。人前で弱音を吐かない俺は、老人に対しても毅然とした態度を保とうとして、でもそれが失敗したんだと悟る。一端こぼれ落ちると、涙はとめどなく流れ出てくる。俺の顔はぐしょぐしょ、んで老人の前で泣いちまった事実は覆せないから、俺は何とかこの場をとりつくろうとしてバカらしくおしゃべり。老人は嗚咽まじりの途切れ途切れの俺の言葉を口も挟まず最後まで聞いてくれた。その気遣いが嬉しくて、胸のなかに沈下した憂いが少しだけ、ほんのわずかだけ解消された。んで老人は家の中に入るよう勧めてくれた。俺が居間のテーブルの前で腰かけてると、老人はアリータイムズっていう安ウイスキーを持ってきてくれた。ジムビームよりはほんのちょっとだけ高いが、けっこう味に開きがある。様々なフルーツを混ぜたような香りに熟成したバナナのような味が合わさってなかなか奥ゆきのある深い味わいを見せやがる。グラスに注がれたそれを飲むと顔を覗かせた味がぶわっと口の中に広がり、憂鬱な気分がふき飛んでいきそうな勢いを発揮してる。老人は俺の対面に腰かけ、湯飲みにウイスキーを注ぐと、豪快に上体をそらしながら飲んだ。んでタバコをねだってきやがったから、俺は若干つぶれて皺くちゃになったアメスピの箱を取りだし、老人に三本ほど差しだした。老人はそれを心の底から嬉しそうに受け取る。アーリータイムズの代償がタバコ三本ってのならこれほど安いもんはねぇ。老人の喜びが俺の胸にまで伝達してきそうだった。老人がタバコを口に咥えると、俺はライターで火を点けてやった。ウイスキーにはタバコっていう嗜好品の抜群な組み合わせを理解してる老人には親近感すら覚えちゃう。覚えちゃうんだ。んでタバコを根元まで吸いきると、今度は二本目のタバコを口に咥えた。俺ちゃんが火を点けよとすると、老人は俺の手からライターをひったくって、自分で火を灯した。大量の煙が染みそばかすだらけの鼻から流れでる。んでウイスキーをまた湯飲みに注ぐと、それを一気飲みした。もう酔っぱらってるのか、目をくるくると回しながら顔を火照らせ上機嫌な老人。俺も自分のグラスに入ったウイスキーを少しずつ、味を噛みしめるように飲む。ジムビームは雑味があるけど、アーリータイムズは余計な味のしねぇ至極シンプルな味で、鼻に突くアルコールのいやらしさなんて全然まったく感じねぇ。口に含み、舌の上で転がすように味わうと、熱を持ったと錯覚しそうなほどのアルコール度数のあるその液体を飲みこんだ。マジでぶったまげるほど美味いね、この安ウイスキーはさ。黄色いパッケージのは飲んでるけど、黒いパッケージのは飲んだこと一回もねぇんだ。どんな味が俺を楽しませてくれるんだろう、って空想してると俺の想像力が反射的に働いて、いや発作的に働いて、この世にある様々な食べ物の味を思いうかべちゃう。一度くらいは飲んでもてもいいかもしんねぇ。んで水の音が吸収されるようにこの部屋という空間の中に消失していき、絶え間なく降る雨の匂いが開いた窓のすきまから立ち上ってくる。拡散する光線は雲に遮られて見えないし、雨の音は静かに振り続ける水滴となって柔らかにぬかるんだ地面に落ちる。おびただしい量の雨で濡れた地面からは土の匂いが漂ってきて、それを鼻腔という嗅覚神経を通して感じとると、ウイスキーの香りと混成して俺の鼻を優しく刺激する。んでもって老人は一度は宇宙に行ってみたいのだ、という願望を丹念に俺に説明してくるが、俺はそんな事には興味ねぇから、鼻をほじりながら老人のおしゃべりを聞き流していた。流れるような、口からあふれ出るようなおしゃべり。老人の口のすきまから薄汚い黄ばんだ歯が覗き、こいつはタバコを常習してる俺と似たような生き物なんだと悟る。つまりタバコとウイスキーがこの老人にとっての欠かせない生活の一部だってわけだ。俺だってその二つの嗜好品がないと生きていけない脆弱な取るに足らない生物でしかないんだ。んでタバコの煙を味わいながら、ウイスキーを飲むと、その繊細な味わいに俺の魂は昇天すんぜん、ってのは冗談で俺の意識は身体から乖離されてねぇし、まだまだ生という名の栄光に齧りついてでも人生を享受したい。老人は飛びだし気味の眼球で俺を見据えながらタバコを肺に取りこんで、鼻から煙を排出する。んでウイスキーをまた豪快に飲む。俺は彼を真似するようにして、一気に琥珀色の液体を飲みこむと、ノドを焼失させそうな痛みともいえる刺激には慣れているのにむせちまった。やっぱウイスキーは少しずつ、ほんの僅かに口に含んで、その脳が吹き飛ぶような深い深い味わいをうがいする様にして堪能した後で飲みこむのがイカした飲み方だ。老人のように一気飲みしたら森林のように奥深い先の見えない暗闇のなかを這うような味を楽しめないと知っているから、俺は腐れ女がワインを嗜むみてぇにちょっとずつちょっとずつ飲むんだ。と、空を舞い躍る光のなかで一機の飛行機がやかましく唸るようなエンジン音を立てながら煙を吐きだして旋回するのが窓の向こう側に見えた。んでもってその鳥のような形状をした飛行機に自分の心情を重ね合わせ、俺はどこまでも自由に大空を滑空できるんだ、と想像、ってか妄想する。飛行機の音は小さくなっていき、やがてその巨体と共に完全に視界から消えた。けどこの世に存在しなくなったわけではなく、俺の目には見えないだけで、まだ飛行機は高速で、どこか果てのような乾いた砂漠のような場所を目指して飛んでんだろう。だから俺ちゃんそれに焦点を当てて深く物思いに沈みこんだ。老人の口から流れでる言葉は耳を通過するだけで、頭の中では捉えられなかった。んで俺は一つの命題につき当たった。それは朝日を全身に浴びて生きてる人間も、骨だけになって骨壺にいれられた死人も、なにも変わりはないというものだった。目の前の老人には死が目前に迫ってるのだと思い、同情の念が胸に生まれた。俺の胸に刻まれた生々しい傷だけが俺をこの世界に繋ぎとめる鎖のような役割を果たしているのだ、と決めつけて悦に浸りながらまたグラスを空にする。飲み干すごとにウイスキーをグラスに注いでくる老人に説明のつかない憤りを感じて、俺はあと少しで怒りの言葉をぶちまけるところだったが、まだ理性という名の澱みが頭蓋の底に残ってる俺は、それを使って口をつぐむという難行をやってのけた。のけちゃったんだ。んでもって空中に霧散する黄金の輝きにも似た空気の層をつらぬきたくて脳が乾いていくので、思考という脳汁を足さなければならなかった。思考は魂を隷属すると信じてる俺の脳の回路はすこし狂ってるのだ。理性を脇に追いやり、本能だけで生きていきたいのだと願うほかない。炙りだされた俺の獣性が獲物を欲して躍起になりながら飛び掛かろうとしてる。んで獣じみた心の持ち主である俺は、老人の首に噛みつき、動脈から血を噴出させながら、老人の死体をむさぼり食らおうと考えていた。考えるだけならただだから俺に罪は発生しないし罰もない。ただ俺は本能に忠実でありたいと願い、祈りが神に聞き届けられると、人間どもを殺戮しまくってもいい、という許しを得たいだけだ。その最初の標的が目の前にいる老人ってわけだ。老人は俺にもらった最後のタバコを恍惚とした表情で吸っている。んで俺はタバコを咥えるが、火も点けずにぼんやりと黒い染みだらけの天井をながめていた。天井に吊り下げられた照明がまぶしくて、目を細めてしまいそうになり、俺は何度かまばたきをした。そしてゆっくりと矮小な手のなかにあるライターで、ほっそりとした女の肢体を思わせるタバコの先端に火を灯した。混濁したミルクのような煙が口のなかに充満し、それはやがて肺という臓器へと流れこむ。んでもって俺ちゃんの頭がぼやけて、理性という名のロープがほどけて、生々しい本能だけが前面に押しでる。つまり俺はポケットのなかのナイフを毛の生え放題のゴツい指先で女性器に触れるように愛撫してたってわけ。老人を殺してしまおうか、っていうひらめきが電撃のように俺のフケだらけの髪に覆われた頭に走り、ナイフを取りだそうとした瞬間に、老人が立ち上がって、レコードをプレイヤーの盤面に乗せてゆっくりと針を下ろした。バッハによって造形された微細で繊細なその音色に、老人は涎を垂らしながら白目を剥いた。俺もその神の手によって創造されたんじゃねぇの、って勘違いしてしまうほどの美麗な音楽が耳から入りこんで聴覚神経を通して脳を叩くのを感じながら顔をほころばせちゃう。やめだやめだ、老人を殺すのは止めて今は宝石のごとく室内に散りばめられるように拡散し音を楽しもう。んで俺の内部である変化が起きて、その心情の変わりように自分で驚いちゃう。何と俺は数秒前に殺したがってた老人に友愛の念を感じたんだ。脆弱な細い糸で結ばれた俺と老人の頼りない友情、でも確かにそれは友に対する愛情だったんだ。バッハの音色は相変わらず室内を満たしていて、その音が残響となって俺の鼓膜にこびり付き、耳かきで掃除してもすべては取り去れそうにない。それほどバッハの作った音楽は温かく俺の胸を満たし、意識が浮遊するかのような感覚を与えてくれる。奏者なんて誰でもいい、バッハが書き記した楽譜だけだ、ってのが大切に胸に仕舞われた俺の感情、というか情熱を呼び覚ましてくれる。ピアノから発生する音に耳を傾けながら飲む酒は人生を表してるのだ、という老人の言葉に耳をふさぎたくなった俺は、腕を動かし頬に手を触れるだけで、耳に指で栓をする、っていう嫌味ったらしいふるまいには出なかった。ただ細かくて縮れた髭の生えたアゴをさすっていた。老人には俺が何を考えてるか死んでも読めないだろう。おいさき短い老人の顔に刻まれた老いと苦労から生み出された皺に見入ってる俺ちゃん。日常という歯車が狂うのは初めてじゃねぇし、歯車を留めたネジを外したいと思うのも過去に何度もあった記憶がある。バッハは相変わらず流麗な音を垂れ流しつづけていて、その音がこのせまっ苦しい部屋という空間の壁に拡散するように反響し、俺の頭蓋を振動させるほどの爆音を奏でている。耳が痛くなるほどの騒音とも取れるボリュームの大きさに俺は陶酔しちまう。酒の効果と音楽の作用により、更に高みにのぼるような、ねじこまれてくるような悦楽により失禁しちまいそうになるね。実際のところ俺は自分の感情をぶちまけるはけ口を探していて、それが見当たらなくてうんざりとした気分になっちまう。なっちまうんだ。んで次の曲に入りかけたところで、窓の外に艶やかで滑らかな毛をした一匹の猫が、優雅に草むらを歩いているのを視界が捉えた。あの小動物にも、この音楽を聞かせてやりたい、という思いに捉われて、俺は窓を開けようとしたが、この轟音には聴覚の敏感な猫の耳には毒だという結論に至って、窓を開けるのを止めた。ふと、細かな雨が窓を叩いてるのが見えて、薄暗い室内に満ちた音楽の邪魔をしようとしてると思えて、でもその程度の小さな音じゃバッハを打ち消すことは出来ないのだと悟り、俺はそのままぼんやりと窓を流れる雨粒を眺めていた。雨は猫の優美な肢体を濡らしていき、猫はそんな事お構いなしにゆっくりとした足どりで歩いていく。やがて猫は視界からいなくなった。この老人が飼ってる猫だか、野良猫だかは知らないが、よく手入れが行き届いてる毛並みをした猫で、首輪もあるから野良猫じゃねぇな。僕ちゃん早とちりしちまって、自分の愚かさ加減に内心で自嘲しちまう。何て愚かな人間の一人なんだろう、いや俺ちゃんは愚かじゃない。哲学的な考えを頭ん中に風呂敷みたいに広げる賢い人物じゃん。でも哲学なんて下らねぇものにはもう興味が薄れかけてる俺は、新たな思考あそびを考えちゃうしかないんだ。それは宇宙の果てを想像してみる、っていう楽しい楽しい遊びだ。広大すぎる宇宙には果てがあるんだろうか、果てがあるとしたらそこには何が存在するのだろうか、ただ行き止まりなんだろうか。でも宇宙は膨張を続けてるといった説があるからそもそも果てはないのかもしれない。なんて思考して遊んでる俺は、またタバコを吸いたくなり、ポケットの中でつぶれて、やや先端の曲がったアメスピに火を点ける。味には変わりがなく、相変わらず激烈ともいえる濃厚な薬味を感じさせる味に、俺の脳は宇宙の果てに辿りついちまいそうだね。舌の上で煙を転がし、鼻から抜ける香りを感じとり、肺の粘膜に溶けこんでいく煙が血液に乗って全身に行きわたる、というか染みわたる。閃光が俺のまぶたの裏側で爆発するように広がり、俺は酔っぱらってタバコを吸いながらバッハを聴くという至福の時間に愛情を感じてるんだ。んでもって俺の脳内に押しすすめられた快感という破片が脳細胞を巻きこみながら脳の中心にまで突き進み、脳天を強烈な刺激が波のように襲ちゃって、アゴが外れそうなほどの気持よさに眠気を感じちまう。ピアニストの名前は知らねぇが、バッハの音楽を最後まで聴いていたいから、俺は眠気をふり払うため目薬を眼球に点眼しようと思ったが、目薬は車の中の乱雑に散らばった物のなかに紛れ込んでるので、手探りで探しても見つけられねぇだろう。音の粒が服に付着し、服の襞に染みこむのを肌ごしに感じて、これ以上ないほどの幸福を誘発させる音楽はないのだと悟る。んでもってこれって奏者は誰なんだ、と老人に問いかけると、グレングールドというピアニストだよ、と教えてくれた。あの有名なグールド、音の一粒一粒を大切にあつかい、鍵盤に情熱を注ぎ込むグールドの演奏にはぶったまげちゃうね。俺の脳がどっか遠くに行っちまいそうに、意識が遠のくほどのきめ細やか、かつある種の怒りを思わせる演奏に俺は快感を覚えちまうんだ。んでウイスキーの瓶が空になり、その内側にこびりついた琥珀色の残骸だけが確かにアーリータイムズを存在させてたっていう証明になってる。二人して七百ミリもあるウイスキーの瓶を空けちまった俺らはもうへべれけに酔っぱらってるし、俺の顔は血液のように赤く染まっているだろう。いや、血液というのは大げさな表現で、桜の花びらのようにピンク色になっていると表したほうが適切だろう。んで老人はまたウイスキーを持ってきて、テーブルに豪快な音を立てて置いた。今度はメーカーズマークという蝋燭で密閉された蓋というイカしたデザインをしている結構、値段が張るウイスキーだ。んで過去にそのウイスキーを飲んだ記憶のある俺は、その味を思い出していた。アルコール度数四十パーセントを越えるのに口当たりはまろやかで、アルコールによる嫌味な刺激も感じない、一度飲んだら病みつきになるウイスキー初心者でも美味く飲める豪華な一品だ。太っ腹な老人の心遣いに俺は幸福感をおぼえながら、そのウイスキーを早く飲みたくて飲みたくて我慢の限界だった。老人は丁寧に蝋の一部をを円状に剥すと、床にそれを投げ捨て、顔をあらわした蓋をゆっくりと開けた。そして自分の湯飲みに注いだあとで、空になった俺のグラスにも流しこんでくれた。俺はグラスを傾けてオンザロックじゃないストレートのウイスキーを深く味わうと、その繊細で優しい口当たりに涙がでそうなくらい感動した、ってのは冗談で、ただ口の中で美味な液体の味を堪能していた。ウイスキーはやっぱりストレートに限る。ロックで味を薄めて飲むなんてウイスキー本来の奥深い味わいを損なうだけじゃん。だから俺はいつもウイスキーを水や炭酸で割るという愚行もせずに、ひんやりとした氷も入れないで飲みに飲みまくっちゃう。グールドの演奏は佳境に入っていて、もうすぐこの音楽は終わりを告げる、っていう物悲しい旋律だけがレコードプレイヤーから響いていた。んでもって終了の合図を告げるピアノの演奏が終わった後に、しこりのように部屋に残ったのは重苦しい沈黙だけだった。魂が浄化されるような甘美に満ちたあの音楽が突然、途切れるように消えてしまい、何だか物悲しくなっちゃって、頭の中で噛みしめるようにその残響を思い出していた。んで老人がもはや湯飲みに口を付けなったことから分かるように、泥酔してしまったのだろう。俺だってへべれけ状態のせん妄状態で、自分がどこにいるのか、自分自身の出生が何なのかさえ分からなくなっていた。俺はただトイレに向かい、濁流のようなゲロを吐きつづけるだけだ。滝のごとく俺の口から流れ落ちた嘔吐物は、よく磨かれて輝きを放つ真っ白い便器を彩った。彩っちゃったんだ。んで脳がおかしくなるほど飲んで、泥酔した俺は固形物がなくなるくらいゲロを吐ききると、今度は胃液が口の中から這いでてきて、すべての胃の内容物を取り去って、晴れやかな気持ちになって部屋に戻った。老人はいびきを立てながら爆睡してるから、俺も寝ようと思って床に転がり、薄汚れた天井の一点を見るともなく眺めていた。老人のいびきがうるさくて寝れやしねぇし、タバコの煙が充満してるこの部屋で熟睡できる老人に奇妙な形容しがたい尊敬の念をおぼえた。んで老人は放屁して、その気色わるい耳障りな音は部屋に拡散するようにして響きわたった。一種の音響装置のような役割を果たしてる壁紙の剥がれた壁から、その濁音は振動しながら跳ね返ってくる。こっちまで腸につまったウンコの臭いが漂ってきそうな勢いに、俺は顔をしかめて寝がえりを打った。眠いのに寝れないその苦行に耐えてるうちに、俺の意識は少しずつだが確実に夢の世界へと誘われて行った。夢のなかでは清らかな裸体の幼女たちが草原を駆け回ってる映像が俺の視界を満たして、俺は自分のチンポコが勃起するのを自覚した。清純な心を持つ幼女たちに性的興奮をおぼえてしまうのは禁じえない。木から禁断の果実にも似たリンゴを取ると、俺は一人の幼女にそれを与えた。だってその幼女ときたら自分の身長より遥かに高い木の枝に実ってるリンゴを物欲しそうに指を咥えながら眺めてたんだもん。幼女は笑顔を見せて、俺に礼も言わずにその果実をむさぼり食った。幼女の顔には喜悦という表情が浮かんでいて、心底から美味そうにリンゴの一部を食いちぎっている。それを飲みこむと幼女のノドが蛇みてぇな生き物のように動き、胃に流れこんでいく様を俺ちゃん想像しちゃった。んでもって俺もリンゴを食べて、まだ熟してないその甘酸っぱい味を口一杯にほおばった。ほおばっちゃったんだ。またたく間に幼女はリンゴを食べ終え、枯れ木のような芯だけになったそれにむしゃぶりついて、こびり付いた果汁を舐めまわしている。俺もそれにならう様にしてリンゴの芯に舌を這わせた。舌先に触れる芯の触感を感じる。澱みのない青空を見ながらその味を楽しんだ。んで空中を舞う堕落した天使の漆黒の羽はカラスの黒光りした羽に似ていて、天使の羽がもげて地面に墜落してぺしゃんこになってその神秘的な色彩をした血をまき散らかさないかなと望んでいた。カラスの化身である堕天使を見てると、俺ちゃん何だか胸が苦しくなって、次に心臓の奥にかすかな痛みが走った。針の先端で突っついたような痛みに、俺はまだ生きてるんだと実感した。カラスの眼窩にはめ込まれた半透明の宝玉みたいな目で俺を睨んでくれないか、と考えてると天使が木の枝に止まって足をぶらつかせている。俺は幼女の女性器を愛撫してみたいという衝動に囚人が捉われるみてぇに脳を支配された。解放された性欲のはけ口を見つけるために俺はすさまじい苦労をしなけりゃならなかった。つまりは自制したってわけで、チンポコがズボンの中で勃起して快感を与えてくれる湿った穴を探して彷徨ってるのを感覚を通して捉えると、俺の内部に内包された感情が爆発するかのようにほとばしり出るのを感じた。感じちゃったんだ。んで理性を酷使し、何とか幼女の性器に入りたがってるチンポコを鎮めて萎えさせた。これでハッピーエンド、お仕舞お仕舞、ジ・エンド、にはならずに俺の激しくも騒がしい生活に戻って行こうと思う。つまりはそこで目を覚ました。俺はゴミ収集所に身体を横たえて眠っていたのだと、自分の姿を見て悟る。あれあれー老人と過ごした素晴らしいひと時はどこにぶっ飛んでいっちまったんだろう。やっぱりあれも幻覚だったんじゃねぇのか、って考えてると嫌でも俺は病人なんだと思わずにはいられない。とりあえず身を起こして辺りを観察する。人気のない薄暗闇に、今は夜か夜中なんだと分かる。俺はポケットのなかをまさぐり、そこにナイフが入っているのを確認して、安堵に胸をなで下ろす。んでもって脳汁に浸された月のように球体みてぇな脳を活用して、自分が置かれた状況を子細に確認してみる。俺ちゃん、美しいとは程遠いボロ雑巾のような衣服を着用していて、靴底は長年の疲れからすり減ってる。摩耗した皮のような繊維をした靴底の厚みを確かめるように何度か触ってみた。これじゃもう大して歩ける距離はないだろうし、砂利に足を踏み入れたら小石の感触に足の裏が痛んでしまうだろう。でも俺は歩いて、何処かにある楽園みてぇな場所に到達しなければならなかった。そうじゃなけりゃ、俺の人生は意味を無くしてしまい、日常は色褪せ、散乱した残骸へと成り下がる。そんなのは絶対に嫌だから、俺は自分の人生を再生させるために第一歩を踏みださなけりゃならない。そうすりゃ俺の包皮に包また人生の皮を一枚一枚はがして内部に埋めこまれた金属のような先の尖ったスリルのある非日常が姿をあらわす。んでもって破壊された俺の神経は熟成されたフルーツのような香りを漂わせてるから、まだまだ俺自身、捨てたもんじゃねぇなって考える。俺に必要なのは発狂して自殺してしまうという神秘的な行動だ。まばゆい光の渦のなかで全身を絡め取られて、四肢が引きちぎれていまえばいいのにな。でも俺は本当に自殺願望のある賢い人間なのだろうか。自殺するなら拳銃でこめかみを撃つか、ナイフで腹をかっさばくか、ロープで首を吊るか、屋上から飛び降りて全身で風を感じながら墜落して肉がつぶれてしまうかのどれかを選べ、と迫られたら俺は沈黙で答えるしかないだろう。海の底を優雅に泳ぐ歪な形状をした深海魚のように数メートル先の見えない暗闇のなかで生きていてぇ。胎動する子宮のなかで眠る赤子は母に守られていて、胎教を望んでいるに違いねぇんだ。美しい音楽を聞かせながら大切に大切に育てると感受性が豊かになり、想像力が培われる。んで女の孕んだ腹に耳を当てると、わずかにだが静かに胎動してるのを聴覚を通して感じとれる。んで魂は清純なままつわりを起こして吐き気をもよおす女の子宮から流れでた赤子は絶叫ともいえる泣き声を上げて、自分がいま生を受けたと周りの人間に知らしめる。産声を上げながら誕生した赤子の清純さに、涙が出るほど感動してしまい、こぼれ落ちた水滴が床にへばりつき、その余りにも小さな水面は鏡のように部屋の様子を映し出している。矮小な水たまりに吸いこまれるようにして飲みこまれた部屋の景色は、水滴のなかで形状を変えて歪みながら、蜃気楼のようにぼやけてしまう。んでもって水滴のなかで次第に水分を吸収していき、砂のごとく脆く崩れ去ってしまう。水のなかにはザラついた感触の砂粒が沈殿するみてぇに残ってるだけだ。その中で泳ぐ塩分は音の消失した水中という世界を泳ぎ回り、出口を探すが、まだ蒸発してない丸い水滴の壁に阻まれて逃れられずにいる。視認できないくらい極小の塩の粒は魚雷にも似た速度で水の薄膜を破るようにして突き進む。が、鏡面を思わせる光を乱反射した水の壁に突き当たって向きを変える、というよりも標的を探すために、また深く潜りこんで水底を目指して、今度は緩慢な速度で進む。水滴の中で行われるこの遊びが堪らなく可笑しくて大笑いしてしまう俺の歯車は、他の歯車とは嚙み合わない。んでもって辛い時期を越えたら幸せな時期がやってくるというのを信じて人生という水溜まりだらけの道を歩んでいくしかないんだろうか。んでそれって生易しい事なんかjじゃねぇから、それ相応の覚悟がいる、って分かっていながら、俺はどこかで物事を楽観視している自分に気づいた。気づいちまったんだ。んでやがて来るべき来世より遠い未来という光で覆われたトンネルの中に足を一歩踏み入れる。そしてもう片方の足を動かし、次に左右の足を交互に動かして歩んでいくんだ。未来は廃れてボロ雑巾じみた形容を成し、腐敗臭が漂ってきそうなほどの廃墟になり果てるんだ。んで俺ちゃんってば、稚気に満ちたいたずらっ子が内に秘めるような清らかな悪意を胸の内に隠しもってる。んで次に来るのは見慣れぬ来訪者であり、一度も見た記憶がないそいつに、俺ちゃんはツバを吐きかけやりてぇから、口のなかを蠢かし舌の上に唾液を溜めた。それが吐きだされはしないだろう、って分かっていながら俺はツバを蓄積するっていう行為を止めずにはいられねぇんだ。んでもって俺の唾液は甘い蜜にも似た味わいをしてるから、溜まった唾液が美味くて飲みこんでしまった。あーこれじゃ俺ちゃんそいつの顔面にツバを吐きかけられねぇじゃん、どうしよう。でもまぁいっかぁそんな事どうでもいい些末な事柄だ。着目するべき点は他にあり、それが俺を深海へと誘うしるしのような役割を果たしてる。んで人生ってやつはこれだから止められねぇぜ。苦行を耐えたご褒美をよだれを垂らしながら待ちのぞんでる俺ちゃんは、鼻毛を一本、引っこ抜いて太陽の光に透かそうとして高くかかげた。だがその縮れ毛は黒光りしてるだけで半透明にはならねぇ、ってのは当たり前じゃん。当たり前のことじゃんか。プリズムを思わせる鋭利な光が涙に濡れた俺の眼球を射抜き、視覚神経を介して光の情報が脳に直接ながれ込む。ナイフの切っ先みてぇな鋭い陽光は、眼球に張られた膜を破ろうともがいてる。いや、空気中を舞ってるとも言えるから、俺は日差しに喜びを感じつつもオナニーをしたい、と狂暴な光を放つ太陽に欲求しようとしてる。でも俺の願いは大気の層に遮られて、灼熱の惑星には到達しないだろう。そんなの当然なのに、頭では理解できても、感情の面では納得のいかない俺ちゃん。俺ちゃんはナイフの先端で女性器にやるみてぇに優しく撫でて、切っ先の尖っていて、なおかつ艶やかな感触を感じとる。俺ちゃん陶酔しちゃいそうで、酒も飲んでねぇのに酔っぱらっちゃってる気分で、タバコの煙を吸引してる自分自身を想像しちゃったね。んでもって血まみれのドレスを身にまとった老婆が嬉しそうに皺だらけの唇のあいだからご機嫌におしゃべり。んでこの老婆に何で血が付着してんのかなぁ、誰かを殺した返り血なんだろうか、そもそもこの老婆は頭がイカれてるんじゃねぇんだろうか、って考えが俺の脳を駆けめぐる。老婆は大口を開けて歯にこびり付いた肉の欠片を見せつけるようにして笑った。ああ、どんちゃん騒ぎの乱痴気さわぎがしたいよ、って心の中心にある破片を駆使してそう思ってると、老婆は俺に何かを握らせた。それは札束だった。何でこんな真似できなるんだろうか、そもそもこの老婆はどこでこんな大金を手に入れたんだろうか、って疑問が脳内に幽霊が漂うように浮かび上がる。んで俺はナイフで札束をめちゃくちゃに切り刻んでやりたくなったが、思いなおしてそれをポケットにねじ込んだ。老婆に感謝の言葉を述べると、俺はその場を後にした。血に濡れたおぞましい札束はまだ俺の家の引き出しに入ってる。全然まったくこれっぽっちも手をつけてねぇ。あんな血まみれの金どこで使えばいいというのだろう。老婆は誰かを殺してあの金を奪ったんだ、という思いつきがある日、頭に閃いた。電流のように脳を走るその思いつきが頭蓋の内側で暴れるのもお構いなしに、俺はこの金で拳銃を手に入れればいいんじゃね、と深く物思いに沈んでいた。んで考えることはたくさんある。ナイフ、タバコ、ウイスキー、売春婦、拳銃をどこから仕入れればいいのか、俺は様々な想像をして思考を酷使させたあとで、脳をすっきりさせるために軽く走った。街の景色が俺の視界に飛びこんできて、流れるようにまた視界から外れていく。どのくらい走っただろうか、俺は息を切らせて、汗だくになり、アスファルトに倒れ込んだ。弱々しく輝き、それでいて優しく温かみのある月に視線をやりながら月光浴して、まるでお湯を張った風呂にでも浸かっているみてぇな心地いい気分になっていた。空に散りばめられた星々は、今にも消滅してしまいそうなほど繊細な光を放ちながらそこに存在してる。んでもって俺はナイフを空中に掲げ、月光を反射している刀身を見るともなく眺めていた。美しい、まるで幼女の肢体のようだ、っていう感想がわき、刀身を握って力を込めようとしたが、今の俺の握力じゃ皮膚から血がにじみでるほど強く握れはしないんだ。それほど俺は疲れきっていて、体力も精神も消耗し摩耗していた。売春婦を買いてぇな、っていう欲求が胸のなかで膨張してくのを自覚する。風俗嬢とやってすっきりしたいが、俺の財布には大した金が入ってねぇ。ああ、抱きたい抱きたい抱きたい、女を抱かなきゃ発狂しちまいそうだよ。一般人の女の中から選別してもいいが、ただで俺に抱かせてくれる変態女いねぇだろう。だって俺ちゃんって服もところどころほつれてるし、何日も風呂に入ってねぇから、体臭が鼻腔をつんざくほどの異臭になってるからだ。こんな見るからに乞食みてぇな男に抱かれたいと思う女なんてどこにもいやしねぇハズなんだ。でも俺は気が狂いそうなほど女とやりてぇ。んでオナニーで我慢して、画面のなかに映る女の魅力的な身体で満足するしかねぇかもな。でも生身の女とセックスしたい、っていう欲望に抗うのにかなりの理性を使って自制しなきゃならねぇ。まぁ女を抱いた後なんて、セックスなんて下らない行為、何でしたんだって、いつも疑問に感じてた過去が俺にはある。セックスのあとに冷静になった頭で吸うタバコはマジで美味くて、セックスの快感を越えるニコチンの快感に頭がどっか行きそうになるものの、持続的な快感を欲してる俺はウイスキーによる酩酊作用をも貪欲に欲してるんだ。んでもって神経細胞が鋭敏で尖ったものに変化する過程を感じながら、天に吊り下げられた月の下でタバコを吸った。吸っちゃったんだ。肺活量のない俺は運動したあとに吸う煙にせき込んじまった。美しく束ねられた標本を選びと取って、手に入れたそれを手のなかで握りつぶす、っていう振る舞いにでるのが憂鬱で、俺は自分自身を戒めて今日から善人になろうと努力するべきだという考えに至った。んで本当の愛ってセックス抜きで相手に愛情を感じることなんだと知ってる俺には、もちろん恋人なんて素晴らしい代物は存在しねぇ。んで濁流のごとく顔から垂れ落ちる汗をタオルで拭きもせず流れに任せるがままだ。したたり落ちるおびただしい量の汗がアスファルトを濡らしていき、水溜まりでも出来ちゃうんじゃねぇのって思う。でももちろん人間は水溜まりを作るほどの汗は流せない。それほど汗をかいたら細胞が乾いて死んじまうんじゃねぇの、まぁ水分を取れば生きてられるか。俺は自販機でわずかに残った小銭を使い、透明な炭酸水を買うと、腰に手を当てて飲んだ。蓋を開ける時のペットボトルに溜まった炭酸が抜けていく快音に、心地いい気分になっちまうんだ。炭酸水は強烈な痛みともいえる刺激をベロに与え、いがらっぽい粘膜を刺すような感覚がノドを通過し、胃のなかで暴れ狂う。それをペットボトルが空になるまで一気飲みすると、俺ちゃん豪快にゲップをしちゃった。ペットボトルのラベルに描かれた黄色い模様を見つめていると、その鮮やかすぎる絵柄に瞳から放たれた視線が吸いこまれるようになって、酔っぱらいそうな気持になっちゃう。俺のちっぽけな人生、下らねぇ日常に差す一筋の光線みてぇなもんが、俺の精神の襞を柔らかくして優しい気持にさせてくれる。んでもってナイフをペットボトルの中心に刺すと、炭酸が噴出する映像を想像しちゃって禁断の果実でも食べたような快感を得ちまう。んでもって俺の精神は苦痛によって蝕まれてるし、穴だらけになってそこから蛆が入りこみ、俺の肉を食らうんじゃねぇの? でもでもそれって痛みを感じる前に俺は死んでるハズだから、実際には無痛じゃん。でもでも死骸になってからも激痛を感じながら生きようと願ってるのだとしたら、それは虚構がもろく崩れ去り、現実という名の美意識が顔をあらわすのに似てるんじゃん。自分でもなに言ってんのか分からねぇよ、支離滅裂だよ、前後の脈絡がねぇよ。気違いって自覚は多少あるが、それは俺の個性ともいえる光かがやく栄光を浴する俺ちゃんの脳に銃弾が撃ちこまれれば即死しちゃうし、ラッパが奏でるファンファーレの音と共鳴する銃声を聞いたらすかさず逃げたい。樹液にも似た分泌液が幼女の性器から滲みでてくるから、この鼻を近づけて思うぞんぶん匂いを嗅ぎてぇ。落っこどした小銭が悲鳴じみた金属音を立てながらぐるぐると転がり、独楽のように回転するそれは、やがてアスファルトの裂け目にするりと入っていった。俺のなけなしの金が溝に入っちゃうなんて、何て悲劇的な事態なんだろう。でもまぁいっかぁ、金より大切なもんは一杯あるじゃんね、って自問自答してみると、自分の脳から沈黙という悲しい答えが返ってきた。神秘的で神々しく厳かで神聖な沈黙に耐えられずに、僕ちゃん絶叫しちまいそうだね、ムンクの叫びみてぇにさぁ。パーティーを始めようぜ、楽しくてやかましいカーニバルをさ、って空に向かって息を吐きだす様にして、そんな言葉を口にする。宴の開幕開幕、拍手拍手、って一人で手を叩いちゃう。そんな俺だけど、脳のネジが外れてるわけじゃなく、思考がイカれてる訳でもねぇ、ってのは誰の目に見ても明白はハズなんだと、そう信じたいだけ。通りかかった自転車の車輪が空気を引きずり込み、気体であるそれを粉々に破壊するってのを見てみたい。自転車から颯爽と降り立った女は自販機の前に行き、缶コーヒーを買ってる。プルタブを開けるときの心地いい音が、真っ暗闇の静寂に響きわたり、女はコーヒーを美味そうに飲む。垢にまみれてる俺は風呂に入ってすっきりしたい、っていう気分になった。女の赤に近い淡いピンク色の舌が缶のふちを舐めて、ふちに溜まった液体をその可憐な唇を駆使しポンプのごとくすする。コーヒーを吸い上げる耳障りな音を聴覚でひろい上げ、脳にとどける俺ちゃん。んでもって俺ちゃんは衝動的に女にナイフを見せびらかしたくなった。彼女はどんな反応をするんだろうか、滑稽にも驚きに目を見開いて呆然とするか、急いでその場から自転車で逃走かますか、勇敢にも俺に立ち向かうのかどれかだ。宇宙人よ、俺をどこか別の惑星に連れ去ってくれないか、って願望が発作的に胸の内側にあらわれる。猿が支配する惑星で俺は王となって君臨し、猿どもを支配し、その広大な大地を統治するんだ。そんな夢想が俺を素晴らしい日常のなかに引き戻してくれる。夢の世界に没入したい、という欲望が音となってこだまし、辺りの静寂を突き破り、俺の情欲という名の本能を浮き出させる。そんな考えを巡らせている内に、女は自転車にまたがって出発進行、つまりは暗がりの中に行って、その姿は俺の視界から完全に消えた。俺はもう手遅れだと分かってるが、女の姿が幽霊のように消えた道を辿って彼女に会いに行こうと幽鬼じみたおぼつないふらふらとした足どりで彼女を追った。街灯の光だけを頼りに、俺は足をもつれさせながら、薄暗い道を進んで行った。でももう彼女にはどうあがいても追いつけないんだと悟り、おれ自慢のチンポコが萎えちゃいそうなの。世界に取りつけられたファスナーの取っ手を下に引き、世界という名の蓋を開けると、その下からは微弱な輝きを放つ星々が顔をあらわした。ただ満天の星たちが脆弱な光をこの大地へとそそぎ込んでいる。降りそそいだ無邪気な光の中で身体を横たえ、この地球を回転させている仕組みを考察しながら、俺は自分の四肢を大地へと投げだし、純真な心をさらけ出した。俺の心は廃れちまって、退廃的ともいえる様相になり変わり、自分の日常から非日常へと続くレールの上をゆっくりとした動作で進むしかねぇんだ。人生って奴の酸いも甘いも味わった俺ちゃんに、死骸のように残された微量の希望という名の未来に期待しながら生きていくしかない。車輪の向こう側に見える俺の日常に回帰したい、という念が胸のなかで膨張していき、やがて風船のように膨らんだそれにナイフの先端を刺してつぬらきたくてうずいてるし、俺はもう腐りかけのバナナの味をした腐敗臭を放つ人生にはうんざりしてる。黒々と日増しに空気によって汚染されたバナナの味は甘苦く口のなかに残り、その余韻が舌の上に染みこみながら英雄になりたいって夢を捨てきれねぇ俺ちゃんの味覚に作用し、淀んだ味を確かめるように咀嚼しようとするものの、余りにもの不味さに吐き気をもよおしちゃう。吐きだされた人生の味の苦味を感じながら、これって最高に滑稽で腹が痛くなるほど笑ってしまう。打ちこまれたくさびは、硬質な感触をしているとても固い物体であり、死に物狂いで助けを求めても、手は差し伸べられないんだと知り憂鬱な僕ちゃん。鬱が発症してからしばらくして統合失調症だと診断された。神の声が聞こえるってわけじゃなく、ただの幻聴として何者かの囁き声は片付けられちゃった。物悲しい旋律がどこからか聴こえてくるが、これもただの幻聴なんだろうか。グランドピアノを演奏する奏者の姿も見えやがるから、これは現実だって確信した瞬間に、それは霧のように儚く無慈悲に消えていくんだ。心理的な面では満足してる俺ちゃんだけど、肉体では女の裸体を求めつづけてるんだ。んでもって蜃気楼のようにぼやけた情景が、まぶたの裏側で飛び散るようにして広がり、これは他には代えがたい美しい景色なんだと悟っちゃう。それは歪で卑猥な形をした木々が生え放題の森林にも似た奥が薄暗がりになってる景色なんだ。そんな場面を妄想しちゃってる俺には、流麗な流れ星が見せる輝く尾の映像が必要なんだ。んでもってそれって更に加速する俺の心音に重ね合わされた鐘の音が響きわたる空間に拡散する音の粒が手のひらのすきまからすり抜けていくのに酷似した気分になっちゃってるのよん。爪につまった垢が予言する将来の設計図を頭のなかで編みこみながら、タバコの灰が風に吹かれて宙を舞ってるのをながめる。んでもって俺の人生を他の奴に手わたすのは嫌だから、これは紛れもない俺自身の生なんだ、って強く認識した。認識しちゃったね。んで糞みてぇな肥だめみてぇな地獄にはおさらばして、楽園の扉がゆっくりと開いていくのを俺はこの目で確かに見たんだ。そこは天国に違いなくて、喜びとともに全身で享楽を浴びると、脳の皺に悦楽が染みこんできやがる。喜びは一瞬で、あとは地獄だなんて誰が決めたんだ。納得のいかねぇ俺ちゃんは、楽園で果実を木からもぎとり、それを喜びながら頬ばる。おびただしい量の果肉と果汁が飛び散り、口の周りを薄汚く汚しちゃう。んでもって意識という点に集中する。情熱的に演奏するピアニストのしなやかでほっそりとした指が鍵盤の上を流れるように動く。ヴァイオリンの音も響きわたり、その楽器たちによる演奏に恍惚とした気分になっちゃうので、人生の味を端から端まで堪能しちゃう俺に愛情を抱いてくれる女なんていやしねぇって分かっていながら、女の肌の温かで柔らかいぬくもりを求めちまう。女なんてこの世に存在しなけりゃいいのに。そうすりゃ性欲のはけ口を探さなくても済む。性欲は俺の邪魔をするように女の穴に入りたくてうずくチンポコを固く勃起させるんだ。こんな変な器官なくなっちまえば、俺ももっともっと晴れやかな生活ができるってもんだ。じゃあこのナイフで取っ払っちまうか? でもそんな真似したら股間から大量の血液がながれ出て、失血死しちまうのは目に見えてる。つまりそれって漢字二文字であらわすと明白ってやつじゃん。んで心臓部を狙った刃物の先端が肉を抉りだし、刃先に突き刺さった人肉をよく味わうようにして咀嚼すると、肉本来の旨味が口いっぱいに広がり、俺は次に肛門の肉を切りとって食べたくなった。そんな欲求が宇宙的な広がりを俺の内部で見せて、宇宙の果てまで思考回路がぶっ飛んで行っちまいそうだよ。宇宙が出来る前はただ真空だけがあった、と聞いたが本当だろうか。宇宙は何者かの意思によって超新星爆発が起きて創られたんだろうか。まぁそんなどうでも良い思考なんてどっかに消えてしまえばいいのにな、って俺はそう感じて思索を止めた。止めちゃったんだ。銃弾の美しく麗しい弾芯にうっとりとしちゃって、これが人間どもの真っ白な肌をつらぬきたくて振動してるのを手のなかで感じつつも、想像上の拳銃は俺に死をねだっているのだと理解しちゃった。歪んでひん曲がったナイフの切っ先では何も貫けないし、持ち手が折れてるから俺は栄光すらつかめやしねぇんだ。んでもって脈拍が上がってきたおかげで、全身に汗をかき、その水滴は服の裏側に染みこんでいく。何もしやしない、これは俺だけの大切な真珠じみた艶やかな思いなんだ。思考を使い、手足を用いて殺戮に手を染める俺ちゃんの脳に新しい部品を取り付けてくれよ。そうすりゃ脳の回路が正常に稼働しはじめ、あまりにも鮮明な視界で物事を直視できるハズなんだ。組みこまれた部品は脳で爆発するかのように飛散して、飛び散ったその欠片が頭蓋の内側に突き刺さり、激痛をともなうその感覚を記憶しておくために感覚神経を駆使し奇妙な痛みを感じとった。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 絶叫しちゃった俺ちゃんの脳細胞に頼るために、夜の闇に染まった道を歩いて行く。街灯に群がった蛾の大群がキラめく鱗粉をまき散らしながら飛んでいる。熱を孕んでいるだろうその照明に向かい、鳥とは比較にならないほど矮小な羽根を使ってガラスの側面に懸命に身体をぶつけてる。蛾は俺と同じように自傷行為をしてるんだろうか、という思いつきが頭のなかで閃いた、というよりも瞬いた。フラッシュバックする思い出たちに気を取られて、やや盛り上がって亀裂の入ったアスファルトにつまずいちまう。亀裂のなかで静かに呼吸している闇をのぞき込んで、こいつは俺と同じ儚くも脆い生命体なんだと悟る。んでもって脈動する血管に流れこんでる血液の循環が俺の身体を正常に動かす要のような役割を果たしてる。貪欲に求める肉感が俺の肌にこすり付けられて、甘い刺激を感じた俺ちゃんの意識が勃起するのが分かった。んでゲロが出るほど純真な女の手に握られた包丁の刀身に彼女の姿が映りこみ、歪んだその映像は柔らかで混濁した光という液体に飲みこまれる。海に足だけ浸かり、日差しを浴びると、子供に返った気分になり、額は日焼けし、鏡をのぞくと、赤銅色になっているのが見てとれた。至高なる神に捉えらた宗教家の唾棄すべき信心深さに疑いの念を差しはさみ、空気中に散布された聖なる祈りが神に聞き届けられはしない、と誰よりも深く知ってる僕ちゃんは、とりあえず酸素を取りこむために深く呼吸して、将来設計をいじくりながら悲しみに沈みこんで、その海に身体が飲みこまれるのを感つつも、綿密にこれから先の自分の身の振り方について計画を立てた。んで空中に霧散する霧が目の前にぶわっと広がり、俺はそれを食べてみたいという欲求が胸にわき起こるのを感じた。霧はふんわりとした綿飴みたく甘い味わいをいてるのだろうか、いや、ただの無味に違いねぇ。んでもって拳銃とナイフが手のなかにあると想像しちゃって、俺により創造されたそれらの凶器は人を殺したくてかすかに震えている。凶器が愛してるのは死だけだ。その対象は犬でも鳥でも人間でも良くて、とにかく生き物を殺したくて殺したくて仕方ないんだ、と俺に長々と説明してくる。というよりも訴えかけてくるから、俺は拳銃の奴隷となり、この薄汚れた手を使って生き物を殺そうと考えてる。考えるだけならただだし、実際に行動に移さなきゃ俺は無害で哀れな子羊ちゃんなんだ。人を殺す時に感じる快感とは一体どれほどのものなんだろうか、という考えが頭を支配し、俺を殺戮という名のパーティーへと導く天使のような役割を果たしてるんだって悟った。ごく平凡な生活を享受してたら、俺はこのような蛮行には出ないし、家で大人しく酒を少しずつ飲んでいるだけで人生を終えていたハズなんだ。でも俺の生活は死を開示し、その下か表面化してきた殺戮という名の本能にしたがい、人を殺しまくっちゃう。そんなのイケない事だと頭では理解してるが、感情は人の死を求めて止まないのよねん。んで血に濡れた艶やかな臓器をむさぼり食らい、旨味の凝縮された肺や、肝臓や、腎臓をフォークとナイフを駆使して、優雅ともいえる動作で口に運んじゃう。樹液がしたたる木の幹を食べたらどんな味がすんのかなぁ、って思索にふけりながら俺の頭のフケを取り払うためにシャワーを浴びる。シャンプーとリンスはしねぇ。ただ髪から即席で埃や汚れを取っ払うためにお湯だけを浴びるんだ。んで俺ちゃん爽やかな気分になり、タオルでしずくをふき取った後で、ドライヤーで濡れそぼった頭髪を乾かす。乾かしちゃうんだ。んでもって俺は身体も洗わなかったし、湯船にも浸からなかったからまだまだ体臭は異様な臭いをしてる。この鼻腔を突っつくような臭気で女を抱けば、そいつは俺の体臭に顔をしかめながら俺の痩せた身体を振りほどこうともがくに違いねぇんだ。女は俺に嫌悪感を覚えながら、半ばレイプとも言えるその行為になすがままになってるしかねぇ。でも女を抱くのはもう止めて、これから未来永劫セックスはしないと決心しちゃったね。セックスで得られる刺激なんてしょせん一時的なものでしかねぇし、酔っぱらいながらタバコを吸って音楽を聴いてるほうが快感は長持ちすると知ってる俺は、もはや雌と交尾をするなどという願望が萎んでいくのを知覚しちゃって、今度は女のはらわたを抉りだしたいと願っちゃった。神には願わねぇ、ってのは神が俺にクソくらえな人生をプレゼントしたからだし、そんな苦行に耐えてもほんのわずかなスズメの涙ほどのご褒美しか与えてくれなかったからだ。まぁ処女だったら抱いてやってもいい。処女膜が破瓜するときに感じるであろう激痛にのたうち回る処女の姿を妄想して悦に浸っちゃう。神々しい処女の清純な膜には情欲を強くそそられる。一回抱いたらすぐに捨てちゃって、おさらばして、その額に銃弾を撃ちこんで醜い死骸にしてやりたいと思う俺は、俗悪な獣じみた人間の一人だ。んでもって神秘的な宝石みてぇな心をもつ処女よ、俺に膜をつらぬかせてくれないか。俺を信じなくてもいい、ただ俺のチンポコに限りない愛情を抱いてくれればいい。ぬかるみでもがく処女は空気膜を処女膜に見立てて、空気の層をナイフで突き破ればいいんだ。ナイフなら俺の手のなかにあるから、それを奪って俺を刺し殺せばいいのだ、と願うのだとしたら、それはとても残虐な思考であり、同時に聖なる心を内包してもいるんだ。「あんたなんてとっとと消えちまえばいい」処女は唇をうごめかす様にしてそんな言葉をその湿った口の中で舌と歯を使い発する。口内にチンポコをぶちこんだら噛みちぎられてしまうんじゃねぇか、ってほど少女は狂暴性を発露させながら、狼みてぇな鋭い目つきで俺を睨んでいる。俺ちゃん男が相手ならともかく、少女には恐怖心なんて少しも、これっぽっちも感じない。でも本当に俺の自慢のチンポコが嚙みちぎられたとしたら、それほど恐ろしい事は他ではめったにお目にかかれない。俺は地面に落ちてるかたまりを拾い上げて、宙ぶらりんの月が浮かんでる空に向かって祝杯のように掲げた。酒がなみなみと注がれたその容器の水面に一匹の蛾が舞い降りて、琥珀色の液体のなかでその虫けらは羽根をバタつかせながら溺れる。やがて息が止まり、のたうち回るのを止めると、こいつは本当に死んじまったんだと理解しちゃった。蛾の儚い生命に自分の生を重ね合わせて、命とは無情なものなんだと決めつける俺ちゃんの脳はイカれてるのか? そんなもんどっちでもいい、大切なのは生きてると実感できる今この瞬間なんだ、って講釈をよだれでも垂れ流すように口にする老人の口のなかにナイフをねじ込んで舌を切断してやりてぇ。悲鳴にならない薄気味わりぃ声が老人の口から流れでて、俺はそれを美しい声音だと思って、老人をこれ以上傷つけるのは止めた。俺が手を下さずとも、老人が寿命で息絶えるのは必須だ。必死に生きてみても、俺に降りそそぐ供物は極わずかでしかねぇんだ。神に捧げものをするなんてバカな真似しちゃいけねぇと知ってる俺は、代わりに神に永遠なる死を与えてやろうとした。生まれ変わりを防ぐそれは、俺の手によって施されたエサでしかねぇんだ。施しを受けた神は涙を流しながら俺に祈りを捧げるだろう。そうに違いねぇハズだけど、誰も俺をこの広大すぎる大地から救ってはくれないと分かって、俺は悪魔に祈りたくなった。それって悪魔崇拝ってやつじゃん。悪魔は俺に対して親身になってくれるから、それが嬉しくて、俺は楽器を奏でて奴らを喜ばせたくなった。流麗な音色、繊細かつ荒々しさを同時に内包した音色、至高の音色、その音が優しく奴らの耳を打って鼓膜に雪崩のようにすさまじい勢いで流れこむだろう。すると聴覚神経が一時的に麻痺し、強烈な耳鳴りがしばらく聞こえるはずなんだ。神父に懺悔するだなんて馬鹿げてる。俺は自分が行った悪行の数々を誇りに思ってすらいるからだ。でも時々、重苦しい罪悪感に胸が捉われる時もある。そんな時は大好きな愛するウイスキーを飲んで罪の意識を取っ払う。取っ払っちゃうんだ。突撃した兵隊が機関銃により穴だらけになる様を思いうかべながら飲む酒はマジで美味くて、脳が痺れちまいそうだよ。アルコールの作用により、多幸感を感じつつも、ナイフの刀身を磨く手を止めはしない。だってこれって俺の、俺だけの、ぶっ飛んだ人生だからさ。破滅型の奏者のように潔く死ねたならって何千回も思った過去がある俺は、本当は生きて幸福をこの毛の生え放題な手に入れてぇだけなんだ。ヤベェ、俺ちゃんちょっと酔っぱらいすぎている。ここらで理性を蘇らせて鋭利な思考の先端で物事を考えようと努力するのにかなりの労力を要した。ぶちまける脳漿をすする俺ちゃんの口の周りにこびり付いた脳の破片がガラス細工のように透き通ってるのだ、と信じたい気持ちが欠片くらいはある。ひどく蒸し暑いこの熱帯夜で過ごさなきゃならない。うらぶれたこの街をボロアパートから眺めながら、歯磨きをする俺ちゃんに与えられたのは、悪魔の被造物とおぼしき一滴のウイスキーだけなんだ。マジでファックだぜ、このクソみてぇな人生ってやつはさ、厄介なもんだよ本当にさ。水溜まりを泳ぐアメーバ、ギラついた太陽から垂れ落ちる光、公園の遊具で遊ぶ少年たち、そんな映像が俺の心を襞をやわらかくしてくれるんだ。でもそれって一時的な効果でしかないから、快感を渇望してるハイエナのような気持にすぐさま戻っちゃう。ポケットに収まったタバコが与えてくれるニコチンの効果によるリラックスできる気分が、俺の惰性の毎日を彩る役目を果たしてくれている。役割を終えたニコチンは、俺の頭から蒸気のように抜けていき、新しいタバコを欲求する脳の回路が存在してるんだ、って説には賛成の意を示さずにはいられない。道を指し示してくれる空気中を漂う酸素を求めて、魚のように口を開閉させて、酸素を肺という臓器に取りこもうとする。けど、気分は窒息寸前、空気なんて全然おれの日常には送りこまれてこねぇ。代わりに流れこむのは淀んだ風という名の曖昧な代用品。それを吸ってると、タバコの煙を吸引したかのような錯覚に一瞬だけ落ちかける。落下した鳥は、再び大空を滑空して、その心地いいであろう強風を全身で浴びる。美麗な音色がこだまし、耳に水のような液状化されたものとなって入りこむ。水滴が鼓膜に付着し、耳かきでそれをかき出す。優しげなメロディーに陶酔したような気持になり、俺ってやっぱりやかましいヴァイオリンの騒音が好きなんだと悟る。あの近くで聴いてると鼓膜が痛くなるほどの不協和音が俺を目覚まし無しでも目覚めさせてくれるから、あの騒音を俺は愛しているんだ。俺は様々な事柄や物を愛している殊勝な人間でもある。人々は日常に歯がゆい思いをしながら働いてるんだ。俺は砂漠で働きたくなんてねぇ、俺には壮大な夢がり、計画も練った。あとは実行に移すだけだ。腐敗した俺の精神の残量がすり減ってきてる。俺ちゃん孤独には耐性があるけど、やっぱり人肌のぬくもりを狂おしいほど求めてしまう時もある。んでもって夜が明けそうなのに気づく。淀んだオレンジ色の輝きが空に満ちてるから、もう少しで朝がやってくるのだ。朝が来たら何をしようか、って思考遊びするのが楽しくて、これだから脳を酷使するのは止められねぇぜ。んで老衰しかけてる老人を思い出しすと悲しくなっちゃうのよねん。あの老人は今どういう状況に置かれてるんだろうか、幸せに暮らしてんのかなぁ、って思う他ない。んであらゆる楽器で混成された狂想曲を耳にしてると鼓膜が痛くなり、両手で耳をふさいじゃう。んで純真そうな俺の瞳に映しだされる映像美の数々をあてもなく数えて、いま目に映るこの景色が俺の居場所なんだと決めつける俺は、少し休んだほうが良いのかもしれねぇ。つまり脳と精神と身体に休養を与えるってわけで、まだまだ外では記録的な大雪が降っているのを見た気がしただけで、今はまだ夏まっさかりだ。うだるような暑さ、ってのはつまりいま体感してる湿気に満ちた高温の熱だと気づいて、ナイフで夏を刺し殺したくなった。夏が死ねば秋がやってきて、秋が死ねば次には冬がやってくる、っていう当たり前の循環が俺に安らぎをくれるんだから。いま俺は人生という名の惰性に身を横たえ、世界に自分自身をさらけ出してる。旋毛から肛門の皺に至るまで、全身を露出しちゃってるんだ。世界は俺に答えるように鳥を使って鳴き声を上げさせた。これが明確な答えってわけで、死は老いるように廃れていき、生だけが表面化するのを実感しつつも涙をこらえる俺ちゃんだけど、誰も俺に視線を投げかけてくれる者なんていやしねぇんだ、って分かっていながら、この下らない生を咀嚼しよう。おぞましい殺人に手を染めるなんて俺には到底できやしねぇから、自分がサイコパスじゃねぇと分かって安心しちゃう。眠るためには大量の睡眠薬がいる。夢も見ない深い眠りのなかで俺は意識を睡眠にあずけるんだ。深い深い無意識に沈みこみ、水底に沈殿する俺の意識だけが存在してるんだ。存在って言っても、形も臭いも音もない、ただ透明な膜みてぇな意識だけが睡眠というプールに溶けこんでるんだ。動脈を通した血液が心臓に行き着くために静脈に流れて全身を駆けめぐる感覚というフィルターを通して体感する血の巡りにも似た俺の体内で行われてる有酸素運動が俺に正常な呼吸をさせてくれるし、俺はもうニコチン無しでも生きていけるハズなんだと自分に暗示をかけちゃう。俺がなりたいのはパイロット、でも漫画家、でもボクサーでもねぇ、ただのちっぽけな人間であるという事実だけでいい。それが俺を喜びという感情に運んでくれるから、それだけでいいんだって口にして微笑んだ。口がつり上がるがままに任せている俺の笑顔は、悪鬼の微笑に似てるかもしんねぇ。善行を施されたいと渇望してる堕落した乞食に落ちた俺の羽がもげて、霧のように霧散して消えた。消えちゃったんだ。目の前にあるのは美しかったが色褪せてしまった景色の残骸。チューイングガムを嚙みながら街を練り歩いちゃう俺ちゃんの脳細胞なんて腐敗してしまえばいいんだ。もうアルコールにも、ニコチンにも頼らねぇと、たったいま決心しちゃったね。この決心が長続きすればいいのになぁ、決心じゃなくて誓いだったら長持ちするかって決めつける。俺ちゃんの脳の回路が潤滑油を差したかのように滑らかに稼働して、ある閃きに突き当たったのを感覚を通して感じとる。つまりそれは知覚ってわけで、俺の脳に作用した美麗な景色の効果により腐りかけの心が浄化されちゃいそうだぜ。んでもって糞にまみれた肥だめにバキュームカーがやって来てキラめく糞をポンプで吸い上げるやかましい音がすごく耳障りだ。そのため俺は嫌悪感を覚えながら耳をふさぎたくなった。耳から白い物体がベロのように出てるのを鏡で見ながら、これは幻覚の一種なんだと瞬時に悟った。触手のようなもんが甲羅を突き破り伸びて空気に先っぽに触れている。その触手の集合体がイソギンチャクに見える俺は、一回じゃなくて、何度も死んだほうがいいのかもしれない。触手の先にあるのは美意識という曖昧な代物であり、それに触れた蠢く先端から伝わってくる刺激の強烈さっていったら他では代えがたいものだね。すべてを取り払っちゃえばいんだっていう閃きにも似た考えに脳が支配される。神の手によって統括された思考ではまともに物事を考えられない。飛沫のように跳ね上がる思いを熱望する信者は神を崇拝しながら自分の生を受け入れてる。生にしがみついてるわけじゃなく、日々の生活を穏やかに、かつ静かに物思いに沈みながら過ごしてる。けれどそれが彼らを神へと導く糧のような役割をしていて、今にも切れそうな細い糸で至高なる神々と繋がってるだけなのだ、と決めつけて冷笑を浮かべる無神論者のようにはなりたくない。厄介な神という次元で話す信者たちはわらわらと供物にむらがり、それを神から奪いとって、焼いてから食らう。んでもって人生にも似た空気中に霧散する至高なる思いつきに傾倒する。傾倒しちゃうんだ。神の生き血をすすって生を享受する俺はナイフの先端を誰かの身体に埋もれさせたくて手がうずいてる。んで全身にまとわりついた霧のような形状をしたしずくをふり払うために、理性を酷使しなくちゃならねぇ。酷使された理性は、すり減って小さくなり、その下から顔をあらわした本能が俺を支配する。俺の姿に重ね合わされた幼女の肢体が産むのは、死という残酷な代物だ。俺はそんな事に頭を使いたくねぇから、自分の全身を傷つけたいって願う他ない。んで糞みてぇな傲慢ともいえる日常を殺し、スリルのある非日常を手に入れたい。でも俺は平坦な道を歩んで行きたい、という願いが胸の内でくすぶってる。燃え尽きて灰になった感情がくすぶってるんだ。遺骨に入れたその灰を取りだして海に流すんだ。そうすりゃ死者ともいえるその情感がちりぢりになり、海を漂いながら異国にまで流れ着く。それって漂着ってやつじゃん、美しい自然の流れじゃん、異国に流れ着いた漂着物を思いうかべると嬉しくなっちまうじゃん。俺の頭の周りをぐるぐると飛びまわる蠅がわずらわしくて、このちっぽけな何も掴めない手でふり払っちゃう。でも俺は金属を思わせる蠅の身体をつかみ取っちゃた。手のなかで潰れた蠅の感触が薄気味わりぃし、雌だから白い蛆みてぇな無数のタマゴが飛び出てやがんの。ここで俺は自分の生について考えるが、特段おもしろいわけじゃなく、むしろつまらねぇ、って感想が温泉が噴出するように湧くな。その熱い湯に浸って物事を考えれば、思考もはかどるってもんだ。んでもって義足で歩けばおぼつかない足どりになってしまうのは目に見えてる。生身の足で大地にふんばりると屁が皺だらけの肛門からひり出た。その快音が俺の死滅しかけた日常を再生し復活させてくれるんだから、俺はまだ生きていく事にすがりつきたい気持がなくもない。一日目、寝て過ごした。二日目、ウイスキーで飲んだくれて過ごした。三日目、ナイフで壁に傷を刻んで過ごした。本能の奴隷である俺ちゃんはこんな生き方しかできやしねぇんだ。俺は有頂天になりながらも、ある種うたぐり深い眼差しで周囲を見回した。なけなしの金はポケットにあるから、これでウイスキーの小瓶とタバコを買おう。あとはAⅤ女優を画面越しにながめながらマスターベーションをしよう。ただそれだけの生活を俺の腐敗した生活を俺の堕落した生活を、俺はやっぱり愛してるんだ。そう、ある女を愛するようにね。俺にだって女に恋して告白して付き合って愛し合った過去がある。俺にも人並みの生活を送った時期がある。でも俺の生活は悲しみによって徐々に蝕まれていき、今では穴だらけだ。無数の空いた穴から血液みてぇな深紅の液体が飛び出やがるのが虚しくて、今日も俺は酒を浴びるほど飲んで現実逃避するが、アルコールという魔法が切れた瞬間が本当の現実だ。んでもって優しげな音色がどこからか鳴りひびいてきて、醜悪な俺の心を浄化させてくれる。浄化といっても清らかになるわけじゃなく、人並みの精神に戻っただけだ。この音楽はどこから聴こえてんのかなぁ、中から外から、その中間からか分からねぇけど、確かにその音は静かともいえる小さな音でこだましてんだ。室内に反響したその音色の美しさと言ったら他には代えがたい至高の音楽なんだ。俺の脳が溶けて、粉々に粉砕された頭蓋骨と混ざり合ってしまうかのような奇妙な快感が俺の耳に押しよせてくる。繊細な優しい子守歌のような音色が鼓膜を弱々しく叩くと、俺ちゃん涎が出そうなほどの悦楽をを享受しちゃう。肛門がうずいて排泄物を出すように促してくるから放屁をして脱糞をこらえた。尻の周りにこびり付いた糞から漂う悪臭に顔をしかめる。尻から顔までは結構な距離があるのに、鼻先まで臭ってきそうだぜ。んで俺のうらぶれた廃墟になりかけの退廃した生活に嫌気が差すものの、何とかこの日常にすがりついてとどまっていようと思う。これで話しは終わりにならずに、新たな物語が再開されるハズなんだ。その物語りときたら、宝石のように綺麗な歓喜に満ちた性質をしてるものなんだ。夕暮れが息絶え、慟哭がすると、俺は甘美なる桃をもぎ取り、その柔らかな繊維の皮を歯で剥ぎとった。んで予感が胸を占める。これから先起こるであろう楽しい楽しい生活が来るという予感がさぁ。パーティーが不可欠なんだ俺の人生には、心躍るようなやかましくも騒がしい宴がさ。んでもって心中察するよ、我が最愛の友よ、って壁に向かって言う。俺の話し相手をしてくれるヤカラは、この壁紙にヤニが染みつい立ちはだかるような壁しかねぇんだ。んで俺の眼前をふさぐようにして存在する壁には親近感をおぼえちまう。なぜって? それは俺と同じようにこの薄汚い壁も話相手がいないからだ。壁は俺にすべてをさらけ出してくれて、俺はそれに答えるように流調におしゃべりして、んでヤニが染みこんで黄ばんだ壁は俺の親友なんだと悟る。んでもって俺と壁の攻防は続く。壁に決別するように、ナイフでその一部をえぐり出してぇ、って気分になった。これで俺ちゃんと壁は絶好して、別々の道をそれぞれの道を歩んで行くんだ。だから俺ちゃん現実の世界に友達とも呼べる素晴らしい存在を作ろうと思う。壁とはもう決別だ、俺に返事をしてくれる奴が欲しいんだ、もう重苦しい沈黙には耐えられない。一人でウイスキーを飲み、タバコを吸うのには飽きた。一緒に酒を飲みながらタバコを吸ってくれる無二の親友が欲しいんだ。さらば壁よ、今までありがとう! んで壁と別れた俺は、部屋のドアノブをひねって扉を開けて、外の世界へと旅立った。でもでも友達なんてどこで作ればいいんだ。作り方がわからない俺ちゃんはとりあえず路頭に迷った。迷っちゃったんだ。いきなり通りに歩いてる人間に声をかけるのも変だし、ネットで作る友達を友達と呼べるのかな。それって一時的にこの身の上を通過してしまう関係でしかねぇんじゃねぇの。勇み足で外に出たものの、俺ちゃんとまどって立ち往生しちゃう。けっきょく、俺は一人で酒を飲む運命なんだ、そうに違いねぇんだ。とりあえず手持無沙汰な俺は、居酒屋に入って個室に通されると座敷にすわり、極上の生ビールと出来立てで湯気が立ってるフライドポテトを注文した。他の個室からは心底から楽しそうな声が響いきて、孤独な俺ちゃんは一人でしょんぼりしちゃう。周りには数名の客がいるのに、俺だけ一人ってこの状況に、世界から締め出されたかのような強烈な疎外感を感じちゃう。でも生ビールとポテトは嫌になるくらい美味くて、ほろ酔い加減な俺の孤独を麻痺させる効果のあるアルコールに助けられてる。ああ、もう、俺は今日は飲みに飲んで飲んだくれちゃうね、って言っても俺は自室にいるときもいつも飲んだくれてるアルコールが無いと生きていけねぇか弱い生き物だ。他の個室に乱入するかって考えが一筋の光明のように頭んなかに降りそそいだ。いけねぇ、一筋の光明なんて表現はもう何回も使ったし、使い古されて垢まみれの比喩だ。とりあえず俺はジョッキに入った炭酸の液体を空にするまで豪快に一気飲みした。ジョッキの底にわずかに残ったビールの欠片が俺の気分を萎えさせるから、俺はまた新しいビールを注文した。爽やかな笑みを浮かべるウエイターにビールを持ってくるように告げる。こいつが仕事を放りだして一緒に飲んでくれたら楽しいのにな、って仕事を放棄なんてしたら即刻クビか。彼の代わりは幾らでもいるんだって思うと、俺の孤独が少しだけ晴れた。雲に覆われた空が晴天になるように晴れ晴れとした気持ちになっちゃったんだ。んでもって孤独に蝕まれた俺の生活が出口をもとめて彷徨ってる。一筋の光がトンネルの出口から差しこむみてぇに俺の下らねぇ日常にもやがて喜びがやってくるんだって分かっちゃいるが、今はうんざりするくらい一人ぼっちだ。缶コーヒーとウイスキーを混ぜ合わせた黒光りする液体を飲んでみてぇな。そうすりゃカフェインとアルコールの効果によりマジでハッピーなのよねん。アルコールとカフェインを同時に摂取したことの無い俺は、その二つの快感物質が脳のなかで溶け合ってどんな作用をおよぼすのか疑問だ。けどとてもとても、いやとてつもなく気持よくなるんだろうなぁ、つぅのは分かりかけてる。脳がぶっ飛ぶほどの快感神経に作用した二つの物質が至高なる神のいる天国まで連れてってくれるのか神よ。明確に的確に明快に答えて欲しいんだ。じゃなきゃ自殺しちまうぞ、ってこれ何回もあんたに言ったか神よ。んで空気中を漂う一種の意思に捉えられた俺ちゃんは、全身が宙に浮遊するかのような感覚になっちゃう。つまりは結果論ビールが美味いってわけなのはDNAに刻みつけられた人を人たらしめている情報からも分かる。ビールのジョッキを三杯も空にすると、酔いが回りまくって、室内の様子が回転してんのを見て、俺の生活にはやっぱりアルコールがかかせないんだという結論に至るまでの過程を計画に組みこもうとする。んでもって羞恥に歪む女の顔を一回でいいから見てみてぇ。服をひんむいて裸にさせて、ベッドに寝転ばせて、俺はそいつとセックスしないで勃起したソレをしごくだけなんだ。そんな空想をしてると快感がすさまじい勢いで押しよせてくるよ。ヤベェよ、これが生きてるってことじゃん。永続的な快感を摂取し続けながら生きるってのが本来の人間に備えつけられ本能みてぇなもんだ。悦楽を覚えちゃった俺ちゃんは悲しさが吹き飛び、歓喜にむせび泣いちゃう。でも涙なんて結局のところ一滴ぐらいしか出ねぇ。頬を伝った涙がジョッキの中にこぼれ落ちる。どうやら俺は感傷的になってるらしい。英語で言うとセンチメンタルな気分ってとこ。悲しげな旋律に耳を貸せば、俺の中にひそむ悲哀が浄化されて、その憂鬱な感情が霧散していくのを感じる。俺はもう一人で暮らすのは嫌だから、誰かと一緒に生活してぇ。恋人じゃなくてもいいんだ、赤の他人でもいいんだ、それが友達ならなおさらいいんだ。とにかく一緒に日常を送ってくれる奴が欲しいんだ。俺の情熱ともいえるそんな欲望が胸のなかで膨らんでいく。それを知覚した俺ちゃんの脳なんて腐っちまえばいいのに、腐れ女みてぇにさ。ってでも女の腐ったような男である俺は女に対して同情ともいえる感情を抱いてるが、同時に同族嫌悪もしてる。しちゃってるんだ。女なんてみんな俺に冷たく当たるから、俺ちゃんは一回だけホモになって男相手に肛門を掘ろうとした過去もある。思い出すだけで羞恥に頬が赤くなり、顔を両手でおおい隠しちまいそうになる。別にゲイがいけないんじゃない、俺がゲイになるのが恥ずかしいだけだ、ってホモセクシャルに理解のある僕ちゃん。僕ちゃんの心音が激しく高鳴り、心臓が激しく脈打つと、鮮明な意識を取りもどしちゃう。それは鮮烈で透き通った映像を見るような繊細な感覚だ。そんな感覚を取りもどした俺は、少しだけ、ほんの少しだけ酔いが冷めた。んで俺ちゃんの時代は一生来ないと分かっていながら、時代の幕開けを求めてしまう理性もあわせ持ってるんだ。この世に生を受けたことを後悔しちまうのは、俺が特別な人間だとも言えるからだ。だって平凡な人々は自分の生を何を考えずに馬鹿げた頭で受け入れてるんだもん。それって最悪なことじゃね、って思う俺は頭のイカれた孤独を愛する者になんてなれずにいる寂しがりやの生き物でしかねぇんだ。だとしたら俺は凡人なのか、って考えに捉われちゃう。いやいやそんな訳ない、俺は神に選ばれた栄光を手に入れられる人間なんだ、って強く強く、いまこの瞬間に確信しちゃったね。その確信が熔解して不安と混ざり合うと、俺の内部で混濁したシチューの味に変化しちゃう。その味ときたら、他では得られないくらい口のなかで涎が大量に分泌されるものなんだ。白濁した液体を顔面から浴びると、ひんやりとした感触に心地よくなっちゃう。んでもって心中察するね幼女よ、お前はプリズムみてぇな透き通った心を持ってるんだろう、そうに違いない、そう信じたい。俺は幼女の瞳を見つめながらアイスクリームをその余りにもの小さなほっそりとした手に渡した。幼女は輝くような極上の笑顔を浮かべて、アイスクリームに顔をうずめるようにして食べだした。淡い色の綺麗な舌がアイスクリームをすくい取って、その甘い味わいを味覚神経で感じとってるようだった。鼻にアイスがくっついてるのが可笑しくて、俺は噴き出してしまう。鼻にこびりついたアイスの欠片を指先で取ってやると、俺はそれをおしゃぶりするみてぇに口に含んだ。んー冷たくて甘くて美味い。溶けかけのアイスは俺の舌の上ですぐさま消えてなくなった。何だかそれが悲しくて、悲哀が胸にわだかまって、それがヘドロのようなぬかるみに変化してしまうのを感じた。感じちゃったんだ。んでもって地面が削られ、そこに大量の液体が流れこんで、海のような深さになったぬかるみに身を没しちゃう。俺の、俺だけの魂を再生させるプロセスを行わなきゃなんねぇ。理想主義者は死んだ、神が死ぬようにさ、ってニーチェみてぇに哲学してもつまんねぇし、俺はもっとシンプルに物事を考えたいね。ぬけがら状態になった俺ちゃんの虚脱した肉体はぜい肉が付きまくってる醜い豚みてえなもんだ。でもこの考えって至ってシンプルじゃねぇの? いやー自分でも何言ってんのかさっぱり分からねぇな。もっと突き詰めて、もっと簡単に思考しろ、俺よ。つまりはナイフとタバコとウイスキーが聖なる捧げものだと思ってる俺ちゃんは、何度となく自傷癖を治そうとした経験があるが、結局治らなかった。お医者さんに説明したところで奴は、いや奴らは、一笑にふすのが明白で明確で明快だ。こんなにも真実は単純明快だったのか、悪魔さんよぉ、って天井に向かって口にするのはもう俺の悪癖の一部だ。俺の悪い癖はいっぱいある気がするけど、それも俺を人間たらしめてる歯車の一つなんだ。今までの自分でいいのだ、と信じたい気持の欠片が皮膚のすきまに入りこむ。皮膚の覆われた肉がその破片で裂けて、血がにじみ出るのだと妄想する。痛みはない、ただゆりかごに揺られてる時の赤子が敏感に感じとる安らぎだけがある。んでもって俺の未来も安泰、安泰、でも俺の人生という名の物語はまだまだ続くっぽい。続けたくないね、ここらで終わりにしたいね、人生終了だね。終わりを告げる鐘の音は鳴らないから、俺ちゃん憤りにも似た気持ちを感じちゃう。あの轟音が俺を救ってくれるハズなんだと、信じたい、いや信用してる。粘ついた冷気が身体中にまとわりつき、それをふき取るために必要なのは理想だけだ。理想は恐ろしいおぞましい代物だって分かってんのかよ、人間共よ。夢物語りを語る理想主義者には参ったぜ。だってさ理想ばかりで現実を見てないんだもん。んで粉々に砕け散った奴らの思想は破片をまき散らしながら消えていく。消えていっちゃうんだ。脳内にネジみてぇにねじ込まれた痛みのおかげで視界は鮮明、これで今日もあまりにも眩しすぎる太陽を直視できちゃう。太陽は静かに燃え続けていて、その身にまとった炎がゆらゆらと揺れているのを眺めながら飲む酒の味ときたら無いぜ。んで俺の内部で破裂しそうなほどの感情、というか情熱が俺の身体から出口をさがして結局、口のなかから這い出てきて、空中に漂ったそれはもう粉みじんになる運命なのだ。その運命からは誰も逃れられやしねぇんだ、って決めつける俺は自分の内面にある破壊衝動を抑えるのに必死だった。だから俺ちゃんにツバを吐きかけてくれないか、幼女よ。その甘い唾液が頬に付着したら、それを指先で拭いとって口に運んじゃうんだ。口内では幼女の唾液、というか汁が広がって、味覚を使ってそれを絡め取って絶対にもう離さねぇ。離さねぇから幼女の唾液は俺のツバと混ざり合って胃に流れこむんだ。んでもって胃の粘膜に染みこんだ唾液が血液に溶けこむのを感覚を介して感じとりながら、やがて俺の宿命につき当たっちゃう未来、というか来世に見出す白濁したミルクの味が脳を甘くとろけさせる。白い液体はノドを通過し、腎臓を傷めるほどの糖分を孕んでいる。その糖分が俺にセロトニンという快感物質を与えてくれるから俺はリラックスできる。つまりチョコレートを食べたいってわけだけど、この居酒屋にはそんな気の利いてるもんなんかねぇ。俺はチョコのフィルムを優しげな手つきで取ると、黒いかたまりを口のなかに放りこんじゃうんだ、ってただの妄想だねこれは。しばらく噛んでると口のなかで溶けていき、舌を甘く痺れさせる。クラゲの触手に刺されて痺れてしまうようにさ。肌から現実が剥離し、日常が燃えるように出現するのが楽しくて、俺は一人で大笑いしてしまった。静かに、ここからは小声で話さなけりゃならねぇ。空間に吸いこまれた俺の声は反響する前に部屋のなかで消失しちゃう。響きわたる音色を想像すると恍惚とした気分になっちまうが、実際には音楽なんて洒落たもん流れてねぇ。ただ無音の空間に人々の話し声という喧騒が入りまじる。入り混じっちゃうんだ。んでもって垂れ落ちた琥珀色の液体が俺のズボンの一部に染みこんできやがるから、俺はナイフをポケットか取りだそうとして熟考した後でそれを止めた。ナイフはこの場にはふさわしくない神聖なものだから、俺の住むボロアパートの一室で出しちゃうしかねぇんだ。ナイフの切っ先の美しさと言ったらないね。俺は会計を済ますと、居酒屋を出た。そして徒歩で駅まで行くと、電車にゆられながら家に帰った。我が家である外壁が薄汚れたアパートに到着すると、ちゃちな形状をした鍵を使い、ドアノブをひねって室内に入る。入っちゃうんだ。帰る時にスーパーでワイルドターキー八年って銘柄のウイスキーと粉々に挽かれたコーヒー豆を買った。ここで二次会だ、誰もいねぇけど、一人で宴を催しちゃおう。結局、俺には友達と呼べる素晴らしい存在は出来なかったし、恋人もいないから、何だかちょっと心が萎えちゃうのよねん。でもでも、一人も悪くねぇじゃんって思いなおす。恋人がいたらいたで束縛されて時間の自由が効かないからだ。友達相手に時間を消費、つぅか浪費するのはどうなんだろう。俺はそんな些細な事柄にかまっちゃいられねぇ。とりあえず俺は半透明の艶やかなビニール袋からコーヒーとウイスキーを取りだす。コーヒーは台所の棚に仕舞って、ウイスキーはこのせまっ苦しい室内ではやけに大きなテーブルの上に置く。んでグラスを洗って布巾で水滴を拭きとる。それからソファーに身を沈めてウイスキータイムといこうじゃねぇか。これが至福の時間である俺ちゃんは、宅飲みの一人飲みに慣れてる哀れな存在じゃん。つまみは冷蔵庫にあったブルーチーズを食べようと思う。クリームチーズもマジで美味いけど、ブルーチーズのパンチの効いたしょっぱい味の虜になってる俺は、いつもチーズを選ぶときはどうしても黴にまみれたブルーチーズを買っちゃう。黴なんて食べて身体に悪影響はねぇのかなぁって思うが、ウイスキーも身体に毒か。まずウイスキーをグラスに注いで少しずつ飲み、その休憩にチーズを口に放りこみ咀嚼する。ウイスキーのつまみには絶対にチーズが欠かせないだろう、いやナッツ類でもいい。でもナッツはこの部屋にねぇから、また買いに行かなけりゃならねぇ。そんなの面倒臭くて最悪最低じゃん。だから俺は部屋にある物でとりあえずは満足しようと思う。俺という存在の証、それは俺が意識を持っているということだ。それが人である、いや生き物である証明なんだ。そんな考えに身を浸してる俺だけど、普段はこんな小難しい命題に思考を巡らしたりはしねぇ。とりあえず俺はタバコに火を点けて、煙を強烈に吸い込み、ニコチンを肺に取りこむ。アルコールとニコチンの相乗効果により、脳と視界がぼやけて非現実的な世界への扉が開き、その奥へと何者かの手によって誘われる。つまり現実感がなくなったって訳だけど、いつも俺はタバコとウイスキーを摂取すると自分が本当にここに存在してんのか、その輪郭がぼやけて曖昧になり、分からなくなる時がある。ちょっと僕ちゃん混乱状態ってわけ。んでもって心臓が激しく脈打つのを感じながら、これはアルコールの作用によるものなんだと決めつけちゃう。決めつけちゃうんだ。誰もいない空間、俺しかいないこの部屋でソファーに腰かけてると、どうでもいい事ばかり考えてしまう。いかんいかん、理性を取りもどさなくっちゃ。でもウイスキーを飲む手も、タバコを吸う手も止まらない。一体おれはどうしたらいいんだ、幼女よ、答えてくれないか幼女よ、明確に的確にさぁ。でも幼女は沈黙するだけで何も言葉を返してはくれない。悲しくなっちまうね、今の俺には酒による酩酊作用が必需品だよマジでさ。んで、いかんともしがたい問題が立ち上がって、俺はそれに頭を悩ませるしか出来なくなる。その問題とは俺がパチンコで金をすったってこと。あんな所もう二度と行かないね、行くなら風俗の方のがいくらかマシだ。でも風俗に行って売春婦を抱くだなんて真似、俺には出来っこねぇからオナニーで我慢しよう。それが健全で健康で健やかだ。そうに違いねぇハズなんだけど、俺はまだまだ確信というか確証を持てないでいる。んでもって酔っぱらった状態では不感症になるのは目に見えてるし、それって明らかってやつじゃん、って決めつける俺の皮膚を誰かに引きちぎってほしい。お願いだから、皮膚を引きちぎるまではいかないにしても、つねり上げてほしいんだ。そうすりゃ俺の肌に痛みが走り、俺は今ここに自分が存在してるんだって認識できるんだから。んでもって俺ちゃん子羊のようにか弱い生き物であり、寂しいと死んじゃうウサギみてぇな哀れな性質をもつ人間なんだ。俺はもちろんあらゆる事柄から逃げ出した。その結果には大いなる喜びが待っているんだという気持を信じたいだけで、信じなければ一人で腐っていく惰性に身を任せるがままに終わる。終わっちゃうんだ。んでもって点に集中した俺の意識が次第にぼやけてくる。それだけじゃ飽きたらず意識は混濁し、視界が何かにふさがれる様にして何も見えなくなる。俺は怠惰な人間だし、人並みの羞恥心もあわせ持ってるんだ。羞恥に震えるこの身をあの妄想上の老人に投げだしたくて堪らねぇよ、マジでさ。幼女を愛してるように、俺はあの茶目っ気たっぷりな老人に友愛の念を抱いてるんだ。そこにあったのは天秤のようにぐらぐら揺れる愛憎か、それとも純粋な愛情かは分からねぇが、確かにそこには何かしらの感情の動きが働いてたと記憶している。強く刻まれた記憶は、もう取り去りたくても取り去れないから、俺の脳に銃弾を撃ちこんでくれ、人間よ。不特定多数の人間でいい、特別な人間じゃなくても聖人でも善人でも悪人でもなくていい、ただの平凡な人間でいいから俺の頭蓋骨を撃ちぬいてくれないか、ってな願望が叶えられる日は果たして来るのだろうか、いや来ねぇな。だって誰も俺に視線を投げかけてくれる者はいないからさ。奴ら人間の視線ときたら異性を狙うハイエナが宿す鋭い眼光だからだ。俺には鋭い視線も優しい目線もどちらも投げかけられない、って知ってるっていうか、これって確信に近い感情だね。その情感ときたら厄介な代物で、手に入れたくても手に入らない視線だから、奴らの眼球を摘出して潰してやりたくなっちゃうぜ。奴らが見るものは俺じゃなくてもっともっともっと詰まらねぇ愚物。んで俺って拳銃の銃口が死を望んでるように、自殺をしてしまうのだと願っている。そんな考えを持つ他どうしたらいいんだ、答えをくれよ宇宙意思さんよぉ。でも宇宙は俺に沈黙という名のいやらしい答えを差しだしてくれるだけ。これにはさすがの俺ちゃんも参ったよ、降参だ降参。んでもって宇宙に広がる星々の輝きが俺を癒してくれる、ってのが明確な答えなのかよ。確かに、確かにね、癒されはするが、それってニコチンとアルコールと同じで一時的なもので、しかも依存性があるものなんだ。根性のあるところを誰かに見せなければならない。でも根性なんて素晴らしい性質、俺の内部には欠片もねぇ。根性なしの俺は日々を彩る怠惰ともいえる生活を過ごしていくしかねぇんだ。つまり惰性でしか生きられないのだと気づいて、少しだけ、ほんの少しだけ悲しみが胸を占めちゃう。いやわき起こると表現した方がうってつけかもしれねぇ。お日様がまぶしいこの日には外に出て意味もなくあてもなく歩きたくなる。僕ちゃん家から出ようかな、でもでも外の世界はあまりにも残酷で残虐で残忍だから怖くなっちゃって部屋で震えてるしか出来ねぇのよねん。世界は俺に股ぐらを閉じて、この閉鎖的な生活に締め出したんだ。俺を締めだした世界には憎しみの念を覚えるが、ほんのちょっとの愛情も感じちまってる。んで俺の肛門の皺にこびり付いた排泄物から立ちのぼる臭気にはうんざりしちまうね。トイレットペーパーで念入りに拭いた綺麗な尻を噴水のようなビデでさらに洗うと、晴れ晴れとした気持ちになっちゃうのよねん。肛門に冷水が浴びせかけられ、その快感に俺は白目を剥いちまう、ってのは冗談で、それほどの気持よさでもねぇが、確かに快感を覚えることは覚える。まぁ肛門の話なんて下らねぇし下劣だからこの辺で止めとこう。といっても肛門の魅力に憑りつかれた俺ちゃんは尻の穴に指を入れて直腸を刺激する。分泌液が滲みでてくると今度はそそり起ったチンポコをぶちこんじゃう。そんな妄想に捉われてる俺だけど尻を掘る相手なんていやしねぇんだ。男でも女でもいい、いや女の方がいい、幼女ならなおさら良い。つまり俺は性的嗜好をさらけ出しちゃう露悪主義者だ。でも人間って誰しもけっこう露悪的だという命題につき当たった俺ちゃんの脳裏にある思考回路の歯車が狂ってもう最高だ。自分の悪癖をさらけ出すのはそんなに悪い事なんだろうか。いや、そうでもねぇと俺は踏んでる。じゃあ何がいけないかと問いかけられたら、俺はそいつの顔面にツバを吐きかけてやるね。そんな愚問を口になんかするんじゃねぇよ、って憤っちゃう。まぁどちらにしろ、どうでも良いか、そんな些末な事柄。では俺に必要なのは幼女の悪臭ただよう糞にたかる蠅の金属的な肉体美だけを求め続ける精神体の発する思念みてぇなもの。だってこれって最高の人生だから、他の奴の生活をなぞって生きるなんてしたくないから、自分自身だけの日常を噛みしめて生きたいだけなんだから。んでもって強く強く念じるとテレパシーのようなものが俺の頭から電波になって飛んでいき、アンテナを求めて彷徨い歩く。先の見えなえい真っ暗闇のなかをふらついた足どりで進むんだ。んでもって、これだから涎が垂れ落ちちまうぜ、俺じゃなくて幼女の唾液ね。シロップのような甘い液体であるツバを飲みこむと、全身が歓喜に打ち震える、ってのは大げさな表現であり、実際には大した快感は得られねぇ。糖分が好きな俺はよく飴玉を舐めてるけど、大量に舐めると身体には悪いって知っていながらも、あの甘い味を求めてしまうんだ。でもカルアミルクなんてガキが飲むような酒は一切、口に入れたくねぇし、あんな甘すぎる酒、アルコール本来の良さを損なってるだけで、アルコールはもっと刺激の効いた味じゃねぇといけない、ってウンチンを垂れちゃう俺は神の被造物である愚物だ。愚かな愚かな人間の一人でしかねぇ俺は、よく間違いを犯すときがあるけど、みんなに神じゃなくて人間なんだから仕方ない、完璧じゃなくて良いんだよ、って言ってほしいけど、みんな沈黙、俺ちゃん発狂。というか獣の咆哮みてぇな絶叫を発しちまう。こんな俺でも誰か純粋そうな眼差しで見つめてくれるような人はいないかな、いないな、いないかぁ、残念、残念。んでもって希望を持って生きるのが正しいのだとしたら、絶望を味わいながら惰性に身を包んでる俺は人という線の境から逸脱してしまっているのかもしれねぇ。いかんいかん、思考が飛び飛びで自分でも何言ってんだかさっぱり分りゃしねぇ。強く脳に刻みつけられた記憶を思い出してると、俺にも楽しい一時は確かにあったのだと気づく。気づいちゃうんだ。んで記憶という海を漂流してる輝く粒のような思い出たちが俺に安心感を与えてくれるから、至高の安らぎに満ちた未来を想像、じゃなく創造しよう。そうすりゃ華々しい豪華な日常がやってくるハズなんだ。そんな日常に身を没し、心をあずけると、究極の癒しが俺の胸を占める。安心感、安らぎ、至福、それらがめちゃくちゃに混ざり合って渦のようになりながら俺の内部に浸入する。ああ、これが至高の時だね、本当に幸せな時間だね、他のものには代えがたい時間だね。時刻を指し示す短針と長針がゆれ動きながら時間を表示している。脳内でオルガズム有頂天、旋毛に突き刺さる快感、チンポコからじんわりと広がる熱、それらがこの砂漠の性質にも似た広漠とした土地に潤いを与えてくれる。すると一輪の花が咲き、それが乾燥した風に煽られ、嬉しそうに揺られてる。んでもって脳みそに注入された液体のおかげで視界がやけに鮮明になり、クリアな思考で物事を考えられるようになる。微細な模様の入ったタトゥーがシールのような様相を呈していると誰が決めたのだろう。シールでも良いじゃないか、お湯で流せるから簡単じゃないか。奇跡は起こらないと分かっていながら、俺はその神聖な物事がいつかは俺に起きるんじゃないかと信じる気持ちがなくもない。なくもないんだ。といっても俺は奇跡を目にした経験のない哀れな生き物の一人だ。だって俺ちゃんと言ったら奇跡を待ちのぞんで、それが手に入んなくてうんざりしちまうぐらいの不感症ヤロウ、いや過敏症ヤロウなんだ。嘘で塗り固めた人生は楽しかったか、と聞かると俺はこう答えちゃうね。ファックだそんなもん、下らねぇ糞みてぇなものだ、ってね。だから惰性で彩られた俺の世界に侵入してきた人間には銃弾をお見舞いしてやりてぇ。俺の孤独に色褪せた世界は息絶え、新たな日常がやってくる、って胸躍る気持ちにも似た感情を抱いちゃう。俺は最高の人生を生きたいだけなんだからさ。人々が働いてわずかな日常を過ごしてるのだとすると、それは少なくとも孤独ではない。俺ちゃんは自由があるけど、孤独という一種の病に犯されてるんだ。その病魔ときたら、俺の精神をむさぼり食らい、その胃袋に液状化した日常を落としこむ。飲み下された日々には亀裂が入り、そのすきまから孤独が猛毒みてぇに浸透してくるんだ。毒に犯された俺ちゃんは一人ぼっちで発狂しちまいそうになる。だから友達が必要なんだけど、何処を見回しても見つからないので、俺ちゃんは狂おしいほどこの感情をぶちまける相手が欲しいのだ、と悟った。噴出するようにして脳天から飛び出た感情は穴を探したくて振動してる。感情は自分が入りこむ事のできる洞窟にも似た穴を求めてるんだ。砂漠を彷徨ったあげくにオアシスを探し当てるようにして穴を発見しちゃう。穴を見つけたら揺らめきながらも暴れながらもそこに入っちゃう。俺の旋毛に誰か銃弾を撃ちこんでブチ殺してくれないか。幼女の手に握られた拳銃の銃口から漂う火薬の香りを嗅ぎたい。俺は幼女に銃殺して欲しいんだ、とこの時ようやく気づく。んでもって気づいちゃったら気づいちゃったで俺の自殺願望は歯止めが効かない。回転しつづけるヒヨコちゃんが幼女の周りをくるくると回っている映像が脳裏に浮かぶ。そのヒヨコはオモチャで出来たあの湯船に浮かべるヒヨコだ。そんなもんナイフでぶった切ってやるから今に見とけよ、俺をバカにした奴らめ。まぁここいらで俺の理想について語ってみるのも悪かねぇ。それは喜びに満ちあふれた音楽を耳にしながらウイスキーを飲んでタバコを吸うってことだ。そうすりゃ俺は新時代の幕開けと共に公衆の面前に踊り出られる。つまりは醜態をさらしたくはない、って訳だけど、俺のひ弱な身体を見て欲しいだけ。んでヒリついた刺激的な作用により、俺ちゃん嬉しくなって楽器を奏でたくなる。ピアノがいいかな、ヴァイオリンがいいかな、それともギターがいいかな。といっても俺はヴァイオリンに対しては無知もいいところだし、ピアノに関しては齧るていどの知識しかねぇし、ギターはほんの少しだけ弾ける程度だ。だから俺ちゃんの選ぶ楽器はギター、これ一択。そしてつまびらかな指さばきで巨大な男性器を思わせるギターを弾くが、爪に垢が溜まっていて、それが俺をしょんぼりさせちゃう。させちゃうんだ。とりあえず爪を切るために爪切りを探すが、見つからない。仕方ないからハサミで切ろうと悪戦苦闘するけど、上手く切れないで何だか爪の先が不揃いになっただけで垢は取り去れない。まぁいいや、ギターを弾きたい、っていう衝動には抗えねぇから、この楽器を演奏しようとした。でもチューニングが狂ってて、思い描いてた美麗な旋律にはならねぇでコントのBGMみてぇな情けない音だけが室内にこだまする。チューニングを整える機械は買ってねぇ、だって俺ちゃんの耳を使って弦のペグを動かし、まともな音に出来るんだもん。鋭敏な聴覚の持ち主である俺は、その欠片のようなわずかばかりの才能に酔っちまう。ウイスキーで泥酔するみてぇに陶酔した気分になっちゃう。んで俺の脳細胞はスミスのディス・チャーミングマンって音楽を求めてるから、試しにイントロを弾いてみた。繊細なギターの音色、エフェクターで歪ませてねぇ、まっすぐな音色に俺は至高を感じちまう。回転式の快感が脳にねじ込まれて、ギターの脆弱な音色を俺ちゃんの体内で胎動するリズムと重ね合わせる。俺ちゃんは心臓部にある動脈に流れこむ赤い液体を妄想しちゃって、マジで気持ちいいよ。んで宇宙空間には惑星がありやがるから、脳細胞がそれと接続して、最高の快感が流れこんでくる、という映像美がまぶたの裏側に見える。見えちゃったんだ。ウイスキーは相変わらず脳の神経を痺れさせるよううなくらいの美味さだ。グラスをテーブルに置くと、グラスの底とテーブルがぶつかる快音が耳にながれこんで、涎が垂れそうだぜ。唾液は俺の口のなかで実際に分泌されているのにそれを飲みこめないでいる。渦巻きに吸い寄せられた蛾の鱗粉が吸着して理想を高めようとする俺の精神を圧迫する。心が押しつぶされそうなほど苦しいから、誰か俺に救いを与えてくれねえか。淀んで腐敗した液体が底に沈殿している俺ちゃんを救助してくれる人が必要なんだ。救済された俺ちゃんの善意に凝り固まった魂が空気中に散っていくのを知覚しつつも、脳内から大量の快感物質が分泌されて、人間どものはらわたを貪り食らう亡者のようになりてぇ、って気持が欠片くらいはある。欠片くらいはあるんだが、その欠片をちっぽけな手のなかに握りしめるという行為は俺の脳を甘くとろけさせちゅうんだ。ナイフの先端が人肌にもぐり込みたくて、ゆっくりと血が乾いていくのを見つつも、陶酔した善人の純粋な心が散りばめられた星くずの輝きにも似てるのだと信じこむのならば、これほど残酷なことはないだろう。んでもって俺はナイフでウイスキーの瓶を切りさこうとするが、刀身がガラスに引っかかって上手く切れねぇ。瓶の切断された断面の微細な繊維を見てみてぇよ。一度でいい、一度でいいから見てみてえんだ。人間どもの肉体、魂、精神が俺をダメにする。俺の内部では目まいがしそうなほどの清純化された光と、絶望してしまうほどの真っ暗闇がせめぎ合ってる。んでもって俺は結局のところ闇に傾いてしまうダメ人間だ。駄犬のような性質をしたダメ男なんだ。下らねぇ! 蛆虫にも劣る愚物が! 肥だめにも似た下らねぇ思考が! 俺は精神を病んでいるだけで、それ以外は健康体だ。雑文をつづるのはここらで止めにしようとする。けれど抗いがたい見えない力によって俺は指先を駆使して自分の精神状態を日記のように記さずにはいられない。これは小説じゃねぇ、手記でもねぇ、ただの独白だ。なんて口にしてみたところで現状は嫌になるくらい変わらねぇ。変化が欲しいんだ、一条の光にも似た華麗なる変化が。んでもって長い人生に起きたある変化が、俺に喜びを与えてくれるハズなんだ、とそう信じたい。日記帳のページを破り捨ててやろう、そうすりゃ俺の気も晴れてほがらかな日常の渦のなかに回帰できるんだ。んでホテルで高い金を払って女と一発しけこみたいから、ホテルの一室に行き女の服をひんむいて、そそり立ったチンポコをぶちこんでやりたいのだ、と脳が命令を発していて、俺はその奴隷になって自由に身体を操られるがままだ。んでもって他の奴にはびた一文たりともくれてやらねぇが、俺は女に金を払った。彼女に裸になるように促すと、女は俺に見せつけるように一枚一枚、服を脱いでいった。神々しい肉体美、くびれた腰、豊満な乳房、どでかい尻を眺めながら俺は自分のソレに血液が集まり勃起していくのを感じる。チンポコの血管が脈打つほど硬く硬く起っちゃってるんだ。俺はまずこのゴツい手で繊細に優しく女の身体を愛撫した。そして胸を揉みしだくと、女の乳首から乳液が漏れでた。あーこいつ孕んじゃってるんだ、きっと誰とも知らねぇ男の子供を。何だか俺は気分とソレが萎えちゃって、女に加える愛撫の手を止めた。「どうしたの?」って聞かれたから、俺は無言で女のすべてを引きずりこんでしまいそう恐ろしい瞳を見つめた。孕んでも神々しい、処女なのに受胎してるんじゃねぇの、って一瞬だけ錯覚しちまいそうになる。それほど女の肌は天使の羽のように真っ白くて、神秘的な性質を内包してる。内包しちゃってるんだ。気づくと俺は女を抱きしめていた。女は俺の行動が盛りの付いた犬みてぇなものだと思ったのか、そっと俺のチンポコに手を触れた。そのとき電流のように俺の頭に走った快楽といったらないぜ。でも俺はもう女に性的興奮をおぼえなかった。なぜって、彼女の腹んなかでゆっくりと俺の心臓に共鳴するように胎児が律動してるんだ。俺は女に気があるのか自分でも分からないまま、その柔らかな身体を抱きしめていた。といっても行きずりの関係だから、そこに愛は欠片もないと知っていながら、俺は彼女に同情にも似た気持ちを抱いていた。女の神秘的な肌を毛布で包むようにして俺の脆弱な全身で抱きしめたままで、俺は声も発さず沈黙がこの空間を満たすのを敏感に感じていた。「もう、どうしたって言うのよ。早くやらないの?」女はじれったそうに俺の腕のなかで身体をよじらせた。俺は女を話さずにきつくきつく抱きしめたままだ。んでもって女はしびれを切らし、俺の胸に手をやって、そのまま突き飛ばした。俺はベッドの上に転んでしまう。それから女はある種の概念を俺に重ね合わせるようにして、自分のみずみずしい身体を重ねてきた。ソープ嬢がやるようにして、その柔らかな肌をこすり付けてくる。でもローションなんて使ってねぇからそれほど興奮もしねぇ。んでその果肉のように柔らかな人のぬくもりに触れた俺は昇天しちまいそうだね。果肉の様にってのは表現が大げさにすぎるか。これは明らかに茶番だ、ぜんぜん興奮しねぇし、何だか女の柔肌が薄気味悪くなってきっちゃった。だから俺は女を押しのけて、急いでホテルを出た。部屋をでる時に見せた女の呆けた表情っていったら見物だったぜ。下らねえ女を金で買うだなんて滑稽な真似しちゃった俺ちゃんは、ポケットの中に手を入れて、睨みつけるような顔をしながら往来を歩いてく。サングラスがあれば、あの日差しを遮るものがあれば、俺の気分も少しは晴れるのに。でも俺はいまサングラスも老眼鏡もメガネさえ持ってねぇ。双眼鏡を覗けば大きくなった情景が目に飛びこんでくるんだ。でも双眼鏡なんて気の効いたもん手元にはねぇし、ポケットの中にも存在しない。発狂しそうだぜ。狂人になっちまえばもっともっともっと楽に生きれるのかなぁ。でも俺は正常なラインに意識がとどまっているただのダメ人間。女を金で買収しちゃう糞の駄物。俺はあの女に憎しみにも似た感情を抱きながら通りを進んで行く。居酒屋もカフェにもラブホにも入った。じゃあ俺の行きつくべき先は一体どこにあるんだろう、なんて何処にもねぇんだ。乾燥した砂漠のように広大にも見えるこの街をただただ歩くしかねぇんだ。俺に手を差しのべてくれる奴なんかいないんだ。それが悲しくて、もうただ涙が頬を伝うのに任せるがままだ。もう嫌だ、人生なんて悪い夢だ。孤独には耐えられないけど、一時的な関係にもうんざりしちまってる。だとしたら俺はこれから先どう生きていけばいいんだ。俺はもう悪い冗談には飽き飽きしてる。イラ立っちまった俺ちゃんはもう人肌なんて一生もとめねえんだって誓っちゃったね。でも俺は人のぬくもりをまだ諦めずに欲しているのだと頭では理解してる。もちろん感情の面では納得がいってねぇ。ああ、早く夏なんて終わって丁度いい温度の気持ちいい秋がくればいいのに、いや秋も終わって冬が来ればマフラーを首に巻いてコートを着て手袋も付けられるのに。早く来い、冬よ! 防寒した俺ちゃんの服のすきまを、寒い寒い風が通り抜けるが、それが逆に気持ちいい。滅びよ、この世界よ、俺の内部で火種のようにくすぶるこの世界よ、お前なんて早く崩壊しちまえばいい。んでもって強く強く記憶しておくために、目がシャッターで脳がカメラ、ってな感じで、俺は女の裸体を網膜に焼きつけてた。けど俺はこれをオカズにオナニーしたりなんかしねぇ。だってあんなに情けない気持になるなんて誰が信じられよう。俺はもう喜びを感じるための感情が不感症になっちまってる。腐っちまってる。腐敗しちまってる。だから! 俺はもう旅に出る計画をおじゃんにしようと思う。綺麗な風景を見ながら電車にゆられるなんて妄想、頭から取り払っちゃう。巨大な棺のような飛行機に乗って振動を感じながら雲の上から小さくなった街の景色を見たいだなんて願望、打ち消しちまう。俺の心臓ならここにある、俺の心ならここにある、俺の清純な魂ならここにある。誰にもその薄汚れた手を触れさせはしない。俺だけの限りない果てのない思考で小規模な宇宙を、箱庭みてぇな宇宙を、頭んなかに思い描く。俺ちゃんの人生は俺だけの美しく繊細なものなんだ。重苦しい雲が地球を圧迫しようとしてる。流れる雲が日の光を遮ってる。陽だまりはもうここにはねぇ、どっかに吹っ飛んでいっちまったよ。あの温かなぬくもりと共に風に乗ってどっかに消えて行っちまったよ。頭のネジなんて外れてるし、そこらに転がったネジを探して俺の頭に差しこんだりなんてしねぇ。だってネジなんて外れてた方が楽に生きられるんだもん。んでもって久しぶりに全身でシャワーを浴びようと思って、俺は自分の住んでるボロアパートの住所を思い出そうとするが、何故か思い出せねぇ。涙で景色が滲んでるからなのか、それとも精神が乾燥してるからなのか分からねぇけど、とにかく思い出せねぇ。ネットカフェでシャワーがある所を探そうとしてみるのも良い。でもあの愛着のある家に帰りてぇ。帰りてぇんだ。あの家ときたら俺に安らぎを与えてくれるかけがえのない神聖な場所なんだ。って言っても、嫌でも孤独を自覚しちまう憎い場所でもある。あのアパートに愛憎入り混じった感情を覚えちまう。だってそれって愛情の裏返しだからさ。愛情の反対は無関心、って言葉があるが、あれは本当なんだろうか。とりあえず俺は我が家の場所を思い出そうと深く思索する。俺の頭のなかで、深い水底のなかで、思考が泥のように溜まっていくのが分かる。分かっちゃうんだ。俺は全裸で叫びたい、俺はここにいるぞ、確かにここに存在してるぞって叫び出してぇ気持に駆られた。
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