その日は妙に寒くて、眠くても眠れなくて、やっと寝れたと思ったら、寝汗びっしょりで、また起きちゃって
一体今は夜なんだか、昼間なんだか解らないまま、ずっとベットの上で過ごしていた
側に置いておいたミネラルウォーターも煙草もきれちゃって…
外に出ることにした
「あなたにはもうついていけないわ」
「 … 」
「この子は私が育てていきます」
毎日仕事に追われて、やっと家に帰れたと思ったら、妻にそんなことを言われて、俺は頷くしかなかったし、引き止める気力もなかった
「先輩、マジで奥さん家出てちゃったんですか!?」
「あぁ」
「あー…、てか大丈夫ですか?」
「なにが?」
「何がって…うーん…、今日は風俗にでも行きますか!」
「馬鹿か、お前は」
そんな後輩の下手くそな慰めが心地良くて、その日の夜は後輩が気に入っている風俗店に出かけることにした
「先輩にはねー、この子が合うと思うんですよ」
後輩がそう言って、携帯電話から見れる風俗サイトに載っている、今から行くお店の女の子の写真を見せてくれた
「あー」
「ね、先輩タイプじゃないですか?」
「まあな」
昔、結婚する前のあいつに似ていた
俺のタイプだったんだよな、あいつ
この写真みたいに笑ってた頃があったんだよな、2人で笑ってた頃が
「まぁ、若干出てったあいつに似てるけどな」
「えぇっ!あ、えーっと…じゃぁ違う店にしましょうか!」
「そうだな…、今日はとことん飲もうぜ!」
「ですよね!」
俺は、あいつに似ている女に逢うのが怖かった
「あなたにはもうついていけないわ」ってまた言われそうで嫌だった
「今日は飲むぞー!」
俺は、あいつのこと…好きだったのにな
外に出て、とりあえず街をブラついた
駅前は人がいっぱいで息が詰まった
とりあえず煙草を買って、一服した
「 … 」
周りのヤツらがみんな携帯をイジってたから、俺も何気なく携帯をイジってみた
そしたら、未読メールが山のようにあることに気づいた
『先輩!今日この前行こうとしてた風俗店、2000円割引やってますよ!気分転換にどうですか!?』
後輩のバカメールに笑った
『元気ですか?今度、慰謝料や養育費についてのことを話し合いたいので、1度連絡下さい』
あいつの無表情な顔が目に浮かぶ
もう俺はあいつの笑顔が見れないんだろうか
「あの、初めてなんですけど…」
気づいたら、後輩が薦めていた風俗店に電話をかけていた
「はじめまして!」
「 … 」
その女の子は笑顔でそう挨拶してきて、腕を組んだ
「どこに行きましょうか?」
「 … 」
「 ? 」
「どこでもいいのかな?時間内だったら」
「え?」
俺は彼女とデートがしたかった
「…いいですよ、どこに行きますか?」
彼女はそう言って俺に笑いかけた
「飯、飯食いに行こう!」
俺は彼女を連れまわした
飯食って、ゲーセンに行った
時間は過ぎて、彼女が帰る時間になった
「こんな風に楽しくお客さんと過ごしたのは初めてでした」
「いや、そんな」
彼女は別れ際、俺の耳元で、こう囁いた
「あなたと一緒にいるだけで、私濡れちゃってました」
俺はまだ、女に必要とされる存在なんだと自信が持てたような気がした
end
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