日常。(30)

日常。(第30話)

mina

小説

1,344文字

髪の毛がいつもいい匂いだったんだ
だから触りたかった
ずっと触っていたかった
柔らかいあの感触が大好きだったんだ

「髪の毛の匂い?」
「そう」
同じ店の女の子が私に問いかけてきた
「ヘアコロン何使ってる?」って
同じ店の女の子が私の目の前で髪をかきあげた…いい匂いがした
「ヘアコロンっていい匂いするんだね」
「でしょ?1回使ってみなよ」
私は彼女のヘアコロンを迷わず借りた
甘い香りが自分を包み込んでくれる
その香りが自分の気持ちを甘くさせる
甘い香りと甘い気持ち、あなたに対しての甘い想い

「このヘアコロンの匂い、お客さんに好評でさ、いつもつけてたらクセになっちゃって」
「ふーん」
「つけてないと安心出来ないっていうか、何か不安になるっていうか」
「安心出来るっていうのは解る気がする」
「そう?」
「うん、何か匂いに包み込まれてるカンジがするから」
私がそう言ったら、彼女は笑った
甘い笑顔だった
この甘い笑顔もきっとこのヘアコロンのせいだ

「あれ?」
「ん?」
「香水替えた?」
「あぁ、あのねこれ今日お店の子に借りたヘアコロンの匂いなの」
「ヘアコロン?香水とは違うの?」
「うん、何かね髪の毛につける香水みたいな感覚かなぁ」
「…いい匂いだね」
「そう?」
「思わず、君の髪の毛を触りたくなるよ」
彼女の言う通り、早速お客さんに好評だった
さっきの彼女の甘い笑顔が私の頭の中に浮かぶ
『ね、好評だったでしょ?』
そう私に語りかける
「昔、この匂いと同じ匂いのする髪の毛を触ったことがあるよ」
「初恋の人とか、昔の彼女とか?」
「…もっと大切な人」
彼はもう私を指名して一年以上は経つ、長い付き合いのお客様で、甘えたがりで素直じゃなくて、まるで私はカラダの大きな子供を相手にしているようだった
月に四回、週に一回は彼を思い切り甘えさせてあげていた

「もっと大切な人って誰?」
「気になる?」
「気になるわ、ダメ?」
「ダメじゃないけど…恥ずかしいな」
「恥ずかしい?」
「恥ずかしいよ」
彼とはいつも長いキスをする
ベットの上でもシャワールームでも長いキスをする
キスの後、彼は必ず私の胸の中に顔を埋めて、私をギュッと抱き締める
優しく、力強く、抱き締める
「髪の毛の匂い、そんなに気に入ったの?」
「解る?」
「そりゃぁね、だってさっきから髪の毛触りまくりだし」
「触りまくりか…」
「きっと私じゃなくて、その大切な人を想い出しちゃって…」
「そんな風に見える?」
「見えるわ」
「ヤキモチ?」
「そうかもね」
今日の彼はその甘い匂いにとりつかれているみたいだった
ヘアコロンは私から彼を奪っていったみたいだ
「何だか本当にヤケちゃうわ」
「そんな風に僕のことを君が気にしてくれるなんて初めてじゃない?」
「そうかしら…いつも気にしてるわよ、あなたのこと…」
私は奪うようなキスを彼にした
彼は驚いていたけど、それを受け入れてくれた
いつもより濃厚なキスだった

「ヘアコロン…」
「え?」
「ヘアコロンが君を熱くさせたのかな?」
「そうかも知れないわ」
彼女の甘い笑顔を見た時から私はヘアコロンの匂いにやられちゃってたのかも知れない

                end

2014年12月10日公開

作品集『日常。』第30話 (全70話)

© 2014 mina

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