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LSDにより崩壊した友人の理性

ピッコロ三世

20年前、オーストラリアの荒野で出会った純粋な青年・T君。同じ民族楽器を鳴らし、夜通し語り明かした彼との月日は、ある野外フェスを境に凄惨な破滅へと向かう。

タグ: #エセー #ノンフィクション

エセー

1,844文字

私は昔、バックパッカーをしていた。
当時、20年近く前のことだが、オーストラリアにいた時の話だ。
私はその国の民族楽器をやっていて、その楽器を持って旅を続けていた。
ある小さな町に流れ着き、3ヶ月ほど滞在している時に、日本人のT君と出会った。彼も同じ民族楽器をやっており、私たちはすぐに仲良くなった。
オーストラリアには世界中からバックパッカーをやっているヒッピーたちが多く集まり、民族楽器のプレイヤーも多く集まる。だから、私やT君のような日本人のバックパッカーは決して珍しい存在ではなかった。
T君はバックパッカー初心者という印象で、すごく純粋で優しく、温厚な人だった。
私たちは毎晩のように集まっては楽器で遊び、好きなアーティストの話や、旅の話をして、朝まで騒いでいた。
彼は私のことをすごくリスペクトしてくれていて、いつも「ピッコロ君はすごいなぁ」と褒めてくれていたのを覚えている。
本当に、すごく優しい人だった。
それから数ヶ月が経ち、お互いに別々の旅に出た。
次に彼の話を耳にしたのは、オーストラリアで開催されていた音楽の野外フェスでのことだった。
そこで、友人からある話を聞いた。
「なぁ、T君って知ってる?」
「あぁ、知ってるよ」
「なんか、T君、LSDをやりすぎてぶっ壊れちゃったんだって・・・・」
頭が白くなるような感覚だった。
話によると、T君はあるベテランのバックパッカーと出会ったらしい。その男はかなりのジャンキーで、彼に勧められるがまま、T君はLSDを過剰摂取してしまったのだという。おそらく、初めての経験だったのだろう。
そして、錯乱状態になったT君は、フェスの会場でいきなり奇声を上げて服を脱ぎ捨て、全裸になって踊り出したそうだ。仲間に無理矢理担ぎ出された彼は、滞在しているテントに戻された。野外フェスでは、皆がテントを張ってそこを拠点に生活している。
そのテントの中で、T君は友人の女の子に向かって、
「今、僕の頭の中で君の体内に侵入しちゃった」
などと不可解な発言を始め、その子を襲いそうになって周囲に取り押さえられたという。
その後、ドラッグの作用が醒めて我に返ったT君は、自分のやってしまったことへのショックで精神が崩壊し、テントから一歩も出られなくなってしまったそうだ。
その話を聞いた後、私は一人でフェスの会場をぶらぶらと歩いていた。
「ぴ、ピッコロ君・・・・」
弱々しい声に呼び止められた。
振り返ると、そこには虚ろな目をしたT君が立っていた。
「T君!?」
久しぶりに会う彼は、まるで別人のように人を怖がっていて、明らかに挙動不審だった。例の話はしない方がいいだろうと思い、私は何も触れなかった。
私はこれからDJブースのある会場へ行く途中だった。T君は怯えた声で、弱々しく言った。
「ぴ、ピッコロ君、きみに付いていっていいかな? き、きみとなら中へ入れそうな気がする」
「もちろんだよ! でも無理に行かなくてもいいんだよ?」
「う、うん・・・・」
彼は私の後ろに付いてきた。私の背中の服を、ギュッと掴んでいた。
その指の震えが、服を通じて私の背中へ直接伝わってきた。
そして、会場の入り口まで来たところで、彼は足を止めた。
「ご、ごめん! やっぱりダメだ!!」
そう言って、T君は走ってどこかへ行ってしまった。
おそらく、ダンスフロアそのものがトラウマになっていて、それを無理に克服しようとしていたのだろう。
それから、しばらくT君と会うことはなかった。噂では、付き添ってくれている友人と一緒に、山奥の自然豊かな場所で養生していると聞いた。
それから、1年以上は経っていたと思う。
私はシドニーの街で路上ライブをしていた。
演奏していると、3、4人くらいの日本人のグループに話しかけられた。その中に、あのT君がいた。
グループの後ろの方で、ひっそりと立っていたT君が、私の方へ近づいてきた。
以前よりもかなり痩せてしまっていて、街にいること自体がすごく怖いのか、怯えている様子だった。
そして、か細く震える声で彼は言った。
「ぴ、ピッコロ君はすごいな・・・・」
その瞬間、最初に出会った頃の彼の姿が頭をよぎり、体の奥が熱くなって涙が出そうだった。
T君はやはり、街に滞在するのは精神的に辛いのだと言った。数日だけシドニーに滞在したら、またあの静かな山奥へ戻る予定なのだと教えてくれた。
その後、T君と会うことは二度となく、私は日本に帰国した。
T君はその後、元気にしているのだろうか。
大好きだったあの音楽を、今もまだ続けているのだろうか。

© 2026 ピッコロ三世 ( 2026年5月18日公開

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