当時、20年近く前のことだが、オーストラリアにいた時の話だ。
ある小さな町に流れ着き、3ヶ月ほど滞在している時に、日本人のT君と出会った。彼も同じ民族楽器をやっており、私たちはすぐに仲良くなった。
オーストラリアには世界中からバックパッカーをやっているヒッピーたちが多く集まり、民族楽器のプレイヤーも多く集まる。だから、私やT君のような日本人のバックパッカーは決して珍しい存在ではなかった。
私たちは毎晩のように集まっては楽器で遊び、好きなアーティストの話や、旅の話をして、朝まで騒いでいた。
彼は私のことをすごくリスペクトしてくれていて、いつも「ピッコロ君はすごいなぁ」と褒めてくれていたのを覚えている。
本当に、すごく優しい人だった。
そこで、友人からある話を聞いた。
「あぁ、知ってるよ」
「なんか、T君、LSDをやりすぎてぶっ壊れちゃったんだって・・・・」
話によると、T君はあるベテランのバックパッカーと出会ったらしい。その男はかなりのジャンキーで、彼に勧められるがまま、T君はLSDを過剰摂取してしまったのだという。おそらく、初めての経験だったのだろう。
「今、僕の頭の中で君の体内に侵入しちゃった」
などと不可解な発言を始め、その子を襲いそうになって周囲に取り押さえられたという。
その後、ドラッグの作用が醒めて我に返ったT君は、自分のやってしまったことへのショックで精神が崩壊し、テントから一歩も出られなくなってしまったそうだ。
振り返ると、そこには虚ろな目をしたT君が立っていた。
私はこれからDJブースのある会場へ行く途中だった。T君は怯えた声で、弱々しく言った。
「もちろんだよ! でも無理に行かなくてもいいんだよ?」
「う、うん・・・・」
その指の震えが、服を通じて私の背中へ直接伝わってきた。
そして、会場の入り口まで来たところで、彼は足を止めた。
おそらく、ダンスフロアそのものがトラウマになっていて、それを無理に克服しようとしていたのだろう。
それから、しばらくT君と会うことはなかった。噂では、付き添ってくれている友人と一緒に、山奥の自然豊かな場所で養生していると聞いた。
私はシドニーの街で路上ライブをしていた。
演奏していると、3、4人くらいの日本人のグループに話しかけられた。その中に、あのT君がいた。
以前よりもかなり痩せてしまっていて、街にいること自体がすごく怖いのか、怯えている様子だった。
そして、か細く震える声で彼は言った。
大好きだったあの音楽を、今もまだ続けているのだろうか。
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