明日逃げるのは自分じゃないかと、または誰か隣人が逃げるのじゃないかと、ふと不安が頭をよぎる。今日も一人跳んだ。この乾いた土地の砂風が大地を舞うが如く。
車屋は相も変わらず、たくさんの荷物をいれた車を押している。昨日も彼が押しているのを私は見ていた。昨日押していた荷物も今日押していた荷物と変わりないようなものだった気がする。車屋は、今日も大量の汗をかいている。
私がここにいるのは私が望んだことじゃないし、昨日今日のことじゃない。ずいぶん長いこといるような気もするし、そんなに長くはなかったような気もする。目の前で繰り広げられることをただただ見ているだけ。
隣人が今朝跳んだのを考えると、やはり思うところがある。昨日までならお互いにああでもないこうでもないと話し
合ってきた仲だっただけに。
我々には食べ物が供給される。我々はそれを食すが味わうだけであって何の足しにもなりゃしない。だって──私、もとい、我々にはからだと云うものがはなからないのだから。車屋のように汗をかくことさえできない。我々生首は六人、ああ今朝跳んだから五人か、右に二人、左に三人、欄干にそろって並んでいる。右に居た隣人は跳んで今朝がた掃除屋にちりとりで掃き取られてしまった。
これはそういう仕組みなのだから仕様のないことだといってしまえばそれだけである。だけであるが、それでも、なお──私、我々はこの目の前で同じように言繰り広げられる乾いた砂が舞う風景の中にからだを持たずにただただ見守っているほかはない。
あ──。車屋が空になった車を押して引き返してくる。必死の形相で汗をかいて……。
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