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月のおふざけ

合評会2026年5月応募作品

猫が眠る

この作品はなぜ書かれたかというよりも、まあ、読んでくださればわかるでしょうが、とても大胆なことを書きましたね。

タグ: #合評会2026年5月

小説

941文字

どこまで続くのだろう、と原田は思った。

「どこまで続くってそんなありゃしませんよ」

奥にゐるお嬢さんが言いそうな台詞だ。或いは幻聴として聞こえたかも知らない。原田は自分の考えがあたかも奥のお嬢様に筒抜けになっているが如く思ったからハッとして奥の部屋のお嬢さんの方を縁側から覗いてみた。

何のことはない、彼女は女中に仕舞仕事のことを言っているだけであった。

原田は酸っぱいものでも食べたような顔をして縁側での佇まいをもとに戻して前方に広がる庭の方を見た。

夏の、それも三十五、六度もある灼熱の暑い日であった。

佇まいを直したのは好いが原田は平気なふりをして、それでいて額や頬に大粒の汗を滴らせている。

奥の部屋にゐる、お嬢さんには見えないような素振りで居住まいを直しているが、原田には天に照り付ける太陽しか見るべきものがなかった。

(そう、そうですよ、そちらへしまってくださればよくて……)

太陽は依然として──原田がお嬢さんと女中の会話にちらりと耳をかたむけようとしたその瞬間に──空が真っ暗になった。

「はっ」

「えっ」

隣近所からは「ハウわうわウワアアアアア」という金切り声が聞こえてくる。

原田は呆然とそこに立ち尽くして「日食……?」とつぶやいた。

日食などと云うものは誰も経験したことがなかったから驚かない方が無理というものであろう。

真夏の真昼のその暗闇の中で原田は水の流れる音を聞いた気がした。何の音かと奥を振り返ってみると、どうやら、お嬢さんが便所にいったらしいことがわかった。こんな天変地異のさ中でも生理現象は当たり前に起きるものだと原田は独り言ちながら水の音に聞き耳を立てた。

小水の水に跳ねる音がするのを聞いてゐると──これはあくまでも原田の想像した音なのかもしれない。

原田は居直って煙管を吸い出した。何を考えるでもない烟の行く末を見てゐるだけだ。

奥の便所からお嬢さんが出てきたときに日食は終わり、天には青空が戻った。光はそのときだいだいであった。そして原田の家の屋根でできた影は藍色であった。

原田は煙管で、「ふうっ」というような感じで烟を吸い込むと、満遍なく肺に染み入るようにして頭をもたげ、それからゆっくりと吐いた。

烟とともに入ってきた空気で向こうのお嬢さんが大便をしたことを原田は知った。

© 2026 猫が眠る ( 2026年5月8日公開

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