「今日はおじいちゃん用事があるから、学校終わったら遥ちゃんと一緒に帰って少し遊んでもらいなさい。」
今思えば母は全く過保護だった。放課後私が祖父の家に行かずに母が帰ってくるまで家で一人でいたってなんでもないのに、母は私にそう言って閉まりかけの玄関扉の隙間から手を振った。ネクタイを締める父に行ってきますと言って私は家を出た。
「キリーツ。」
黒板に向かってさようならと言った後、僕は遥ちゃんの傍へ歩み寄る。
「今日はありがとね。」
通学路で女の子たちについて行く僕はまるで金魚の糞みたいだ。遥ちゃんと女の子たちは楽しそうに話している。何か振られれば少しは話すけれど、僕から彼女たちに話しかけることはない。
じゃあねと言って僕と遥ちゃんは女の子たちに手を振る。僕らはこっちの道。女の子たちはあっちの道。急に静かになった。僕は彼女を抜かさないように電車ごっこでもしているみたいに彼女から同じ距離を保った。
彼女が玄関を開けるのに続いて、僕は誰にも聞こえないような小さな声でお邪魔しまーすと言いながら庭を抜ける。靴を脱ぐと彼女は一瞬視界から消えた。なんてお洒落な家だろうと思った。二階まで吹き抜けになっていて、剥き出しの木材の色がいい。自然と鼻に入ってくる家の匂い。
僕は二階の彼女の部屋へ案内された。何して遊ぶと、彼女はハンモックに横になりながら尋ねた。どうしよっか、と返事をした僕は彼女が揺れるのを眺める。白いハンモック。窓から差す西陽が揺れる彼女を照らす。彼女の白い肌。僕は机に目を移した。彼女の両親の写真。彼女は立ち上がって部屋の隅の方のゲーム機の前に座る。テレビゲームは初めてだった。僕は使い方がよく分からなくて、彼女にとっては退屈な対戦相手だっただろう。
「じゃあね。」
彼女はそう言った。僕もじゃあねと言って、軽く手を振って彼女の家を後にした。
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