Amazonの段ボールをヴィリヴィリ破いたら~、ヌルヌルルサンチマン近大マグロでした〜。チクショー!!

眞山大知

小説

1,805文字

知的な労働がAIに奪われた先には、世田谷がスラム街になるような日本があるかもしれません。

「Amazonの段ボールをヴィリヴィリ破いたら~、ヌルヌルルサンチマン近大マグロでした〜。チクショー!!」
コウメ太夫の成れの果てのような、白塗り顔の老人がそんな戯言をわめきながら、砧公園の交番の前を通る。交番に警官などいなかった。そもそも、政府すら消え去った。
AIに政治を任せたのが地獄への入口だった。時の総理大臣から税収増加、経費削減を命じられたAIがやったことはこうだった。

 

 

一、徹底的に政府機能を縮小。内閣、国会、裁判所は即時解散。三権分立ならぬ、三権消滅。ただし、軍事力だけは維持した。AIに抵抗した人間には無人爆撃機が飛んできてすぐさま射殺。人間を従順にさせるには暴力が手っ取り早い。抵抗勢力は数年後に消え、人間はAIの奴隷になった。

 

 

二、AIは国民から税金を巻き上げた。税金を取られると、手元にはギリギリ餓死しないだけの金しか残らない。街には飢えた人間たちが、大きな腹を出して横たわるようになった。まさに生かさず殺さず。

 

 

この世田谷スラム街には上級国民の成れの果てが多く住んでいた。顔見知りの年収二千万の弁護士も、AIに職を奪われて無職。政府がAIになったら無人爆撃機で家が焼かれてホームレス。今じゃ野良猫に餌付けすることだけが生きがいだという。
へっ、みんな貧しいなら格差に悩むことないじゃん。やったね! バンザイ!
公園に入ってうろつくと、ギョロ目のパンダの遊具にその弁護士が乗っていた。フケだらけのスーツはところどころ破けていた。弁護士は発情した猫のような奇声をあげ、野良猫へ、緑色をした人工肉のチュールをあげていた。野良猫は当たり前のようにチュールを卑しく貪っていた。弁護士はガリガリ、野良猫はデブ。どちらとも汚い。
203X年の日本は地獄と化していました〜。チクショー!!

こういう時に頼りになるのはAmazon様だけ。この荒廃したディストピアジャパンで信じられることは、Amazon様が翌日配送してくれること。
アメリカはそもそも大企業の支配する国だったから、政府がAI化して暴走しても特に何も起こらなかったらしい。さすが。
小脇に抱えたAmazonの箱を開くとマグロの缶詰が入っていた。
今日はあの猫に餌付けしたい。人工肉ばかり食べさせられるなんて可愛そうだ。動物愛護!
人工肉よりは美味いはず。缶詰を開けて、野良猫の前に差し出す。野良猫は缶詰を一瞥したあと、猫パンチを食らわせてきた。残念。
弁護士は、妻を寝盗られた夫のように、憎しみの表情を俺に向けた。すぐさま立ち去る。まあ、いいや。捨てちゃえ。缶を茂みに投げる。
ゴミ収集車はとうに来なくなっていた。ゴミ箱へ律儀に捨てる人間などいない。
あ、そういやあの缶詰、近大マグロじゃなかったや。

 

 

野菜が欲しい。そうだ、盗むか。砧公園の中央にいく。広大な畑が広がり、畑のど真ん中の監視塔から銃声が聞こえた。
「畑から大根を盗むな!!ぶち殺すぞ!」
監視塔のスピーカーから、ジャバ・ザ・ハットのような声が大音量で流れる。
今日の大根掘りも命懸けだ。Amazonの箱をもう一度開いて爆竹を取り出す。ライターで火をつけてすぐ走り出す。五秒ほどして、爆発音が怒涛のごとく鳴り響いた。
ジャバ・ザ・ハットは爆竹の方向を振り向いた。
「ボケがーー! 死んでしまえ!」
ジャバ・ザ・ハットはマシンガンを乱射してきた。爆竹に気を取られている隙に、畑に侵入。引っこ抜いた大根は哀れなほどひょろひょろガリガリ。
選ぶ暇はない。すぐさま畑から脱出した。

 

 

家に帰る道すがら、AI様の無人爆撃機が空を飛び交っていた。今日はこの近くで抵抗勢力が殺されるのだろう。
家の目の前に着くと、道端に白塗りの顔の男が倒れていた。蜂の巣状の穴が体のあちこちに空いていた。
その場でしゃがんで合掌。ありがたく金を盗むためにポケットをまさぐると、ホッブズの『リヴァイアサン』が出てきた。
バカめ。国民が万人の万人に対する闘争をしていたら、国家運営が楽に、そして効率的にできる。国民から金を巻き上げて何も還元しない。それがAIの望みなのに、その闘争を批判する本を持っていたら殺されるに決まってる。
あんまり長いこと読んでいたらAIに殺される。ライターを取り出してリヴァイアサンを燃やした。怪物のように黒々とした灰が舞った。

2023年4月13日公開

© 2023 眞山大知

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"Amazonの段ボールをヴィリヴィリ破いたら~、ヌルヌルルサンチマン近大マグロでした〜。チクショー!!"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2023-04-13 23:05

    イヤ~な世界を書くことを得意とされてるようで、好き嫌いが分かれそうな作風に思いますが、わたくしこういうの結構好きです。
    AIチャットの開発初期にも「ヒトラーは正しかった」「フェミニストは全員死んだらいい」など言い出すことがあって開発者が泡を食ったそうですが、最近AIは必ずしも正しい回答を導き出さないと警鐘鳴らされるようになったみたいですね(TIME誌で読んだことの丸写しです)。

    • 投稿者 | 2023-04-13 23:55

      読んでいただきありがとうございます。
      たしかに好き嫌いがはっきり分かれる文体だと自覚しています。わたしはこういう殺伐とした世界が大好きですし、好いてくださる方もいるのでこのままでいたいと思っています。
      肉体労働よりも知的労働が先にAIに置き換わりそうですね。シンギュラリティ以後は港区とか世田谷区あたりが先に困窮して、足立区は意外と何も変わらないかもしれません

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