新幹線の中で妻が金魚

鮭さん

小説

395文字

妻が金魚である。新幹線の中で妻が金魚である。

新幹線が出発して2時間が経った。車内は相撲取りが鞭打ちにあったような静けさである。

妻のはるかは外を見ていて、金魚になっている。柿ピーを持って口に近づけると口をぱくぱくさせるので上手に入れてあげる。それを何度も繰り返す。

「金魚だね。」

と言うと、

「金魚じゃないわ。」

と言う。

車内販売の女がやってきて、妻がぶっきらぼうに話しかけた。

「あのねえ私、もう2時間も新幹線に乗っているの。心が新幹線の幹になってしまいそうだわ。」

「はい。そんなことわかっていますわ。」

車内販売の女は窓の外の空を見ながら言った。

「あなたなによ。そんなことわかっていますわって。客室乗務員のくせに生意気なんじゃないですか。図に乗るなよ。」

「はいはいお客様わかりましたから。はい、これをどうぞ。」

車内販売の女は妻にミネラルウォーターを差し出した。

「そんなものはいらないわ。私、金魚じゃないもの。」

そういって妻は干からびて死んだ。

2022年5月11日公開

© 2022 鮭さん

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