欠けたところに金を足す

利根彦

小説

4,257文字

 排便と射精のあいだを描く作者のシリーズ2作目!
生死をかけて精子をかけろ!

”あなたのつくったコンテンツはお客様を元気にしていますか?
 推しからもらった元気にはお客様を元気にするコンテンツをつくることで貢ぎましょう。
 お客様を元気にできるコンテンツに育てることができたなら、そのコンテンツはあなたにとってギフトとなるでしょう“

 めいじの参加している「参加型大衆市場ギフト」のキャッチコピーだ。
 「参加型大衆市場ギフト」とは数年前にシャビとトネというふたりの男性が始めたマルシェのようなイベントで、いまでは同じような仕組みのイベントが世界中に拡がっている。
 ギフトと従来型のマルシェとのいちばんの違いは提供される商品やサービスがすべて無料というところだ。”お金から解放された経済を“という思想のもとつくられたらしいが出店者からはしっかりと高額のテナント料金を取っているので、ふたりはがっぽり稼いでいるはずだ!とSNS ではいつも叩かれているが、それでも出店したいという申し込みは後を絶たず、月に一度のイベントは毎回大盛況で、同じような仕組みのイベントも合わせると連日のように世界のあちらこちらで「参加型大衆市場」は開催されている。

 めいじが出店している「婚カツ屋」はそのなかでも毎回人気を博し、今回も予約客で定員は埋まってしまっている。
「お集まりのみなさん、こんにちわー!本日は婚カツ屋をご利用いただきありがとうございます。今回はこちらの鉄道車両を会場といたしまして脱出ゲームも兼ねて婚活イベントを楽しんでいただく趣向となっております。簡単に内容のほうを説明させていただきますと、ギフトの会場を周遊するように敷かれてある鉄道の上をみなさまを乗せた車両が走り出します。車両のなかではあるミッションが与えられますので、みなさま知恵を振りぼり協力しあってクリアしてくださいね!あまり詳しく説明してしまうとお楽しみがなくなってしまいますのでイベントの進行に沿って内容のほうは開示してまいりますね。それではみなさま!ご乗車のご準備はよろいでしょうかー!」
 めいじは慣れた調子で案内を済ますと客たちを車両へと誘導した。お互い初対面の客たちは目が合うとちょこんと頭を下げて挨拶を交わし、従順な羊のように車両へと乗り込んだ。
 最後の客が乗り込むと同時に扉は大袈裟な音をたててロックされると、車両はゆっくりと走り出した。客席の前方にはおおきなスクリーンが備え付けられ、進行方向に見える会場の賑わいが映し出されている。車内中央にはなにやら水晶のような玉が紫色の贅沢な座布団の上に乗せられ、これから始まる出来事をいまにも映し出しそうだ。
「この車両は放っておきますと約3時間後には会場に隣接されている産業廃棄物処理場の焼却炉へと向かう鉄道へと自動的に接続されます。」
 スクリーンにはいつのまにか燃え盛る炎のなかへと車両が吸い込まれる映像が恐怖を煽る効果音とめいじのアナウンスとともに映し出されている。
「そこでみなさまにお手伝いいただきたいのですが、この車両にブレーキをかけロックを外して脱出するには車内中央にある玉を赤色から青色に変える必要があります。」
 無色透明だったはずの玉がたしかに赤色に発光している。
「この玉にはちょっとした細工を施してございまして、ある精子だけに含まれる”成分の反応“によって青色に変異する仕組みとなっております。今回ご参加いただいた男性のお客様のなかでおひとりだけこの成分を含んだ精子をお持ちです。」
 男性客たちはそれぞれの顔を見合わせ、女性客もそれに釣られるように男たちを物色した。
「さあみなさん!知恵を出し合い協力し合い、生死をかけて精子をかけろーーー!」
 めいじの威勢のいい掛け声とは裏腹に参加者たちの反応は冷ややかで、またその反応とは裏腹になにかが起こることをいつもの受け身で期待している。
 スクリーンの映像はまた進行方向に見える会場の賑わいにもどっている。

 ギフトを始めたふたりの男性のうちのひとりであるシャビは、四国の過疎の町を「夜這いプロジェクト」で再生させたことで有名で、彼の座右の銘は”ボトムアップはエロからだ“である。お父さんたちがエロサイト見たさにパソコンを購入し、各家庭に速やかにインターネットが普及した史実に基づいている。「夜這いプロジェクト」ではもちろん大半の女性とフェミニストを敵にまわしたが、反響は大きく全国からエロに寛容な女性とただ単純明快にエロい男性がコソコソと集まり、毎年倍々ゲームで人口は増え続けている。そして”所有からの解放“という副題をつけたことで、なんとなく素晴らしい日本の伝統を復活させた、という誇らしさまで地元民に持たせてしまうところがたいしたものだ。

「婚カツ屋さんのイベントは今回初めて参加されたんですか。」
「有料のほうのイベントは何回か参加したことがあるんですけどギフトでやってる無料のほうがヤバいって聞いたもんで。」
「ああ、やっぱり!ぼくもなんです。でもさすがにこれマジじゃないですよねえ。」

「もしマジだったら手伝ってくれる女の人いますかー。」

「手伝うってなにを。」
「ほらだって精子出さなくちゃいけないし。」
「死ね!」
「きも!」
「最悪ー!帰りたーい!!」

「ちょとあのふたり見て!」

 後部座席の隅っこではBTSのジミン風にマッシュヘアにした男子とNiziUのマコに似たロングヘアの女子が、会話を弾ませ時折キスを交わしている。取り残されたような雰囲気になった男女たちの沈黙をめいじのアナウンスが絶妙なタイミングで破った。
「みなさま~!ミッションクリアに向けて順調に”こと“は進んでますか~!早く精子をぶっかけないとこんなかんじになっちゃいますよ~!」
 スクリーンには以前におこなわれたおなじイベントの車内の様子が映し出された。参加者たちはかなり打ち解けてグループができたり男女のペアになって連絡先を交換し合ったりしていたが、車内中央に鎮座ましますお玉様にはいまだ白濁した液体はかかっておらず、赤色に点滅・・・点滅!していた。その直後、ガタガタガタ!!という地響きとともに前方に映し出されていた風景が右にスライドされ会場の賑わいから外れていく。
 しばらく進むと目の前に巨大な要塞のような建物が迫ってきた。車内は叫び出す者や、まだ意識が日常から切り替わらず会話を続けようとする者、窓を叩き割ろうとして拳を血まみれにする者、とりあえずお玉様を撫でてみる者や、泣きじゃくりながら般若心経を唱える者で騒然とした様相を呈している。そしてついに地獄の釜の蓋が開いた。爆発音と同時に窓ガラスが炸裂し、車内は炎と煙りにあっという間に包まれた。水分をたっぷり含んだ人体はバチバチと生木が爆ぜるような音を発しながら痙攣ダンスを披露している。
 スクリーンの映像に釘付けになっていた参加者たちの顔つきが変わった。
「なにをやってるの男子たち!早くチンコを出しなさい!」
 女性たちは手近にいる男性と素早くペアになるとパンツを下ろしペニスをしごき出した。生命の危機に直面すると男性は生殖本能により強い性欲が湧くと世間ではよくいわれるが、もちろん個体差があるようですぐに勃起する者と緊張や恐怖のほうが勝ってなかなか勃起しない者とに分かれた。
「しょうがないわねえ。」
 女性のなかのひとりが元気のないペニスを口に咥えると他の女性たちも倣って咥え始めた。車内がフェラチオによるバキューム音で充満した。
「ねえだれかオッパイ見せておくれよ~」
 数人の女性が上着を脱ぎ捨てブラジャーも外し、数人の女性はおしりまでサービスしてくれた。
「いくーーー!!!」
 雄叫びをあげながらガッツポーズをとった男性に車内全員から惜しみのない拍手と歓声が贈られた。
 虎の子の精液を口に含んだ女性は慎重にお玉様に歩み寄ると一滴も漏らすまいと固く結んでいた唇をゆっくりと開き、お玉様の上部中央に舌から丁寧に指でこそぎ落として希望を乗せた。車内全員が固唾を飲んでお玉様の様子を伺っている。
 しばらく待ってみたがお玉様は、雪国出身の炭焼き職人のような生真面目さで頑固に赤色を守っている。
「みんな気を落とすな!これからだ!時間はまだたっぷりあるぞ!!」

 れいはギフトの存在を数ヶ月前にインスタグラムの投稿によって初めて知った。小学生のころから慣れ親しんできたゲームやYouTubeに中学の2年のころからアイドルの推し活が加わり現在までそれなりに充実した暇潰しライフを送ってきたが、新型ウイルスの流行により推し活ができなくなったことをきっかけに漠然とした”餓え“を感じるようになっていた。ライヴ会場でしか得られないあの異世界に入り込んだような眩暈感やライヴ帰りの拡張現実感が忘れられない。れいはギフトなら生活のなかから欠けてしまった”生き甲斐“を埋めてくれるような気がした。

 早漏の男性客たちが一通り片付いてもいまだお玉様は煌々と赤色を輝かせている。
「あんたチェリーボーイみたいなかわいい顔してなんでエラそうに遅漏なのよ!」
「本番はダメかい。」
 れいはおもいきってペアになっているお姉さん風の担当に尋ねた。

「中に出しちゃダメよ。」
 
 お姉さん風の担当はヴァギナの脇の内腿に”コヨーテ“の彫り物をしつらえていた。
「カッコいいタトゥーだね。」
「ありがとう。」
 タトゥーを誉められた担当は一瞬少女のような顔を覗かせたかとおもうと瞳を合わせたままキスを求めた。そしてなにかのおまじないのようにペニスでコヨーテを撫でるとゆっくりと時間をかけて挿入した。宮司が御神体を村人に見られないようにひっそりと神輿に奉納するかのように。
 ペニスがもっとも深いところに到達すると、れいの頭のなかでなにかが弾けた。
”ボクはコヨーテだ“
 なんの前触れもない確信だった。そしてお玉様の点滅がなんの前触れもなくはじまった。

 ギフトを始めたもうひとりの男性であるトネを一言で表現するとしたら”無駄な人物“が適当だろう。見かければいつも酔っぱらってタバコを咥えながら何かに目を止めてはボソボソと独り言を呟いている。まるで早い者勝ちレースで取り残された景品をひとつひとつ検分しながら回収する係員のように。

「中に出しちゃダメって言ったでしょ!」
 担当はすっかりお姉さん風にもどり、ヴァギナからペニスを引っこ抜くとお玉様に股がった。

「お願いします!お玉様!!」

担当のヴァギナから黄金に光る・・・黄金に光る?!液体が滴り落ち・・・いや噴射!されると、お玉様は点滅を止めインディゴブルーのお玉様へと変異した。

「ああすっきりした。」
 
 
 

 

2022年1月21日公開

© 2022 利根彦

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