校庭の周りをニ十周

北橋 勇輝

小説

3,335文字

 

 

「校庭の周りをニ十周」

 

北橋 勇輝

 

眠りから覚めて起き上がろうとすると、股間の辺りに痛みを感じた中学二年生の大西良哉は夢を見ていたいためにずっと我慢していた尿を便器の中に出した。その時、大西は性器の左側に赤いしこりが出来ていることに気が付いた。

短い陰毛は性器を取り囲むようにして生えているが、まだ性器を隠せるほどの量ではない。

大西はその赤いしこりを人差し指で触ってみると、低い波が寄せてくるように痛みが襲ってきた。だが、その痛みは我慢出来るものだったので、大西はそのうち治るだろうと、このまま放っておくことにした。だが何日か経っても一向に治る気配がないので、大西は母に言おうかと考えたが、腫れている場所がそこなので恥ずかしくて中々、言い出すことが出来なかった。

どこか廃墟のような寂しさを感じさせる小学校の前に大西が通う中学校が建っている。

大西はその中学校の制服を着ている生徒たちに混ざって校門に入り、自分のクラスの教室を目指した。

大西が教室に入るとチャイムが鳴った。大西の姿を見つけると同級生で友達の田中浩太が近寄ってきて、

「良哉、危なかったなあ。もうすぐ遅刻やったで」

大西は自分の席に行き、学生鞄を机の上に置いた。

「うん。助かったわ。あと、もうちょっとで反省文書かされるとこやったわ」

教室に担任の教師が現れると、同級生たちは一斉に席に着いた。

教師が黒板に書かれている日直を見て、

「今日の日直は島田と池元。来てるな?」

池元梓と島田は席から立ち上がり、

「起立」

すると機械のように同級生たちも席から立ち上がった。

「礼」

授業が始まると大西は池元の顔を見つめていた。教師の声と同級生の騒ぎ声が邪魔で仕方がなかった。大西は何も聞こえない場所で池元を見つめていたいと思った。

両脚を閉じると赤いしこりに触れて、針で刺されたような痛みが襲ってくる。だが、大西はその痛みに魅了されるように両脚を開いたり閉じたりを繰り返し痛みを感じた。痛みを感じながら見る池元はまるで別人のように大西の目には映った。

授業が終わると大西の席に田中が近付いて来て、

「一緒にトイレ行こうや」

「うん」

男子トイレの中は大西と田中の二人だけだった。

大西は便器の中に尿を出しながら、この赤く腫れたしこりのことを田中に言おうかと思ったが止めた。

田中は便器と向き合いながら、

「良哉、池元のこと好きやろ?」

突然、田中の口から池元の名前が出たことに大西は驚いた。そして、その拍子に赤いしこりに触ってしまい、また小さい痛みが大西を襲った。

「好きちゃうって」

田中は高い声で笑いながら、

「嘘吐くなよ。だって、いつも授業中、池元のこと見てるやん」

「いや、見てないって」

その後も何度か大西が否定していくうちに田中は諦めて別の話題を喋り出した。

「三組の吉田おるやろ?」

「うん」

「ちんこ、めっちゃでかいらしいで」

「ほんま?」

「うん。昨日、学校のトイレで見てん」

「でかいほうが女、喜ぶんやろ?」

大西がにやにやしながら言うと、

「らしいで」

田中もそれを真似するように口元を緩ませた。

「凄いなあ。浩太ってさあ、もう、ちんこに毛生えてる?」

大西がズボンのベルトを締めて、手を洗っていると鏡の中に田中が映った。

「いや、まだ生えてないなあ」

「俺も。まだ全然やわ」

大西は咄嗟に嘘を吐いた。そのせいで赤いしこりの痛みがまた襲ってきたような気がした。

大西たちは教室に帰るためトイレから出ると、吉田の後ろ姿が見えた。恐らく吉田も教室に帰る途中なのだろう。すると田中は大西の方を見て、自分の口元に人差し指を持っていった。

「見とけよ」

田中は忍び足で近付いて行き、後ろから吉田の性器を、右手で勢いよく掴んだ。その瞬間、吉田は叫び声を上げて蹲った。それを見た大西と田中は腹を抱えて笑った。

笑いが収まると大西は田中に、

「どうやった? でかかった?」

「うん。やばい」

田中はそう言うと蹲っている吉田に近付いて行き、謝った。田中は吉田に、

「お前、めっちゃ、ちんこでかいよなあ」

吉田は苦しそうに、

「でかないって。ていうか、お前、ほんま、ふざけんなよ」

「まじでごめんやって」

大西は二人の会話を聞いて、今度は自分がやられる番ではないかと恐れた。性器を掴まれると、その痛さだけでなく、赤いしこりに触れて、とてつもない痛みが襲ってくるだろう。

念のため大西は田中に、

「俺にはやらんといてな」

田中は吉田を見て、まだ笑いながら、

「大丈夫やって。絶対、やらんから」

 

 

放課後がやって来ると運動部に入っている生徒たちは廊下で一斉に体操服に着替え、部活の練習に向かった。

大西は体操服に着替えながら、これから始まるバスケ部の練習に嫌気がさしていると、

「お前、着替えんの遅いなあ。俺、先に行ってるから」

田中はそう言うと、すぐにバスケ部の練習に向かった。大西がバスケ部に入ったきっかけは小学校からの親友、田中が入ったからだった。

大西が着替え終わると、教室から体操服姿でバドミントンのラケットを持っている池元が出てきた。運動部の女子たちは教室で着替え、運動部の男子たちは廊下で着替えるのがルールなので、そのため女子たちは廊下で着替えている男子たちをなるべく見ないようにしている。

大西は池元の後を付いて行き、階段を下りて行った。靴箱で運動靴に履き替えていると遠くから運動部の練習している声が聞こえてくる。その声を追うように吹奏楽部の楽器を吹く音が聴こえる。大西はそれを聞いて放課後が始まったと思った。隣にいる池元は何を思っているのか、大西には何も分からなかった。

大西はバスケ部たちに混ざって校庭の周りを走り始めた。バスケ部は放課後、校庭の周りをニ十周走らされることになっている。池元は体育館前でバドミントン部の女子と二人一組になって、ハネの打ち合いをしている。

大西は走りながら田中の姿を探したが、見つからない。もう走り終わったのか、それとも大西がいる場所の裏を走っているのか。

走っていると太腿が赤いしこりに触れて、小さい痛みが大西を襲った。大西は脚を前に出す度に襲ってくるこの痛みをどうにかしようと走り方を工夫してみたが、結果は変わらなかった。

あと少し走れば池元の姿が見える。そう考えると大西の走りは自然に速くなった。吹奏楽部の楽器を吹く音で距離が分かってくる。

一周、走り終えた。大西はしっかりとこの目で池元の姿を見た。あと十九周、校庭の周りを走らなければいけない。あと十九回、池元の姿を見ることが出来る。あと十九回、この痛みに耐えなければいけない。

すると後ろから突然、何者かに性器を掴まれた。

「痛っ」

大西は痛みに耐えながら右を向くと、田中が声を出して笑っていた。

「お前、やらんって言ったやん」

搾り出すように出た言葉はとても弱々しかった。

「隙を見せたら、あかんでえ」

田中はそう言うと、止めていた脚を動かして、さっさと前に行ってしまった。

大西はあまりの痛さに田中を追いかけるのを忘れた。すると、大西は赤いしこりの状態を今すぐ確かめたくなったので、外にある男子トイレに向かった。

便器と向かい合いながら赤いしこりを確認すると、特に何もなかったので大西は安堵の溜め息を吐いた。

トイレから出ると、さっき田中に性器を掴まれたところを、もしかすると池元に見られたのではないかと大西は不安になった。もし見られていたらと思うと大西の顔は赤いしこりのように染まった。

とりあえず、大西はまた校庭の周りを走り始めた。体を動かしていても、この不安は中々、消えてくれない。

二周、走り終えた。池元の姿が見えた。大西の中にさっきの不安が染みのように広がり始める。体が慣れたせいか、あまり赤いしこりの痛みを感じなくなった。田中に性器を掴まれた痛みも消えかけている。

三周、走り終えた。池元の姿が見えた。痛みはもう消えている。

あと十七周、走り終えるまでに、この不安が消えてくれることを大西は願った。

2013年6月15日公開

© 2013 北橋 勇輝

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