雨が降っている。
温室のガラスに当たって砕ける飛沫が、今も目に焼き付いて離れない。
瞳を閉じればいつだって浮かんで来る顔がある。それは酷く父に似ていた。
「どうしたんだい」
柔らかいアルトの声に促されて、閉じていた目をゆるゆると開けた。窓に寄り掛かって、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。先程まで冷たかったガラスは既に私の温もりに支配されている。
「すまないね、よく寝ていたから起こしてはいけないと思ったんだが」
そう言って微笑む男性は、慈しむような手付きで私の頬に掛かっていた髪を払い除けてくれた。
────そうだ、この指先だ
この手が、その唇が、私の全てを塗り替えていった。この人の色に。
「おじさま」
私は問うた。
「叔母様に会いに行ったの?」
瞬間、彼の笑みが強張った。
「行ったのね」
「違うんだ」
「叔母様はどう思うかしら。自分の夫が姪と愛し合っていると知ったら。私がこうして休暇を利用して、仕事を装って留守にしているおじさまと会っていると知ったら」
「違う!」
痛い程の力で両肩を掴まれた。怒りさえ含んだ双眸が、悲しげにこちらを見ている。
「私が愛しているのは君だけだ、どうして分かってくれないんだ」
その言葉に、静かに顔を窓の外へ向ける。すると腹に温かな熱を感じた。
彼は私の腰に腕を回して顔を伏せている。
「愛してる」
「知ってます」
「愛しているんだ」
懇願にも似た求愛。
……可哀想なおじさま。
あの、雨の日の温室で、おじさまは私の全てを支配した。愛と恐怖と、際限の無い快楽でもって。
だから、今度は私がおじさまを支配してあげる。
「顔を上げて、おじさま」
言えば、おずおずと面が上がる。形の良い顎を掬って私は口付けた。すぐにそれは激しいものに変わっていく。
応える為に私は叔父の首へ腕を絡めた。
"手折られた百合が貴方を苛む"へのコメント 0件