「遺品」

妖怪妖(第1話)

消雲堂

小説

1,047文字

 

神奈川に住む父が死んだ。

 

もう電車は動いていないし、車もないし、もちろん真夜中にタクシーを千葉から神奈川まで飛ばす金なんかない。

 

翌日も始発電車に乗るほど根性もないから、かみさんと2人でゆっくりと千葉の自宅を出た。ゆっくりといっても自分にとっては早朝だ。なんせ家を出たのが午前8時なんだから。

 

こういう時に僕と同じ性格をしている母は役にたたないから、結局、ひとりで父の病院の後始末やら葬式の段取りやらをしている妹は、普段も肝心な時にもまったく役に立たない兄である僕をぶっ飛ばしてやりたいと思っているだろうなぁなんて考えながら呑気に横須賀線に揺られる。

 

中略……………

 

さて、通夜も終わり、あっという間に葬式である。

 

父の柩の中に父が大事にしていたメガネと時計を入れようとしたら
葬儀屋のおねえさんが「燃えないものや、燃えても有害物質を出すものは柩に入れられないんです」と遮った。

 

残念だが仕方がない。「あの世ではメガネも時計も必要ないしな」と一度は諦めたが、「あ、そうか。骨壷に入れりゃいいんだ」と思い直した。

 

火葬場で煙になった父がポワーーンとした感じで空の上に昇っていくのをかみさんと一緒にぼんやりと見ていると、「人は諸行無常だよ」と越谷に住む年上の従兄が肩を叩いた。

 

中略……………

 

葬式が終わると、親戚一同はあっという間に福島や埼玉に戻っていった。僕たちもすぐに千葉には帰らずに神奈川の家に立ち寄った。

 

母や妹と一緒にかみさんも台所に立って夕飯の支度をしだしたのを確認して、そっと骨壷を開けて大きな骨を一本取り出してハンカチに包んでカバンに入れ、代わりにメガネと時計を入れた。妹に見られたらぶん殴られるだけでは済まない。骨を一本持ち出すんだから妹でなくても怒るだろうけどね。

 

僕とかみさんは母と妹と一緒に夕飯を食べてから夜遅い電車を乗り継いで千葉の自宅に帰った。

 

自宅の玄関ドアを開けて中に入って灯りをつけると驚いた。そこに骨壷に入れたはずの父のメガネと時計が置いてあったからだ。

 

きちんと並べられたメガネと時計の横に紙切れがあった。それを拾い上げて見ると明らかに父の字で「お前が使え」と書いてあった。そして、その紙切れはあっという間に消えてしまった。

 

そういえば骨はどうしたんだっけ?

2013年3月4日公開

作品集『妖怪妖』第1話 (全9話)

© 2013 消雲堂

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