waltz

かきすて(第26話)

吉田柚葉

小説

1,453文字

われわれの放送に付き合ってくださる敬愛するあの方に捧ぐ

こんどはわたしがはしりたい。そう言って舞はホテルの駐車場にとめたNC750Sにまたがった。円がうしろね。俺はそのことばにしたがった。まだ朝日はのぼっていない。

山道をくだり、たとしえもなくながい一本道を往った。

バイクをはしらせているあいだは、ふたりにことばはない。すれちがうくるまもない。風をきる音と、道だけがある。

やがて朝がきた。

ヘルメットにおさまらなかった舞のながい髪に、ひとすじ、銀にひかるものがあった。黒い髪がじまんで、この歳になるまでいちども染めたことのない女だ。俺は月日ということを思った。三十年という時を思った。

昼ごろ、道の駅についた。俺と舞はそこでうどんをすすった。化学調味料の風味がする、ふとい麺だった。

2021年7月3日公開

作品集『かきすて』第26話 (全40話)

かきすて

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© 2021 吉田柚葉

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