電車が停車のために速度をおとした。
ふと文庫本から目を離し、窓の外を見ると、とおくの果樹園が夕陽にかがやいた。ここのところずっと雨がふっていない気がした。
――このままずっと雨がふらなかったら、あの果樹園もやがて砂漠と化すだろう。
それはじつに幸福な想像であった。
電車をおりてそうそうにスコールがきた。わたしはバス乗り場で雨がはれるのをまつことにした。
耳なりがはじまった。さいきん、よくあるのだ。キーンという高い音が、ふいに聞こえだして、いちどに二〇秒ちかくつづく。世界の「外」の音をキャッチしているのだと認識しているのだが、じぶんの内だろうと、世界の外だろうと、不快な音であることに変わりはない。この豪雨の音は、だから、ありがたかった。じぶんにだけ聞こえる音も、ほかの人にも聞こえる音も、まざりあって、いっしょになるからだ。
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