シュークリーム

巫女、帰郷ス。(第11話)

吉田柚葉

小説

1,473文字

四年ほど前に書いた小説です。保管がてら投稿します。

電車が停車のために速度をおとした。

ふと文庫本から目を離し、窓の外を見ると、とおくの果樹園が夕陽にかがやいた。ここのところずっと雨がふっていない気がした。

――このままずっと雨がふらなかったら、あの果樹園もやがて砂漠と化すだろう。

それはじつに幸福な想像であった。

電車をおりてそうそうにスコールがきた。わたしはバス乗り場で雨がはれるのをまつことにした。

耳なりがはじまった。さいきん、よくあるのだ。キーンという高い音が、ふいに聞こえだして、いちどに二〇秒ちかくつづく。世界の「外」の音をキャッチしているのだと認識しているのだが、じぶんの内だろうと、世界の外だろうと、不快な音であることに変わりはない。この豪雨の音は、だから、ありがたかった。じぶんにだけ聞こえる音も、ほかの人にも聞こえる音も、まざりあって、いっしょになるからだ。

2021年2月13日公開

作品集『巫女、帰郷ス。』第11話 (全29話)

巫女、帰郷ス。

巫女、帰郷ス。は4話、12話を無料で読むことができます。 続きはAmazonでご利用ください。

Amazonへ行く
© 2021 吉田柚葉

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

著者

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"シュークリーム"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る