テレビは毎日のように連続通り魔殺人のニュースを報じていた。事件の被害者は既に八人にのぼる。被害者はいずれも夜道を一人で歩いているときに襲われている。近所でもパトカーが深夜過ぎまで巡回しているのを男は知っていた。
男は失業中だった。毎日特に出かける用事もないので、ビールを飲みながらテレビを見て過ごす。年金暮らしをしている両親からの仕送りはささやかな生活費と酒代に消えた。新しいアルバイト先を見つける気力はずっと以前になくしていた。面接に着ていくリクルートスーツはすっかりほこりをかぶっているし、履歴書に書けるような資格や学歴もない。昔買いだめた求人雑誌は紐でしばってテレビ台代わりに使っている。
誰とも会わない毎日にもかかわらず、男は自分の外見を気にしていた。体重計がないのでどのくらい太ったかは分からないが、鏡を見ると顔全体が膨張してきた様子である。以前に比べて肌のきめは粗くなり、無精ひげを剃っても青黒い剃り跡が常に頬に残るようになった。腹や背中の肉は垂れ下がり、鏡越しに自分の後ろ姿を見ると冬眠中の熊のようである。そして頭頂部が薄くなってきているのはもはや気のせいとは言えなくなった。
"夜、走る男"へのコメント 0件