日常。(64)

日常。(第57話)

mina

小説

1,482文字

僕はいつも思っていた、何故自分は人と違うのだろうと
母親はいつも僕に言っていた
「大丈夫、あなたの身体は他の人たちより、ちょっとマイペースなだけ」
マイペース、マイペース、大丈夫と、何回もそう言い聞かせられ、すっかり安心していた僕も、中学に進学したとき、周りのヤツらが僕よりはるかにデカいことに気づいた
その小さな手と友達の大きな手がリアルな現実だということに焦りはじめていた
あれだけ大丈夫と言っていた母親も成長しない僕の身体を見て、大丈夫と言ってくれなくなっていた
僕は何ともいえない疎外感に打ちのめされそうになり…その頃から独りで行動することが多くなった
友達や同級生たちはそんな僕を気遣い、時には腫れ物を触るように僕と接した
その気遣いがたまらなく嫌だった僕はますます独りを好むようになり、ある店に入り浸るようになっていった
その店は変わっていると近所で有名なおじさんがやっている店で、母親から近寄るなと散々言われてきた店だった
けれど僕はその店が好きで、変わっていると有名なおじさんも僕には優しかったし、それにその店のお客さんたちは僕を好奇の目で見ないから、僕にとって居心地の良い場所だった
「今日も来たのか」
「うん」
「ほれ、これでも飲んでゆっくりしていけ」
おじさんは僕にいつもコーラをくれる
僕はコーラを飲むと何となく身体に悪いような気がして飲まなかったんだけど、おじさんのコーラは飲み干すようにしている
それに何か美味しいし、おじさんのコーラ

「これ…ちょっと見れないですかね?」
「あぁ、これならメーカーのサンプルがあるから、それでいいかな?」
「充分です」
その人はよく来るお客さんだった
いつも同じ場所で立ち止まって、散々考えて買わないで帰って行く人だった
「おじさん、僕も見ていい?」
「あぁいいよ」
僕は知らない男の人と肩を並べてレジの横にあるテレビの画面を見ていた
「 … 」
テレビに映った画像は背が高い女の人たちの長くてキレイな脚の映像だった
「 … 」
僕は何とも言えない感情に襲われた
その長くてキレイな脚が僕の頭の中を占領した…初めての体験だった
「コレ、お願いします」
「気に入った?」
「はい」
「これはシリーズ化してるから、またこまめに見に来なよ」
「はい」
「 … 」
あの男の人も僕のこの気持ちと同じ気持ちなんだろうか?

あれからもう何年経ったんだろう?
おじさんの店は今もあの場所にあるのだろうか?
あのとき一緒に脚フェチのAVを見た男の人は元気なのだろうか?
あれから僕が脚フェチのAVをコレクションしていたり、あのときのことがきっかけで僕が無類の脚好きになっていたり、あれから何かが吹っ切れて周りの人の目を気にしなくなり、小さい自分を受け入れられるようになったこと…僕がそんなことを思って、そんな風に生きてきたなんて、2人は思いもしないんだろうな

「今日はこの人にしよう」
僕は結婚も出来たし、子供もいる
仕事もちゃんとした企業に就職出来たし、今はちょっとした役職にも就いている
僕は、僕があのとき脚に心を奪われたからこそ、今の僕があると思っている

「今から逢いに行くよ、待っててね」

久々に出勤して、最初の予約指名のお客様が凄かった
「何?じゃあそのチビ、ずっとアンタの脚舐めてたの?」
「うん」
「気持ち悪い!散々だったね…」
「 … 」
そのお客様はかなり背が低くて、長身の私と並ぶとかなりの身長差だった
私を椅子に座らせて、時間内ずっと脚を舐めていた
「あっ…」
私はちょっと気持ち悪かったけど、脚をこんなに愛されることってなかったから…その舌の感触にカンジてしまって…

「…太ももに垂れてきてるよ、イヤラしい液体が」
                end    

2015年9月11日公開

作品集『日常。』第57話 (全70話)

© 2015 mina

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